第32話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦 攻撃隊突撃開始
なんか、1話あたりの時間が遅くなってきた
「トツレ受信しました!」
20ノットの速力で攻撃隊をより早く収容すべく、前進している第二航空戦隊旗艦「飛龍」艦橋に、通信長直々の報告が入った。
「なかなか入んないので、どうしたもんかと思いましたが、無事接敵できたようですね」
二航戦主席参謀、伊藤清六中佐はいかつい顔をして水面を見つめている山口多聞少将に向けてそう言った。
彼の表情はあからさまに、安堵のそれが浮かんでいた。
だがそれも仕方ないだろう。
「敵戦闘機と接敵す」
との報告から永らく報告が途絶えていたのだ。
もしかすれば、攻撃隊が全滅してしまっている可能性もあったのだ。
それを考えると今更ながらに、かれは背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
もし攻撃隊が全滅していたならば、18機もの九七式艦攻とその搭乗員54名を一気に喪失していたかもしれなかったのだ。
それは精鋭というだけでなく、物量の面からも日本軍の戦略自体を左右していたかも知れなかったのだ。
一人前の搭乗員を育成するのは一朝一夕に出来るものではないのだ。
確かに消耗が激しいがそれでも少しでも、人的損害は減らさなければならない。
人命重視。
これがこれからの日本軍が取るべき戦略だと彼は、思った。
「ああ」
山口長官は重々しい雰囲気を醸し出しながらただそれだけ言った。だがこれが、ただの強がりであることは、自分が一番わかっている。
「しかし随分と時間がかかったな」
山口長官は伊藤中佐に、そう言った。
長官が言わんとしていることは、60機もの零戦がついておきながら戦闘機掃討に時間がかかりすぎだと言うことだ。
それも仕方ない、なぜなら敵戦闘機と接触すとの電文からすでに20分ほど経っていたのだ。
幾ら何でも数で劣ると推測される敵機に対し時間をかけすぎたのではないか?そう考えたのだ。
「そうですね」
聡明な伊藤中佐も答えに窮する。この答えは、いや事実が敵戦闘機同数以上いたためだが、敵戦闘機編隊についての情報が入ってきていなかった為、推測で進めるしかできなかったのである。
困ったな、情報が少なすぎる。これではどう推測しても正確な判断が出来ないではないか。
彼は内心で詳細な報告を送らなかった、友永大尉を呪ったがそれはほんの気休めにしかならなかった。
「これは、推測にしかなりませんがよろしいですか?」
おずおずと伊藤中佐は、山口長官に対し言った。
「推測で構わないから言ってくれ」
話を振られた山口長官は、即座にそう返した。時間を無駄にはできない。そう言いたげだった。
航空戦では数そして時間が物を言う場合が多いのだ。いかに早く敵を発見し攻撃に移るか。それが勝敗を決すると言っても良かった。
襲い来る敵編隊を完全に撃退する、防空システムはまだ完成には程遠い存在でしかなかった。
確かに対空電探などは実用化されていたが、それも敵編隊を遠距離から発見できる程度のメリットでしかなく、電探連動射撃などはまだ出来なかった。いや精度を確保できてなかったのだ。
「恐らくですが敵機は機種に近い形で、攻撃隊に突っ込んだのではないでしょうか?さすれば編隊は乱れますしそれによって、効果的な迎撃が出来なかったのではないでしょう。またその為体制の立て直しなどの時間もあったのでしょう」
伊藤中佐は、一気に言い切っていた。ここで躊躇しても仕方なかったし、判断するのは長官である。
「だが敵機による防御空域を離れて進撃する手もあったと思うが。それに推測通り20機程度ならば、同数をさけば良かったのでは無いか?」
「確かにそうかもしれません。しかし敵機が推測より多かったまたは、敵機を殲滅しきるのを待ったとは考えられませんか?」
彼は付け加えるようにそういった。
そんなつまらない議論をする羽目になったのも、情報不足だと彼は考えていた。今の戦争は情報がかなり重要である。いや空母決戦はほとんどそれが死命を決するとも言えるだろう。
「恐らくだが・・その両方だということも考えられる」
山口長官は一言一句噛み締めながら、言った。
それはすなわち零戦隊に、ある程度の被害が出たということを物語っていた。
いくら旋回性に優れる零戦であっても撃墜されないということは、無いのである。そう考えるとこの緒戦で受ける被害はどの程度になったのだろうか?
