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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 「エンタープライズ」防空戦
29/66

第28話トラック沖海戦 エンタープライズ防空戦 戦闘機隊奮戦

久しぶりの投稿です

天城一等飛行兵曹の追尾する敵機は、未だ降下を続けている。

「これ以上はまずいな」

彼はそう呟くと、降下角を減じた。

零戦の機首が上がったように見える。

操縦桿を手前に少し引く。

速度のためか、重く感じる。

「今だっ!」

彼はそう無意識に、そう叫んだ。

敵機がこれ以上は下がれぬと判断したのか、降下をやめ水平飛行に移ったのだ。

それを見ると同時に、敵機に覆いかぶさるように、さらに降下角を緩くする。

敵機斜め上方から迫る形だ。

彼は若干スロットルレバーを開き、速度を増す。

降下角が減少したため、空中分解の危険はないと判断したのだろう。

スロットルレバーが開かれ、発動機のだ出力が上昇する。

それと同時に、発動機の奏でる轟音が、どこか息の詰まった物から、軽やかで重厚なものに変化する。

出力が上昇するに従い、零戦のスマートで俊敏で軽量で貧弱な機体が、一気に加速される。

計器速度は、600キロ付近を指している。

水平飛行に迫った敵機の姿が、刻一刻と近づいてくる。

それに伴い、緊張か興奮からか、彼の操縦桿を握る手に汗がしたる。

そこまで来た時、敵機が不意に旋回した。

それに彼の体は、瞬間的に反応する。

瞬時にスロットルレバーが絞られ、操縦桿が倒される。

さらにフットバーも、乱雑ながら正確な動作で操られる。

零戦のスマートで美しい機影が、なめらかに旋回に入る。

どこか機械には見えない、滑らかさだ。

速度を落とした物の、旋回半径の違いに寄り、敵機との距離が詰まる。

すると今度は敵機が、減速する。

「つっ!」

彼はその瞬間、素早くロールを打ち、減速をかけた。

一瞬にして天地が逆になり視界が一瞬暗闇に、包まれる。

敵もそこまでするとは思ってなかったらしく、オーバーシュートという無様な真似を見せることは無かった。

その代わり、敵機の尾部が視界に広がる。

鈍重と思われている、グラマンのゴツい機影が目に入る。

確かにこれなら落ちない、と思えるだけの重厚さがあったが、零戦の敏捷さにはついていけないようだ。

後ろさえ取れば落とせるとの、確信が彼にはあった。

そして、彼の視界に入る敵機の尾部が大きくなっていく。

敵機は、右旋回で逃れようとしている。

ワイルドキャットのゴツい機体が、右に倒され旋回に入る。

天城一等飛行兵曹は、その動きを見るさま操縦桿を右に倒した。

極限まで軽量化された機体が、軋み声を上げながら右旋回に入る。

翼が大きくたわみ、空気抵抗に争っているのがよくわかる。

零戦はすぐには旋回に入らないが、一度入ってしまえば、驚異的な旋回力で敵機の懐に飛び込む。

敵機は機体を傾け、半径を縮めようとする。

そのため、徐々に翼の傾斜が大きくなっていく。

しかし零戦の旋回性能は、そんなあがきを無視するかのように、背中につき続ける。

天城一等飛行兵曹の体にかかる、Gが大きくなっていく。

しかし、この程度で根を上げるような事は無い。

むしろ敵機の方が、体にかかる絶大なGに耐えかねているようだった。

若干機体の傾斜が緩やかになる時が、それだ。

そして敵機の旋回が大回りになれば、その分零戦が詰める距離が大きくなる。

敵は、どうしても引き離せない零戦に、混乱しているようだった。

しかし天城一等飛行兵曹は、冷徹に敵機を追い詰めていく。

20ミリ機銃は、無駄な射撃が許されないほど携行弾数が、少ない。

しかし当たれば、数発で敵機を吹き飛ばす威力を持つ。

そのため、少しでも距離を縮める必要があった。

その時、後方で爆煙が上がった。

列機が、天城一等飛行兵曹機に攻撃をかけようとした、敵機を落としたのだ。

おそらく、彼らが控えていることに気づかなかったのだろう。

「小隊長1機撃墜です」

2番機が興奮した様子もなく、淡々と報告してくる。

「わかった」

彼は苛立ちと不甲斐なさに、顔をしかめながら言った。

その頃には、敵機を必中の間合いに捉えていた。

しかし、タイミングがなかなか取れない。

追い詰められた敵機が、めちゃくちゃな機動で、彼を巻こうとしている。

そのため動きが、予測できないのだ。

いつ変針するかもわからないため、気軽に打てない。

何回か、発射把柄にかけている指に力を加えよとしたが、その直前に予期せぬ機動を取られたため、直前で止めなければいけない羽目になった。

詰まりかれは、追い詰めていたが敵の動きに翻弄されているのだ。

いまか!

