第10話トラック沖海戦 「伊勢」の激闘
砲撃戦まだまだ続きます
「着弾今」
その合図とともに、「伊勢」の第五斉射が着弾する。
「直撃弾1」
敵艦lあらなびいている火災による煙 が、吹き飛ばされる。
今度も前部に当たったらしい。
だが細かいところを判断する前に、敵の第三斉射が着弾する。
今度は「伊勢」艦橋が、閃光に包まれる。
敵弾は「伊勢」の艦首に当たり、そのクリッパー式の優麗な艦首の上部を吹き飛ばしたのだ。
幸い喫水線下には被害が及ばず、「伊勢」は20ノットの速力でく、航行を続ける。
どちらも、被弾し被害が上澄みされて行くが、致命傷には至らない。
完全なる殴り合いである。
そしてどちらも被弾による衝撃が収まる頃には、次の斉射を放っている。
「伊勢」が第六斉射を「テネシー」が第四斉射をそれぞれ撃ち放つ。
太平洋の海面には今も、殷殷 と砲声が響いている。
それはまだ終わりそうには無い。
そして「伊勢」の斉射が先に着弾する。
「直撃弾3!」
砲術から、嬉しそうな報告が入ってくる。
しかし、1回の斉射で3発の命中弾を出すとは滅多にない。
しかも、25000の距離でである。
しかしその直後に敵の、第四斉射が「伊勢」に襲いかかっている。
砲撃による衝撃と、被弾による衝撃が途切れもなく「伊勢」を襲う。
いつ艦体が、衝撃に耐えられなくなり、悲鳴をあげるかは誰もわからなかった。
だが、「伊勢」が喰らったのだのはまた1発だった。
今度は、煙突に当たり突き抜けたところで炸裂した。
そのため排煙が貫通跡から漏れる以外の実害は、無かった。
そして、排煙が艦橋にも若干なびいて来るようになったが、出来ることはない。
砲戦の真っ最中に、艦外部の煙突の修理など出来たものではない。
そもそも、砲戦には異常がないため直す必要もない。
「良いぞ、それにしても呆れた耐久性だな」
艦長がポツリと言った。
すでに「伊勢」は最低でも5発の命中弾を出しているのだが、全く敵の戦闘力が落ちているように見えないのだ。
おそらく、急所をことごとく外しているのだろう。
中々砲塔を破壊出来ないのは、もどかしい限りである。
もしかしたら、3連装砲塔の利点である重量を軽く出来るというのを生かして、重装甲を張っているのかもしれない。
だがそれでも天蓋は、そこまで厚くないはずだ。
このまま当て続ければ、いつかは砲塔を破壊出来る。
そう信じて撃ち続ける事しか、今はできない。
そして「伊勢」が第七斉射を放つ。
今までと変わらない、砲声である。
そして変わるように、敵五番艦が第五斉射を打ち返して来る。
当然先に「伊勢」の斉射弾が、着弾する。
「近7命中なし」
今度は命中弾を出す事が、出来なかった。
思わずさっきの3発の命中が今回の結果に、表れていると思いたくなる。
入れ替わりに、敵五番艦の第五斉射が着弾する。
それと同時に、今までにない衝撃画「伊勢」を襲った。
まともに敵弾を喰らったのだ。
「やられた」
艦長が、ちぃとぼやきながら言った。
艦橋からなにも見えないところから、後部に当たったのだろう。
「第五砲塔破損使用不能!」
「本当か!」
砲術から入った報告に、艦長は舌打ちしつつ答えた。
遂に「伊勢」は砲塔を破壊されたのだ。
これからは6分の5の火力で、戦わなければいけない。
だが、多砲塔艦の調子である1基あたりの門数の少なさによって、「伊勢」は未だに10門が射撃可能である。
「撃て!」
砲術長が、よくもやってくれたな。そう敵艦をにらみつつ言う。
その直後、若干静かになった砲声が「伊勢」を襲う。
心なしか、艦を襲う衝撃も少なくなった。
そうとは言っても、36センチ砲10門の反動は凄まじいものがある。
それと前後して、敵艦も第六斉射を放って来る。
「伊勢」は門数で、劣勢に立たされたのだ。
「やってくれ」
武田艦長が、祈るように言う。
今しがた放った第八斉射の、1発でも砲塔に直撃してくれれば、今度は「伊勢」が門数で優位に立てるのだ。
そして、着弾の時がやってくる。
若干少なくなった水柱が、敵艦を覆う。
「命中弾2!」
見張り員が先に、報告を入れてくる。
「伊勢」は先ほどのまるで、先ほどの射撃を帳消しにするかのように、命中弾を出した。
そして、再び敵の斉射弾が「伊勢」の周囲に着弾する。
「後部に被弾1損害軽微」