だがそれは帰還する攻撃隊を見れば、分かることである。今細々考えてもどうしようもないのだ。
しかし、長官の言う通りならば、大変なことになった。その事は容易に見て取れた。
だが兎に角トツレを受信したことに変わりは無い。今は攻撃隊が凱歌をあげるのを待つことしかできない。
山口長官は、重々しい雰囲気を湛えながら水平線を見つめていた。今は攻撃隊が凱歌を遥か彼方にいる攻撃隊に、思いを馳せているのだろう。
「飛行甲板に出よう」
山口長官は唐突にそういった。伊藤中佐は、一瞬思考がフリーズしたが次の瞬間には彼の口から言葉が紡ぎ出されていた。
「分かりました。お伴したします」
「君ならそう言ってくれると思っていたよ」
山口長官はそう言うと、飛行甲板につながるタラップに向け歩みだした。
「了解です!」
伝声管を通じて、赤松作特務少尉、村井定一等飛行兵曹の了承の意が伝えられる。今から彼は敵空母を撃沈すべく死地へと飛ぶ込んで行くのだ。
すでに取るべき行動は決まっていた。第一目標は当然空母であり、それ以外の艦に手をだすなと言明されていたのだ。
それに蒼龍艦攻隊長とも攻撃についての、最終確認を終了していた。
「「蒼龍」機、左方向に離脱していきます!」
村井定一等飛行兵曹の、報告が入ってくる。
そう彼らは18機という少数ながら、敵艦を挟みこもうとしているのだ。このような物は航空戦隊ごとにやるのが演習では、当たり前だったが今付近の海域に、他の航空戦隊は存在しない。
だが、敵機の妨害さえなければ成功するだろうと、友永大尉は睨んでいた。
その為敵艦を左舷側から攻撃することになった、「蒼龍」艦攻隊が友永ひきいる「飛龍」隊から分離したのだ。
護衛には同数の零戦がついている為、よっぽどの敵機と遭遇しなければ、簡単には突破できないだろう。
そう考えながら友永大尉は深く考えることもなく、操縦桿を押し込んだ。
今いる位置から、100メートル以下まで高度を下げるのだ。
友永隊は敵艦右舷側から攻撃を仕掛ける。
九七式艦攻が重力によって加速されていく。まだ敵艦との距離が離れているため、スロットルは巡航速度で固定したままである。
海面が徐々に近づいてくる。艦攻隊は、1トン近い重量物を腹に抱いているため降下速度を上げる事は、主翼の空中分解に繋がりかなないため、あまり角度を急に出来ないのだ。
九七式艦攻の動きに追随するように、零戦隊も機種を下げる。
その動きには一糸の乱れも見当たらない。流石熟練の航空隊といった所だろう。
降下しつつ友永大尉は、ここまで好条件の攻撃はそう簡単にはできないぞと思った。
今回は多数の零戦が随伴してきていたため、敵戦闘機を排除するのに集中することができた。だがこれからそこまで十分な数の直掩戦闘機を付けることは、難しくなるだろう。
今回は偶々攻撃隊の18機の九七式艦攻意外を零戦で固めたから、こんな芸当ができたのである。
本来ならば攻撃隊は、敵機による熾烈な攻撃をくぐる抜けていかなければ成らなかっただろう。もしそうなっていれば鈍足な九七式艦攻は、多大な損害を被っていただろう。
だからこそ今回の攻撃は、失敗が許されていない。そう強く思った。
ここまで攻撃隊に有利な戦場は、もう現れないかもしれないからだ。
ここで完勝しておきたかった。
もう突撃は始まってる。それに目標であるエンタープライズ」は後退中だ。
それに燃料も余分はあまり残っていない。その為無駄な動きをする事は許されなかった。
くいっと、操縦桿を軽く引く。
予定高度に到達したのだ。
ここからは一気に攻撃へと移るだろう。
彼はスロットルを一気に押し込み、全開にする。
それと同時に今までよりもいっそう強く、栄発動機が咆哮を上げる。それに肉眼では見えないが、ハミルトン式のプロペラもピッチを切り替え出力に最適な、角度にプロペラを回転させているだろう。
それと同時にこれまで鈍重に飛んでいた九七式艦攻の機体が、一気に加速される。
今までよりも遥かに早く景色が後ろに吹き飛んでいく。その景色は雲だけだったが、それでも違いはよくわかった。
敵艦隊の後方から追いかけるように迫っていく。
最大速度で突撃していくのに合わせ、今まで小さい黒点程度の認識でしかなかった、敵艦が鮮明に見えてくる。
