第18話トラック沖海戦 「扶桑」の死闘
今回は扶桑回です
「扶桑」は、米戦艦に命中弾を出すも、致命傷は負わせられない。
「やはり、頑丈だな」
木下艦長が、つぶやいた。
それに合わせるかのように、さらなる鉄塊を撃ち放つ。
その瞬間、「扶桑」を強烈な爆風が襲う。
だが、第三砲塔が破壊されている為、艦橋に伝わる衝撃も少なくなっている。
それに伴い、航跡が乱れる。
斉射の衝撃によって、艦が若干後ろに押されるのだ。
だが、4本のスクリューはそれに動じる様子もせず、「扶桑」を推進させる。
航行に伴い、「扶桑」の後方が白く染められる。
「なにっ!」
艦橋内にいた、ほとんど全員がそう叫んだ。
「扶桑」の艦橋が、今までにないほどの衝撃に襲われたのだ。
「どこだ!」
いち早く立ち直った、1人が言った。
「艦橋下部に、被弾しました」
後部指揮所から、早くも報告が届いてくる。
「扶桑」はその細長い、艦橋の基部に被弾したのだ。
だが、支柱に被害が及ばなかった為、艦橋がぐらつくことは無かった。
「扶桑」はそのトレードマークと言ってもいい、艦橋をそびえ立たせている。
それに怒りをたぎらせたかのように、射弾を放つ。
甲板下の、弾薬庫では36センチ砲弾が、運搬され釣瓶式の給弾装置によって、砲尾に運ばれていく。
金剛型などと同様の、自由装填方式に改められた、装填装置が砲弾を、砲身に詰め込んでいく。
それに続いて、装薬が詰め込まれる。
そして、尾栓が閉められ、射撃が行われる。
一弾一弾確実に、「扶桑」は敵艦に向けて、射弾を放っていく。
「命中1」
再び、見張り員からの報告が、入る。
だが、敵艦の主砲に被害を与えるには、至らない。
それに対して、「扶桑」も砲塔に被害を被らない。
「くっ」
再び「扶桑」が、被弾した。
今度は、艦首に炸裂の閃光が、輝く。
だが、浅く当たったことや、艦首から離れていたこともあり、被害は若干の浸水にとどまった。
もしもっと、前部に当たっていたならば、艦首を破壊され戦線を離脱する羽目に、陥っていただろう。
「一水戦、敵直掩駆逐隊と交戦中」
見張り員から、報告が入る。
それも、敵弾の着弾で打ち消されてしまいそうだ。
敵艦からの、砲弾は「扶桑」を確実に包んでいる。
「カリフォルニア」を「扶桑」の射弾が捉えているのと同様に、「カリフォルニア」の射弾は「扶桑」を捉えている。
この日何度目かの斉射を「扶桑」が放つ。
「「山城」直撃弾出しました」
見張り員から、姉妹艦の戦果が届いてくる。
竣工後20年を経た艨艟同士が、20ノット前後の速力で、主砲を打ち合う。
「今度はどこだ!」
後部から襲ってきた、被弾の衝撃に木下艦長が叫ぶ。
すでに、第三砲塔を破壊されている身である。
敵艦の主砲を一基破壊したとは言え、「扶桑」が優位に立ったわけではない。
「飛行甲板に再び被弾!大破です」
後部見張り員が、そう報告してくる。
「扶桑」の飛行甲板は、余程ついていないのか、集中的に被弾しているようだ。
だが、運がいいのか装甲は破られていない。
報告が終わると同時に、「扶桑」に残された10門の主砲が、砲弾を敵艦めがけ撃ち放つ。
その頃には、日本側優位がかなり確実になってきていた。
まだ、撃沈した艦は「コロラド」「アイダホ」しかないが、命中弾数で、優位に立っていた。
また、「サウスダコタ」も戦線を離脱している。
敵艦の周囲に、日本戦艦が放つ砲弾の水柱が、乱立している。
それに半比例するように、日本戦艦の周囲に立つ水柱の数は、減少していた。
だが、「扶桑」はそんな状況とは関係なく、敵艦と死闘を演じている。
再び、至近弾炸裂の衝撃が、「扶桑」を襲う。
それと同時に、敵八番艦の周囲にも「扶桑」の放った、射弾が着弾する。
今度は、どちらの放った射弾も命中しない。
ただ虚しく、水柱を吹き上げただけだ。
海水に、硝煙の匂いが染み付いていく。
「扶桑」の艦上にも、硝煙の混じった海水が、降りかかる。
飛行甲板に散乱していた、あらゆる残骸も残らず流されていく。
後に残るのは、千切れた鋼板や露出した補強部材、ぐらいしかない。
そして、艦体が海水の洗礼から脱するころ、主砲が火を噴く。
それは、敵艦にしたところで同じである。
射撃指揮所には、零式観測機からの報告が入ってきていた。
「今の着弾近6微遠2遠2」、と前回の射撃の結果が入電している。
