第41話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦 帰還
と言うわけで、今回でエンタープライズ防空戦終わります
長かった・・・・
「ようやくか・・」
そう友永隊長は、眼下に見えるウエーキを見やりながらつぶやいた。
彼の視界には、一斉回頭を行う艦隊が、見えた。
それが彼らの帰るべき母艦である、二航戦の空母「飛龍」「蒼龍」である。
現在艦隊は、その2隻を中心として、一糸乱れぬ動きで右に回頭する。
今は艦数が少ないため全艦が、追随している。
艦隊は、出撃時と変わらず全艦が健在なようだ。
それに比べ、攻撃隊は多大な損害を最後の最後に蒙った。
自身の詰めの甘さを、感じた。
「ようやく帰ってきたんだ。しっかりやってくれよ」
山口少将は、そう誰にともなく呟く。
かなりフラフラになりながらも、帰還してきた機も、いた。
彼らが無事に帰還してくれるかは、実際にやって見なければ分からなかった。
「敵潜こなければいいですね」
加来艦長に副長がそういった。
「それはなんとも言えん。
だが、今のところその兆候は出ていない。
敵潜は居ないと考えていいだろう」
艦長はそう強気で言った。
「だが警戒は続けろいいな?」
山口少将が水を差すように言った。
「ここからは損害を出したくない。
見張りをしっかりしろ」
続けてそう言った。
「飛龍」艦橋には、戦勝気分に浮かれるものは、あまり居なかった。
それも山口少将が、今もいかつい顔をしながら強いオーラを発しているからだ。
下手に浮かれようなら、どんな目に合うかわからない。それが共通認識だった。
「きます!」
その声とともに、ようやくたどり着いた1機が着艦コースに入る。
その機は九七式艦攻だった。
見た感じそれほど損傷を被っているようには見えず、操縦もしっかりしていた。
操縦士以外が負傷したのだろうか?
その機は、徐々に高度を下げながら機速を落としていく。
危なげない操縦で、飛行甲板に接近していく。
一瞬山口少将は、友永大尉か?と思ったが彼の機には、帯が後部に書かれていることを思い出し、違うと判断した。
その機体は着艦誘導灯を、見ながら慎重に侵入角を調整していた。
小刻みに機体が上下左右に、めまぐるしくかくかくと、動くのが見えた。
おそらく、疲れから操縦が安定していないのだろう。
だがそれでも、不安定さは感じさせない動きだった。
そして機首を一気にあげた。
それによって尾部が、飛行甲板に一気に接近する。
次の瞬間、着艦フックが着艦制動策を捉えた。
見事な三点着陸であった。
次の瞬間には一気に減速され、停止する。
それに合わせてプロペラの、回転数も落ちていく。
その間に、乗員たちが一気に群がった。
そんな中操縦席から出てきた、操縦士が看護兵を呼ぶよう叫んだ。
やはり負傷者が居たのだ。
「電信員、偵察員ともに負傷している!」
操縦士は、そう叫んんだ。
看護兵が来るまでの間に、彼の機は人力によって着艦機収容区域に運ばれる。
するとすかさず、滑走静止策がたてられる。
それは、着艦制動策に引っかからずそのまま突っ込んでこようとする機を受け止めるためのものである。
だがこれに突っ込んだ機は、たいていの場合使い物にならないか大幅な修理が必要になる。
次に着艦してきたのは、いかにも被弾したように見える零戦だった。
見た目ほど損傷は深くないのか、搭乗員の腕がいいのか、割と安定して着艦してくる。
だが、損害は外から見る限り大きそうだ。
これは場合によっては、破棄しなければならないだろう。
そして、3点着陸の姿勢を取る。
足はきちんとでていた。
そのまま流れるように、着艦制動策を掴み一瞬で停止する。
その機体には、多数の弾痕が刻まれていた。
よくここまで持ったものだ。
全てが幸運にも致命傷にならずに済んだのだろう。
だが、被弾箇所が多すぎる。
これではもう、次の飛行には耐え得ないだろう。
だが、まだ破棄はされずに前部へと運ばれる。
そして、その2機に続けとばかりに、順々に着艦する。
どれも、熟練者らしい安定した着艦だ。
だが、不運にも着艦フックが破壊されていた機があった。
その機はそのまま、制動策を掴むことができなかった。
その結果、滑走静止策にそのまま突っ込んでしまった。
その零戦は、プロペラがぐにゃぐにゃに折れ曲がり、キャノピーが割れていた。
また主翼も破損しただろう。
これはもう使い物にはならなそうだ。
