第21話トラック沖海戦 「インディアナ」沈没
ついに・・です
その瞬間、艦橋内にいた者は皆吹き飛ばされた。
直撃弾炸裂の閃光が、艦首の第一第二砲塔があったあたりで、煌めいた。
「大和」の放った、46センチ砲弾が再び「インディアナ」に襲いかかったのだ。
だが、「インディアナ」は屈しない。
こうなってもなお、後部の3門の主砲を敵艦に向け放つ。
だが艦が傾斜してる為、殆ど見当はずれの海面に虚しく、水柱を打ち立てるだけだ。
それを見て、「インディアナ」に完全に止めをさす為か、敵艦はこれでもかと撃ってくる。
メリル艦長は、絶望に囚われた。
先ほど旗艦の「サウスダコタ」を、大破に追い込んだ敵が、今度は執拗なまでに「インディアナ」に向け射撃を続行している。
それはすなわち、自艦隊が敗北への道を少なくとも、アメリカ艦隊に対し、圧倒的な優位を確信したのではないか。
そこまで思い至った時、さらなる報告が入った。
それはほとんど同時に「ニューメキシコ」そして、「ミシシッピ」から届いた。
(我雷撃を受けく。航行不能傾斜大。総員退艦は時間の問題)
という殆ど、同じ電文だった。
これで、傾斜しほとんど戦力になっていない、「インディアナ」を含め、7隻が撃沈破されてしまったのだ。
しかもそのうちの、3隻は既に太平洋の洋上に姿を見ることはできない。
いや、旗艦の「サウスダコタ」以外で被害を受けた艦は、もう帰還出来ないことが確実と言ってよかった。
「第三砲塔、早く当てろ!ここまできたら、1発でも命中させるんだ!」
そうメリル艦長が、己を鼓舞するためか、絶叫した。
しかし、第三砲塔が射弾を放つより速く、敵弾が「インディアナ」の周囲に着弾した。
しかし、幸運の女神が味方したのか、被弾の激震に艦が揺さぶられる事はなかった。
そして、本来は砲術長の仕事なのだが次のメリル艦長が「撃てっ!」
と短く、命令した。
そしてメリル艦長の渾身の叫びとともに放たれた砲弾が、敵艦めがけ飛翔していく。
そして、その根性は実った。
ある程度時間が経った時、敵艦の艦上に橙色の閃光が煌めいたのだ。
しかし、敵艦はそんな物はかすり傷にすぎないとでも言いたげに、恐らく止めのつもりであろう、射弾を放った発射炎が煌めいた。
主砲が砲弾を射撃するときに使用する装薬の量は、半端な量ではない。
その為、夜間ならば相当な明かりを提供することにもなるのだ。
そして、敵弾の飛翔音が近ずいてくる。
レーダー室からは、「初めて敵弾を探知しました」
と意気軒昂な報告が届いていたが、そんな事を気にかけるほど余裕はなかった。
そして、それが最大に達した時「インディアナ」は、かって経験したことのない激震に、艦全体が襲われた。
「くっ!」
メリル艦長が、衝撃によって壁に叩きつけられ、悲鳴を上げる。
それだけでは無い。
艦内至る所で、強かに壁に叩きつけられる、乗員が続発した。
「インディアナ」に命中した敵弾は、運悪く艦が傾斜していたために、煙路にまともに飛び込み、罐室で炸裂した。
それによって、艦中央部から衝撃が一気に広まったのだ。
この一撃で、「インディアナ」は航行機能を、ほとんど喪失した。
一気に、ボイラーからタービンに届けられる、蒸気量が低下し、スクリューの回転数が落ちていく。
惰性で艦が動いているものの、出せて5ノットだという報告が、機関長から届いていた。
「艦長、決断してください!」
「インディアナ」副長の、モーリシャス中佐が、言った。
「分かってる」
艦長は、短くそう言った。
それから、手慣れた手つきで艦内放送の設定を行い、乗員に向けて言った。
「総員退艦せよ。総員退艦せよ。本艦は敵戦艦との砲戦に敗れ、重大な損傷を被った。皆艦に未練があるとは思う。しかしもう艦がいつ沈んでも、おかしくない状況にある。よって総員退艦せよ」
そうメリル艦長へ、一気にいった。
その放送には、彼の無念が込められているのがよく分かった。
その頃になると、敵戦艦からの砲撃が、止んでいた。
もう「インディアナ」にとどめを刺したと、判断したのだろう。
そして、放送から5分が経った頃には、甲板上は乗員でごった返していた。
主に右舷側から飛び込んでいく。
時たま、左舷側から飛び込んでいく者も居るが、運悪く弦側に開けられた破孔に吸い込まれてしまうものが、かなりの割合で出た。
その脱出行は艦が致命的な損害を受けてから、20分ほど続いた。
その間艦は、奇跡的に傾斜をほとんど増大させずに、乗員たちの脱出を見守っていた。
