第35話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦 防空網突破
今日はコミケだ・・
「良くやった」
友永大尉が、そう呟きながらスロットルレバーを押し込んだ。今までフルに開けていたが、零戦隊が機銃掃射にかかると同時に、時間稼ぎのため速度を落としていたのだ。
それが今再び、加速していった。
友永直卒の9機の九七式艦攻が、何かに押し出されたかのように加速していく。
九七式艦攻の面積の大きな主翼が、増大した空気抵抗によって振動する。
空気抵抗が増大した事によって、操縦桿が重くなり操作しづらくなる。揚力によって機体が持ち上がろうとするのを、絶妙なコントロールで押さえつける。
まだ敵の対空砲火の射程圏外で有るが、低く飛んで損はない。友永機の高度はおおよそ10メートル程度まで降下していた。それほどの高度になれば、大型艦ならば舷側に高さより低くなり、俯角を強く取れない対空砲の射撃を遣り過ごせるのだ。
今回の相手は舷側の低い駆逐艦であるが、低空ほど腹を敵の晒しにくくなる。その方が被弾しずらくなるのだ。また大回りするよりも、低く一気に抜けたほうがストレスも少ない。
ハミルトン式の恒回転プロペラが、増大した発動機の回転数に合わせてピッチを、変更する。これによって、発動機の出力を効率よく推進力に、変換できるのだ。
効率が良くなればその分速度を増させられる。
眼前には高速回転によって、残像しか見えないプロペラがあり、そのさきに乗り越えるべき敵艦が、見えている。
敵艦はすでに零戦の機銃掃射によっていう相当痛めつけられていたが、油断することはできない。どんな損害を受けていても、まぐれ当たりで落とされるのは、なんとも言えないだろう。
敵艦は、艦首を並みに思い切り突っ込んでおり、相当な速力を保持していることをうかがわせた。
9機の九七式艦攻は、3角形の編隊を崩さず輪形陣の外郭を構成する駆逐艦に突っ込んでいく。
「ケイトきます!」
視力の良い見張り員が、機種を即座に見分け報告する。
何人かの艦橋員が怯えた表情を、湛える。
「大丈夫だ、我が艦には来ないだろう。言わないほうがいいかも知れないが、奴らの狙いは「エンタープライズ」だ」
そんな彼らの恐怖心を取り除くためか、艦長がそう言い切った。これで幾分かでも平常心を取り戻してくれれば良いのだが。
だが若い彼らは、自分が狙われていないと分かっていても、敵機が迫ってくるという状況に参っているようだった。
それは、艦長も同じだった。違いは表面に出すか出さないかだった。
「上手くやってくれよ、「エンタープライズ」」
艦長は、敵の攻撃を一身に受けることになるだろう、「エンタープライズ」に向けてそう投げかけた。
「総員配置についたか?」
自艦が明らかに狙われていることが、分かっていた空母「エンタープライズ」の艦橋で、ニュートンHホワイト艦長が副長である、フロイデ中佐に問いかけた。
「はい、すでに付いている模様です。しかし敵も考えましたね、戦闘機を使って駆逐艦の対空火力減殺を狙ってくるとは」
彼は嘲笑しながら言った。
それはただのその場しのぎであるあると、考えていた。
「だがそのせいで、防空網に穴が空いたぞ。敵ながらよく考えたものだ。2隻の駆逐艦をやられたのは痛い。それに真横から突っ込まれては、ほかの艦がほとんど戦力を無力化されてしまう。いや艦上空が安全になったか・・だが我が艦は無傷だ。敵の攻撃を切り抜ければ、問題はない」
艦長は自信ありげに、そう締めくくった。確かに敵の攻撃をすべて避け切って仕舞えば問題はないだろう。
問題は実際に避けきれるかだ。
「ですが、左右から挟み込まれては、どちらに逃げても餌食になってしまいます」
フロイデ中佐が、先ほどとうって変わって深刻な口調で言う。彼もそのことの危険さは分かっているのだろう。
さっきのはたんに、戦闘機を対空砲の減殺に使った事に対し嘲笑してただけのようだった。
「それはそうだが、幾ら何でもほぼ同時には難しいだろう。それに平行になってしまえばいいだけだ。
今はまだ敵機も変位出来るからな、当て舵を取っておいて、魚雷を投下するのと同時に旋回に入るのがいいだろう」
艦長は淡々と言った。
それが副長には頼もしく見えた。
艦長は常識的判断を言っただけだったが、それが追い込まれた副長にはそう聞こえたのだ。
「対空砲は行けるな?」
「はい」
「エンタープライズ」の飛行甲板の両側から、片側4本の砲身が突き立っている。
それが「エンタープライズ」に付けられた8基の5インチ単装高角砲だった。よく言われることに、日本は高角砲が、アメリカは機銃の数が多いというのがある。
高角砲なら、中型以上なら少なくても連装6基12門を載せていた。それに対し「エンタープライズ」は8門しかない。
この差は歴然としている。だがその分機銃の数は多く、実質的には、あまり変わらないのではないか?