即座に判断した整備班長が、飛行甲板の横から乗員を救出したあと、破棄するように命じる。
その後も、限界が近づいた機から、順々に着艦を遂行する。
「やはり被弾してる機が多いですね」
今も着艦作業が続けられる飛行甲板を、見やりながら首席参謀の伊藤中佐がそう呟いた。
「当然だろう。断片的な報告では敵も、相当数の戦闘機を直掩に出していたようだ。それを無傷で切り抜けるのは、難しいだろう」
山口少将が、そう言った。
彼は、それだけでは無いと思っていたが、そちらは実際に友永大尉に聞いたほうが早いと考えていた。
それにしても、ここまで艦攻がうち減らされるとは思ってもいなかったことだ。
この調子で消耗しては、遠からず搭乗員を消耗しきってしまうだろう。
「これは、やはり引くべきですね」
「その通りだよ、全く・・」
「着艦するぞ!」
友永大尉は、そう発動機の爆音を封じるかのように大きく、凛とした声でそう、赤松特務少尉とと村井一等飛行兵曹に告げた。
二人とも返事は返さないが、そこはもう大丈夫である。
彼の機体はほぼ無傷だった為、最後の方に回ったのだ。
友永は、慎重に操縦桿を倒し高度を下げる。
徐々に海面が、視界いっぱいに広がる。
発動機の出力は、すでに落としある。
そうでもしないと、うまい着艦は難しい。
徐々にスロットルレバーを、絞っていく。
それをやり過ぎると墜落してしまう為、慎重な操作が必要だ。
それに伴い、飛龍に備え付けられた飛行甲板が視界を占有していく。
急激に艦との距離が縮まり、着艦の瞬間が近ずく。
着艦指導灯を参考に角度を、調節する。
それを間違えると大惨事必至だろう。
そして、ついに車輪が飛行甲板を掴み急激な制動がかかる。
着艦フックが掴んだ、着艦制動策が縮み機速を急激に抑えたのだ。
無事友永は、着艦した。
だが総隊長としてまだ、指令に報告するという仕事が残っている。
「やはりうまいな」
友永の着艦を見て、山口少将がそう呟く。
その機体にはたすきのような線が引かれていた。
それが、友永機をあらわすマークである。
「良くやってくれましたよ」
続いて伊藤首席参謀が、そう言った。
彼は友永の送った撃沈不確実撃破確実、という控えめとも言える戦果報告で、より彼に対する信頼を増していた。
「ああ、もう少しだな」
友永の機が着艦したため残るは、零戦だけになっていた。
それは「蒼龍」も同じだろう。
着艦作業は大詰めを迎えていた。
こんこん
艦橋につながる扉が、ノックされる。
伝令とは違いしっかりとした気配が、伝わってくる。
「戦果報告に上がりました」
友永は落ち着いた声で、扉の向こうからそう言った。
「入れ」
山口少将は、すぐにそう短く返した。
扉が開き、友永大尉が艦橋に入る。
「ここはなんだし、長官室で聞かせてもらおう」
山口少将はあっけらかんとそう言って、伊藤首席参謀を引き連れ、長官室に向かった。
当然友永大尉も一緒である。
「失礼します」
彼は、山口少将に着席を勧められ、少将と伊藤首席参謀が着席するのを確認してから、席に着いた。
ここは「飛龍」長官室。
机を挟んで、席についていた。
「では聞かせてもらおう」
山口少将が開口一番そう切り出した。
もっとも友永大尉も、それぐらいしかないだろうと思っていた為、予想の範囲内だった。
「はい。敵戦闘機隊は、なかなか手強く殲滅できませんでした。
また敵はワイルドキャットでしたが、操縦士によっては、格闘戦でも同等以上に戦えるようです。
なので新型機の配備をのぞみます。
敵空母は、おそらく沈んでいません」
「そうか」
友永の隠し事のない報告に、伊藤首席参謀が言葉をつまらせる。
「また帰投時、敵におい追跡されており、奇襲を受けてしまいました。
九七式艦攻は、そこでやられました。
それまでは、1機だけだったんですが、そこで6機も落とされたのです」
「と言うことは、敵に後をつけられたということか・・」
「しかしその後は、つけられていないと思います」
「わかった。だが、敵艦攻撃の時はほとんど落とされなかったと言うことだな?」
「そういう事です」
「飛龍」の飛行甲板には、まだ残っている零戦が、着艦を続けている。
その後着艦作業は、滞りなく進んでいった。
今までと同じように、3点着陸の姿勢をとって着艦フックに、着艦制動策を引っかけるのだ。
「前機収容完了!」
天谷飛行長の、報告が届く。
「飛龍」所属機は、全機が無事収容された。
程なく「蒼龍」からも、「収容完了」の報告が発光信号によって、届けられた。
「集計終わりました」
