第19話トラック沖海戦 加賀型シスターズの共闘
今回は加賀
「土佐」は、第三砲塔を破壊されたが、敵艦に対し射撃を続けている。
「「加賀」が応援に来たんだ、無様な真似は、許さんぞ!」
「扶桑」が、「カリフォルニア」を撃沈する少し前、「土佐」艦橋で艦長長岡青磁大佐が、(「加賀」は「土佐」の応援に迎え。敵二番艦は「大和」が相手取る。)との、旗艦「大和」よりの電文を読み、言った。
「加賀」と「土佐」は第一艦隊第十一戦隊を、「長門」「陸奥」と共に構成する、誉れ高き戦艦である。
特に帝国海軍最新鋭にして、41センチ|《16インチ》砲を世界で唯一10門搭載する、「加賀」と「土佐」は長い間、帝国海軍を代表する戦艦として、国民から長い間愛されてきたのだ。
今でこそ、帝国海軍最新鋭、最強の艦の座は「大和」に譲って居たが、第一線の戦力を持つ有力な戦艦であった。
だからこそ、無様な戦いは出来ない。
戦闘開始前、艦長は艦内放送による訓示にて、「我が艦が無様な戦いを見せることはできない」と言って、乗員を鼓舞していた。
その一言によって、「土佐」乗員は士気を大いに高め、まさにやる気に満ちていた。
だが、砲戦の女神は彼等には微笑まなかった。
むしろ「土佐」の相手である、アメリカ合衆国新鋭戦艦「ノースカロライナ」にそれは微笑んだ。
結果「土佐」は、夾叉こそ敵艦と殆ど変わらずに得たが、砲戦の流れは常に敵艦に握られていた。
先に命中弾を、食らったのも「土佐」であった。
「土佐」も、喰らった直後の斉射で命中弾をだすことに成功したが、流れを引き寄せるには至らなかった。
常に敵艦の方が、多く命中弾を「土佐」に与えて来たのだ。
誰かが言ったことに、帝国海軍の戦艦の命中率は3倍と言うのがある。
だが、それもあくまで訓練の話であった。
実践になればどうなるかは、分からないのだ。
それにいくら精度が良くても、命中弾を出さなければ意味がない。
「土佐」は、確かに撒布界精度においては、敵艦を上回っていた。
だが運命のいたずらか、徹底的に命中弾がなかなか出なかったのだ。
それには、長岡艦長も何も言えなかった。
何せ観測機からは常に、最低でも「近6遠4」の報告が入ってきたから、精度が悪いわけではないことが、分かっていたからだ。
それに対し敵の射弾は、至近弾こそ少ないが、確実に「土佐」を捉えてきたのだ。
これはもう、運が無いにもほどがあったと言えるだろう。
その結果、砲戦開始から十五斉射を迎える頃には、乗員の士気が、ガタガタに落ちてしまっていたのだ。
しかし、「大和」が敵一番艦を撃沈したことによって、その悪い流れが断ち切られた。
いや正確には、乗員の士気が戻ったと言えるだろう。
先ほども出した「大和」からの「加賀」は「土佐」の応援に迎え。敵二番艦は「大和」が相手取る。」の電文によって、姉妹艦の「加賀」が、「土佐」と同目標に目標を変更したのだ。
「加賀」が相手をしていた艦には、「大和」が砲門を向け、射撃を始めている。
その「加賀」の援軍が、「土佐」乗員の下りきった士気を、奮い立たせ「加賀」に負けるなとばかりに、盛り上がったのだ。
だが、いかんせん第三砲塔を爆砕されている為、一気に戦況を覆すには至らなかった。
だが、「加賀」が共に砲門を開き始めてから、状況は一気に好転した。
「土佐」自身が「加賀」に負けたくないとばかりに、命中弾が一気に増えたのだ。
「いいぞ、この調子で一気に片を付けろ!」
長岡艦長が、そう砲術長に行った。
艦長は内心、最初からこの調子なら、とっくにやれていたなと思ったが、それを口に滑らせるほど、愚かでは無かった。
それを言ってしまったが最後、艦長としての信用を、無くしてしまうことが分かりきっていたのだ。
部下が調子を上げてきたのに、水を差すようなことを自ら言っては、指揮官失格であろう。
その事をしっかり、肝に命じていたのだ。
「土佐」が射撃を行うと同時に、爆風が艦上を席巻し、爆圧が艦橋の窓を震わす。
さらにそれに伴う衝撃が、長岡艦長を始めとする艦橋要員に襲いかかる。
砲戦開始時に比べれば、幾分和らいだ物だ。
それでも、長門型と同等の砲数がまだ残っている。
そのため、未だに多大な衝撃を艦橋要員に与え続けている。
発砲と同時に、第一第二砲塔の砲口から、砲煙がたなびく。