後部見張り員から、簡単な報告が入る。
おそらく、ギリギリ装甲が貼られている箇所に当たり、砲弾を食い止めたのだろう。
「よし」
艦長が、ホッとしたように言った。
この程度なら問題ない。そう言いたげだった。
「伊勢」が第九斉射を、放つ。
それに合わせて、艦を激しい衝撃が襲う。
しかしこれは、自艦を傷つける類のものではない。
敵艦を叩きのめすための、ものだ。
「敵の砲塔を1基破壊した模様」
唐突に、見張り員から報告が入った。
「本当か?」
武田艦長は半信半疑の口調で、聞いた。
「はい確かです。今までに比べ、前部の砲撃に伴う閃光が少なかったです」
「そうか」
艦長は少し思案したのちに言った。
「着弾すれば分かるだろう。見逃さないようにしろ」
そう見張り員に言った。
それから、数秒たってから敵弾が飛来する。
その飛翔音が最大になった直後、「伊勢」をこれまでの様に水柱が、覆い尽くす。
「どうだ?」
艦長は素早く聞いた。今回が幸いにも直撃弾を喰らわなかったため、正確な数値が出るだろう。
「確認せる水柱の数は9本」
「やったか!砲術敵の砲塔を1基破壊した。」
そう艦長は砲術長に素早く伝える。
「本当ですか!」
砲術長が、喜色を前面に出して言った 。
「伊勢」は自力で劣勢を、覆したのだ。
「伊勢」は、第十斉射を勢いに乗せて放つ。
それと前後して、敵五番艦も第八斉射を「伊勢」に向けて放っている。
「伊勢」と「テネシー」今やどちらも手負いの獣とかして、敵艦に襲いかかっていた。
牙の数は「伊勢」の方が多い。
そして「伊勢」の第十斉射が、「テネシー」に襲いかかる。
今度は2箇所から、閃光が起こる。
艦の中央部と後部である。
中央部に当たった砲弾は、すでに破壊されていた高角砲などの残骸を、弾き飛ばす。
そして後部に当たった砲弾は装甲に食い止められ、鋼板をめくり上がらせる。
おそらく、「テネシー」の第四砲塔は後ろ方向への射界を制限されることになるだろう。
そして「伊勢」にもやはり、砲弾の雨が降り注ぐ。
「伊勢」は中央部に被弾した。
その瞬間、艦体が悲鳴をあげる。
老朽化した部分が、音を立てるのだろう。
今の被弾で「伊勢」は煙突に設置されていた、探照灯と25ミリ機銃を吹き飛ばされた。
先ほどの被弾時は、突き抜けてから炸裂したため、まだ残っていたのだ。
その衝撃が収まる頃「伊勢」は、第十一斉射を放つ。
「喰らえ!」
武田艦長が、渾身の力を込めて叫ぶ。
「伊勢」が放った10発の砲弾と「テネシー」が放った9発の砲弾が、空中で交錯する。
「撃て!」
その合図と共に、しばらく沈黙していた「大和」が、咆哮を発する。
現状「日向」以外に撃破された艦はない。
また、艦列の先頭に立っていることもあり、「大和」は敵二番艦、現一番艦に照準を合わせていた。
敵二番艦も「大和」が先ほど撃ち合った、敵一番艦と同じサウスダコタ級と見られている。
その見立ては合っており、敵二番艦は「インディアナ」であった。
現在その「インディアナ」は「加賀」と同等の砲戦を展開して居る。
だが斉射の数では、「インディアナ」の方が多かった。
なぜか、装填速度が「加賀」が改装によって35秒に1発に向上したのに対し「インディアナ」は、30秒に1発の割合で放てるのだ。
そう六斉射する頃には、「インディアナ」の方が斉射数で上回ることになるのだ。
だが「加賀」も引いてない。
斉射数では少ないが、一回に放つ数では多いため一斉射相手の方が多かったとしても、発射弾数ではそこまで劣っていないのだ。
「後部火災延焼します!」
その報告に「インディアナ」艦長メリル大佐は、軽く舌打ちした。
あまりに不甲斐ない。今の所主砲は全部健在であるが、高角砲などは相当数潰されていた。
それもこれも、絶妙に敵弾が急所を外しているからだが、加賀型戦艦の主砲弾ならば、むしろ砲塔に当たってくれた方が良い。
そう思っていた。
「インディアナ」の装甲ならば、むしろ被害を極限できるからである。
今の「インディアナ」は、後部を火災炎によって、照らし出されている状態なのだ。
夜戦ではないため、それで一気に不利な状況に追い込まれることはないが、敵の砲撃の精度は若干でも上がる。
それに対し「インディアナ」もすでに、4発の16インチ砲弾を命中させているが、加賀型戦艦は弱った様子を見せない。