心の中で叫ぶが、その瞬間に反対に転舵したため、再び指に入れた力を緩める。

ちょこまかと!

そう頭の中で叫びつつ、機体を水平旋回させる。

しかし、敵機の動きは追い詰められてからの方が良いのではと、思った。

そう今の動きの方が、キレや鋭さ、思い切りの良さが全然いいのだ。

頭に血が上りつつも、高城一等飛行兵曹は敵機を追い詰め続ける。

敵機も死に物狂いで逃げているのが、よくわかる。

だが、ここで逃すわけにはいかない。

確実に仕留めなければ。

この頃には、戦闘に参加していない戦闘機隊は、「蒼龍」戦闘機隊のみになっていた。

残りは、日米入り組んでの激戦を演じている。

どちらが優勢だとは、言い切れなかった。

敵の数に埋もれてしまっているが、キルレシオでは「飛龍」戦闘機隊が、勝っているはずだ。

腕のいいパイロットが敵ならば、両者互角の戦いとなり、息もつかせぬ激戦を演じる。

しかし、機体性能で若干勝る零戦の方が、敵の技量が下の場合は、強さを発揮していた。

また格闘戦だけでなく、急降下による一撃離脱も頻繁に行われている。

この場合は、概ねワイルドキャットがその、堅牢さを見せつけ優位に戦いを、進めている。

だがそれも、先頭の1シーンであり、全体的に熟練者の多い、「飛龍」戦闘機隊が「エンタープライズ」戦闘機隊を翻弄していた。

天城一等飛行兵曹は、その乱戦の渦中で敵機にとどめを中々させずに、いらいらを募らせていた。

だがその感情を、表に出すことは抑えていた。

「怒りに身をまかせるな」とは

予科練の教官に、タコができるほど言われたことだった。

それを脳裏に思い出し、怒りの感情を抑えている。

それにしても、敵も中々旋回性がいい。

これでは、ルーキーでは簡単に返り討ちにされちまうぞ。

彼は零戦の脆弱な構造を思い出しつつ、思った。

機体強度が敵機の方が高い分、無理が効くが零戦にはそんな余裕はない。

特に速度の出し過ぎは、零戦に取って鬼門だった。

それらに十分注意できるようにならなければ、返り討ちに会うであろうことが、痛いほどわかった。

「今だ!」

彼はその瞬間、腹の奥から全力で気迫を乗せた声を出しながら、20ミリ機銃を瞬秒ぶっ放した。

発射把柄を押すのは、押すか押さないかわからないぐらいである。

しかし、その瞬間一瞬だが零戦が壁に当たったかのように減速する。

20ミリ機銃の反動によって、急制動がかかったのだ。

さらに目で見ることはできないが、主翼もその瞬間しなったはずだ。

セミモノコックという、最新の技術によって作られた華奢ながらも、そこそこ強靭な機体であっても、20ミリ機銃による反動を抑えることはできないのだ。

これには軽量化し尽くした零戦の、弊害と言えるかもしれない。

しかし天城一等飛行兵曹が、必中の射程ではなった10発程度の20ミリ弾は、狙い違わず散々追いかけ回した、ワイルドキャットに着弾した。

まず胴体真ん中あたりに、炸裂光がきらめく。

さらに左主翼に描かれた星のマークの辺りが、吹き飛ばされる。

一瞬にして星のマーク周辺の外板が、吹き飛ばされる。

さらに、垂直尾翼付近に連続して命中による被害が生じる。

まず垂直尾翼が根元から、吹き飛ばされ蒼空をくるくると回転しながら飛び去っていく。

さらに左側水平安定板が、半ばから叩き折られそこから桁構造が丸見えになる。

それら一連の破壊が終わった頃には、機体は錐揉み旋回に入っていた。

いや左側の揚力が、ことごとく失われたと言ってもいいだろう。

そこまでの破壊にさらされながらも、ワイルドキャットのパイロットはまだ生きていた。

そのため必死に体制を立て直そうとしているようだったが、ここまで完膚なきまでに、主翼や水平安定板、垂直尾翼を吹き飛ばされては立て直し用もなかった。

その機体は、エンジンが止まったらしくしばらくしてから、垂直に海面に向け落下し始める。

どんどん速度が増していき、零戦では空中分解を起こすのではと、天城一等飛行兵曹が思うほどの速度に達する。

だが、ワイルドキャットはグラマン鐵工所の異名を、守らんとするかのように全く震えずに落ちていった。

その機体が、海面に落下する頃には天城一等飛行兵曹は、列機と合流し上昇に移っている。

現在空中戦の主戦場は、高度3000メートル付近である。

