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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 「エンタープライズ」防空戦
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第40話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦 帰還

長かったぜ

九七式艦攻は、敵機による波状攻撃を、受けた。

帰還途中であり、まさか敵もこないだろうと油断していた時に、襲いかかって来たのである。

その結果、九七式艦攻隊は大きな損害を被ってしまった。

彼らは懸命に応戦し、零戦隊も遅ればせながら敵戦闘機を迎撃した。

だが、敵の完全なる奇襲攻撃を受けたとあってはその奮戦も僅かな敵機を撃墜しただけに、止まった。

また敵機が、攻撃劈頭上空からの急降下によって攻撃を開始したことも大きかった。

邀撃を開始しようと零戦が、反転し急行したが敵機の動きについていくことも困難であり、むざむざと攻撃を許してしまった。

これは零戦の脆弱な、機体構造も関係しており空中分解の恐怖とも戦わねばならなかったのだ。

その結果零戦隊は、敵機10機近くを撃墜する戦果を挙げたが、それと同時に九七式艦攻への攻撃は阻止できなかった。

「畜生」

誰かの呟きが、隊内電話の電波に乗って広がっていく。

それを聞いた皆が、そう思ったことだろう。

特に戦闘機乗りは、なぜ防げなかったのだと1人機内で悔しがっていた。

「今度こそ帰投する」

力ない声が、隊内電話越しに響いてくる。

敵機が、編隊後方の機から順番に、削り取るように攻撃を加えていったために、運良く災難を避けることができた、友永攻撃隊隊長の声だった。

彼の声には、迂闊だったとの反省と、悔しさが滲み出ているようにも感じられた。

だが全ては過ぎたことだった。今から後悔しても始まらなかった。

九七式艦攻の周りでは今も、もう攻撃させないと決意を固めた零戦が、その優美な機体を陽光に照らされながら、せわしなく飛び回っていた。

彼らは守るべき存在を、いとも簡単にやられた事で、アドレナリンが分泌され興奮状態にあるのだろう。

だが周囲にはもう、敵機の姿はなかった。

攻撃を敢行した敵機を、待ち伏せまた追いかけ回し、とっくに撃退していた。

また激しい空戦によって燃料も乏しいはずで、母艦に着艦できない今下手に燃料を浪費することも、憚られたのだ。

彼らは一応身の平安を、確保したのだった。

だがその空戦によって零戦の、残念量も乏しくなっていた。

巡航速度で飛行すれば、母艦まで持つが、ギリギリであり燃料を無駄遣いできなかった。

「各機に次ぐ、集合し編隊を組み直し次第帰投を再開する」

そう隊長は、静かに行った。

彼はこの攻撃で相当意気消沈してしまっていた。

だが総隊長がいつまでも、引き摺られてはいけないと考え、意識を強引に切り替えようとした。

だがそれができなかったため、芝居がかかったかのような、声音で行ったのだ。

彼は、編隊をまとまるため各小隊に指示を出しつつも、自身が直卒する「飛龍」艦攻隊をまとめに入る。

「飛龍」艦攻隊は、前方に位置していたため被害は少なかった。

だがその分、後方に位置していた「蒼龍」艦攻隊は攻撃を一手に引き受けるような形になってしまい、大きな損害を出してしまっていた。

