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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 レヴァイアサンの宴
14/66

第13話トラック沖海戦 突撃の一水戦②

前回の続きです

「「浜風」がやられたか」

そう「谷風」艦長勝見基中佐は、言った。

「谷風」は、「浜風」の前を航行していた。

そのため、轟沈の瞬間こそ見えなかったが、大音響はよく聞こえた。

次は我が身かと思うと、身がすくむ思いにとらわれそうになる。

むしろ、沈没したのが「浜風」だけだった事が、僥倖なのかもしれない。

あそこまで水柱が、林立している中を突っ走っているのだ、もっとやられてもおかしくなかったろう。

「それにしても、まだか」

勝見艦長が、苛立ちを隠しながら言った。

こっちも、できる限りの全速で突っ込んでるが、後ろから追尾する形になっているため、なかなか射点につけないのだ。

「谷風」の艦首は、波に突っ込むたびに海水で洗われる。

だが、それには怯まずに艦首の12、7センチ砲は、射撃を敢行する。

前甲板に閃光が煌めくたびに、少し軽い爆音が轟、衝撃波が押し寄せる。

当然第一砲塔にも、海水が当たっては砕けている。

もし、睦月型以前の防盾しかない物だったなら、容赦なく砲員を拐っていただろう。

だが、「谷風」は最新鋭の陽炎型に所属する感であり、砲塔が砲員を波から守っていた。

しばらくは、第一砲塔だけの射撃となる。

豆鉄砲の主砲がどこまで、通用するかはわからない。

だが、測距儀やレーダーなど装甲を施したくても施せないような、箇所に命中すれば射撃を止めることは出来るだろう。

自艦がやられない限り、駆逐艦には強大な兵器が搭載されている。

そう魚雷である。

特に、日本海軍の持つ九三式魚雷は、強力な物である。

水面下を食い破られれば、戦艦でもない限りほとんど一撃で正確な射撃が不可能になる。

数発当たれば、巡洋艦ですら沈没に追い込まれるだろう。

だが、甘い話には裏があるというように、もし発射管に被弾すれば「浜風」を襲ったような、誘爆を起こし瞬時に轟沈してしまうのだ。

そう魚雷を搭載する艦は、下手をすれば明らかにやりすぎな、破壊力にやられる恐れを背負っているのだ。

「距離7000」

測距儀から、報告が入る。

駆逐艦の小さな物だから、どこまで正確かは分からないが、この距離なら問題はない。

そうこうしているうちに、後部の第二第三砲塔も敵を射界に収めたのか、射撃を始める。

今までに倍する衝撃が前後から、艦橋を襲う。

「取り舵!」

そう勝見艦長が、叫ぶ。

しれと同時に、航海員が舵輪を回す。

数瞬間を置いてから、「谷風」が左に艦首を降り始める。

やはり小型軽量な駆逐艦は、舵の効きが早い。

戦艦ならば、もっと聞き始めるまでに時間がかかる。

「谷風」の右舷側に、水柱が立つ。

「取り舵して無かったら、やられてたな」

その呟きが、何処からか聞こえてくる。

確かに今の水柱の位置はちょうど、一番連管のある位置に上がっていた。

今の水柱を立てた、砲弾の放つ衝撃波によって「谷風」は大きく揺さぶられる。

もし戦艦ならば、この程度では身震いすらしないだろう。

それはそうと、「谷風」の艦底は至近弾炸裂による衝撃によって、傷つけられていく。

「敵戦艦落伍します!」

見張り員から、喜色に満ちた報告が入る。

「何番艦だ?」

艦長は、雷撃する巡洋艦列を見据えながら言った。

「一番艦です!」

すぐに帰ってくる。

それを聞くなり、勝見艦長は双眼鏡を一番艦のある方向に向けた。

「「大和」がやったか」

艦長からその呟きが漏れた。

上空では依然として、艨艟達の巨弾が飛び交っている。

「艦長だ、「大和」が敵戦艦を撃破した」

そう艦内放送で、艦長は言った。

「やったぞ!」

その瞬間艦内で歓声が湧いた。

「流石は新鋭戦艦だ!」

「大和」の存在は、海軍軍人にのみ緘口令は当然敷かれていたが、知らされていたのだ。

その主砲が世界最大の46センチ砲であることも、合わせて知らされていた。

その期待の星が、戦果を挙げたのである。

嬉しくないはずがない。

「「伊勢」敵戦艦を撃沈せり!」

続いて、ベテランの「伊勢」も戦果を上げたと、報告が上がる。

艦長は、水柱が乱立する中「伊勢」のいる方を見やった。

