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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 レヴァイアサンの宴
18/66

第17話トラック沖海戦 手負いの「扶桑」

昨日投稿できなかったので今日します

「くっ!」

「阿武隈」を襲った衝撃に、大森司令官がおもわずわめいた。

「どうした!」

「阿武隈」艦長村山清六大佐が、言った。

衝撃は、艦後部から伝わってきた。

「第一煙突大破!」

すぐさま、見張り員から被害報告が入る。

「阿武隈」は第二煙突に続き第一煙突も、破壊されたのだ。

健在な煙突は、第三煙突のみである。

だが、機関には被害は生じていない。

ただ、煙突が粉砕されただけだ。

「またか!」

村山艦長が、そう言った。

確かに、重要区画は被害を受けていない。

だが、ここまで煙突に連続して、命中弾を喰らうと 何か不吉なものを感じないでは、居られない。

だが「阿武隈」は、そんな艦長の怯みを打ち消すかのように、進撃を続ける。

「敵目標艦に命中1」

見張り員から、報告が入る。

「阿武隈」は、2門の主砲だけで直撃弾を早々に得たのだ。

「やったか!」

村山艦長が、身を乗り出して叫ぶ。

先ほどのような、一撃轟沈を期待したのだ。

だが、敵艦は黒煙をたなびかせるだけで、速力が落ちたりはしない。

やはり一撃轟沈は、なかなか出来ないのだ。

そうこうしている内に、敵艦との距離が一気に縮まる。

「敵も必死か・・」

大森司令官が、そう独語する。

一水戦では、「浦風」が直撃弾をくらい第一砲塔を爆砕、されている。

さらに「子日」は、横合いから食らった直撃弾で、後部の第二第三砲塔を、薙ぎ払われていた。

両艦とも、被害は軽く突撃を続行している。

一水戦も、少なくても5隻の敵艦に命中弾を得、1隻を撃沈している。

戦況は、一水戦に有利と言えた。

「敵艦沈黙落伍します!」

見張り員から、喜色の混じった報告が、再び届けられる。

さっき、命中弾をぶち当てた敵艦に、さらなる命中弾を与え、落語に追い込んだのだ。

「一気に畳み掛けろ!」

村山艦長が、砲術長に言った。

落伍した敵艦に、とどめを刺すのだ。

現在の状況では、停止した敵艦などただの的だった。

水平に倒された主砲、2門が斉射を放つ。

「命中」

砲術長から、静かな報告が入る。

その頃には、装填を終えさらなる射撃を行っている。

敵駆逐艦は、その度に船体を構成する鉄板を、吹き飛ばされ鋼鉄製のボロと、化していく。

そして第四斉射が、着弾した。

それは艦橋からでもよく見えた。

敵艦の弦側から、水柱が吹き登った。

それと同時に、敵艦は何かに捕まれ、引きずられるように、最上甲板を「阿武隈」に向ける。

「阿武隈」の放った14センチ砲弾が、敵艦の水線下に命中し、ぶち抜いたのだ。

それによって、大穴を艦体に穿たれ、浸水が一気に進んだのだ。

「総員退艦!」

その駆逐艦の艦長が、そう叫んだが、急激に傾斜を増す、艦内から脱出出来たものは、ほとんど居なかった。

「敵艦沈みます!」

見張り員から、報告が入るが艦長をはじめとして、艦橋内の総員が、この光景を間近に見ていた。

「やはり、九一式徹甲弾の威力は、凄いですね」

村山艦長が、砲弾の威力をまざまざと見せつけられ、感嘆としたように言った。

この時、敵艦を襲った九一式徹甲弾は、水中弾となり敵艦に命中したのだ。

「九一式徹甲弾の、思想は間違っていなかったか」

大森司令官が、淡々と言った。

九一式徹甲弾は、打ち出されるときは、飛行に最適な形状をしているが、水面に着水すると同時に、先端が外れ、水中を走るのに最適な弾頭が姿を現わす、という砲弾である。

それが、威力を発揮したのだ。

その合間にも、「阿武隈」にはスコールのような密度で、敵弾が飛来する。

「目標敵戦艦!」

村山艦長が、意を決したのか命じた。

「目標敵戦艦よーそろー」

砲術長から、返答が返ってくる。

「敵八番艦、打ち方始め」

続けて、砲術長が目標を選定し、射撃指揮所に告げる。

目標は、雷撃目標と同じ敵八番艦である。

敵艦上の両用砲を、潰す腹のようだ。

しばらく主砲が沈黙したのち、火炎がほとばしる。

それと同時に、射撃によって生じた、衝撃波が艦橋を襲う。

2門だけであるが、艦橋の両隣にあるためか、

そこそこ大きな衝撃波が、くる。

