第3話オレンジプラン発動
と言うわけで、発動します
1939年総統ヒトラーを首班とするドイツ第三帝国は、ポーランドに侵攻し第一次大戦後に訪れた、束の間の平和な日々に終止符を打った。
その頃、日本とイギリスは日英同盟を継続しており未だ蜜月関係にあった。
確かに、石原莞爾大佐が首謀者となり、関東軍が満州に攻め込んだ1931年の満州事変発生時には両国間の関係は、かなり冷え込んだ。
だが、政府が即座に首謀者である石原莞爾大佐の身柄を拘束せよとの命令を、陸軍だけでなく海軍にも出したことにより、半月ほどで事態は沈静化へと向かった。
それは、海軍陸戦隊が石原莞爾大佐の身柄を拘束することに成功したからであった。
この一件により、陸軍は海軍に大きな貸しを作ることになった。
そのためただでさえ低かった陸軍の発言権は、さらに低くなる事になった。
その件で日本政府は、中国政府に即座に謝罪するとともに、関東軍の規模縮小を決定した。
その結果関東軍は1個師団のみ所属する規模の小さなものとなった。
だが現在では、ノモンハン事件の教訓を生かし規模は変わらないものの、陸軍一の機械化率を誇っていた。
彼らには最新の九七式中戦車が、優先的に配備されていた。
しかし現在、日ソ国境は静けさを保っていた。
なぜなら、1941年ドイツ第三帝国がバルサロッサ作戦を実行し、ソ連領内に攻め込んでいたからだ。
それに日本はドイツと同盟を結んでいるわけでもなかったため、険悪になる理由も無かったのである。
確かにドイツ側から日独伊三国同盟の打診はあった。
しかし、海軍や議会の反対にあい、ご破算になったのである。
それには、ドイツが日本の同盟国であるイギリスと険悪な関係にあった、というのが大きな理由である。
「アメリカは本当に開戦する気なのか?」
トラック島を基地とする、第二艦隊司令長官近藤信竹中将は、旗艦である巡洋戦艦「天城」の艦橋でそう呟いた。
1942年に入ってから、アメリカは日英との摩擦を強めていた。
それは、対独戦線に日英が参戦の構えを見せているのに対し、親独に傾いている世論が反発を強めているためである。さらに、強烈な反日家として有名なルーズベルト大統領の存在も大きかった。
そのため、アメリカは日英に対し参戦しないように要請していた。
しかし、その頃イギリスには、自由フランスやソ連などからの救援要請が引っ切り無しに届いていたのだ。
「どうしたもんかな」
アメリカ合衆国大統領、フランクリンルーズベルトはそうコーデルハル国務長官に、呟いた。
「対日戦のことですかな?」
「ああ、そうだ。こっちから打って出るか?」
「それは・・大統領がそうお考えなら反対はしません。それに、反日の世論もかなり盛り上がってますし」
ハル国務長官は、言葉を詰まらせながらも冷静に答えた。
それから、数ヶ月が経った1942年8月20日駐米大使の野村吉三郎は、突然ホワイトハウスに呼び出された。
「どうしたのですか?」
彼は、着席するなり戸惑った様子でそう言った。
「いえ、あなたにこれをお見せしたくてですね」
ルーズベルト大統領は横柄にそう言うと、一枚の紙を机に広げた。
横に座っている、ハル国務長官が付け足すように言った。
「明日、8月21日をもって我が合衆国が帰国との戦争状態に入る事を通告させて貰います」
それを聞いた瞬間、野村大使の顔は凍りついていた。
「それは、誠ですか?」
「はい、これが最終通牒になります」
ルーズベルトは淡々と呆然としている大使に言った。
「何故ですか?今まで戦争に至るような事は無かった。そう認識してますが」
野村大使は、そう言葉を紡ぎ出した。
「戦争に理由が必要ですか?我が国の世論がそうなんですよ、」
「何が理由なんですか?」
「簡単に言うと、貴国と英国を対独戦線に参戦させない為、とでも言いますかね」
「なぜ、それが開戦理由になるのです?まだ何もしていないでは無いですか」
「我が国が、貴国や英国に参戦要請が入っていることを掴んでいないとでもお思いですか?それに貴国と開戦すれば、イギリスが参戦するにしても主戦場は太平洋になりますからな。都合がいいんですよ。それより早く本国に打電されては、いかがですか?」
それを聞いた途端、野村大使慌てたように部屋を飛び出していった。