そして、メリル艦長が退艦する時がやって来た。
艦橋内以外に、逃げ遅れた乗員がいない事を確かめた後、艦上層部の面々と共に、甲板に向かった。
メリル艦長は、最上甲板に立ち、脱出用のカッターに乗り込み寸前、振り返った。
彼の目には、光るものがあったという。
さらばだ、俺の艦。
彼はそう心の中で、呟いてからカッターに乗り込んだ。
かれは、カッターに乗り込んだ後も、寂しげな表情で、「インディアナ」を見つめ続けた。
そして殆どの乗員が、沈没により起こる渦から、逃れ得る位置に到達した時、艦の傾斜が一気に強まった。
今まで、乗員が避難するのを見守っていたようでもあった。
そして、「インディアナ」は左に傾斜を増大させつつ、沈んでいった。
それは、とても静かなものであり、アメリカ合衆国海軍最新鋭戦艦にふさわしい、威厳に満ちた物だった。
そしてメリル艦長は、「インディアナ」の姿が見えなくなる、寸前敬礼し艦が沈みきるまでずっと続けていたという。
「くっ」
艦が見えなくなったと同時に、メリル艦長が嗚咽を漏らした。
そしていつしか、周囲の海面を「インディアナ」乗員にいる嗚咽画、覆った。
それは、決して大きな声では無かったが、乗員の艦に対する愛情が、こもっていた。
彼らは無事、海戦を生き残った駆逐艦に救助されることになるが、それはまだのちの話である。
「インディアナ」沈没の報告は、ハルゼー長官乗り込みの旗艦、「サウスダコタ」に届いていた。
それを聞いた瞬間、ハルゼー長官は「ここまでやられるとはな」とつぶやいたという。
「サウスダコタ」は、なんとか沈没の危機を脱していた。
「長官、如何しますか?」
トーマスギャッチ艦長が、そう聞いて。
ここでの如何しますかは、撤退か否かでしかない。
それを聞いた、ハルゼー長官は少し考え込んだ。
「敵戦艦、傾斜落伍します!」
見張り員が、喜びを前面に押し出して言った。
その瞬間、艦橋内をどっと歓声が包んだ。
「これで2隻目です」
「大和」艦長松田千秋大佐が、言った。
「よくやった、やはり「大和」は凄いな」
そう、感嘆の表情を浮かべつつ言ったのは、一艦隊司令官高須四郎中将である。
「その代わり、被害も凄まじいものが有りましたが」
そう松田艦長が右舷側の甲板を、見やりながら言った。
彼の視界には、もともと何が有ったのか分からないほど、平坦にしかし表面は木材が荒れている、最上甲板があった。
「だが、今は敵の方が被害は大きい。幸い大型艦の損失は「日向」だけに止まったからな」
結局、艦上を猛火が覆った「日向」を救うことはできなかった。
「大和」が2隻目の戦艦との砲戦を交わしている頃、自沈命令が発令され、総員退艦していたのだ。
「日向」はまだ機関は、無事な区画も多く残っており、自力航行も可能だったが、消火不能と判断されたのだ。
その頃には、砲戦は一気に収束へと向かっていた。
日本側が確認しただけでも、5隻の敵戦艦を撃沈したのだ。
他にも大破している艦もある。
そこまでの損害を被ってまで、砲戦を続行する意思は無いようだった。
「敵艦隊を追撃せよ!」
旗艦「大和」艦橋で、高須長官が力強く命令を下した。
今回は、損害が少ない艦のみが追撃に参加するようにとの命令も、追加されて各艦に伝えられた。
「面舵いっぱい!」
「大和」艦橋に松田艦長の、力強い声が響いた。
「面舵いっぱいよーそろー」
航海員が、すぐに復唱を返し舵輪を回す。
その様子を、高須長官は頼もしい部下を持ったものだと、思いながら見つめていた。
「大和」の巨体は直ぐには、転舵を開始しない。
だが、一度回り始めるといかなる戦艦にも負けない、小半径で転舵を行う。
「「加賀」「長門」「山城」「金剛」転舵します!」
後部見張り員が、そう告げた。
日本海軍第一艦隊は、敵艦隊にとどめを刺すべく、5隻の戦艦を持って追撃戦に移ったのだ。
敵艦に残された戦艦は、おおよそ6隻。
しかし、存分に砲戦を交わせる状態の艦は、ほとんど無い。
殆どの敵戦艦を撃沈出来るだろうと、艦長を始めとした面々は疑っていなかったが、ここで敵巡洋艦や駆逐艦が突撃をかけてきた。
「魚雷を放たれると厄介です!」
艦長はそう長官に言いつつ、応戦命令を出した。
幸いにも、「大和」は回頭を終えていた為、無傷の左舷側を敵駆逐艦に向けることが出来た。
「打ち方始め!」
の命令が、副砲長から発せられた。