それは、ほんの僅かな時間だが艦橋の視界を遮る。
だがそれも一瞬のことで、次の瞬間には目標としている敵艦が見えてくる。
敵艦もほぼ同じタイミングで、砲弾を打ち出したらしく、砲煙が僅かながらも観測できる。
だが先に着弾したのは、「加賀」が放った交互打ち方の5発であった。
それが、命中弾を出すことはなかった。
その5発が立てた水柱を敵艦が、通り抜ける頃「土佐」の放った斉射弾が、敵艦に襲いかかる。
「命中2!」
見張り所に立つ見張り員から、報告が入る。
その瞬間は、艦橋からも観測できた。
敵艦の前部と中央部に、発砲と異なる閃光が踊ったのだ。
だが、敵艦が弱った様子を見せることはない。
さすが「大和」の射弾に、長時間耐えた艦の同型艦と言える、抗堪性である。
(日本側は、艦型がにてる為ノースカロライナ級とサウスダコタ級の区別がまだ付いていない)
おそらく、左舷側に設置されている高角砲や機銃は、すべて吹き飛ばされていることだろう。
だが9門の主砲は、変わらずに1トン近い鉄塊を打ち出している。
やはり主砲の装甲は、かなり厚い。
だが、「土佐」も相次ぐ被弾に竣工後15年を経ようとしている艦体を、軋ませ悲鳴を上げつつも耐えている。
被害が最上甲板に集中してる為に、浸水が無いのが、現在のところ救いであった。
そして、敵艦の放った射弾が「土佐」の周囲の海水を、噴水さながらに吹き上げる。
硝煙の臭いを含んだ噴水だ。
そして「土佐」は前方に発生した、水柱に臆する気配も見せずに、突入する。
それは、一番砲塔の前方に広がっていた、若干の残骸を綺麗さっぱり海へと押し流す。
後には、千切れた鋼板の断片が露出しているだけだ。
そして、その衝撃は決して小さなものではない。
被弾の時と同じように、艦体を軋ませる。
だがそんな物には動じないのが、戦艦である。
弦側に貼られた厚い、装甲板が艦体の歪むを強引にねじ伏せる。
そして、砲弾の装填が終わると共に、それにも劣らない衝撃が、再び艦を襲う。
「ぐっ!」
長岡艦長も、思わず声を出してしまうほどだ。
その反動の元凶である装薬の炸裂によって、砲身からはじき出された砲弾が、敵艦を粉砕すべく蒼空を飛翔していく。
「加賀」一斉打ち方入ります!」
見張り員が言った。
それは長岡艦長も、艦橋からしっかり見ていた。
「土佐」が、被弾により出来なくなった、41センチ砲10門による、一斉打ち方である。
その瞬間、「加賀」周囲の空気が一瞬にして圧縮され、空気を震わせる。
「加賀」の一斉打ち方による殷殷 とした砲声は、数千メートルの海上を超えて、「土佐」にまで届いた。
「やはり、41センチ砲10門の斉射は、凄まじいものがあるな」
その光景を見た、見張り員が独語した。
「負けるなよ!」
「土佐」砲術長が、射撃指揮所に喝を入れる。
それに応えるかのように、「土佐」が放った射弾が、着弾する。
一瞬敵艦が、水柱に覆われて見えなくなる。
だが次に瞬間には、水柱を抜けいまだ健在の勇姿を見せる。
「「土佐」に負けるなよ、砲門数でもこっちが多いんだ、無様な戦いはするんじゃねえぞ!」
「加賀」艦長長野芳樹大佐が、射撃指揮所に向けて言った。
「分かってます!先程よりも早く命中弾を得てみせます!」
そう意気揚々と、伝声管越しに言ったのは、射撃手の平田大尉である。
そして、第一斉射が着弾する。
今までの交互打ち方に、倍する数の水柱が敵艦の周囲に乱立する。
「近4遠6」
命中弾は出なかったが、そこそこの精度と言える。
そして、砲身がその角度のまま装填に入る。
現役の戦艦の中で、固定装填式の装填機構を持っているのは、「大和」のみで残りの全戦艦が、就役後に自由装填式に改装されていた。
大和型の46センチ砲は、重量を軽減する必要や、全高を抑える必要があった為、固定装填式になったのだ。
そして、30秒が経ち「加賀」の艦体を再び、装薬の炸裂による反動が襲いかかる。
「ぐっ!」
しっかり身構えていなかった物には、そう苦悶の喚きを漏らす者も出てしまう。
「加賀」と「土佐」は一生でもう無いかもしれない、同一目標に向けて、射撃を行っているのだ。
「着弾・・今!」
計測員の声が、響くとともに敵艦の周囲に長大な、水柱が吹き登る。
それは丁度「土佐」の水柱が、崩れ落ちた直後だった。
