第38話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦
あけましておめでとうございます
新年最初の投稿です
「左舷へ注水せよ!」
右舷側への傾斜を強める、空母「エンタープライズ」艦橋でホワイト艦長が命じる。
すでに艦の傾斜は、15度近くになっていた。浸水量はかなり多く見積もって5000トンと考えられた。
実際はもっとすくなかったようだ。
いま「エンタープライズ」はほぼ航行を止めていた。そのため、潜水艦に狙われたら一巻の終わりだろう。
そうならないよう護衛のフレッチャー級駆逐艦、10隻が海中を睨め回すように見張っていた。
海中にピンガーを放ち、敵潜を炙りだす。
だが今はまだ、敵潜は警戒網に引っかかって居ない。
「注水開始します」
注排水士官が、そう告げる。
それと同時に部下が、注水する区画のバブルを開け放つ。
それによって、外界と隔てられていた区画に海水が注水される。
右舷側へ傾斜していることもあって、あまり注水が捗らない。
だがゆっくりとだが確実に、艦へ海水が流入していた。
「いいか?漏水を止めろ!」
第一機関室長が、部下にそう命じる。
機関室自体に浸水は多くないが、水に浸かっては少々まずいものもある。
浸水は早く食い止めるに尽きるのだ。
だが被雷の衝撃によって鋲が緩んでおり、至る所から少量の浸水が起こっていた。それに対する対応は、漏水してる箇所を洗い出し防水処置を行う必要があった。
そのため手間がかかり容易には、終わらないのだ。
「お?注水始めたか?」
誰かがそう呟いた。
この調子ならば、転覆には至らなそうだ。
「確かに傾斜が、緩くなったか?」
機関室長が、追って言った。
まだほんのわずかであるが、すでに注水の効果が現れていた。
「お前らぼーっとしてないで、作業に戻れば!」
ほんの一時、彼らは機関室長の話を聞いており、作業の手が止まっていた。それを即座に注意したのだ。
「しかし、鋲の緩みが酷いですね。これは竣工時から、精度が良くなかったのでしょうか?」
機関長に聞いた。
機関科の中では、機関長が最古参なのである。
しばし考えてから機関長は答えた。
「だとすると、この艦は手抜き工事で作られたことになるな」
「ええ、確かに魚雷の衝撃くらいましたがどうも、内側の鋲も幾つか飛んでいるようです。それでよく今まで大きな事故がなかったものと、思いますよ」
「確かに今までこんな衝撃を受けることはなかったからな・・」
機関長が口ごもる。
いまいち言葉の歯切れが悪かった。
何か思い当たることがあるのかもしれない。
「もしかして、そこまでの衝撃を受けたことがないのですか?」
「いやそういうわけではないが、多分経年劣化の方があるだろう。恐らく手抜き工事より、ミスだろう。竣工後4年立っているから、多少の劣化は進むものだ。それが今顕在化したのだろう」
「だとすると・・」
機関室長は、どこか歯切れが悪そうに言った。
「もしくはたんに、敵の魚雷の威力が強かったかだ。多分そっちだろうな。範囲がかなり広い」
「なるほど・・・その方がありえそうですね」
「それに、手抜き工事だったなら、たぶん今頃沈んでいるさ」
どこか確信したように、機関長が言った。
それはその通りである。もし本当に手抜きだったならもっと被害が、広がっていてもおかしくなかっただろう。
「ポンプ持ってこい」
「そんなにありません!」
排水用のポンプは、ぜんぜんたりていなかった。
全くないわけではないため、使用することにはしているのだが、浸水に対し力不足であった。
浸水の速度を遅らせるので精一杯という有様なのだ。
それでは、効果がないに等しかった。だが、被雷箇所は4カ所に分散しているのだが。
大まかに見ても、3箇所が完全に別の範囲であり、ポンプが足りないのだ。
「艦長、ポンプが足りません!」
艦橋にダメコン班長が、かけてきて言った。
艦長は振り返りながら言った。
「しかし、十分な数はなかったか?」
そう「エンタープライズ」は、予想を上回る被害を受けたために十分行き届かなくなったのだ。
これが2箇所3箇所ならば、足りたかもしれないが、ギリギリ足りなかった。
これは運が悪すぎだろう。
「なんとかしろ!とりあえず手空き乗員にバケツリレーでもさせろ!」
艦長はそう言って、艦内放送をかけた。
「手空き乗員に告ぐ。被雷箇所に向かいバケツリレーを実施しろ」
