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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 「エンタープライズ」防空戦
39/66

第38話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦

あけましておめでとうございます

新年最初の投稿です

「左舷へ注水せよ!」

右舷側への傾斜を強める、空母「エンタープライズ」艦橋でホワイト艦長が命じる。

すでに艦の傾斜は、15度近くになっていた。浸水量はかなり多く見積もって5000トンと考えられた。

実際はもっとすくなかったようだ。

いま「エンタープライズ」はほぼ航行を止めていた。そのため、潜水艦に狙われたら一巻の終わりだろう。

そうならないよう護衛のフレッチャー級駆逐艦、10隻が海中を睨め回すように見張っていた。

海中にピンガーを放ち、敵潜を炙りだす。

だが今はまだ、敵潜は警戒網に引っかかって居ない。

「注水開始します」

注排水士官が、そう告げる。

それと同時に部下が、注水する区画のバブルを開け放つ。

それによって、外界と隔てられていた区画に海水が注水される。

右舷側へ傾斜していることもあって、あまり注水が捗らない。

だがゆっくりとだが確実に、艦へ海水が流入していた。

「いいか?漏水を止めろ!」

第一機関室長が、部下にそう命じる。

機関室自体に浸水は多くないが、水に浸かっては少々まずいものもある。

浸水は早く食い止めるに尽きるのだ。

だが被雷の衝撃によって鋲が緩んでおり、至る所から少量の浸水が起こっていた。それに対する対応は、漏水してる箇所を洗い出し防水処置を行う必要があった。

そのため手間がかかり容易には、終わらないのだ。

「お?注水始めたか?」

誰かがそう呟いた。

この調子ならば、転覆には至らなそうだ。

「確かに傾斜が、緩くなったか?」

機関室長が、追って言った。

まだほんのわずかであるが、すでに注水の効果が現れていた。

「お前らぼーっとしてないで、作業に戻れば!」

ほんの一時、彼らは機関室長の話を聞いており、作業の手が止まっていた。それを即座に注意したのだ。

「しかし、鋲の緩みが酷いですね。これは竣工時から、精度が良くなかったのでしょうか?」

機関長に聞いた。

機関科の中では、機関長が最古参なのである。

しばし考えてから機関長は答えた。

「だとすると、この艦は手抜き工事で作られたことになるな」

「ええ、確かに魚雷の衝撃くらいましたがどうも、内側の鋲も幾つか飛んでいるようです。それでよく今まで大きな事故がなかったものと、思いますよ」

「確かに今までこんな衝撃を受けることはなかったからな・・」

機関長が口ごもる。

いまいち言葉の歯切れが悪かった。

何か思い当たることがあるのかもしれない。

「もしかして、そこまでの衝撃を受けたことがないのですか?」

「いやそういうわけではないが、多分経年劣化の方があるだろう。恐らく手抜き工事より、ミスだろう。竣工後4年立っているから、多少の劣化は進むものだ。それが今顕在化したのだろう」