特に「エンタープライズ」を輪形に守る駆逐艦の、攻撃隊に近い位置にある艦は、はっきりと見えるように一気になる。
その駆逐艦は、認識表で見たことが無いものだった。恐らく彼の国が、こちらの知らぬ間に建造したものだろう。
軍縮条約下では割と積極的に情報を公開していたアメリカ海軍だったが、無効化後は一転戦艦などの主力艦は別だが、駆逐艦などの補助艦の情報が一気に手に入りにくくなったのだ。
戦艦などの主力艦は、建造規模が大きいため極秘にしようとしても、市民の噂話などによって容易に拡散してしまうのだ。それに大型艦を建造できる造船所もあまり多くはない為、比較的簡単に突き止めることができたのだ。
彼は知らないが、その駆逐艦はフレッチャー級駆逐艦であった。
同艦はすべての性能において、十分なものを保持しており、傑作艦との呼び声もあった。すなわち対艦、対空、対潜である。だがどうしてもそれらを極めた艦に比べると見劣りする場合もあった。
だがそれも、対艦における日本の駆逐艦に対する物だけだった。
いや総合性能ではフレッチャー級が上回っているだろう。
凡庸性と言うべきだろうか?その為同級は主砲に射撃速度の速い、12.7センチ単装両用砲を5基装備していた。
同砲は基本的に対空砲であるが、十分な威力を持っていた。それに12.7センチ砲ではそもそも大型艦を撃沈することはできないのだ。
そして駆逐艦の主武装である魚雷は、5連装発射管2基を搭載していた。
その為一度に放てる射線は日本のそれより2線多かった。しかしフレッチャー級には日本の駆逐艦の標準装備と言っていい、再装填装置が付いていないため、雷撃力では大きく劣っていた。
今はその2基の発射管は定位置のまま繋留されていた。
そして5基の12.7センチ両用砲は、仰角をほとんど取らず右舷後方から迫ってくる敵機を迎撃すべく、待ち構えていた。
戦闘機隊が敗退した今、艦隊を守るのは自艦が装備する対空砲だけになっていた。
駆逐艦「フレッチャー」の対空レーダーは、迫り来る敵機と迎撃に出た、ワイルドキャットとの空戦をおぼろげながらもそのスクリーンに映し出していた。
またレーダー室には、機上電話の音声が無線室に隣接している事もあり、常に入ってきていた。
その為彼らは外を見ることはできないが、比較的正確に全体の戦況を掴んでいた。
そして彼らは、すでに見方は敵戦闘機により粉砕され、レーダーに映る光点はほとんど、敵機だけであることも掴んでいた。
それは実際に敵機を見ることよりも、恐ろしく思えた。
「艦長!敵機はもう近くまで迫ってます!」
レーダー員が敵機が接近してくることに対し、耐えきれずに思わず叫んでいた。それも仕方がなかっただろう。艦上で行われていることの情報は、ほとんど彼らに入ってこないのだから。
「わかっている。だが狙いは「エンタープライズ」だ。本艦が狙われることはほとんど無いだろう。いやひたすら敵機を打つだけだろうな」
艦内無線で直ぐに艦長が、返答を返してくる。
「分かりました」
彼は努めて冷静に言ったが、自分の顔が青ざめてしまっているだろうことがよく分かった。
それほどの恐怖を彼は、スクリーンから感じたのだ。
彼の目にはレーダースクリーンによって、敵機との距離が冷酷に伝えられるため、刻一刻と近づいてくるそれが、よく分かった。
それは間違いなく合衆国に、厄災をもたらす事になるだろう。だがそれを食い止め得るのは、自艦と僚艦の対空砲火しか残っていないのだ。
それでどうしろと言うんだ。彼は現実の状況を呪った。だがそうしたところで、どうしようもない事は、分かっていた。
レーダースクリーン上に表示される敵機の光点が、近づいてくるたびに彼は、自分の運命が尽きようとしているのを如実に感じ取っていた。
だがレーダー員でしかない自分に出来ることは何もなかった。
第32話完
なぜだろう
文量は変わらず5000なのに、どんどん時系列が進まなくなってる気がする
この調子だといつ全てのトラック沖海戦を書き終わるのだろうか
構想は一応あるのだが・・
細かくやりすぎてばて気味のこの頃です
コミケ楽しみだ
今回はミリタリー、ストライクウィッチーズ、艦これ行こうと思う
艦これは少々気になるのが幾つか
一番はミリタリーです
感想待ってます