しかし、そんな物は無いと言いたげに、敵艦は射弾を「土佐」目掛け放つ。
「加賀」は狙われていないものの、いつ「土佐」が落伍するか分かったものではない。
何より敵が、目標を「加賀」に突如として変えることも、十分考えられる。
「土佐」の周囲に、敵艦による9本の水柱が、「加賀」から隠すように立ち上る。
後部見張り員も、束の間「土佐」の姿を見失う。
経験が浅いものには、「土佐」がやられたと、呆然と何も言えずに立ち竦んでいる、者もいた。
だが、十秒も立たないうちに「土佐」が、健在な姿を見せる。
そして、負けじと「土佐」が8門に減った、主砲をぶっ放す。
そのさらに後方では、「長門」「陸奥」の2隻も、41センチの射弾を、敵艦を打ちのめす為に放っている。
そして、「着弾・・・・今!」
の合図が、計測員によって「土佐」艦橋に入るとともに、水柱が立ち上る。
それを見る限り、「土佐」が未だ強大な戦力を保持していることが、見て取れた。
「命中1」
「加賀」見張り員が、姉妹艦の戦果を報告する。
その声は、まるで自分の乗艦が、その戦果を挙げたかのように、高揚していた。
そして、その報告が終わる頃に「加賀」が、新たなる射弾を放っている。
2隻の加賀型戦艦から、集中砲火を受けている、敵艦は怯んだ様子を微塵と感じさせずに、射弾を撃ち放ってくる。
それが、再び「土佐」を捉える。
その瞬間、今までに倍する衝撃が艦を襲った。
長岡艦長は、何か重要な設備が破壊されたと悟った。
そしてそれは当たっていた。
「第五砲塔被弾!第五砲塔射撃不能!」
の報告が、砲術より入ったのだ。
「っく!」
誰かが、そう叫ぶ。
「やられたか!」
長岡艦長の、怒号が艦橋内に響き渡る。
それは、どうやったらそんなに出せるのかと、皆に思わせるほど大きかった。
第三砲塔が、破壊された時もそんなでは無かった。
それほど、悔しかったのだろう。
この被弾によって、「土佐」は使える主砲塔が、わずか3基6門にまで減ってしまった。
すなわち砲戦開始時の3/5に減ってしまったのだ。
それでも、「土佐」が有力な艦であることに変わりはない。
何より、まだ航行に影響が無いのだ。
「「加賀」がやられました!」
後部見張り員が、そう悲痛な声で報告を入れた。
「詳しく言え」
艦長が、重々しく反論を許さない口調で言った。
「はっ新たに砲塔が破壊された模様です。砲身が吹き飛ぶのを視認しました」
艦長からの詰問を受けた彼は、ベテランらしく動じた様子も見せずに答えた。
実際は、冷や汗をかなり書いていたが。
「そうか・・」
そう言って、長野艦長はだんまりと思考に移った。
こうなってしまうと、結論が出るか余程のことがない限り、話しかけても反応しなくなる。
だが、艦橋要員達にしてみれば、慣れたものであり、問題視するようなものは存在しなかった。
また、艦長の思考を邪魔するような無粋な者も、いなかった。
その間にも、「加賀」は新たなる射弾を、10門の主砲から撃ち放っている。
それには、「土佐」をやられた恨みが、乗り移ったようであった。
その、「加賀」の放った怒りの、射弾が敵艦を捉える。
「命中1!」
敵艦の中央に、射撃とは異なる爆煙が踊った。
だが、水平装甲を破るには至らず、敵艦の左舷側を綺麗に整地したにとどまった。
これまでの被弾によって、蓄積されていた残骸を一気に吹き飛ばしたのだ。
それに送れるように「土佐」が、6門に減って主砲を放つ。
その「土佐」に、萎縮した様子は全く見えない。
むしろ、第三第四砲塔の復讐を、成し遂げんとしているようにも見えた。
そして、再び敵弾の吹き上げる水柱が、「土佐」を包む。
だが、今回は被弾しなかった。
そして「土佐」が、水柱の洗礼を抜け出す頃「加賀」が、新たなる斉射を放つ。
姉妹艦同士、打ち合わせたかのような、連携であった。
射撃のタイミングが、程よくずれることで敵艦に息をつかせぬ圧迫を、加えていたのだ。
だが、その鬱憤を弾き飛ばすように、敵艦が9発の16インチ弾を「土佐」目掛けて、打ち出す。
だが、「土佐」は再び被弾し無かった。
先ほどまでの不運が、一気に清算されているようであった。
第19話完
てなことになりました
やっぱ加賀型良いなあ
フジミ信濃まだかな?
感想お待ちしてます