「バケツリレーで足りますかね?」
「それはなんとも言えんが、無いよりはマシだろう」
艦長の放送によって、主に機銃座などの乗員が、ラッタルをかけ、応援に向かった。
一番最初にバケツリレーが始まったのは、艦首付近の被雷箇所だった。
「やりましょう!」
最初に到着した兵曹がそう言うと、後から来た20名以上が、「おう!」と言って、兵曹が水をすくい回し始めた。
救う係と、艦外に捨てる係に分かれて作業は進んだ。
「おいっしょ!」
掛け声とともに、作業は進んだ。
「来ました!」
右舷中央部の、2箇所の浸水部にも応援がたどり着いた。
それに遅れて、左舷中央部にも乗員が集まりだした。
彼らは、力を合わせ、次々水をかき出していった。
バケツ自体は大量にあったため、数は十分あった。
それによって、量は減らないが、これ以上は増えなくなった。
バケツリレーは、一定の成果を上げた。
それに伴い、左舷への注水と合わさって、徐々に傾斜は減っていった。
だが、だからと言って浸水が止まったわけでもなく、いつまたこの安寧が崩れるかは分からなかった。
「航行できそうか?」
ホワイト艦長が、ダメ今班長に聞いた。
「艦首の修理が終われば何とかいけますが、今はまだ、油断を許さない状況です。今だってかなりギリギリなんです。少しのことで転覆または、総員退艦しなければならないかも、知れません」
「そうか・・」
今はまだ、昼過ぎである。
「日が没するまでに終わればいいが・・」
「潜水艦ですか?」
副長のフロイデ中佐が、意味深に言った艦長に聞いた。
「ああ、日があるうちはまだいいが、日が暮れてはソナーにも限界がある。警戒するに越したことはない。それにもう一つ。
敵の第二次攻撃隊が来ないとも限らない。いくら攻撃機の数が少ないと言っても、こちらが負わせた被害も少ない」
それは、一番恐るべき展開だった。
もしそうなれば、この広い太平洋に漂流しているだけに近い「エンタープライズ」は、何の抵抗もできずに、撃沈されてしまうだろう。
それは、すでに戦艦部隊が壊滅状態にある中、避けなければならない。
もし空母部隊までもが、日本軍に殲滅されれば、それこそ新鋭艦が竣工するまで、戦線を維持するので精一杯になるだろう。
いやそれすらできるか分からなかった。
なんせ敵戦艦部隊には、少なくない損害を与えることができている為、しばらくは出てこられないだろうが、空母部隊は無傷である。
それこそアメリカ太平洋艦隊なき、海を我が物顔で進撃するだろう。
確かに「エンタープライズ」はすでに大破してしまっているが、戦艦のように重い装甲板が装備されていたり、艦体自体そこまで堅牢でない為場合によっては、数ヶ月で再戦力化できるだろう。
それに第二第三任務部隊の、2隻の空母は今の所無傷なのだ。
それだけあれば、十分戦線を維持できるだろう。
日本側も空母は無傷だが、戦闘機隊には相当な損害を与えている。
その回復には、国力の小さい日本ならば、合衆国よりも長い時間が必要だろう。
だが、いくら人的損害をすぐに復活できると言っても、空母が1隻あるかないかでも、かなり変わるだろう。
また建艦計画自体も、戦艦優先でどこまで作られるかがわからない。
だから艦長は、「エンタープライズ」にまだ見切りをつけていないのだ。
これがもし建造が確実な戦艦だったなら、部隊を危険にさらさないためにも、早々に総員退艦をしていただろう。
「これより帰還する!」
編隊を構成する九七式艦攻、零戦の隊内電話を通じて、友永攻撃隊長の声が響く。
第二航空戦隊攻撃隊は、すべての攻撃を終えた。その戦果は、空母1を大破確実、撃沈不確実だった。
遠目から見ても、よくわからない。それに正規空母をわずか3本の航空魚雷で撃沈できたとは、思えなかった。
「ようやく終わりましたね」
中席に座っている、偵察員の赤松作特務少尉が言った。
「ああ、これまでの努力が身を結んだんだ。これで残る主力は、第一航空艦隊の眼前に控える輸送部隊だけだ」
今は、全速力で攻撃を行うため接近していることだろう。
攻撃隊は、ひとつなぎになって反転していく。
彼らからは、やりきったのだという安堵感があふれていた。
幾らベテランと言えども、今日が初陣というものが多かったのだ。
初陣という緊張から解かれた彼らは、警戒が薄くなっていた。
帰路に着いた彼らを付け狙う影があった。
「ジャップめ!よくもやってくれたな!」