これも、母艦航空隊の零式戦闘機が、敵戦闘機撃退したからできることだ。
今はいつ敵の戦闘機が、出現しても大丈夫なよう、3機の零式戦闘機が、零式観測機の直掩を行っている。
零式観測機は、敵艦の上空を旋回しながら、着弾観測の任に当たっている。
地味ながら重要な任務である。
確かに精度のいい観測は難しいが、離れているか近いか、艦を飛び越えたか、手前に落ちたかは分かる。
それを元に、調整を繰り返すのだ。
だが現在は、すでに斉射に移っている為、よっぽど精度が悪くない限り、調整を行うことはない。
そして、機上から見る限り「扶桑」の射撃精度は、悪くなかった。
それに、一、二斉射に1発は、命中弾を出しているようだ。
もっとも「扶桑」も、あまり変わらない数被弾している。
「しっかりやってくれよ。ここで負けるわけには、行かないんだからなあ」
機長が、ぼそりと呟く。
彼の目には、どうしても、「大和」や「伊勢」のように敵艦を、撃沈破した艦が派手に映っており、陰が薄いと思っていた。
だが、ぼやいたように第一艦隊が、負けるとは思っていない。
なぜならすでに、3隻の敵艦が戦列を離れて居るのだ。
すでに、2隻が1隻に対し集中砲火を浴びせている光景も、何箇所かで見える。
それと比べてしまうと、どうしても「扶桑」の影が薄くなってしまう。
そんなことに拘泥しても、意味が無いとは分かっているが、思わないではいられなかった。
そんな事を思っている間にも、「扶桑」の主砲の先から火がほとばしるのが見えた。
「見落とすなよ〜」
陽気に機長は、観測員と電信員に言う。
主に、着弾観測を行うのは、機長と観測員だが、見る目が大いに越したことはない。
「そろそろだな」
「扶桑」が、36センチ砲弾を放ってから、ある程度時間が経った頃、機長が言った。
今までも何度となく、繰り返されてきた台詞である。
「きたか!」
機長は、そう言った。
そう寸秒前に、着弾による水柱が吹き登ったのだ。
「行ったぞ!」
再び機長が言った。
だがその口調は、先ほどまでのように冷静なものではなく、子供が宝物を見つけた時のような、興奮したものだった。
「機長!「扶桑」がまたやりましたね」
観測員も、若干遅れて言う。
声音は、機長のそれと大差ない。
「扶桑」の放った射弾が、敵艦の砲塔を再び吹き飛ばしたのだ。
これで敵艦に残っているのは、第一第四砲塔のみである。
敵艦に残された主砲は、僅か6門。
砲戦開始時の半数である。
だが、砲身の基部に当たっただけらしく、煙が湧いてくることはない。
だがここで、電信員から悲痛な叫びが届いた。
「扶桑がやられました!」
「何!」
ほとんど同時に、機長と観測員が叫んだ。
「どこだ!」
若干の静寂ののち、我に帰った機長が、電信員に聞いた。
だが、零式観測機の挙動が乱れていないのは、さすがと言えるだろう。
「恐らく第四砲塔です」
「まずいな」
機長は電信員の報告を聞いて、そう返していた。
下手をすれば機関に、被害が及んだかもしれないそう思ったのだ。
だが「扶桑」の身を案ずるよりも、弾着観測に結果を打電するのが、先だと思い直した機長は、「(直撃1敵砲塔を破壊せり。遠3近6)打電しろ!」
と電信員に命じた。
「(直撃1敵砲塔を破壊せり。遠3近6)打電します!」
即座に電信員から、復唱が帰ってくる。
それと同時に、トンツーとモールス信号の打電音が、機内に響いてくる。
「打電完了しました」
平文での通信の為、すぐに送信は完了する。
なぜ平文なのかというと、まず砲戦中に暗号を作成したり、解読に費やされる時間が惜しいことが挙げられる。
暗号解読に手間取って、好機を逃すなんてことが、会ってはならないのだ。
もう一つが、傍受されたとしても問題がないから、という理由もある。
なんせ真正面から砲戦を、かましているのだ、弾着観測のデータを傍受されたと言って、問題はないと判断されている。
そのおかげで、「扶桑」が次の斉射を放つまでには、結果を発信できていた。
「「扶桑」より、無電きました」
電信員が、そう機長に告げた。
「読め」
「少し待ってください、解読中です」
今までは、「扶桑」からの無電も、平文だった。
そのため機長は、何かあったな、と思った。
「損害報告か?」
そう機長は、自問する。
だが、第三砲塔をやられた時は、平文だった。
何があった?