おそらく砲塔の前盾や、弦側に当たり被害を与えられていないのだろう。
少なくとも、敵の砲塔を破壊してはいない。
「「サウスダコタ」被弾、落伍します!」
そんな報告が入ったのは、「インディアナ」が「加賀」と互角の砲戦を展開していた時だった。
「何!それで長官は?」
メリル艦長はそう見張り員に、聞いた。
「長官は無事です。今後は艦の保持に全力を尽くし、指示を出すとの事です」
電信室から報告が、来る。
「そうか、良かった」
砲戦は自軍が不利に進んでいる。
そうメリル艦長は、思った。
少なくとも撃破された数では自軍の方が上だ。
「敵一番艦発砲!」
その凶報が入ったのは、「インディアナ」が加賀型戦艦からの直撃弾を浴びた直後だった。
「本当か」
メリル艦長はそう、狼狽しながら言った。
「目標は本艦か、それとも「ノースカロライナ」か?」
そう呟いた。
「ノースカロライナ」は敵三番艦の砲塔を1基、破壊したと報告が届いていた。
そのため、敵の18インチ砲を搭載していると思われる、一番艦は「ノースカロライナ」を狙うのではないか?そう思ったのだ。
そして、砲弾が飛翔する音が最大に達した時、「インディアナ」は生涯で体験したことの無い、激震に襲われた。
直撃弾を浴びた訳ではない。
ただ至近弾を喰らっただけだ。
最初から至近弾を出す敵の技量も感心するものがあるが、それよりもその振動の方が凄まじい。
今までサシで戦っていた加賀型戦艦の、16インチ砲などとは比べものにならない、衝撃だ。
「旗艦「大和」からです。「加賀」は「土佐」の応援に迎え。敵二番艦は「大和」が相手取る。以上です」
唐突の命令電文だった。
「本当か?」
そう言ったのは「加賀」艦長、長野芳樹大佐である。
「本当です。間違いありません」
そう電信室の、解読員は譲らない。
「分かった。砲術あと1回、斉射したら目標を敵三番艦に変更だ。「土佐」の援護をする」
「了解です」
そう言うと少しのちに、「加賀」は敵二番艦に対する最後の斉射を行った。
それと前後して、「加賀」前方でめくるめく閃光がきらめき、殷殷 とした砲声が轟いて来る。
「大和」が、敵二番艦に向けて射撃を開始したのだ
そして暫くするとまず、「加賀」の放った砲弾が着弾し、盛大に水柱を立てる。
それが収まるよりも早く、「大和」の放った交互打ち方の3発の砲弾が着弾する。
「やはりすごいな」
そう長野艦長は、「加賀」艦橋で呟く。
数は少ないものの、「大和」の46センチ砲弾が立てる水柱は、「加賀」のそれに比べ高さでも幅でも、上回っていた。
砲の口径が違うのだから、当然だが明らかに迫力が違う。
「本艦も負けてられないな」
そう長野艦長は、「大和」の砲弾が立てた水柱を見ながら言った。
「分かってますよ。連合艦隊の象徴として長い事君臨してきた本艦の練度を、舐めないで下さい!」
そう伝声管を伝って、艦長の呟きを聞いたのか砲術長が、言った。
「分かってる。「大和」に戦果で負けるな!」
「その粋です!」
そう砲術長は言ったが、長野艦長はすでに負けてるよと、心の中で言った。
そんな事を言っては、士気を下げるだけである。
「絶対に逃すなよ!」
そう松田艦長は、砲術長に向けて言った。
結局「大和」は敵一番艦を仕留め損なっていたのだ。
そう撃破したはいいが、早々に落伍してしまった為に、とどめを刺せなかったのだ。
だから、今度こそとどめを刺す。
その決意が詰まっているようだった。
「判断は、合ってると思うか?」
意気軒昂にしていた松田艦長に高須長官が、静かに言った。
「はい現状では最善だと思います」
それは先ほど出して、命令電に就てである。
「特に「土佐」は第三砲塔を破壊されてしまいましたから、「加賀」を行かせるのはいいと思います」
「そうか、ならば問題ない」
そう言う間に、「大和」は第二射を放った。
まだ交互打ち方の為、衝撃は小さいがそれでも重々しいものは伝わってくる。
やはり46センチ砲の、射撃に伴う衝撃は凄まじいことを認識させられる。
第10話完
てな感じです
蒼き鋼のアルペジオ劇場版、見てきました
面白かったです
ネタバレはしませんが、蒼き鋼のアルペジオファンなら、見た方がいいと思います
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