第42話エニウェトク岩礁沖海戦 接敵
今日は
今回から、エニウェトク環礁沖海戦始まります
名前は変わりますが、時系列はトラック沖海戦の続きです
「敵機発見、発見された模様です」
第一航空艦隊旗艦「高雄」艦橋にその報告が入った。
空中警戒に出ていた、零戦からの報告である。
その頃、時を同じくして第二艦隊旗艦「天城」にも同様の報告が入ったはずだ。
現在第一航空艦隊と第二艦隊は、合流し一つの艦隊と成っていた。
すなわち、4隻の空母を中心とする輪形陣である。
一番外周は、2個水雷戦隊が囲んでいた。
また空母の直掩艦として、1隻づつ第三十七駆逐隊の秋月型駆逐艦が付いていた。
現在は、合わせて第二艦隊と呼ばれているその艦隊の主力は、「高雄」「愛宕」「翔鶴」「瑞鶴」の4空母と「天城」「赤城」「霧島」「比叡」の4戦艦である。
そして重巡以下の艦艇は、「利根」「筑摩」「鳥海」「摩耶」「赤石」「穂高」「那智」「羽黒」「妙高」の9重巡、「最上」「熊野」「鈴谷」「三隈」の4隻の軽巡、そして「神通」「那珂」の各軽巡が率いる2個水雷戦隊、計16隻の駆逐艦、さらに第一航空艦隊付属の第三十七駆逐隊の4隻である。
特に所属する駆逐艦は、全てが陽炎型駆逐艦以降の日本駆逐艦の集大成というべき艦であった。
また重巡兵力も大きく、戦艦主体の第一艦隊に比べ、補助艦艇の戦力が特に大きかった。
総合的に、かなりバランスのとれた艦隊だと言えるだろう。
しかも最も遅い、戦艦でも30ノットは出せるため第一艦隊が、打撃力の高い艦隊と言うならば、第二艦隊は機動力重視の艦隊だった。
また、本来第二艦隊には第四航空戦隊が所属しているが、小型空母の「龍驤」鈍足小型空母の「大鷹」と中途半端な艦であり、また主力艦隊のほとんどがトラックおきに集結することになったため、本土防衛用の艦として本土近海にて警戒任務に付いていた。
現在艦隊は、巡洋艦から、水上偵察機を18機放ち、艦隊の後方左右30度以外に濃密な索敵線を築き、潜水艦の発見した、敵輸送艦隊を発見すべく活動していた。
その艦隊は、戦艦2、空母2と第二艦隊よりも過少であったが、油断はできない。
そんな中、敵偵察機に先んじて発見されてしまったのだ。
なぜ艦攻を、索敵機として出さなかったのかというと、敵艦隊を発見した場合に備えて、全機雷装されていたからである。
第二艦隊の空母は、二航戦の2隻よりも搭載量が多かった。
その為、二航戦ほど戦闘機偏向な編成ではなかった。
が、艦爆は存在しなかった。
1艦あたりの編成は全て同様で、零戦45機、九七式艦攻27機の計72機である。
4隻計288機の大兵力である。
「そうか・・」
第一航空艦隊司令官、南雲忠一中将がそう呟いた。
彼の顔には、やや残念な表情があったが悲壮な感じはしなかった。
第二艦隊の司令官は近藤信竹中将で、両者とも中将であった。
と言うことは、指揮権の問題が出来てしまう。
だが彼らは、航空戦を南雲中将が艦隊戦なら近藤中将が指揮を取ることで、それを解決していた。
「ここは、南雲の仕事かな?」
第二艦隊旗艦「天城」の艦橋で、近藤中将はそう呟いた。
敵艦隊を発見できてないため分からないが、まだ艦隊戦に持ち込むには遠いだろう。
「「高雄」に通信航空戦の指揮取られしだ」
そう通信参謀に命じる。
「了解です「航空戦の指揮取られし」ですね」
「そうだ、まだ我々が出る幕は無い」
「「天城」より、「航空戦の指揮取られし」です」
南雲中将の元に、そう「高雄」通信長が伝える。
「分かった、返信「了解」だ」
そう南雲中将が言うなり、発光信号にて手短に送られる。
「まだ見つからないんですかね?」
そう、「高雄」艦長長谷川喜一艦長が言った。
「まだ偵察機からの報告は来ていない」
参謀長草鹿龍之介少将が、そう言い切る。
「もうすぐ見つけてもいい頃なんですが・・」
そう悔しげに言ったのは、航空甲参謀の源田実中佐である。
水偵隊が発信してから、もうすでに2時間が経っており、もう反転地点に着いた頃だろう。
さすがにもう見つかる頃だろうと、誰もが思っていた。
艦隊上空には、各艦から3機づつ12機の直掩機が、目を光らせている。
攻撃隊が発進次第その数は、36機に増やされる。
今、4隻の母艦上では各艦、第一次攻撃隊の零戦24機、九七式艦攻18機が、暖機運転を行っていた。
敵艦隊発見の報告が入れば、即座に飛び立てる。