「うまく行けば、敵の反撃を無力化できます」

村山艦長が、大森司令官にそう言った。

両用砲を全て潰してしまえば、残るは主砲と機銃だけである。

主砲は、射撃速度が遅いためここまで近づいてしまえば、逆に滅多なことでは当たらない。

「阿武隈」から放たれる、灼熱に熱された鉄の塊が、敵戦艦めがけ飛んでいく。

真っ赤に光る、砲弾が2発敵艦に吸い込めれるように、命中する。

10000を切った距離では、夜戦ではともかく昼戦では、ほとんど外しようがない。

初弾は2発とも、木片を巻き上げただけに終わった。

もとより装甲を、14センチ砲ごときで貫通できるとは、誰も思っていない。

着弾の波紋が収まった頃、第二射を「阿武隈」は放つ。

この頃には、後部砲塔が敵戦艦を射界に収め、代わりに第四砲が射界から外れる 。

そのため第二射は、3発の砲弾が砲口から飛び出した。

気づくと、第十七駆逐隊の「磯風」も射撃を開始している。

「磯風」は、6門全ての砲を敵戦艦に向けて放っている。

「磯風」はこの乱戦の最中、まだ損傷を被っていない。

それに続いて、第一砲塔を叩き潰され爆砕された、「浦風」も残された第二第三砲塔に、発射炎を煌めかせ砲撃を開始する。

敵駆逐艦からの砲弾も、飛来してくるが正面から飛んでくるものは、少ない。

だいたいが横や後方からだ。

「阿武隈」は、敵直掩駆逐艦の迎撃を潜り抜けたのだ。

あと敵艦隊に残されている、6隻の駆逐艦は向かってくる気配を見せない。

新鋭間の直掩を、優先してるのかもしれない。

そのため第二十一駆逐隊や第二十七駆逐隊が、直掩駆逐隊と主砲火を交えている。

敵八番艦である「カリフォルニア」に、14センチ砲弾や、12、7センチ砲弾が、突き刺さる。

艦体にダメージを受けているようには、全く見えない。

だが、両用砲やレーダーなどの非装甲部には、打撃を与えているだろう。

特に、装甲など存在しない機銃座は、簡単に吹き飛ばされる。

さらに、両用砲は真横から槍に貫かれたように、吹き飛ばされる。

艦上には、ほとんど無傷の構造物は残っていない。

「阿武隈」や「浦風」「磯風」が、主砲を放つ度「カリフォルニア」は直撃弾を、喰らう。

「阿武隈」から見える、直撃弾炸裂の光は艦全体で見えた。

駆逐艦や軽巡ならば、もう沈没していても、おかしくないだろう。

しかし、巨弾の応酬を念頭に作られた「カリフォルニア」の、艦体は何事も無かったかのように、航行を続けている。

しかし、その「カリフォルニア」の周囲にも、間延びしがちだが、巨大な水柱が時たま吹き伸びる。

「カリフォルニア」によって、第三砲塔を破壊された「扶桑」の放つ、10発の36センチ砲弾である。

「扶桑」は、「カリフォルニア」との砲戦において、苦戦を強いられていた。

それは、「扶桑」の問題のある砲塔配置にあった。

第三第四砲塔が、煙突を挟んで配置されているために、集弾率が下がってしまっているのだ。

その点、改扶桑型とも言える伊勢型に劣る点であった。


「一水戦突撃します!」

「扶桑」のそびえ立つ艦橋の、最上部から見張り員の報告が入った。

ほぼ同時に通信室から、「一水戦目標敵八、九、十番艦」と報告が入っていた。

「ようやく、援軍が来たか」

「扶桑」艦長木下三雄大佐が、そう呟いた。

今まで、「扶桑」は常に敵八番艦との砲戦で、苦戦を強いられて来た。

先に命中弾を喰らったのも、「扶桑」だった。

ほどなくして「扶桑」も、敵艦に命中弾を得たが、先手を取られた劣勢を、覆すには至らず今まで砲戦を継続していた。

そこに、その報告が入ったのである。

艦長が思わず、つぶやいてしまっても、仕方がなかった。

「てっ」

砲術長の短い命令とともに、10門に減少した主砲が火を噴く。

門数は減ったが、最初とほとんど変わらない衝撃が、「扶桑」を揺るがす。

それと前後するかの様に、敵八番艦が放った射弾が12発、着弾する。

それと同時に、艦橋に迫らんとする高さの、水柱が立ち上る。

そして、直撃弾は無かったものの、至近弾は当然のごとく生じている。

その至近弾炸裂による衝撃は、確実に「扶桑」の艦底を、痛めつける。

さらに、それによって立ち上った水柱が、甲板上に降り注ぎ容赦なく、高角砲や機銃に降りかかる。

もしも射手外たならば、確実に流されていただろう。

そして、甲板上を滝のように流れ、海面に落ちる。

「敵艦に、命中弾あり」

見張り員の、少々興奮した声音での、報告が入ってくる。