その辺りの空域では、相当数の戦闘機が銃火を交わしている。

彼は、2機の列機を率い一旦4000まで上昇する。

「どうだ?」

彼は列機に、戦果を訪ねる。

「今んとこ1機づつですな」

2番機の熟練搭乗員が、陽気に言った。

「わかった。もう一度突っ込むぞ!」

彼はそう合図を送り、再び戦場へと急降下で舞い降りていった。


「不甲斐なさすぎるぞ全く!」

味方の不甲斐なさに腹を立て、大声で怒鳴ったのはロールド少尉だ。

彼は3機の列機を率い、敵戦闘機隊と対峙していた。

だが、その後の乱戦によって1機を、ジークによって落とされていた。

「落ち着いてください」

列機の2番機の搭乗員が、そう言ってなだめてくる。

「わかってるよ」

彼は、ぶっきら棒にそう答えると、視線を眼下に移す。

なんで倍近くの戦力でぶつかってるのに、互角の戦いしかできないんだ!

彼は歯噛みしながら、そう思った。

現状、66機いたはずの「エンタープライズ」戦闘機隊は、50機程度にまで数を減らしているようだ。

相手が互角の数ならば、それもうなずける。

だが敵はほぼ半数しかいないのだ。

敵攻撃隊全体の戦闘機数は、おおよそ互角だがその半数がケイトの直掩についているのだ。

そのため、まず突っ込んできた半数を数の差で葬ってから、ケイトやその直掩にかかればよかったはずだ。

しかし、今は自分達の半数のジークに、ほとんど全機いや、全機と言っても過言ではない数のワイルドキャットが、拘束されていた。

確かに戦いの渦中から、抜け出したワイルドキャットもいたが、単独でケイトに突っ込むほどの勇気を持つものはいなかった。

なんせ敵はケイトの護衛に30機近い、ジークを当てているからだ。

単機や単一小隊で突っ込んでも、即座に殲滅されてしまうのが、目に見えていた。

敵は、数は少なく機体自体の性能はワイルドキャットと同等だが、熟練操縦員が多いようだ。

こちらは、平時は徴兵制をとってないため熟練搭乗員が、さほど多くない。

戦争を経験していないという点では、敵も同様のはずだが、訓練期間の差が大きく現れているようだ。

特に日本軍は、機械力より人力に頼る傾向が多いようだから、その辺もあるのかもしれない。

搭乗員の質が同じだったならば、純粋に数の勝負になっていただろう。

そうなっていれば、ケイトに取り付けていたかもしれない。

だが、大きな搭乗員の質の差が、戦場を支配していた。

「行くぞ」

彼は、あまり気張らずにいった。

それと同時にワイルドキャットが、旋回ジークめがけて進路を変更する。

ワイルドキャットが、500キロオーバーの速度でジークに突っ込んでいく。

行けるか?

ロールド少尉は、そう思った。

しかし、敵はそこまで甘くなかった。

あと少しという所で、気付かれたのだ。

その瞬間敵機は、くるりと垂直旋回に入った。

「畜生が!」

彼はそう叫びながら、敵機に続いて垂直旋回にはいる。

彼が操縦桿を手前に引くと同時に、ワイルドキャットの機首が上を向く。

視界の天地が、逆転していく。

頭が下を向き、血液が遠心力によって脚側に、押さえつけられる。

だが、この程度でへこたれるわけにはいかない。

敵機の機影の大きさは、変わらない。

全力を出していないかルーキーかのどっちかだろう。

彼はワイルドキャットに出来る、極限の機動でジークを追跡していく。

どんどん旋回半径が、小さくなっていくが彼は失速しない程度の、減速によってジークの動きについていく。

いつ失速するかもしれない恐怖で、冷や汗が噴出する。

操縦桿を握る手が、Gや重みに耐えんとして震える。

まずい、もうこれ以上は減速できん!

彼がそう呟いた時、ジークが上昇に移った。

忍耐力の限界に達したのだろう。

彼は、敵との忍耐勝負に打ち勝ったのだ。

さらに敵が、ルーキーだろうということも、推測できた。

ロールド少尉は、即座にジークを逃さぬ為上昇に入る。

凄まじい速さで、海面が遠ざかっていく。

だが、徐々にジークとの差が広がっていく。

どうやら上昇速度でも、ワイルドキャットをジークは上回っているようだ。

彼の口から、舌打ちが漏れる。

第28話完

休載期間長くなりました

正月あたりは遅くなるかもです

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