「やってくれたか」

そこには、まだ沈んではいないものの傾斜を強めている、敵艦が見えた。

長年国民に親しまれてきた「伊勢」も凱歌をあげたのだ。

その知らせに、艦内のボルテージは一気に最高潮に達する。

当然士気も一気に、跳ね上がる。

しかし同時に悲報も入って来る。

「「日向」後部大火災落伍します!」

見張り員の目には、激しく炎上しているものの、水線下には被弾してないのか、傾斜は起こしていない「日向」の姿が見えていた。

「「日向」がやられたか!」

そう言って艦長は、拳を壁に叩きつけた。

今度は、士気に水を差すことになる為、艦内放送で伝えられることはなかった。

艦首甲板では、断続的に主砲射撃に伴う閃光が、巻き起きる。

何発かは命中しているようで、敵艦の艦上に直撃弾炸裂の閃光が起こる。

しかし、駆逐艦なら兎も角相手は、装甲を一応は張り巡らせている、巡洋艦である。

被害を与えられているようには見えない。

だが、九三式魚雷を喰らえば、立ち所に戦闘不能になるだろう。

「第六駆逐隊は、上手くやってるな」

巡洋艦列の後ろをすり抜けるように、敵戦艦に突撃する第六駆逐隊の4隻が、見える。

彼女らは、自発装填装置を持たないために、一足先に突撃しているのである。

現状を見れば、一水戦を囮にしているようでもあった。

事実第六駆逐隊の周囲に、水柱が立つことは無い。

気付いていないはずはないが、問題にはならないと高を括っているのだろう。

だが彼女らは、一水戦に所属する駆逐隊の中では、最大の射線を持つ。

一艦あたり9線それが4隻である。

合計36本の魚雷を放てるのだ。

それだけあれば、戦艦の1隻は戦闘不能に出来るだろう。

一水戦が、巡洋艦列に突っ込んでいる間にどこまで、敵戦艦に接近できるか、それが鍵であった。


「消火完了!」

「阿武隈」艦橋に、その報告が入る。

見れば、確かに火は消えている。

「阿武隈」艦長杉山清六大佐は、ほっと胸を撫で下ろしていた。

弾薬庫が誘爆を起こすという、最悪の事態を免れたのだ。

その間にも4門の主砲は、敵艦めがけ射撃を続けている。

「阿武隈」は未だ敵弾に屈する気はない。

そういうかのように、敵弾を避け続けている。

「阿武隈」めがけてくる敵弾は、虚しく水柱を立てるだけで終わっている。

「面舵!」

杉山艦長が、言うと同時に舵が切られる。

5000トン越えの艦体は、直ぐには反応しない。

だが、敵の砲弾が着弾すると思った瞬間、鋭く艦首が右に切られる。

一瞬で「阿武隈」は転舵を終え、新たな進路で突き進む。

こうしている間も、絶え間ない着弾が襲ってくる。

それに対する「阿武隈」をはじめとする、一水戦の反撃は弱々しいものにしか見えない。

だが、命中弾をより多く出しているのは一水戦であり、まともな被害を与えられていないだけだ。

そのため、中々当たらない事によって業を煮やしている、アメリカ側に対し一水戦の士気は鰻上りで上がっていた。

だから、アメリカ側の将兵は自分たちが押されているという、錯覚に囚われていた。

事実、敵の射撃は通用しないのだから、自分等こそが、押しているのだが。

どんどん接近してくる、敵艦艇に対する恐怖もあったかもしれない。

「射撃精度が落ちてきたな」

大森司令官が言った。

「はい、おそらく焦っているのでは無いでしょうか?」

杉山艦長が、推測で言った。

「焦りか、確かに味方の命中率は、反比例するように上がっているからな」

確信を込めた口調で大森司令官が、言った。

「ですが本艦は、イマイチですよ」

大森司令官は、彼がなんと言わんとしているのか、よく分かった。

「気にするな。門数が減っているんだ、落ちて当然だ。それよりも麾下の駆逐隊の活躍を、喜びたまえ。もっとも有効弾には、なっていないようだが」

彼は、悔しそうに言った。

魚雷を当てないと、駆逐艦とはこの程度なのか?との思いも見て取れた。

それにアメリカの巡洋艦には、魚雷発射管が無い為ラッキーヒットも期待できない。

ほとんど艦橋に直撃させるか、レーダー類を破壊しない限り撃退する事は、不可能だ。

そう考えてる間も、「阿武隈」は残った4門の主砲を使って、目につく敵艦めがけ主砲を撃つ放つ。

「6000」

見張り員から、報告が上がってくる。

「あと1000です司令官」

杉山艦長が、言った。

その顔には喜色であふれていた。

いや、獰猛な顔といった方が良いかもしれない。