僚機を一挙に失った悲しみからか、どこか頼りない飛び方だ。

だが誰も、急かしたりはしなかった。

誰もがそんな頼りない飛び方をしており、例外はほぼいなかった。

だから、誰も注意しようとも思わなかったのだ。

とは言え、徐々に編隊の形が構築されていく。

だが、それは攻撃受ける前と比べ大きく変わっていた。

特に艦攻隊の中退の編隊の隙間が大きかった。

一気に落とされたために、1個小隊を構成する機が押し並べて、減少した結果だった。

結局生き残った九七式艦攻は、11機だった。

つまり7機の艦攻が、犠牲になったのだ。

それで済んだのは、敵機の数が少なかったこと、威嚇のため銃弾を放たなかった機が、ある程度あったからだった。

それでも、これだけの被害を出したのだ。

やはり艦攻は、カモでしかなかった。

編隊の周囲を、残存する零戦40機程度が取り囲む。

こちらは数を撃ち減らされたが、まだ十分な機数が残っている。

そして今度こそ、帰投を再開した。

多数の栄発動機のあげる爆音が、「エンタープライズ」から立ち上り行く黒煙から離れていく。


「攻撃隊はやってくれたようだな」

二航戦旗艦「飛龍」の艦橋で指揮官、山口多聞少将が、攻撃隊から届いた戦果報告の電文を読むな理、嬉しそうにそういった。

彼が手塩にかけて育てた、搭乗員たちが戦果を挙げたのだ。

嬉しくないはずがなかった。

「あとは、一航艦だけですね」

そう司令官に話しかけたのは、二航戦首席参謀の伊藤整六中佐だった。

現在細かいことは伝わってきていないが、一航艦は的輸送船団を無事発見攻撃の構えを、取っているという。

指揮官は、山口多聞少将より上の南雲忠一中将であり、本来ならば山口多聞の率いる二航戦も指揮下に入れる、上官であった。

だか今回は、事情によって山口少将の率いる二航戦が、8隻の秋月型駆逐艦とともに分遣隊として、第一艦隊の防空を担った。

そして現在、彼らは敵空母を撃破するという立派な戦果を挙げ、空母機動部隊ここにありと存在感を示していた。

「ああ、長官にも戦果を挙げてもらいたいものだ。第一艦隊も勝ったし、今日はついてるぞ」

山口少将の言う通り今日、勝利の女神は日本側についているようだった。

「確かにそうですね。これで一航艦の連中もやる気を、出してくれるでしょう」

帰還したら、彼らを労ってやらねばな」

「あの・・」

今にも消え入りそうな、おずおずとした声で間に入ってきたのは、鈴木栄次郎航空参謀である。

「どうした?」

伊藤首席参謀が、その態度に訝しく感じながら聞いた。

「・・・」

彼がすぐには言わなかった。

しばし艦橋を沈黙という名の、沈黙が覆う。

気まずい雰囲気が、流れようとした時ようやく彼が言った。

「第二次攻撃隊は、出すのですか?」

彼はなんとも歯切れ悪く言った。

それに対し、山口少将は即答した。

「出さない」

その返事は、鈴木航空参謀が発するより早く、艦橋に突如乱入するような形で入ってきた、天谷孝久飛行長が、横取りするようにして言った。

「なぜですか?艦攻隊の損害は少ないはずです。

それに今からなら、まだ昼間に帰還できるはずです!」

彼は暑っぽくそう解いた。

「いや、魚雷の装備にどのくらいかかる?乗員の休憩は?」

山口少将が、強く言った。

「そんなもの、大和魂さえあればどうにかなります!」

「いや違う、これは現実を考えろ!交代がいない状況ですぐ出しても、損害を出すだけだ!それに戦争は今日終わるわけでもないんだ!ここは少しでも多くの乗員を連れて帰るのが上策だ!