それと同時に、「大和」に唯一残された15、5センチ三連装砲塔が敵巡洋艦に向け、射撃を開始した。
それにやや遅れて、9門の主砲が重巡と思われる目標に対し、轟然と射撃を開始する。
同様の光景が各戦艦で、発生していた。
アメリカ艦隊は、残る巡洋艦全てと駆逐艦の大半を、迎撃に当ててきたのだ。
駆逐艦程度の軽艦艇に対処する為、三水戦の14隻と第六駆逐隊の、4隻が戦艦たちを護らんと、間に割って入ってくる。
だが、日本側の攻撃は熾烈を極めた。
「大和」をはじめとする、戦艦たちは主砲はもちろん副砲、高角砲を持って敵艦に射弾を次々と浴びせていたのだ。
特に12、7センチ高角砲は、対駆逐艦戦闘で役に立った。
圧倒的な速射力を持って、一気に敵駆逐艦を浮かべる鉄塊に、変えていったのだ。
「しつこい!」
「大和」艦橋では、なかなか引かない巡洋艦や駆逐艦に対し、松田艦長が怨嗟の声を上げていた。
やっても、しつこく食らいついてくるのだ。
その頃、一艦隊の中でも不遇をかこっている、艦があった。
十戦隊の「大井」「北上」の2隻である。
この2隻は、重雷装艦と呼ばれている。
言葉から分かる通り、雷撃力を徹底的にあげた艦である。
そう、61センチ4連装魚雷発射管10基を5基づつ、両舷に分けて装備している。
その為、甲板上はほとんどが魚雷によって覆い尽くされている。
その結果、「大井」「北上」の両艦は被弾に極端に、弱くなっていた。
もし機銃弾が1発でも発射管に命中すれば、その瞬間誘爆を起こし轟沈しかねないのだ。
だから、一艦隊司令部は海戦開始時戦艦列の後方に配置していた。
しかし、激しい砲撃戦の最中に飛び込むのは、ただの無謀な行為と言えた。
その為、戦機を逃していたのだ。
現在も重雷装艦にとっては、とてもでは無いが突撃できる体制にない。
なんせ中小艦艇、がひしめいているのだ。
それによる流れ弾によって、やられないということを誰が言えなかった。
その為現在に至るまで、その2隻は戦艦列の後方で待機していたのだ。
しかし、いつ突撃させるか、タイミングがつかめないまま、戦艦だけでなく軽艦艇も乱入してきたため、完全に突撃の時期を逃してしまったのだ。
「司令官はこれで良いんですか!?」
第九戦隊旗艦「北上」の、艦橋で司令官岸福治少将に、食ってかかるように叫んだのは、「北上」艦長荒木伝大佐である。
「仕方ないだろう。それに本戦隊の弱点は貴官が、一番よく分かってるだろう?」
「ですが、それでも活躍の機会を与えられないのは、おかしいと思います。そもそも本艦は、敵艦隊を追撃し撃滅するために、改装されてのです¥
「だが、今は乱戦下だ。どうやって無傷で、射点まで行くつもりだ?」
「それは・・」
荒木艦長が、言葉を詰まらせる。
「どうしようも無い。そうだろ」
岸長官が、とどめを刺すように言った。
「次こそは、活躍の場を・・」
荒木艦長が、絞り出すように言った。
「ああ、できる限りそうするつもりだ」
岸長官が、そう冷静に言った。
「それに我が国は、艦を無為に失うわけには行かないのだ・・・」
続けて岸長官が、小さな声でそう言った。
その言葉には、どこか寂しげな響きがあった。
そして、追撃戦が始まってから、数十分が経った頃ようやく、長かった艦隊戦に終止符が打たれた。
旗艦「大和」が、(集まれ)の信号旗を掲げ、無電を放ったのだ。
「ここまでだな」
殆どの副砲を失った、「大和」艦橋で高須長官が、そう呟いた。
それにしても、「大和」は凄まじい損害を被った。
今までの艦なら少なくとも、大破と判定される、損害を受けていただろう。
しかし「大和」は、そんな事を感じさせず、どっしりと浮かんでいる。
その姿は、まさに海の王者であった。
第21話完
砲戦がほぼ終わりました
長かった・・
さてここまできたので、裏話を暴露しましょう
この時書き始めてから、少しの間大和第一艦隊に居なかったんです(ガクガクブルブル)
で進んでから、勝てねえなと
やっぱ、大和出して数合わせと無双してもらわないと、勝てんぞと(Σ(・□・;))
てなわけで、こうなりました
いやあ水雷戦隊が、予想以上に活躍しました
最近は毎日2500は書くのが、日課になってます
てか1話5000字縛りの為、何できるの?で終わった話もあったかも
皆さんはどうですか?
ここまでで1時間経ってないかもです
トラック沖海戦始まってから
なんでこうなった
そして今日はまだ続きます
最低でも30話までは引っ張られると思います
感想お待ちしてます