第39話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦
どもです
ここからです
もはや自分たちが、後を付けられているとは思っていなかった。
このまま期間を待つ母艦へと帰れるだろうと言う安堵感で、警戒が薄くなってしまっていた。
「今日はもう、出撃はないだろうな」
九七式艦攻の直掩を務める、零戦の操縦席で彼はそう呟いた。
早く帰還したら、煙草が吸いたい気分だった。
もう彼は、今日だけで2回出撃していた。
その両方が、そんに短くない時間の出撃だった。しかも2回目の出撃に際しては、ほとんど休息がとれなかった。
そのため彼は、今までにないほど体に疲労をためていた。
おそらく他の奴らも、そうだろう。
朝一番の艦隊戦の、制空隊を務め攻撃隊の直掩についたものは、少なくない。
見張りを怠るな、とはよく言われることだが今は疲労による、眠気を追っ払うので精一杯だった。
下手したら、操縦桿を握ったままうとうとしてしまいそうだ。
だから、後方警戒なぞやっていなかった。
いくら訓練を積んだとはいえ、人間は機械ではない。
今も快調に回り続けている、栄発動機のように燃料があれば動く、というわけには行かないのだ。
これからまた、長期間飛ばなければならないのかと思うと、疲れがどっと出る。
だが長くても、2時間程度で終わるだろう。
それに母艦が前進しているらしいから、そこまでかからないかもしれない。
彼らは、無事母艦に足をつけられる事で、上機嫌にもなっていた。
しかも、空母1大破確実という凱歌をあげてである。
それで気が緩ませるなと、言う方が無茶と言うものだった。
隊内電話も、特に何も音波を発していない。
彼の乗る零戦は、単座機のため全てを自分でやらなければならないのだ。
そのため、理由もなしに隊内電話を使おうとも思わなかった。
とにかく彼は、疲れていた。
それが結論だろう。
「良いか?2機編隊は、できるだけ崩すな」
19機のワイルドキャットを、最先任と言う理由で率いているドレッド大尉、機上電話越しにそう言った。
大分敵が警戒を緩めてきただろうことは、なんとなく気配で分かった。
だがそれで、こちらも気をぬくわけには行かない。
なんだかんだ言って、「エンタープライズ」を航行不能に陥れた敵だ。
油断しろという方が、無理だというだろう。
彼らは、復讐と言う感情で一つになっている。
それは、激しい闘争心となって敗北に覆われた心の中でその敗北感を隠していた。
彼らは、ふとした調子で敵に発見されないよう、それこそ雲があれば雲に入ると言う、慎重さで追跡を行ってきた。
それが今、敵の油断という状況で報われようとしていた。
一度攻撃をかければ、敵もすぐには立ち直れないだろう。
ワイルドキャットは、機数で劣っているために、敵が体制を整える前に離脱する必要があった。
離脱に失敗すれば、多数の零戦によって袋叩きにされること、確実だろう。
「行くぞ!」
ドレッドは、機会を見計らってそう大音声で言った。
それと同時に彼は、操縦桿を押し込み急降下に移る。
一瞬にして敵機への攻撃態勢に移ったのだ。
砲弾のような機体が、一瞬にして加速される。
それはそのずんぐりした、胴体からは想像できない動きだった。
急降下に移ったことにより、高度計がグルグルと回転し高度が下がっているのがわかる。
さらにそれに反比例するかのように、速度計の針が一気に回り加速されていることを、視界にわかりやすく伝える。
ピトー菅を伝って速度が、表示される。
もしピトー菅が折れればそれだけで、自分の機速がわからなくなってしまう。
それほど重要な装備だった。
彼は、操縦席の前方に取り付けられたバックミラーを、見つめ後続がしっかりついてきているか、確認する。
このバックミラーは、後方視界をもっとよくしたいというパイロットの希望によって、改修キットが作られ、出撃後に慌ただしく取り付けたものである。
装備自体は簡単なものだったが、効果は抜群だった。
特に、体重が多く後ろを向きづらいものには歓迎された。
これならわざわざ体をひねる必要が、なくなるのだ。
そのバックミラーが、はっきりと心強い友軍を写していた。
彼の視界には、今雲間から抜け出した最後の機が、やや映った。
特に直前になって、奥したものはいなかったようだ。