「だとすると・・」

機関室長は、どこか歯切れが悪そうに言った。

「もしくはたんに、敵の魚雷の威力が強かったかだ。多分そっちだろうな。範囲がかなり広い」

「なるほど・・・その方がありえそうですね」

「それに、手抜き工事だったなら、たぶん今頃沈んでいるさ」

どこか確信したように、機関長が言った。

それはその通りである。もし本当に手抜きだったならもっと被害が、広がっていてもおかしくなかっただろう。

「ポンプ持ってこい」

「そんなにありません!」

排水用のポンプは、ぜんぜんたりていなかった。

全くないわけではないため、使用することにはしているのだが、浸水に対し力不足であった。

浸水の速度を遅らせるので精一杯という有様なのだ。

それでは、効果がないに等しかった。だが、被雷箇所は4カ所に分散しているのだが。

大まかに見ても、3箇所が完全に別の範囲であり、ポンプが足りないのだ。

「艦長、ポンプが足りません!」

艦橋にダメコン班長が、かけてきて言った。

艦長は振り返りながら言った。

「しかし、十分な数はなかったか?」

そう「エンタープライズ」は、予想を上回る被害を受けたために十分行き届かなくなったのだ。

これが2箇所3箇所ならば、足りたかもしれないが、ギリギリ足りなかった。

これは運が悪すぎだろう。

「なんとかしろ!とりあえず手空き乗員にバケツリレーでもさせろ!」

艦長はそう言って、艦内放送をかけた。

「手空き乗員に告ぐ。被雷箇所に向かいバケツリレーを実施しろ」

「バケツリレーで足りますかね?」

「それはなんとも言えんが、無いよりはマシだろう」

艦長の放送によって、主に機銃座などの乗員が、ラッタルをかけ、応援に向かった。

一番最初にバケツリレーが始まったのは、艦首付近の被雷箇所だった。

「やりましょう!」

最初に到着した兵曹がそう言うと、後から来た20名以上が、「おう!」と言って、兵曹が水をすくい回し始めた。

救う係と、艦外に捨てる係に分かれて作業は進んだ。

「おいっしょ!」

掛け声とともに、作業は進んだ。

「来ました!」

右舷中央部の、2箇所の浸水部にも応援がたどり着いた。

それに遅れて、左舷中央部にも乗員が集まりだした。

彼らは、力を合わせ、次々水をかき出していった。

バケツ自体は大量にあったため、数は十分あった。

それによって、量は減らないが、これ以上は増えなくなった。

バケツリレーは、一定の成果を上げた。

それに伴い、左舷への注水と合わさって、徐々に傾斜は減っていった。

だが、だからと言って浸水が止まったわけでもなく、いつまたこの安寧が崩れるかは分からなかった。

「航行できそうか?」

ホワイト艦長が、ダメ今班長に聞いた。

「艦首の修理が終われば何とかいけますが、今はまだ、油断を許さない状況です。今だってかなりギリギリなんです。少しのことで転覆または、総員退艦しなければならないかも、知れません」

「そうか・・」

今はまだ、昼過ぎである。

「日が没するまでに終わればいいが・・」

「潜水艦ですか?」

副長のフロイデ中佐が、意味深に言った艦長に聞いた。

「ああ、日があるうちはまだいいが、日が暮れてはソナーにも限界がある。警戒するに越したことはない。それにもう一つ。

敵の第二次攻撃隊が来ないとも限らない。いくら攻撃機の数が少ないと言っても、こちらが負わせた被害も少ない」

それは、一番恐るべき展開だった。

もしそうなれば、この広い太平洋に漂流しているだけに近い「エンタープライズ」は、何の抵抗もできずに、撃沈されてしまうだろう。

それは、すでに戦艦部隊が壊滅状態にある中、避けなければならない。

もし空母部隊までもが、日本軍に殲滅されれば、それこそ新鋭艦が竣工するまで、戦線を維持するので精一杯になるだろう。

いやそれすらできるか分からなかった。

なんせ敵戦艦部隊には、少なくない損害を与えることができている為、しばらくは出てこられないだろうが、空母部隊は無傷である。

それこそアメリカ太平洋艦隊なき、海を我が物顔で進撃するだろう。

確かに「エンタープライズ」はすでに大破してしまっているが、戦艦のように重い装甲板が装備されていたり、艦体自体そこまで堅牢でない為場合によっては、数ヶ月で再戦力化できるだろう。