この前に「我敵八番艦を砲撃す」の報告が、一水戦旗艦「阿武隈」より、入っていた。

その為すぐに「一水戦だな」と艦長は、悟った。

彼は、副砲によって一水戦を支援しようと考えたが、まだまだ副砲の射程外であり、それはできなかった。

「主砲気合いれてけ」

艦長は、射撃手に発破をかけるように言った。

一水戦を前に無様な戦いは出来ない、そう思ったのだ。

「命中1」

見張り員から、「扶桑」の斉射の結果が、伝えられる。

敵艦の後方から、黒煙がたなびいているが、大した被害を与えられたようには見えない。

そして敵艦も、それに対する報復とでも言いたげに、咆哮し砲弾を「扶桑」めがけて放ってくる。

「どこだ!」

木下艦長は、そう言いつつも艦の致命傷になるような所には、当たっていないと確信していた。

それは事実だったらしく、すぐさま「後部に被弾、飛行甲板大破、射出機全損」と報告が入る。

すでに、水上機は飛ばしているので艦上で、破壊された機体は無い。

それでも、射出機が全損したのは、痛い。

これからは、いちいち水面に水上機を下す必要が、生じるのだ。

これほど面倒くさいことは、なかなか無いだろう。

だが、現在の状況ではこの海戦に限れば、「扶桑」が水上機を射出する必要はなさそうだった。

それに、後方に追随している二航戦の2隻には、9機づつ九七式艦攻が、搭載されている為問題はほとんどないと言っても、良いのではないだろうか。

それはさておき、扶桑は直撃弾炸裂の衝撃が収まる頃、新たなる斉射を放つ。

これまでと変わらない、衝撃が艦を包み込む。

遠目から見ると、艦全体から煙を出しているようにも、見える。

だが、砲撃に伴う砲煙は航行に伴う強風によって、あまり時間を掛けずに晴れる。

そして、着弾の直前に敵艦も艦上に、射撃炎を煌かせる。

それに伴う砲煙が、たなびいてる間に「扶桑」の射弾が、敵艦を包み込むように着弾する。

それに伴う水柱によって、敵艦が完全に見えなくなるが、水柱が崩れるよりも先に、まず敵艦の艦首が波を切りながら、現れる。

そして、中央部が出て来る頃には、そこから噴出する煙が、視認できる。

「扶桑」か一水戦の砲撃かは分からないが、高角砲を破壊したのだろうか。

それは、なかなか消えない。

思ったよりも、大きな損害を与えたのかもしれなかった。

しかしその頃には、敵弾が降って来る。

再び「扶桑」の艦体は、直撃弾炸裂の衝撃によって、激しく戦慄く。

老朽化した艦体が、悲鳴を上げているようにも思える。

「怯むな!大したことはない」

木下艦長が、衝撃にびびった艦橋要員に向けて、言った。

今度は、すでに射撃不能に陥っていた、第三砲塔に命中し、さらに細かい鉄片に分解する。

さらに周囲の、木甲板も吹き飛ばされ、散乱する。

だが、被弾は中央部と後部に集中しており、そこ以外はまだ損傷を被っていない。

それに対する怒りを込めたかのように、「扶桑」は咆哮する。

それに伴って、スピンがつけられた砲弾が、空中を飛翔し敵艦に迫る。

先ほどの被弾で、ペースを崩されたのか、敵艦はまだ射撃を行わない。

今度は、敵艦が新たな射弾を、「扶桑」に向け送り出すより早く、着弾した。

だが、艦体に命中する直前に射弾を放っていた。

「扶桑」艦橋上の見張り員は、敵の主砲身が吹き飛ぶ様がよく見えた。

それほどの高さにまで、吹き飛ばされていたのだ。

「敵砲塔一基を、破壊した模様」

すぐさま、見張り員が報告を入れる。

「ついにやったか!」

艦長から、安堵のため息が漏れた。

ついに「扶桑」は、劣勢を跳ね返したのだ。

だがその直後に、直撃弾が「扶桑」を襲った。

今度は、煙突上部に命中した。

それによって、黒色に塗られていた部分が、消滅する。

だが、被害はそれだけであり、戦闘に影響はほとんどない。

あるとすれば、排煙が時たま艦橋まで、なびいてくることだろうか。

しかし、「扶桑」は動じた様子も見せずに、さらなる射撃を、敢行する。

再び10発の砲弾が、天空を敵艦めがけて舞っていく。

それに対して、敵艦も9門に減った主砲を放ってくる。

「扶桑」は、ついに砲門数で有利に立ったのだ。

その甲斐あってか、今度は2発が中央部に立て続けに命中する。

だが、防御力で優れる米戦艦に、大損害を与えるには至らない。

第17話完

先はまだあります

おおよそ21話まではこれが続きます


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