「油断したなジャップ!」
彼が、歪んだ笑みでそう呟いた。
その時だった、今まで整然と組まれていた敵編隊が、崩れた。
「敵機来襲!」
その声が、隊内電話から、雑音を孕みながら飛び出してきたのは、本当いきなりだった。
「敵はうしろ上方!」
敵機来襲を封じてきた彼は、それだけでは情報が足りないと考えたのか、そう付け加えた。
「なに!」
九七式艦攻8機の先頭をゆく、友永がそう思わず叫ぶ。
「気配などなかったぞ」
かれは、そう言っていた。
それにより、恐怖によってか、編隊が崩れる。
敵はもう四股の間と言っていいほど、近づいていた。
敵は、何も恐れず、真一文字に次々に突っ込んでくる。
それに対し我が軍は、対応が遅れた。
友永は、それが致命的なミスにならなければいいがと思ったが、遅きに失した。
「撃つ!」
ドレッドは短くそう叫びアドレナリンを放出しながら、敵の攻撃機に4条の機銃を放った。
数発に一発の割合で入っている、曳光弾が弾道を伝えてくる。
「行ったか!」
彼がそう叫んだ時、機銃弾が敵機の左翼に吸い込まれるように着弾した。
敵機はその衝撃に、打ちのめされたかのように、蒼空をのたうった。
その直後、左翼が中央部で断ち切られた。
たった今の攻撃で、武勲をあげたらろう機体が、一瞬にして粉砕された。
敵機からの反撃は、皆無だった。
いやその時間も与えぬ、速攻だったのだろう。
一番槍として突っ込んだドレッド大尉は、戦果を早速あげたのだ。
彼は、一気に抜けると同時に上昇に移る。
あと1斉射分しかないが、機銃弾がまだ残っているのだ。
全ての機銃弾を放たずして、離脱する気は無かった。
「撃て!」
友永少尉の声が、全ての九七式艦攻に届いた。
最後尾にいた機体がいともあっさりと落とされたのを見て、今更ながらも反撃を開始したのだ。
残存する16機の九七式艦攻の後部座席から、7.7ミリ機銃が、軽快に打ち出される。
だが、旋回機銃の命中率は、高くない。
そんな簡単には命中弾は、出なかった。
だが、一斉に貼られた弾幕にビビったのか、1機が攻撃のタイミングを逃しそのまま離脱していく。
だが、命中弾は出ていない。
旋回機銃は、固定機銃の比べ安定性が低い。
また旋回させて標準をつけるため機銃手が必要になるが、本体が反動でかなり揺れるため、中なうまく標準をつけられないのだ。
それに寒さで手かじかんでいるし、鉄でできた本体も当然冷たい。
それはまさに極寒といってもよかった。
それらが組み合わさることで、完全な標準をつけるのは困難を伴った。
また敵機の攻撃回避のため、九七式艦攻自体が左右に揺れるためそれも、標準を困難にした。
多少の被弾にも動じない、重爆のような機体ならいいのだが、九七式艦攻はその逆で運が悪ければ1、2発の被弾でもやられてしまうのだ。
それは機体を動かす発動機に開発当時、大馬力なのがなく重装甲にできなかったのだ。
また翼内タンクも備え付けられているため、そこが被弾に弱くなっていた。
なんせ一番機体で、被弾しやすい主翼に燃料タンクがあるのだ。
そこだけ命中しないなんてことは、まず起こらないだろう。
そして命中すれば、火を吹きやすかった。
確かにうまく風を当てることで消し止めることも、かなり稀にだができる。
だが基本は、そのまま機体が火に包まれるか主翼を叩き終われるかである。
先ほどの機は奇襲効果もあって、威嚇することもできたがその次の機は違った。
一気に16機から放たれる弾幕を、物ともせずに突っ込んできたのだ。
その挙動に、恐れは感じられなかった。
迷いを見せず真一文字に、編隊に突っ込んでくる。
もう標準が良くないことも、見破っているのだろう。
弾幕が集中する中で冷静に、狙いをつけているように見える。
またも狙われたのは、最後尾についていた機体だった。
やはりそこが一番弾幕が薄くなってしまう。
それも、恐れを抱かせない一因だった。
狙われていると悟った機は、右に旋回しなんとかかわそうと足掻く。
だが上空から急降下によって迫ってきた敵戦闘機は、最小限に機体の制動で再び狙いをつけ直す。
だがなおも、九七式艦攻は粘る。
少しでも時間を稼ごうとしているようだ。
その頃にはすでに零戦隊も迎撃の態勢に入っている。
だが、すでに敵機は全てが降下に入っていたため、手遅れ感満載だった。
