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南溟の艦隊  作者: 飛龍 信濃
トラック沖海戦 レヴァイアサンの宴
13/66

第12話トラック沖海戦 突撃の一水戦

今回の主役は、一水戦です

「インディアナ」の放った、第四斉射が着弾し海面をどよもす。

今度も中央部に命中弾炸裂の、閃光が煌めく。

「インディアナ」は連続して、命中弾を出しているが、敵艦が戦闘力を落とす気配はなかった。

それに対する応酬か、敵艦に放った第六斉射が「インディアナ」の周囲に着弾し、衝撃で「インディアナ」を傷つける。

今度は、被弾しなかったようだ。


「急げ!第六駆逐隊の、進撃路を切り開くのだ」

第一水雷戦隊旗艦「阿武隈」の艦橋で一水戦司令官大森仙太郎少将が、「阿武隈」艦長村山清六大佐に言った。

現在「阿武隈」は一水戦の第六駆逐隊を除く、第十七、第二十一、第二十七駆逐隊計12隻の駆逐隊を率いて、戦艦列の直掩に当たっている敵巡洋艦に突っ込んでいたのだ。

敵駆逐艦は、半分は第七戦隊が相手取り、残りは戦艦の直掩に徹しているのか、向かってくる気配がなかった。

敵対する巡洋艦の数は、2隻のボルチモア級重巡そして5隻の軽巡である。

その内4隻は、日本の最上型に対抗して建造されたブルックリン級そしてセントルイス級軽巡だった。

そこまでは、観察する時間が長かったこともあり、わかったが、それ以上は敵艦が一斉に撃ち始め、艦の周囲に水柱が林立し始めたために、特定することはできなかった。

敵巡洋艦との距離は、10000である。

砲戦が25000と言う、距離で開始されたためにここまで接近できたのだ。

肝心の戦艦との距離は、15000。

そして戦艦の直掩についている駆逐艦との距離は、13000程度だった。

28000の距離から突撃を開始していたため、13000の距離を踏破したことになる。

だがそこで、強力な巡洋艦列と当たることになったのだ。

「5000まで接近次第、雷撃を開始します」

「阿武隈」艦長村山大佐が、大森少将に言った。

「そうしてくれ」

5500トン級軽巡の1隻である「阿武隈」には、両舷に1基づつ61センチ4連装発射管が、設置されている。

そう片舷に放てる射線は、わずか4本である。

これは、吹雪型以降のどの駆逐艦にも、劣る数値でしかない。

比較的少ない、初春型や白露型でも6射線は、持っている。

陽炎型の4隻は8射線を持っている。

すなわち、吹雪型の4隻を除く13隻で、84本もの九三式魚雷を敵に見舞えるのだ。

現在戦艦列に真っしぐらに、突っ込んでいる吹雪型は9射線を持っている。

だが、自発装填装置を持っていないため、1度きりの雷撃になってしまうのだ。

もしその4隻を加えたならば、120本もの魚雷を喰らわせられる。

だが、吹雪型の魚雷は旧式の九〇式魚雷のため、射程距離が短いのだ。

だがそれも、5000という距離まで近づくと言うのなら、問題はない。

「打ち方始め!」

大森司令官が、命令を下した。

それは即座に、後続している12隻の駆逐艦に伝えられる。

そして、少し間を置いてから「阿武隈」が右舷に指向可能な6門の14センチ砲を、ぶっ放す。

だが相対する、敵巡洋艦と比べるといかにも見劣りしてしまっていた。

一番火力のないオマハ級軽巡ですら、15、2センチ砲を10門搭載しているのだ。

確かに主砲の搭載方の問題から、7門しかこちらに指向出来ないが、それでも威力数ともに「阿武隈」を上回っている。

まともに砲戦をしようもんなら、あっという間に撃沈されてしまうだろう。

敵巡洋艦列は、絶対に食い止めてやると言いたげに、矢継ぎ早に砲弾を放ってくる。

特に、15門の15、2センチ砲を搭載する4隻の射撃は、凄まじかった。

15秒ごとに、弦側いっぱいに発射炎が煌めくのだ。

すでに乱戦の程を呈していたため、どちらも着弾修正のための交互打ち方などせずに、一斉に主砲を撃っていた。

圧倒的な水柱の中で、一水戦の13隻は微妙に転舵を繰り返し蛇行する事によって、被弾を回避していた。

主に一水戦は、牽制のために主砲を放っている。

それに対し、敵巡洋艦は数打ちゃ当たる方式で、撃ってくる。

いつ先頭を走っている「阿武隈」が被弾するかもわからない。

「命中1」

見張り員から報告が入る。