いや敵機の接近を許しやすいという面では、アメリカ側が劣っていた。
だがその分搭載機数が多いのが特徴である。そのため2航戦の「飛龍」「蒼龍」とまともにぶつかれるのだ。
3000トンに迫る巨体が、その搭載量をもたらしていたと言える。またアメリカは、艦載機の翼を大きく折りたためたり、解放式格納庫になっていたりと、量を積むのに適していた。
その点日本は、密閉式格納庫で機体が塩害に会いづらく、また悪天候に襲われた時も機体が損害被りづらかった。
どちらがいいとは言えない。それぞれに一長一短があるからだ。だがこれは言えるだろう。どちらもその国の需要にあっているものであり、常に進化しているのだ。
「エンタープライズ」は30000トン近い巨体を、33ノットの速力で驀進させている。それによって起こる抵抗は、並々ならぬものがあった。
それによって、艦首が切り分ける白波も最上甲板に迫ろうかまでの大きさになっていた。
当然スクリューにもかなりの負担がかかる。またボイラーやタービンも相応の性能が求められる。
それを実現するには、技術の蓄積が必要である。
それからも艦艇の建造が生半可には、出来ないことが分かるのではないか。
さらにそれらは、優れた冶金技術にも支えられている。
その信頼性は高かった。
そのため安心して飛ばすことができた。
今は甲板上には邪魔なものはいない。
だから被雷しても滑り落ちるものは無かった。
「来るぞ!」
「フレッチャー」艦橋で、艦長が双眼鏡を覗きながら叫んだ。
艦橋内にピリッとした緊張が、みちる。
何人かは恐怖に顔を引きつらせている。
まだ「撃方始め」の命令は発令されない。まだ距離があるのだ。
「1万」
レーダー室から、敵機の距離が伝えられる。
「7千で撃方始め」
艦長がそう命令する。艦首に備え付けられた2基の両用砲の、砲身が敵機を追尾する。
さっきのようなヘマをやるわけにはいかないと、決意を固めているようだ。
最上甲板では、機銃以外の持ち場についている何人かが、頭をかばうように伏せていた。
九七式艦攻には、前方に打てる機銃は付いていないのだが、さっきの零戦の機銃掃射の恐怖が体に染みついているようだ。
「8千」
「まだだ」
艦長が、硬く戒めるように呟いた。
まだ射撃に伴う反動が艦体を襲うことは、ない。
だがもう暫くすれば、「フレッチャー」は敵機の発動機の爆音だけでなく、高角砲や機銃の発射音の濁流に、包まれるはずだ。
もうすぐそこにまで敵機は迫っていた。
「それにしても、やけに低いな」
敵機を見張っていた見張り員の、1人がそうつぶやいた。妙に敵機の高度が、低く思えた。
味方ならばまずやらないであろう、高度である。
それが高度な訓練が必要であることは、航空機に詳しくない彼でも、なんとなくさっせた。
敵機はいつプロペラが、水面についてもおかしくないように見えるのだが、絶妙な操縦で水面に突っ込むことはない。
その操縦は本当に繊細で、同じ人間に出来るのかと思うほどだった。
彼だけでなく他の乗員も、その低空飛行に魅入っていた。
それも半分くらいだろうか。
あとは、敵機を迎撃せんとするか、甲板に突っ伏しているかだった。
「7千!」
レーダー室から正確な値が、伝えられる。
「撃方始め!!」
艦長が、間髪入れずに命令を下す。
ずがん
それと同時に、艦が前後から鈍い衝撃に見舞われた。
三たび敵機に対し、残る4基の両用砲が火を吹いたのだ。
敵の砲口に、火柱がほとばしったのは、2番機の位置からでも見えた。
「きたか・・」
彼はそう罵りつつ、海面に突っ込まないよう繊細な動きで操縦桿を、巧みに動かす。
彼の操る九七式艦攻が、水面を這う様に前進していく。
さすが精鋭揃いである。
敵艦の発砲にびびり、操縦を誤るものはいなかった。
特に隊長機は、何事もないかのように、翼をほとんど微動だにもさせずに飛んでいる。
そこはやはり、技量の差を感じる。
自分は、若干敵の発砲にみいったため、高度が上がっていたというのにだ。