天谷飛行長が、そう言って入室してきた。
「飛龍」と「蒼龍」両艦に帰還した機体のうち実用に耐えうる機のみを、集計したのだ。
「そうか、言え」
山口少将が、そう言って急かす。
天谷飛行長は、焦った様子を見せず淡々といった。
「はい、まず艦隊直掩機ですが、これは戦闘を行っていないため、9機づつ18機全機が健在です。
次に、攻撃隊の機数です。
零戦が、「飛龍」18機、「蒼龍」24機が健在計42機です。こちらは、制空隊が損害を受けた模様です。
最後に九七式艦攻です。こちらは「飛龍」7機「蒼龍」4機計11機です。
合計で、現段階での稼働機数は零戦60機、九七式艦攻11機の計71機です」
「戦闘機隊も3分の1が帰らなかったか・・」
山口少将が、そう独語する。
「仕方ありません。敵もほぼ同数と思われる戦闘機を、繰り出してきたのです」
友永大尉が、山口少将に向けて言った。
だが戦闘前二航戦は、108機の零戦を保有していた。
つまり今日だけで48機もの機体が、搭乗員とともに帰らなかったのである。
これが航空戦の、おぞましい点であった。
だが、母艦は無傷である。
訓練すればまた、存分に暴れられる。
いや現在内地では、第三航空戦隊、通称教練航空戦隊の「鳳翔」「瑞鳳」の2隻で過酷な訓練が行われている。
両艦共に、正規空母よりも小さいため、これらの間に着艦できれば、はるかに大きい正規空母ならやすやすと着艦できるだろう。
日本海軍では、航空部隊の錬成を霞ヶ浦と第三航空戦隊で行っているのだ。
そこで育てられた航空兵は、暫時前線に赴くことになるのだ。
「反転帰投する」
場所は、トラック島だ。
敵に狙われている場所だが、決戦は今日中に終わる。その結果次第ではマリアナ諸島に向かうことになるが、今はまだトラック島は健在だった。
「敵艦隊発見!」
索敵機からの報告が入った。
「やったぞ!」
太平洋艦隊第二、第三任務部隊合同機動部隊旗艦、「レキシントン」の艦橋は、その報告に湧いた。
時刻は午後1時を回ったぐらいである。
彼らがのちに「レキシントン」任務部隊と呼ばれることになるとは、この時点では誰も考えなかった。
それと言うのも、合同機動部隊に所属する主力艦である、巡洋戦艦「レキシントン」「サラトガ」、空母「コンスティレーション」「コンスティチューション」の4席は、すべて元はレキシントン級巡洋戦艦として建造されたからだ。
その他彼女らは異形姉妹とも言えるだろう。
「敵艦隊への距離は、200浬!」
と入る
「位置は正確か?」
指揮官フランクFフレッチャー中将が、聞いた。
「間違ってはいないと思われます」
航空参謀がそう言って、頷く。
「そうか・・・」
フレッチャーは、しばし考え込んだ。
だが決断した。
「150浬まで距離を詰め次第、攻撃隊を出す!」」
その命令は、即座に無線電話によって、「レキシントン」から2隻の空母に送られた。
「追加です!「敵艦隊は、戦艦4空母4からなる」です」
「そうか・・」
彼は戦力で負けてるなと、思った。
だが引くわけにもいかないのだ。
「大丈夫です。先手はこちらがとりました」
航空参謀が、自信ありげにそういった。
「分かってる。心配するな。ここで第一任務部隊の敵討ちといこうじゃないか」
フレッチャーは、そう告げた。
彼の言葉に「レキシントン」艦橋はまた盛り上がる。
「そうだ今こそ奴らに、反撃してやる!」
「開拓者魂を見せつけろ!」
「その意気だ!」
そう「レキシントン」艦長ダニエル大佐が言った。
彼はこの艦を任せられたことを誇りに思っていた。
「レキシントン」は装甲こそ薄いが、速力では世界最速である。
この足で敵艦を翻弄すれば、勝てない敵はないと確信していた。
また、この艦は合衆国が建造した唯一の巡洋戦艦であり、その事を誇りに思っていた。
現在艦は、25ノットで航行しているが、最大速力は、33ノットを出せるのだ。
これについてこれる戦艦は、存在しない。
そして巡洋艦程度なら、その主砲で鎮圧できる。
まさに、巡洋戦艦というものの集大成だと思っていた。
第41話完
最後のでわかる通り、日米大海戦の第3幕が幕を開けます
これで、オレンジプランによる海戦は、終わる予定です
少々進行が早くなってる部分あります
てか、考えはもう少し先まであるんで安心してください(何にだ)
文量20万突破しました!
そして、アクセス数累計6万突破しました!
皆さんのおかげです
これからもよろしくお願いします
感想切にお願いします