確かに貴官の言う通り、これはチャンスだ。

だが、大破確実ということはもう使い物にならないということだ。

ならばあとは、一航艦に任せればいいのだ。

分かったな!」

そう山口少将が畳み掛けるように言うと、「分かりました・・」まだ言いたそうに彼はとぼとぼと、艦橋を出て行った。

「確かに今は好機だし、第2次攻撃隊を出したい。

だが、ここは勝ち逃げしたほうが、士気の上でいい」

今度は伊藤首席参謀に向けて、冷静な口調でそういった。

伊藤首席参謀は、山口少将が珍しく弱気だなと思っていたが、そういうことだったのかと軽く頷いた。

「受け入れ態勢を早く作れ!」

そんな会話を横目で聞いていた、「飛龍」艦長加来止男大佐が、そう命じる。

その命令とともにのんびりとしていた、「飛龍」の飛行甲板が目覚めたように、忙しくなる。

艦に比べれば矮小な存在である、兵たちがせわしなく甲板上を動き回る。

着艦に必須な、着艦制動策をはじめとする、着艦制動装置が点検整備される。

また甲板前方では、遮風板が立てられ作動するか確かめられる。

刻々と時間が過ぎる中、着艦する機を受け入れる体制が徐々に出来上がっていく。

それは、同時に発光信号で命令を受けた、二航戦の僚艦「蒼龍」も同じである。

現在両艦は、8隻の秋月型駆逐艦とともに攻撃隊を収容すべく25ノットの速力で、前進していた。

艦隊は、もしもに備え輪形陣を組んでいる。

艦隊の各艦から生み出される白いウェーキが、細長く後方に伸びていく。

25ノットという高速と言っても過言ではない速力を、出しているため「飛龍」の細く高い艦首が激しく白波を切り分ける。

だが、優れた設計と2万トンを超える巨体がやすやすと、白波を圧して進んでいく。

それに比べ、満載3800トンと軽巡に迫る体躯をもち陵波性も優れている秋月型駆逐艦は、この波の前では木の葉にも等しく、激しく揺さぶられていた。

だがそこは大柄な体躯を持つだけあって、スクリューが海面から離れ減速しなければならないと言う、状況にはなっていなかった。

秋月型駆逐艦の8隻は、常に戦闘状態にいる。

主に対空目的で建造された艦だが、空母部隊が敵艦隊に襲われないとも限らないため、艦隊型駆逐艦と等しい61センチ4連装発射管を再装填装置とともに、1基搭載していた。

当初は武装は対空砲だけになるはずだったが、戦術上の都合やあったほうが凡用性が増すとの意見から、つけられることになったのだ。

だが今のところ、その発射管に活躍の場は訪れそうになかった。


攻撃隊は、母艦へ帰投するため、巡航速度で飛行していた。

彼らは皆疲れ切った表情をしており、それが激戦を物語っていた。

そのため操縦員に疲労が溜まったのか、ふらふらと成る機体も少なくない。

だがその度に、付近にいる機が注意を与え持ち直していた。

出撃時に比べ、減少した攻撃隊は無事帰投すべく最後の戦いを懸命にしていた。


「きたな」

第二航空戦隊の前方警戒を行っていた、1機の零戦が徐々に近づいてきた黒い影の集団に気がついた。

「敵味方不明機接近。おそらく帰投する攻撃隊と思われる」

彼は手短にそう、所属する「飛龍」の無線室に報告を入れた。

この距離ではまだ司令部は、遠すぎて発見できないだろう。

「了解」

すぐに無機質を装った返答が帰ってくる。

その時は唐突に訪れた。

「失礼します」

先ほどまでの会話が終了し 、静けさを取り戻していた艦橋に、コンコンというノックの音と共に、そんな声がひびいた。

「入れ」

艦長が威厳を出すためか、低い声でそう言った。

「はっ!」

まだ若いその伝令は、返事を聞くなりそう緊張しながら、入室した。

慣れない任務に緊張してるのだろう。

「報告します。前方警戒に出ていた零戦が、敵味方不明機を発見しました。その機によると、帰還する味方機だろうと言うことです」

彼は、ややつまりながら、そう言った。

「分かった。もう言っていいぞ」

艦長が彼の緊張を解くためか、先ほどと変わり優しげな声で言った。

それを聞き「失礼いたしました」と威勢の良い声を出して退室していった。

「長官」

「ああ、やっと帰投した。 艦隊に命令、着艦用意!」

「飛龍」艦橋に山口少将の、凛とした声が響いた。

それとともに、再び「飛龍」がせわしなくなる。

「面舵、速力29ノット!」

加来艦長が、そう命じる。

艦を風上に向け、合成風力を得るのだ。

また燃料消費や、戦闘によって機体が軽くなっているだろうことが分かっていたため、艦自体の燃料を節約するため、29ノットに抑えられたのだ。

「飛龍」が徐々に加速していく。

発令とともに、すでに十分あっためられていた艦本式罐が、高温の蒸気を吹き出し同じく艦本式のタービンがそれを受け止め推進力に変える。

だが急ぐとそれらを破損してしまうため、それはのんびりしたものだった。


「艦隊発見です!」

先頭を行く零戦から、その報告が編隊全機に伝わった。

「やった!ついに帰還したぞ!」

誰かが、そう叫んだ。

「良いか、着艦は被弾機を優先する」

友永隊長がそう、命じた。

それに続いて「各機散開せよ」と命じる。

それによって、今まで固まっていた編隊が、所属艦ごとに明確に分離していく。

「着艦用意よろし、いつでも大丈夫だ」

不意にそんな声が響いた。

隊内電話のレシーバーからだった。

「さすが山口少将だな」

友永隊長は、そう誰に言うことなく呟いた。

ようやく彼らの母艦に着艦できる。

そう思うと今までの戦闘が報われた気がした。


「編隊分離します」

そんな声が響く。

すでに双眼鏡を使えば、見える位置まで攻撃隊は来ていた。

「少ないな」

まず先ほど再出撃を提案した天谷飛行長が、どう呟いた。

まだ機種までは分からないが、九七式艦攻が損害を受けたのではと直感的におもった。

「やられたか」

そんな声が漏れてくる。

徐々に機影がはっきりしてくるに従い、それは疑念から確信に変わった。

「随分やられたものだな」

山口少将が憮然としながら言った。

「どのみち再出撃は無理でしたね」

明らかに数を減じた攻撃隊を見やり、天谷飛行長がそうぼそりと呟いた。

それ顔にはもう、再出撃への未練は浮かんでいなかった。

第40話完

ようやくエンタープライズ防空戦次回で終わります

そして、第3の海戦が!

まだまだ、その日は終わりません!


プラモ信濃、が1/450で信濃からでた

でも、作るなら1/700がいいのですよ

なぜ450なのか?

ウォーターラインシリーズ出してるから、仕方ないすけど

感想切にお願いします!

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