苦々しくも、尊敬を込めつつ隊長機を凝視する。
「大丈夫だ」
敵の高角砲弾が至近で炸裂し、機体に衝撃が走った。
だが致命的な箇所への被弾は無かった。
初弾で落とされた機は無かった。
いや砲門数が少ないのだから、当然だろう。
彼はフルスロットルのまま、敵艦に近づく。
9機の九七式艦攻は、敵艦が発砲するのも目にくれず、編隊を崩さず接近していく。
どんどん敵艦の大きさが大きくなる。
今すぐにでも、敵艦頭上を飛び越えそうだ。
緊張からか、長い時間が経ったような気がした。
いつの間に機銃の射程内に入ったのか、か細い火線が自機に向かって吹き伸びてきていた。
「ちぃ!」
彼はそう叫びながら、機体を左に旋回させる。
2番機の位置だから、そちらなら味方にあたる心配もない。
そんな彼の風防の右の至近を、一筋の火線が過ぎ去っていった。
「撃てっ!」
その号令とともに、数を減らした機銃が打ち始める。
最上甲板に両用砲の、重めの砲声と、機銃の軽やかな連射音が響いていく。
今や「フレッチャー」は、幾多の騒音で満たされていた。
「敵機きます!」
見張り員が絶叫する。
今やケイトは、危険なほど接近していた。
いつ激突するかもしれなかった。
それで下手をすれば、魚雷が誘爆し、轟沈というシナリオも考えられてしまった。
乗員の間で時の流れが、間延びする。
敵機は今までと変わらず速度で接近してきているはずなのだが、それがとてもゆったりした物に思えた。
それは、人間の記憶が緊張によって密度が高まることによって、起こる現象だった。
敵機の爆音が艦を圧するように、轟いてくる。
皆が敵機の迫力に、呆然としているようだった。
両用砲はとにかく、対空砲弾を打ち出し続けている。
また数門の口径の異なる機銃は、めちゃくちゃに打ちまくっていた。
だがそれが敵機を捉えるかというと、そうでは無かった。
敵機の速度が速いために、うまく照準合わせられないのだ。
死に物狂いで、機銃手が撃ちまくるが、大体は敵機をかすめて飛び去っていっていた。
確かにあたる弾もあったが、敵機に火を吹かせることは叶わない。
敵は、そんな物は無いかのように迫ってくる。
「左舷機銃、用意しとけ」
艦長が、そんな喧騒の中で命じる。
今は敵機を射界に捉えてなく、手持ち無沙汰になって居る、左舷機銃手に向けていったのだ。
「了解!」
そんな声が聞こえた気がする。
命令は艦内放送で流しているため、返事を返すには伝令を派遣する必要があった。
だがそれがそんなすぐには来ない。
おそらく空耳であろう。
「きたぞ!」
誰かがそう叫んだ。
それと同時に、「フレッチャー」の上空を黒い影が、飛び去っていった。
恐ろしい爆音が、乗員の耳を麻痺させる。
「打て!」
左舷機銃が、各々の判断で打ち始める。
敵機は一瞬のうちに「フレッチャー」を超えていった。
もう遮るものは、無くなった。
あとはどこまで敵機に射弾浴びせかけられるかだった。
「フレッチャー」を超えていった敵機に対し、大小の火線が追うように吹き伸びる。
だが直撃させることは無い。
それは一瞬だった。
目標ではない敵艦が、機体の陰に隠れたと思った次の瞬間には、輪形陣の内側への侵入を果たしていた。
様々な方向から、火線が9機の九七式艦攻めがけ吹き飛んでくるが、それを寸分の差でかわす。
まだ機体をかすった断片か、機銃弾があるだけで致命傷と言えるだろうものは、受けていない。
どの舵も平常に動く。
まだ問題はなかった。
だが常に高角砲弾の炸裂による衝撃を受け続けていることに変わりはなく、いつ操縦を間違えるか不安は尽きない。
彼らの周囲では、常に何発もの砲弾が、炸裂し続けていた。
第35話完
ようやくここまで来ました(4話先書いてるともう、ほとんど覚えてなかったり(おい)
艦これで、2ー4戦艦空母だけほぼ改造済みで挑んだのに、ボス戦でみんな中破以上
ほぼ大破
どうやれば突破出来ますか?
感想アドバイスお願いします