「阿武隈」は、乱戦の最中で命中弾を得たのだ。

これは、昼戦であり視界が良好だったからだろう。

「命中セリ敵艦は、ブルックリン級と認む」

見張り員から、続けて報告が入る。

発射間隔や閃光の量などから、突き止めたのだろう。

そうしつつ、「阿武隈」は敵艦に接近して行く。

そして「阿武隈」は、水柱の中に突っ込む。

艦橋の中にも、水が襲ってくる。

「阿武隈」の艦橋は、密閉構造になっていないためである。

だが、見張所にたっている見張り員は、さらに多量の海水をかぶりながら、任務を遂行しているのだろう。

「阿武隈」の船体は、至近弾や波浪によって激しく、上下左右に揺さぶれる。

「阿武隈」の半分以下の排水量しか持たない駆逐艦は、さらに大きな振動に見舞われているだろう。

「っく!被害はないか?」

村山艦長が、伝声管を通じて各部署に問い合わせる。

この激震の中では、至近弾を喰らっても場所によってはわからないかも知れなかった。

それを懸念しての行動だった。

「被害ありません!」

その報告が、相次いで入る。

艦長の憂慮は、杞憂に終わったようだった。

よく転覆しないものだな。

彼は、配下の駆逐艦たちを見やりながら、心の中でそう呟いた。

彼の視界から見えた艦は、かなりの傾斜角を持って横倒しになりそうになっていた。

遠目から見れば、今にも弦側が海面に着いてしまいそうな程だった。

だが、巧みな操艦によって体制を整える。

それだけではない。艦の持っている高い復元性能も、それに寄与していることだろう。

日本海軍は、友鶴事件によってトップヘビーに対し、敏感になっており復元性能が、かなり高い艦が揃っていたのだ。

友鶴事件とは、軍縮条約を縫うように建造された水雷艇「友鶴」が、旋回しただけで横転沈没した事件である。

詳しい調査が行われた結果、軽い船体に欲張って多量の兵装を積んだために、艦がトップヘビーになっていたことが発覚した。

その為吹雪型をはじめとする、すでに竣工していた艦は徹底的な重心位置低下工事が行われた。

またそれ以降の艦は、軍縮条約のくびきがなくなった事もあり、かなり余裕のある設計となっていたのだ。

その事が、今生きていたのだ。

ズドン、その音と共に「阿武隈」が再び斉射を放つ。

目標は、先ほど命中弾を得た艦と同じである。

「阿武隈」の周囲に、スコールのような密度で、敵弾が飛来してくる。

先頭を走っている「阿武隈」に、射撃が集中しているようだ。

現在「阿武隈」を始めとする、一水戦は敵巡洋艦列を斜め後方から、追撃するかのように突撃していたため、敵から見れば丁字を描いているかのような、感覚があるのだろう。

または、日本海軍の伝統である指揮官先頭を、分かって指揮官をまず殺りに掛かって来たのか。

どっちにしても、「阿武隈」が集中砲火を受けているのは事実である。

「命中2!」

見張り員から、再び命中弾を得たとの報告が、入ってくる。

「調子がいいな」

大森司令官が、「阿武隈」艦長村山大佐に言った。

「ええ、蛇行しながらここまで命中弾を得られるとは、思っていませんでした。惜しむらくは、敵艦が打撃を受けたように見えないことが、残念ですが」

彼は、いかにも残念だと言う感情を前面に出して言った。

「見張り、目標から煙は上がっていないか?」

「はい、特に上がってません。命中してから、しばらくはたなびいてるようにも、見えたのですが今はもう鎮火したようです」

見張り員が、すぐに返してくる。

「アメリカの、応急処理能力は優れているとは聞いていたが、ここまでとはな。正直言って思っていなかったぞ」

「しかし、装甲を貫通していないとも考えられます。敵は15、2センチ砲装備ですから、その分防御力で優れておるのでしょう」

暗に、特にブルックリン級以降のは特に要注意です、そう言っているようでもあった。

なんせ、4隻だけで60門の15、2センチ砲である。

これほどの砲弾を放たれて尚「阿武隈」が損害を被っていないのは、蛇行による回避と照準精度が高くないからだろう。

もしもっと精度がよければとうに「阿武隈」は、海の藻屑と成っていてもおかしく無いだろう。

「それにしても、敵さんの射撃精度は低いな」

大森司令官が、林立する水柱を見やりながら、言った。

確かにひやりとする場面もあったが、ほとんどは脅威にならないところ、にしか立っていない。