どちらにしろ、凄みを感じさせる顔である。

「雷撃用意!」

の令が、大森司令官によって下される。

それは同時に、隊内電話と信号旗によって後続する、駆逐艦に伝えられる。


「雷撃用意です艦長!」

隊内電話によって、命令を受けた無電室から伝令が、それを伝えにやってくる。

「そうか。分かった、ご苦労さん」

艦長は、短くそう言うと、今まで溜めてきたものを吐き出すように言った。

「雷撃準備!」

艦内放送でその事を、気合の入った声音で言ったのだ。

それを聞いた乗員たちは、「浜風」の敵討ちと言わんばかりに叫び声を上げる。

艦内各所で、その叫びは上がっていた。

ついに、魚雷を敵艦めがけて放てるのだ。

水雷屋として嬉しくないはずがないだろう。

「谷風」艦長勝見中佐は、今か今かとこの瞬間を待っている。

すでに水雷長からは「雷撃準備完了」の報告が、入っている。

「取り舵」その命令が、信号旗で伝わってくる。

「取り舵いっぱい!」

勝見艦長が、即座に命令を下す。

「谷風」は、素早く艦首を左に降り始める。

当然「谷風」の周囲には、敵巡洋艦が放っている砲弾が、着弾し続けている。

いつ命中弾を喰らうかは、分かったもんじゃあない。

「危なかったな」

艦長はそう水柱を見て、言った。

転舵して少しして、艦首右の至近に水柱が立ち上ったのだ。

もし転舵が間に合っていなければ、「谷風」は艦首に被弾していただろう。

もしそうなれば、突撃を諦める他にない。

「谷風」は今の所、付いていた。


「5000!」

の報告が、見張りから届けられる。

「雷撃開始!」

大森司令官が、裂帛の気合いを伴って言った。

その瞬間、艦橋の雰囲気が変わったという。

「雷撃!」

水雷長の口からその言葉が漏れた瞬間、艦後部をわずかな衝撃が襲った。

4連装発射管が、4本の九三式魚雷を圧縮空気によって吐き出したのである。

航跡は見えない。

いや、見ることが出来ないのだ。

九三式魚雷は、純酸素によって駆動する為、白い航跡を残さないのである。

「「谷風」雷撃完了「初春」雷撃完了」

無秩序に、雷撃完了の報告が入ってくる。

12隻合計76本の魚雷が、敵艦目掛け放たれたのである。

「面舵いっぱい!」

そして全艦から、「雷撃完了」の報告が届いた瞬間、大森司令官が命令を下す。

敵巡洋艦列の、後ろを抜けるという算段なのだ。

その瞬間から、12隻は全艦が魚雷の再装填を始めている。

敵戦艦を射界に収める頃には、全艦が再装填を終えているだろう。

敵は、もう一水戦が魚雷を放ったことに気づいているだろう。

敵艦は、バラバラに回避行動を始めた。

しばらくは、何も起こらない。

発射から3分半程度経ってようやく、巡洋艦列に到達するのだ。

それを名残遅げに見ながら「阿武隈」は、艦首を右に降る。

この瞬間を見れないのが、なんとも残念だと言いたげだった。

だが、「阿武隈」をはじめとする一水戦は、もっと輝かしい活躍の舞台がある。

敵戦艦列への、雷撃である。


「「加古」被弾、落伍します!」

その報告が、入ってきたのは「古鷹」が、最後の敵駆逐艦をかたずけたのと、ほとんど同時だった。

それと前後して一水戦より「雷撃完了」との報告が入っていた。

艦内の士気が上がっていただけに、それに水を差すような報告だった。

艦は、被弾して外板や非装甲区画が、めくれ上がっていたが、戦闘航行には影響のない程度でしかない。

「艦長より乗員に次ぐ。本艦は「加古」の救援に向かう。「加古」の敵討ちだ!」

艦長が「加古」の無念を代弁するかのように、いった。

「やってやる!」

「帝国海軍の力を見せつけるんだ!」

様々な叫びが上がり、艦内が興奮に包まれる。

僚艦の大破に、その無念を晴らす。その意気であった。

「これは、「加古」の仇討ち合戦だ!気合い入れていけ!」

そう発破をかけたのは、砲術長である。

兎にも角にも「古鷹」乗員は、「加古」の仇を取るの一心で、今までにない団結力を発揮していたのである。

「待ってろよ「加古」」

艦橋内で誰かが、それとなく言った。

「面舵いっぱい!」

「古鷹」は、「加古」を落伍に追い込んだ敵を成敗すべく、舵を切ったのである。

第13話完

てなわけで、戦艦の出番が少なくなってきた

何せ?

まあいいか

ようやく総合点が100超えた

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