4隻計零戦96機、九七式艦攻72機合計168の戦雷連合攻撃隊である。
そして第一次攻撃隊、が発艦した後零戦12機、九七式艦攻9機4隻計、零戦48機、九七式艦攻36機合計84基の戦雷連合攻撃隊が、準備を行い発信する。
残るは、艦隊直掩の36機の零戦のみとなる。
機数が少ないように感じられるが、こちらはとにかく敵攻撃機を落とせばいいのだ。
敵戦闘機が余程多くない限り、艦隊への攻撃は許さないはずだ。
「居ませんねえ」
零式三座水偵の、利根2号機の偵察員席で彼はそう呟いた。
もうすぐ引き返し地点に到達するはずだが、敵艦隊を発見することはできていない。
「そう言うな、偵察は辛抱強くだ」
操縦員を務める機長がいった。
日本海軍では、そのペアの中で一番くらいの高いものが、機長になるのだ。
だから、操縦員の場合もあれば、偵察員、電信員の場合もあった。
「ん?」
最後尾に座る電信員が、そう呟いた。
機内は発動機の発する爆音で包まれているため、聞こえていないと彼は思ったが、変に大きかったのか、伝声管越しに機長が「どうした」と聞いてきた。
「はい、何か光った気がしたんです。たぶん海面の反射ですよ」
彼は、ただそれだけ、言っていた。
そうか・・
機長は彼の返答を聞いて、無言でそう呟いた。
それが、敵艦隊である可能性を考えたのである。
「分かった」
機長はとりあえず、そう言ってまた考えに戻った。
それが、敵艦隊とすると、大発見だ。
それを見逃してはいけない。
「よし、それはどっちだ?」
機長は素早く考えをまとめ、そう聞いた。
彼は、突然の質問にやや戸惑ったが、「左後方です」と答えた。
「行くぞ!」
彼の返答を聞くなり機長は、そう言って機体を旋回させる。
それと同時に高度も下がっているようだ。
零式三座水偵の旋回は、零戦の比べればかなりゆっくりしたものである。
「特になさそうだな?」
機長は、そう呟いた。
やっぱ違ったか。
そう電信員は呟いた 。
「まだか・・」
そう、利根1号機の機長は言った。
彼らは、利根2号機から見て左側を索敵線としていた。
彼らも、もうすぐ引き返し地点に到達する。
幸いにも敵機に遭遇することなく、ここまで来ることができた。
もし敵機に襲われたなら、鈍重な零式三座水偵など、ほとんど抵抗らしい抵抗も出来ずに落とされるだろう。
だがそれは、逆に言えば敵艦隊が付近にいない事を示すのでは無いか、と彼は思った。
もちろん、単純に警戒機を飛ばしていないだけかもしれないため、索敵を緩めることはしない。
左右前後を、6つの目が見張る。
もうすぐそれに、電波の目が加わるらしいがそれは今は無い。
ここまでずっと単調な飛行である。
おおよそ250浬を飛行したことになる。
「ん?」
偵察員が、そう呟く。
「すいません機長、右側に何か居ます」
彼は、そう言った。
「何?」
機長はそう言って、機体を右旋回させる。
のんびりと、零式三座水偵が旋回していく。
「いました!」
彼は、敵艦の出す白波を発見したのだ。
「いたか!」
機長はそう言った。
そうしながら、さらに接近する。
「奴か!」
機長もその艦隊を、発見した。
「報告送れ、敵艦隊発見利根1号機、距離250浬前後方位、45度だ」
連合機動部隊と距離が違うのは、それほど航法術がこの時代優れていないためだ。
「了解、平文でいいですか?」
電信員が聞く。
「いい、どのみち傍受されたら発見されたことも分かっちまう。それより今は、時間が惜しい!」
艦長は、一気にそうまくし立てた。
「分かりました、送ります!」
45度と言うのは、発進した時点の艦隊を元に考えた物で、右斜め前である。
この時彼らが発見したのは、利根2号機が見た光と同じものだった。
彼らは距離の差から、発見できたのだ。
うまく、ウエーキを視認できたため、敵艦隊であるとの確信を得れたのである。
それによると、エニウェトク環礁南方に位置しているようだ。
おそらくエニウェトク環礁経由で、トラック島に襲い掛かる気だったのだろう。
トラック島正面から来た敵は、おそらく主力撃滅とともに、囮も兼ねていたのではないか。
そう思える陣営だった。
輸送船がいなければ、これが上陸部隊だとは思えない。
「敵発見、方位45度、距離おおよそ250浬です」
「高雄」艦橋に、走りこんできた伝令が、そう伝える。
「来ましたぞ!」