「確かに、敵さんは電探射撃を行っているらしいですが、その精度が高くないのかもしれません」

村山艦長が、もっともらしく言った。

イギリスからの情報で、アメリカ海軍が電探射撃を行っているらしいという事を、掴んでいたのだ。

そして、精度がまだそこまで高くないことも。

おそらく戦艦は、光学照準も併用しているのだろうが、巡洋艦級の艦だとほとんど電探射撃しか、行わないようだ。

だからと言って「阿武隈」に敵弾が、命中しない保証にはならない。

ここまで打ってくれば、数打ちゃ当たるの原理で、命中弾を喰らうだろう。

それまでに雷撃を済ませたいところである。

その頃には、後続する第十七駆逐隊にも、敵弾が着弾し始めている。

今の所被弾した艦は無いようだが、装甲などない駆逐艦ならば、当たりどころが悪ければ1撃で、そうでなくても、数発喰らえば突撃するのが難しくなるだろう。

「っく!」

大森司令官が、そう叫んだ瞬間「阿武隈」の艦首甲板で、爆煙が巻き起こった。

遂に「阿武隈」は被弾したのである。

「第一第二主砲大破、射撃不能!第三砲塔は、射撃可能!」

との報告が、砲術から即座に送られる。

「やられたか!」

村山艦長が、珍しく感情を前面に出して叫んだ。

それと同時に手を、壁に叩きつける。

「大森司令官、作戦遂行には影響ありません」

「そのようだな。まだやれるそうだな?」

大森司令官は、自信ありげに言った。

「はい行けます!地獄の底まで突っ込んでやりますよ」

そう言うと、村山艦長は応急班に指示を出し始めた。

「消火急げ。あと弾薬庫へ注水もだ」

艦長が手短にそう言うと、即座に実行に移される。

感が注水によって、重くなったからだろう舵の反応が、鈍くなったように感じられる。

「阿武隈」は、右舷に指向可能な6門の内2門を失ったのだ。

残るは、4門である。

運良く、爆風が環境で遮られたからか、第三砲塔は無傷であった。

そして、その4門が第一第二砲塔の敵討ちと言わんばかりに咆哮する。

衝撃は、幾分小さくなったもののまだ十分腹に響いてくる。

波に突っ込むたびに、先ほどの被弾で脆くなったであろう部分が、悲鳴をあげる。

だが、それにはかまわず突撃を続ける。

そんな時だった。

後方から、激しい爆音が轟いてきたのは。

「何っ!」

艦長がそう叫ぶのとほぼ同時に、見張り員からたった今起こった凶事が伝えられる。

「「浜風」轟沈!」

第十七駆逐隊の1隻が、一瞬にして吹き飛んだのである。

「魚雷発射管に食らったようだな」

大森司令官が、冷静に言った。

部下がいる手前、こので取り乱すわけにはいかないと思ったのだろう。

「やられたか!」

艦長も、はぎしりしながら言った。

帝国海軍最新鋭の陽炎型の1隻が、ここまで簡単にやられる事を、受け入れられないようだった。

だからと言って、何故やられたか分からないものはいない。

最初に大森司令官が言ったように、敵弾は魚雷発射管を直撃したのだろう。

巡洋艦でも、大被害を免れない九三式魚雷である。

装甲なんぞ付いていない駆逐艦に、耐えられるものではなかった。

「浜風」は、敵を喰らうはずだった、自らの魚雷によって沈んだのである。

目標を前にしてやられる。その悔しさは、大森司令官が一番よくわかっていた。

だが、被弾が多分に確率的なものである限り、全てを回避することなど出来ないのだ。

現に「阿武隈」も、艦首に被弾し主砲を吹き飛ばされている。

わずか5000の距離が遠く感じられる。

誰もがそう思っていた。

そして再び、4門に減少した主砲が火を噴く。

だがそれは、少し悲しげな物にも感じられた。

12隻に減少した、第一水雷戦隊巡洋艦雷撃隊は、怯んだ様子も見せずに突撃を続ける。

どの艦にも、幾度となく至近弾が着弾する。

遠目から見れば、艦隊自体が着弾による水柱に包まれているようにも見えるだろう。

その中では、日本側が放つ閃光も散見される。

だが圧倒的な水柱の量に、埋もれてしまっているのだろう。

「阿武隈」の艦橋にも、断続的になって海水が襲いかかってくる。

その度に、大森司令官や村山艦長を始めとする艦橋勤務者は、頭から海水をかぶる羽目にになる。

第12話完

と言うわけで、しばらく一水戦が主役で話が進みます

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