それに第二第三任務部隊の、2隻の空母は今の所無傷なのだ。

それだけあれば、十分戦線を維持できるだろう。

日本側も空母は無傷だが、戦闘機隊には相当な損害を与えている。

その回復には、国力の小さい日本ならば、合衆国よりも長い時間が必要だろう。

だが、いくら人的損害をすぐに復活できると言っても、空母が1隻あるかないかでも、かなり変わるだろう。

また建艦計画自体も、戦艦優先でどこまで作られるかがわからない。

だから艦長は、「エンタープライズ」にまだ見切りをつけていないのだ。

これがもし建造が確実な戦艦だったなら、部隊を危険にさらさないためにも、早々に総員退艦をしていただろう。


「これより帰還する!」

編隊を構成する九七式艦攻、零戦の隊内電話を通じて、友永攻撃隊長の声が響く。

第二航空戦隊攻撃隊は、すべての攻撃を終えた。その戦果は、空母1を大破確実、撃沈不確実だった。

遠目から見ても、よくわからない。それに正規空母をわずか3本の航空魚雷で撃沈できたとは、思えなかった。

「ようやく終わりましたね」

中席に座っている、偵察員の赤松作特務少尉が言った。

「ああ、これまでの努力が身を結んだんだ。これで残る主力は、第一航空艦隊の眼前に控える輸送部隊だけだ」

今は、全速力で攻撃を行うため接近していることだろう。

攻撃隊は、ひとつなぎになって反転していく。

彼らからは、やりきったのだという安堵感があふれていた。

幾らベテランと言えども、今日が初陣というものが多かったのだ。

初陣という緊張から解かれた彼らは、警戒が薄くなっていた。

帰路に着いた彼らを付け狙う影があった。


「ジャップめ!よくもやってくれたな!」

そう叫んだのは、「エンタープライズ」戦闘機隊の意味残りの中で最先任のドレッド大尉だった。

彼は敵戦闘機隊で壊滅した、友軍機を一つにまとめ、燃料に余裕のある機を引き連れ、意気揚々と帰投しているであろう敵攻撃隊へ、最後の攻撃を掛けるべくここまで来たのだ。

ここまで来た20機のワイルドキャットの中には、すでに機銃弾が尽きてるものが、5、6機いた。

たとえ機銃弾がなかろうと、敵機にはわからないため威嚇にはなると考えたのだ。

しかも敵の編隊は、油断してるのか戦闘機隊が真後ろには付いていなかった。

恐らく今はさすがの彼らも、油断してるだろう。

そうドレッド大尉は睨んでいた。

「いいか、チャンスは一度だと思え。深追いはするなよ。攻撃機に攻撃を集中するんだ」

手短かに機上電話で、ドレッド大尉が指示を伝える。

「イエッサー!」

力強い返答が、雑音の少ない機上電話から響いてくる。

まだやれる。

ドレッド大尉のワイルドキャットには、まだ数斉射分の機銃弾が残っていた。

それは、ほぼ一撃にかけようという現状況では、十分だった。

彼は、敵戦闘機との空戦で後ろにまわる機会や、射点になかなかつけなかったため、機銃弾が残っているのだ。

今も敵編隊には、倍以上の戦闘機が付いている。彼らに気づかれたら、一瞬でやられてしまうだろう。

ジークはそれ程の強敵だった。

機体の性能では大して変わらないが、敵には熟練搭乗員いや、技量の高い搭乗員が多く苦戦させられていた。

加えて今は、敵の方が士気が高いだろう。

こちらが帰るべき母艦に降りれなくなったのに比べ、やつらは、その帰るべき母艦を攻撃した当人なのだ。

士気が低いはずがないだろう。

決して奇襲をかけられるだろう状況でも、油断はできなかった。

確かに味方は、復讐という念で固まっているが、どこまでなのかは分からなかった。

敵機に対する復讐心をたぎらせるよう、ワイルドキャットのエンジン音が空中に響く。

だがそれは、敵には聞こえない。

こちらよりも遥かに多数の、発動機音によってかき消されてしまうのだ。

ワイルドキャットは、砲弾のようなそのずんぐりした機体を、1000馬力越えのエンジンによって、引っ張っていた。

そのずんぐりした機体は、防弾装甲をしっかり施したからであった。

それに伴って機体強度も高い。

そのため急降下による奇襲を掛けるには、もってこいだった。

「大尉、いつ行きますか?」

ドレッド大尉の2番機が聞いてきた。

「まだだ。もっと敵が油断してからのほうがいい。今はまだ、攻撃時の緊張が残っているはずだ。それn敵はまだこちらに気づいていない」

「ならいいですけど、燃料は大丈夫ですかね?」

「そのために、燃料の多い機体を連れてきたんだ。それにどうせもう着艦できないんだ。着水して駆逐艦に拾ってもらっても良いい」

ドレッドは、そう言った。

この辺、機動部隊の駆逐艦の任務の一つ、不時着水した乗員の救助は、日米とも同じだった。

彼ははやる気持ちを抑えて敵編隊を追う。

自分らが絶対有利な状況になるまでは、燃料が相当やばくならない限りは、突っ込む気は無かった。

それにしても、奴らの攻撃機は性能がいい。

我が国のとは大違いだ。

その頃合衆国が使用している攻撃機はTBDデバステーターであり、すべての面で敵のケイトに劣っていた。

そもそも採用年が、1935年と古くすでに旧式家していた。

だが新鋭機の開発が、終わらなかったため未だ現役で使われていた。

今回「エンタープライズ」がその機体を積んでいなかったのは、艦隊防空を盤石にするためだった。

だが、第二第三任務部隊の空母2隻には搭載されているはずだ。

それがどこまでやれるのかは、全く分からなかった。

だがこの海戦が終われば、待ちに待った新鋭機が登場するらしい。

それが来れば、一気に空母戦力が上がるだろう。

それ程の問題だった。

第38話完

バケツリレー、無茶かな?

一応排水ポンプの追いつかない少しの量なので良いかと、思いましたが・・

最後のどうなるんでしょう?

話は書き終わってる為(4話先まで)大規模修正は難しいです

さて、どこまでやるかの問題

転生者でないから、記憶とかは関係ない

難しいのが、船の沈め方

まあ大鳳とか、如月とかあっけなさすぎな艦はあるわけですが

最たるものが、シャトランド沖海戦の英巡洋戦艦な訳で・・・

あと、フッド

でもそれを架空戦記では、なかなかできなかったり・・・

むずい・・

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