なんとかして、敵機に食いつこうとするが、そんな彼らの前で彼らの努力を嘲るように、敵機の両翼が火を吹き、曳光弾が吹き伸びた。
それは一瞬で終わった。
次の瞬間、九七式艦攻のコックピットがくだけちった。
それだけでない。
発動機にも敵機の、凶弾が命中していた。
それも不運にも胴体と発動機架とのつなぎ目にも命中していた。
それによって、発動機が分離したのだ。
搭乗員と発動機を同時に失ったその艦攻は、重心が狂い垂直尾翼を下に機首をあげて墜落していった。
だがその戦果を挙げたワイルドキャットに、零戦が横から射弾を浴びせかける。
彼は一番後ろに零戦隊の中で配置していたため、急降下で抜けてくる敵機を待ち受けていたのだ。
それがうまくいったのだ。
彼はうまく復讐を果たしたのだ。
だがワイルドキャットの跳梁は止まらない。
再び、艦攻に敵機がせまる。
今度は降下する敵機を止めようと、零戦が突貫する。
だが4機目の敵機はギリギリ、零戦の突っ込みを交わす。
素早くロールし、攻撃を回避したのだ。
そのままの勢いで、艦攻に接近する。
その姿は、上空から獲物にせまる猛禽、それも荒鷲のようだった。
それに対し、九七式艦攻はあまりに無力だった。
反撃手段が、旋回機銃しかなく回避運動も戦闘機に比べ明らかに、鈍重だった。
しかも緊密な編隊を組んでいたため、自由な回避行動をとりずらかった。
今や九七式艦攻は、これ以上ないカモになってしまっていた。
再びワイルドキャットが、火を噴くかと思われた。
その瞬間を農地に想像した、村井定一等飛行兵曹派、目を背けたがその時はそんなことは起こらなかった。
ドレッド大尉が、敵機を威嚇するために連れてきた弾丸切れの機体だったのだ。
それが、予想以上に効果的だったのだ。
外見では、弾丸があるかないかは判断できないため、九七式艦攻側としては迎撃するしかないのだ。
それが彼らにとって良い結果をもたらしたのだ。
だが、村井定一等飛行兵曹が安堵したのもつかの間、再び敵機が襲いかかってくる。
的に休む暇を与えない見事な、波状攻撃だった。
とにかく敵機は、今のところ途切れることなく来襲した。
それが、動揺している九七式艦攻の乗員の感情をさらに揺さぶったのだ。
しかも戦闘機隊も出遅れており、完全にワイルドキャットが主役に躍り出ていた。
再び情け容赦なく哀れな九七式艦攻に、火薬によって吐き出された銃弾が、突き刺さる。
まだ炸裂弾がないだけマシだったのかもしれない。
今度は、水平尾翼の端を削っただけだった。
これがもし炸裂弾だったならば、水平尾翼を吹き飛ばされていただろう。
そうなれば操縦不能、そこまでいかないとしてもかなりの技量が無ければ、帰還不能になっていただろう。
だが、最初の攻撃をなんとか幸運にも切り抜けた九七式艦攻に、休む暇を与えることなく次のワイルドキャットが突撃する。
それを食い止めようと零戦も降下で追うが、零戦の華奢な機体では追いきれなかった。
しかも敵機の方が速度が出ていた。
そのためその零戦は効果的な攻撃を、行えなかった。
そして一難をかわした艦攻に、アイスキャンデーが吹き伸びる。
6条の砲火は容赦なく、九七式艦攻に吸い込まれる。
最初は何事もなかったかのように、その九七式艦攻は飛行を続けた。
それはその機の搭乗員も乗り切ったと、思ったことだろう。
だが数秒置いてからその九七式艦攻は、胴体から真半分に分離してしまったのだ。
それにはいくら高い技量の高いものでも、対応できなかっただろう。
なんせ重量バランス、揚力バランス共に完全に崩れてしまったのだ。
そのまま九七式艦攻は、発動機を中心にくるくる回転しながら墜落していった。
その機を撃墜したワイルドキャットは、そのまま海面まで急降下で逃げていった。
そうすればさっきの機の二の舞にならずに済むと、睨んだのだ。
そに直後零戦の放った火線が、機体上方をかすめていった。
彼の機が減速すると踏んだのだろう。
彼の機を追跡する機は無かった。
彼はうまいこと逃げ切ったのだった。
第39話完
というわけで、対空砲火では損害を出さなかった、艦攻隊にもついに損害が・・
フジミの超大和型魔改造竣工です
pixivの方にあげました
ユーザーネームは同じなので、すぐ見つかると思います
それを南溟の艦隊に出す予定はありませんので、悪しからず
感想切にお願いします