「ついに今日を迎えたか」
アメリカ太平洋艦隊第一任務部隊旗艦サウスダコタの艦橋で、ウィリアムハルゼー中将はそう覇気のある声で言った。
彼らの目標は、トラックの占領である。
当初オレンジプランでは、日米開戦後マーシャル諸島を占領することになっていた。
しかし、日本軍が強力な艦隊をトラックに派遣していた事から、そちらを先に撃破しマーシャル諸島を孤立させ、挟撃することになったのだ。
しかもここで日本の主力を撃破してしまえば、戦争の流れが決まったも同然になるのだ。
そのため、トラックをまず占領することになったのである。
そして今日は、宣戦布告してから5日後の1942年8月26日である。
第一任務部隊は、戦艦11隻を基幹とする艦隊である。
16インチ砲搭載の新鋭戦艦「ノースカロライナ」「ワシントン」「サウスダコタ」「インディアナ」さらに、同じく16インチ砲搭載の「コロラド」「メリーランド」14インチ砲搭載の「テネシー」「カリフォルニア」「ニューメキシコ」「ミシシッピ」「アイダホ」空母エンタープライズ、重巡2隻軽巡9隻駆逐艦18隻で第一任務部隊は構成されている。
そして先程、待望の敵艦隊発見の無電が、エンタープライズが放った偵察機より入電したのである。
しかし、同じ頃日本側も潜水艦によって第一任務部隊を発見していた。
「潜水艦が放ったと思われる無電を、傍受しました」
旗艦、サウスダコタの艦橋にその報告が入ったのは、その日の午後の事だった。
「発見されたか・・だがもうそれも関係ない」
ハルゼーは、何かを燃え立たせるように言った。
すでに、敵艦隊がトラックを出撃し第一任務部隊に向かってきていることはわかっていた。
またその無電では、敵艦隊も第一任務部隊と同様に戦艦11隻で構成されている事も、送られていた。
「敵は同数か。こりゃあ良いじゃないか。隻数のハンデはない。互角の勝負だ。それにしてももう、200浬か」
ふたたびハルゼーが言った。
航空戦ならば、もう攻撃隊を出せる距離である。
だが今回は、戦闘機隊しか積んでいないのだ。それは、敵地の只中に飛び込んで行く為防空力を重視したためであった。
もしも、敵攻撃隊によって砲戦前にダメージを食らってしまったとしたら、目も当てられない事態に陥るだろう。
現在、艦隊上空を16機のF4Fワイルドキャットが乱舞していた。
今「エンタープライズ」には、6個中隊計96機のワイルドキャットが搭載されており、日中3交代2日で6交代と言うシフトで、ローテーションを回していた。
さらに、2個中隊32機が飛行甲板に待機しており、即座に出撃できる態勢を取っていた。
この調子なら、会敵まで5時間はあるだろう。
現在艦隊は、18ノットの速力で進撃している。
「遂にこいつらの、力を試せるな」
第一艦隊司令長官の高須四郎中将は、旗艦「大和」の艦橋でそう呟いた。
目の前には太く伸びた6本の砲身が見える。
これらは、どの戦艦の装甲でも撃ち抜く力を持っているのだ。
彼は、大艦巨砲の信奉者として艦隊決戦を、歓迎していた。
現在、第一艦隊には「加賀」をはじめとする4隻の41センチ砲搭載艦と6隻の36センチ砲搭載艦が所属している。そして帝国海軍の秘宝「大和」も、その中にいる。
戦艦「大和」それは、大日本帝国海軍が世界最強を自負する艨艟である。
また、「大和」だけでなく、41センチ砲を10門搭載する加賀型戦艦も2隻ともいる。また8門と若干ながらも劣る、世界初の41センチ砲搭載艦である長門型も戦力の中核として、存在している。
また、36センチ砲と威力は若干劣るもの12門という門数をもつ第二戦隊の4隻もかなりの戦力である。
また、どの艦も最低24ノットは出せた。
そのため、鈍足の敵艦隊を翻弄出来るだろうと高須四郎中将は思っていた。
だが、砲戦時は命中率の問題もあり速度を敵に合わせなければいけないが、大きな問題では無いだろう。
また、第一艦隊の後方50浬には第二航空戦隊の2隻と護衛である三十五、三十六両駆逐隊計8隻の駆逐艦が直掩隊として、控えていた。
そして、残りの第一航空戦隊と第五航空戦隊は、別働隊として第二艦隊と行動を共にしている。
彼らには、向かってくるであろう敵輸送船団を撃破するという任務が与えられていた。
なぜ、それにここまでの戦力を投入することになったのか。