そこまで思考を巡らせたこれ、解読完了を電信員が伝えて来た。
「(「扶桑」は第四砲塔を全壊するも、航行に支障なし)以上です」
そう電信員は、淡々といった。
だがそれで機長は、敵艦を欺瞞しようとしてるのか?と思った。
今まで平文だったのを、いきなり暗号文にすることで、「扶桑」に重大な何かが起こったと、錯覚させようとしたのか?そう思ったのだ。
だが今、それを知る術はない。
「わかった、(了解)と返信しとけ」
それらの考えを、数瞬で終え電信員に、そう命じた。
「了解しました」
すぐにその答えが、電信員から帰ってくる。
その反応の速さには、機長も苦笑いを隠せない。
「打電終わり」
少し経ってから、電信員がそう言う。
「やったか」
木下艦長が、言った。
だがその直後に訪れた、衝撃によって彼は苦悶の表情を浮かべる。
「どこだ!」
艦長が、いち早く立ち直り伝声管に、呼びかける。
「第四砲塔射撃不能、誘爆の危険なし」
射撃指揮所から、即座に返答が帰ってくる。
やはり、砲塔関係では射撃指揮所がいち早く、把握している。
「此方もやられたか」
木下艦長が、ぼそりと言った。
だが「扶桑」は、何事も無かったかのように、射弾を放つ。
だが、それは今までに比べ寂しいものだった。
艦橋に伝わってくる、衝撃も心なしか小さくなった。
「扶桑」が今回放ったのは、8発。
砲戦開始時の2/3でしかない。
「艦長、やはり寂しいですね」
副長が、心底そう思っているのか、言った。
「ああ、だが「扶桑」も敵を追い詰めてる。そう悲観的になる必要はない」
艦長は、若干苦笑いしながら言った。
彼の目には、被弾し煙を吐きながらも、応戦してくる敵艦が映っていた。
「今の事を、暗号で観測機に伝えろ。(「扶桑」は第四砲塔を全壊するも、航行に支障なし)だ」
艦長が思い出したように、言った。
「了解です。しかしなぜそんな事を、やるのですか?」
通信長が、訝しげに聞いた。
「敵を混乱させてやろうと、思っただけだ。それに、この程度解読されても、大したことはないだろうからな」
木下艦長は、そう軽い口調で言った。
「なるほど・・・そうですか」
通信長は、納得できてないですよと言いたげだったが、引っ込んだ。
このやり取りをしてる間にも、「扶桑」は鉄塊を敵艦に投げかける。
射撃による反動こそ小さくなったが、それでも他の艦艇に比べれば、かなり大きい。
射撃のたびに、ずしんと重い衝撃が、体を襲ってくる。
「近5遠3」
見張り員の声が、伝声管を伝って聞こえてくる。
「もう少しだ、押し切れ!」
砲術長が、言った。
「分かってます!」
射撃士官が、即座に返答してくる。
「もう少しで、撃沈出来るはずです!」
興奮した口調で、そう付け加えた。
「扶桑」の艦体が、至近弾炸裂の衝撃で揺さぶられるのも、気付かないようだ。
「後部嘉麻室に、浸水あり!」
機関長から、突然その報告が入った。
「何!」
艦長が、苦虫を潰したように、苦悶の表情を浮かべていった。
「防水急げ!」
ダメージコントロールを任せれている、副長が即座に命じた。
「分かってます!」
それに答える機関長の口調は、切羽詰まったものだった。
「やはりガタが来たか」
艦長が無念そうに、呟いた。
何しろ「扶桑」は竣工してから、20年程度経っているのだ、ガタが来ない方がおかしいだろう。
近代化改装によって、新しくなったとは言え、梁など至る所に老朽化している箇所が、存在する。