そう叫んだのは、「エンタープライズ」戦闘機隊の意味残りの中で最先任のドレッド大尉だった。
彼は敵戦闘機隊で壊滅した、友軍機を一つにまとめ、燃料に余裕のある機を引き連れ、意気揚々と帰投しているであろう敵攻撃隊へ、最後の攻撃を掛けるべくここまで来たのだ。
ここまで来た20機のワイルドキャットの中には、すでに機銃弾が尽きてるものが、5、6機いた。
たとえ機銃弾がなかろうと、敵機にはわからないため威嚇にはなると考えたのだ。
しかも敵の編隊は、油断してるのか戦闘機隊が真後ろには付いていなかった。
恐らく今はさすがの彼らも、油断してるだろう。
そうドレッド大尉は睨んでいた。
「いいか、チャンスは一度だと思え。深追いはするなよ。攻撃機に攻撃を集中するんだ」
手短かに機上電話で、ドレッド大尉が指示を伝える。
「イエッサー!」
力強い返答が、雑音の少ない機上電話から響いてくる。
まだやれる。
ドレッド大尉のワイルドキャットには、まだ数斉射分の機銃弾が残っていた。
それは、ほぼ一撃にかけようという現状況では、十分だった。
彼は、敵戦闘機との空戦で後ろにまわる機会や、射点になかなかつけなかったため、機銃弾が残っているのだ。
今も敵編隊には、倍以上の戦闘機が付いている。彼らに気づかれたら、一瞬でやられてしまうだろう。
ジークはそれ程の強敵だった。
機体の性能では大して変わらないが、敵には熟練搭乗員いや、技量の高い搭乗員が多く苦戦させられていた。
加えて今は、敵の方が士気が高いだろう。
こちらが帰るべき母艦に降りれなくなったのに比べ、やつらは、その帰るべき母艦を攻撃した当人なのだ。
士気が低いはずがないだろう。
決して奇襲をかけられるだろう状況でも、油断はできなかった。
確かに味方は、復讐という念で固まっているが、どこまでなのかは分からなかった。
敵機に対する復讐心をたぎらせるよう、ワイルドキャットのエンジン音が空中に響く。
だがそれは、敵には聞こえない。
こちらよりも遥かに多数の、発動機音によってかき消されてしまうのだ。
ワイルドキャットは、砲弾のようなそのずんぐりした機体を、1000馬力越えのエンジンによって、引っ張っていた。
そのずんぐりした機体は、防弾装甲をしっかり施したからであった。
それに伴って機体強度も高い。
そのため急降下による奇襲を掛けるには、もってこいだった。
「大尉、いつ行きますか?」
ドレッド大尉の2番機が聞いてきた。
「まだだ。もっと敵が油断してからのほうがいい。今はまだ、攻撃時の緊張が残っているはずだ。それn敵はまだこちらに気づいていない」
「ならいいですけど、燃料は大丈夫ですかね?」
「そのために、燃料の多い機体を連れてきたんだ。それにどうせもう着艦できないんだ。着水して駆逐艦に拾ってもらっても良いい」
ドレッドは、そう言った。
この辺、機動部隊の駆逐艦の任務の一つ、不時着水した乗員の救助は、日米とも同じだった。
彼ははやる気持ちを抑えて敵編隊を追う。
自分らが絶対有利な状況になるまでは、燃料が相当やばくならない限りは、突っ込む気は無かった。
それにしても、奴らの攻撃機は性能がいい。
我が国のとは大違いだ。
その頃合衆国が使用している攻撃機はTBDデバステーターであり、すべての面で敵のケイトに劣っていた。
そもそも採用年が、1935年と古くすでに旧式家していた。
だが新鋭機の開発が、終わらなかったため未だ現役で使われていた。
今回「エンタープライズ」がその機体を積んでいなかったのは、艦隊防空を盤石にするためだった。
だが、第二第三任務部隊の空母2隻には搭載されているはずだ。
それがどこまでやれるのかは、全く分からなかった。
だがこの海戦が終われば、待ちに待った新鋭機が登場するらしい。
それが来れば、一気に空母戦力が上がるだろう。
それ程の問題だった。
第38話完
バケツリレー、無茶かな?
一応排水ポンプの追いつかない少しの量なので良いかと、思いましたが・・
最後のどうなるんでしょう?
話は書き終わってる為(4話先まで)大規模修正は難しいです
さて、どこまでやるかの問題
転生者でないから、記憶とかは関係ない
難しいのが、船の沈め方
まあ大鳳とか、如月とかあっけなさすぎな艦はあるわけですが
最たるものが、シャトランド沖海戦の英巡洋戦艦な訳で・・・
あと、フッド
でもそれを架空戦記では、なかなかできなかったり・・・
むずい・・
感想切にお願いします