それは、真珠湾に貼り付けさせていた一隻の潜水艦からの報告が、元になっていた。
報告によれば、輸送船団には2隻の空母と2隻の戦艦が付いているというではないか。
しかも、戦艦2隻は速力が33ノットを誇るレキシントン級巡洋戦艦であったのだ。
肝心の輸送船団も、合計で30は超えると見られた。
そのため、中途半端な戦力でかかれば、こちらもダメージを受ける、そう判断されたのである。
また幸いにも、戦艦部隊の方には空母が一隻しかついていなかった。
それもあって、第二航空戦隊の分派という形となったのである。
第二艦隊には、実質的な高速戦艦である天城型巡洋戦艦が、2隻とも所属していた。
本当は、第一艦隊の「金剛」「比叡」の2隻と交代させたかったが、それだと旧式高速戦艦4隻のみとなってしまい、砲力、そして速力でも劣っているレキシントン級巡洋戦艦に対し、勝利できるという確信が持てなかったのである。
その為、速力以外の全てで勝っている天城型巡洋戦艦が敵戦艦撃滅の任に当たることとなったのだ。
時刻はすでに、夜の12時を回っていた。
この分だと会敵は、明日になるだろう。
その頃高須四郎中将は、自室にて仮眠を取っていた。
それは夜明けごろ接敵するよう速力を16ノットに調整しており、夜間の接敵が無いことを分かっていたからである。
そして、8月27日の朝を迎えた。
「どうだ?」
高須長官は、艦橋に来るなりそう言った。
「敵艦隊の動きに変化なしです」
高須長官にそう返したのは、参謀長である小林謙五大佐である。
「そうか、あとどのくらいで発見できる?」
「もう数時間もたたないうちに接敵できると思います」
丁度その時、朝一で飛ばした偵察機が敵艦隊の位置を、知らせてきた。
「報告敵艦隊、東方40浬にありです」
「もう1時間程度か、20ノットに増速せよ」
報告を聞くなり、高須長官は命令をくだした。
これなら、1時間程度で視認できるようになる。
「砲戦準備せよ」
「加賀」艦長の声が響く。
こうしてる間にも、各艦で準備が進んでいるだろう。
現在艦隊は、「大和」を先頭に第十一戦隊、第二戦隊、第三戦隊、第七戦隊の14隻が単縦陣を敷き、第一、第三水雷戦隊が両翼を守るという陣形で進撃している。
状況に応じて、水雷戦隊はどちらかに移動する手はずになっている。
おそらく、この一戦がこの戦争の序盤の流れを決める大一番になるだろう。
「と言うわけで、我が大英帝国は貴国に対し宣戦を布告します」
同時刻、ホワイトハウスにはイギリス外務大臣アンソニーイーデンが、アメリカに対し宣戦を布告していた。
「なぜ同盟を結んではいるものの、無関係である貴国が参戦するんです?」
コーデルハル国務長官は、内心上手くいったと思いつつも、質問系で聞き返した。
「何故って、貴国が太平洋の我が植民地に進行しないとも限りませんからな。それに、日本には第一次大戦の時の貸しがある。それに、太平洋の平和を乱すような国を放って置くわけにもいかないんですよ」
「なるほど、ですがこの事が貴国に没落をもたらすことになるかもしれませんよ?」
ハルはにこやかにそう言った。
「本気でそう考えていらっしゃるのですか?確かに単独では貴国に劣りますが、日本と手を組めば海軍力で言えば、貴国を大きく引き離しているんですよ?」
イーデンは、本気でそう思っているのか?そう問いただすように言った。
「そろそろですな」
ハルが、突然そう言った。
「何がですか?」
「いえ我が太平洋艦隊と、日本連合艦隊の決戦がそろそろはじまるんですよ」
「なるほど、その結果で流れが決まるそうおっしゃいたいんですね。しかしどうでしょう、もし日本艦隊を打ち破ったとして、我が国に対抗できるだけの戦力を保持できますかな?それに、日本艦隊を甘く見ないほうがいい」
「それはわかっています。だからこそ我が国は最新鋭戦艦を4隻派遣したのです。ジャップに確実に勝つために」
それは、ハルの絶大な自信の表れだった。
「そうですか、ですが熟練度では彼らが上回ってますよ」
「まあ、終わってみれば分かりますよ」
ハルはそう言って、イーデンに退席を促した。
第3話完
オレンジプランが発動しました
そして英国動向は?
謎が残った?第3話です
今回は11時に予約投稿しました