即座にそう言ったのは、航空甲参謀源田実中尉である。
彼は航空戦の機敏を分かっていた。
敵に先の発見された現状況で、逡巡するのはまずいと。
「長官、すでに他の戦艦部隊及び、それに追随してきた空母部隊は、戦力外です。ここは一気に決めましょう!」
そうさらに言ったのは、参謀長の草鹿龍之介少将である。
「うむ・・」
南雲はそういってしばらく黙った。
彼の専門は、水雷であり航空戦は、あまり詳しくなかった。
確かに猛勉強は積んでいたが、現場をよく知っているわけではなかった。
また、空母の統合運用を発案した小沢治三郎中将が相応しいのではという意見もあったが、南雲の方が先任だったため、そのような人事になったのである。
彼はイギリスと合同で資源地帯を守る任務を帯びた、南遣艦隊の司令官をやっている。
「ここは、先手必勝です!」
我慢出来なくなったのか、「高雄」艦長長谷川喜一大佐までもが、攻撃を進言した。
今悩んでいるのは、南雲ただ一人だった。
彼は、仕方ないといった風に息を吐きながら言った。
「わかった、攻撃隊をだそう。攻撃隊発進!」
南雲は、決めてからはもう悩まなかった。
即座にそう命じた。
それは即座に発光信号によって、各艦に送られた。
カシャカシャと音を立てながら「攻撃隊発進」の信号が送られる。
「攻撃命令が下った!」
「高雄」の搭乗員ブリーフィングルームで、飛行長増田正悟中佐が言った。
彼の傍らには飛行隊長の、淵田美津雄中佐が立っている。
彼が、出撃する編隊の指揮をとるのだ。
「敵は、戦艦2、空母2だ。それ以上は、確認できなかった模様。方位45度、距離250浬だ。
少々距離が離れているが、敵艦隊もこちらに向かっているため、問題はないだろう」
彼は手短にそう、説明した。
「了解!」
搭乗員が威勢のいい返答を、彼に返す。
彼のブリーフィングが終わったと同時に彼らは、飛行甲板に向かう。
すでに飛行甲板では、出撃する機体の暖機運転が行われている。
準備が整い次第、いつでも出撃可能である。
「敵に発見されたか・・」
「レキシントン」の艦橋で、フレッチャー中将はそう呟いた。
先ほど的偵察機発見の報告に続き、敵機の発した無線を某傍受したのだ。
これで発見されたことは、決定的となった。
「先手は完全には取れませんね」
「レキシントン」艦長ダニエル大佐は、そう言った。
フレッチャーは敵発見の報が入るなり、攻撃準備を命じたのだが、案の定それに手間取っておりまだ出撃出来そうになかった。
2隻の空母の甲板上には、戦闘機のワイルドキャット、雷撃機のデヴァステーター、急降下爆撃機ドーントレスが、20機づつ並べられている。
だが、まだ燃料を補給している機体があったり、雷装に手間取っている機体などまだ準備の終わっていない機が、かなりあった。
出撃機数は、2隻合わせて120機である。
またまだ航続距離圏内に入っていないため、終わっていたとしても出来なかった。
第2次攻撃隊は出さない。
なぜなら残りのうち、半数の16機がワイルドキャットであり、艦隊防空に使用する必要があったからである。
そのため攻撃隊の護衛には割けなかった。
艦隊防空に使用できるのは、2隻合わせで32機である。
残りは、8機づつのドーントレスとデヴァステーターである。
彼らの出番は当分来ないだろう。
艦隊は今、28ノットの高速でデヴァステーターの航続距離圏内に入れようと奮闘していた。
デヴァステーターが出撃するには敵との距離を150浬まで縮めなければならない。
あと50浬ぐらいで、航続距離圏内だが、実際出撃後艦隊も前進するためそれを考慮に入れ1時間後、2時頃に出撃できる。
彼らは、敵艦載機もそんなものだろうと思っていた。
だが敵である日本海軍機は彼らの予想を超えていた。
すでに彼らは、その日本海軍機の射程圏内に入ってしまっていたのである。
彼らがそれを知るのは、まだ先の事であった。
とは言っても、準備が30分で終わるかは分からなかった。
とにかく混乱が、生じているところもあるらしい。
そればっかりは、自身が載っていない為分からなかった。
第42話完
いかがでしょうか?
今までで一番規模の大きい?ので
少々飛ばし気味に書いてますが、それでも30話は行くと思います
これでは一連の海戦は、終わりです
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