その一箇所が、衝撃に耐えきれなくなかったのか、破られたのだろう。
だが、速力が落ちていないところから、被害はそこまで大きくないだろう。
「命中1」
見張り員の報告が、伝声管から伝わって来る。
「扶桑」は、再び命中弾を得たのである。
だが、敵艦も応えた様子はない。
「扶桑」とほぼ同じタイミングで、射弾を放ってくる。
まだ致命傷に繋がるような、損害は受けていないようだ。
「一水戦交戦中です」
再び、報告が入ってくる。
だが、まだ苦戦しているようだ。
再び、「扶桑」の艦体が反動で震える。
「扶桑」はこの日何度目かの、斉射をはなったのだ。
それと同時に、敵艦の艦上にも、発射炎がたなびいている。
「決めてくれ・・」
木下艦長が、思わずそう呟いた時だった。
敵艦の艦上の3箇所から、閃光が煌めいた。
「扶桑」はここに来て、3発の命中弾を得たのだ。
「やったぞ!」
零式観測機の機長が、その瞬間そう叫んでいた。
彼の目にも、今回の命中弾がとどめを刺した感触が、あったのだ。
「敵艦減速します!」
まずその報告を入れてきたのは、艦橋上部に立っている、見張り員だった。
その報告が、伝声管によって艦橋に届くと同時に、艦橋内が歓声に包まれた。
「やったぞ!」
竣工してから、20数年このまま退役すると思われていた、老嬢が敵艦にとどめを刺したのだ。
「敵艦傾斜します!」
今度は、観測機からそう無電が入る。
この時命中したうちの1発が、「カリフォルニア」の外板に亀裂を穿ち、そこから浸水し始めていたのだ。
艦上は、「扶桑」の艦橋から双眼鏡を使わなくても見えるほどの業火に、覆われている。
「敵艦離脱します!」
観測機からの報告が、続けて入る。
もうこれまでと観念し、味方の足を引っ張らないように、艦列から離れるのだろう。
この瞬間、好敵手《ライバル》同士の戦いに、「扶桑」は勝利を収めたのだ。
だが、その死闘をくぐり抜けた「扶桑」の艦体は、まさに満身創痍と呼べるほど、傷ついていた。
「艦長だ、本艦は敵戦艦を撃沈した」
まず艦長がそう言った。
艦長は、少し間を置いて次の言葉を言った。
だがその間に、艦内の興奮は一気に高まっていた。
先ほどの艦橋内での、興奮が規模を大きくして、艦全体で起こっていたのだ。
艦長は、その興奮が冷めるのを待って言った。
「しかし、本艦も多大な損害を受けた。よって本艦は、砲戦から離脱する」
艦長は、無念さを込めてそう言った。
それを聞いて艦内は、一気に静まり返った様だった。
艦長は、通信長に次のように、命じた。
「旗艦に遅れ(「扶桑」は敵戦艦1を撃沈せるも、損害大の為戦線を離脱せり)だ」
「了解しました」
そう言って、通信長は自らこれを打電すべく、通信室に向かっていった。
「取り舵いっぱい」
通信長が、艦橋を出た後航海員にそう艦長が命じた。
「取り舵いっぱいよーそろー」
舵を持っている航海員が、そう言って了承の意を示す。
艦橋内に、彼が舵輪を回す音が響く。
しばらく、「扶桑」は直進を続ける。
そして、舵が効き始めたのだろう、艦首を左に降った。
その瞬間、この海戦における「扶桑」の戦いは終わったのだ。
そして、「扶桑」が離脱したところを、いまだ砲戦を行っている姉妹艦の、「山城」が通過していく。
その瞬間、艦長は「山城」に対し敬礼していた。
第18話完
という訳でした
意味わからん
艦これ順調に進んでまっせ
加賀さんとかきたし
プラモは、空母天城が竣工
感想待ってます




