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ラタタッタ!(Rat-a-tat-tat or: Honky Tonk Whooper-Dooper!!)  作者: 嘉野 令
Chapter 1 ゴンベ・ザ・ネームレス(Gonbe the Nameless)
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6/21

#004 ウサギの海賊旗

「わはーっ! ソレは大変デスね!」

「でしょー」

 リン・フェスタはついつい愚痴っぽくなってしまった。ツチグモを倒さなければならなくなったいきさつや癖の強い新入社員たちについてである。

「そういうことなら端数の八四レアルはまけるデスよ!」

「ホント、ごめん。ありがとう、ココロちゃん」

「いえいえ、フェスタさんにはこれからお得意様になってもらうデスからね!」

 イリオンシティ武器市場の外れ、行商人の集まる一画でのこと。

 リンは行商の少女――ココロ・ザ・ミゼットを訪ねていた。もちろん、八脚戦車ツチグモを倒すための武器を求めてのことである。

 行商人も賞金稼ぎと同様、無法の荒野を突っ走るため、荒くれ者の多い業界だ。先日、開業準備にこの市場を訪れたリンもランも、お財布の軽さも相まって、屈強な商人たちに相手にもされなかった。

 そこへ声を掛けてきたのが先々週からイリオンシティに滞在しているココロだった。見るからに幼い女の子で、訊けばまだ十六歳だという。リンよりふたつも年下で、しかもキャラバンに属さないフリーの行商人であった。若いのにたいしたものである。

 栗色の髪をサイドテールにまとめ、大きな瞳を輝かせるココロは女の子としてもとても垢抜けていた。工員のようなごっついエプロンなんて脱がして、ふりふりひらひらのお洋服を着せてあげたい感じである。あちこち改造した古臭い小型の三輪トラック――ダイハツ・ミゼットMPに武器を山ほど積んでいるというのに。

 フェスタ・カンパニーのマイクロバスもM2機関銃も、リンが腰に下げているモールチャン拳銃も先日ココロから買い求めた物である。さすがに嵩張るマイクロバス――タイプ2は、行商たる彼女の商品ではなく、顔の利くココロがフェスタ姉妹の代わりに購入してくれたものだが、それはさておき。

 しかも、タイプ2以外はその半額がツケだった。今回購入した二十世紀の傑作対戦車ランチャー――RPG-7もそうである。

 ココロ曰く「ボクは信じてるデスよ! おふたりがきっちりきっかり賞金首討ち取って来るって!」とのこと。えらく信頼されたものである。組合長といい、ゴンベといい、みんなの期待が嬉しくもあり重くもあり、リンは複雑だ。失敗は許されない。

 彼女が次の街へ旅立つ前に、なんとかしてツケを支払おう。リンは心の中でそう誓った。

「ランチャーはひとつでいいとしても、対戦車榴弾はもう何発かあった方がいいんじゃないデスか? 一発で大丈夫デス?」

 ココロの指摘はもっともであった。これでは銃があっても予備の弾がない状態である。とはいえ――

「いやー、そのー、これ以上は……」

 半額ツケにしてもらっても支払いはギリギリなのだ。しょっぱな大物を相手にすることになり、経営も家計も限界である。これもそれもゴンベのせいだ。

 商人の先輩としてココロに憧れるランも今日は会社で帳簿と格闘している。会いたがってはいたのだが、副社長兼CFO(最高財務責任者)の彼女の主戦場はデスクなのだ。その戦場は今、恐ろしいほどの劣勢に立たされている。

 懐事情を察してくれたココロが申し訳なさそうに切り出した。

「それならコレ、役に立つかわからないデスけど、おまけデス」

 差し出されたのは十本あまりのダイナマイト。西部開拓期の新大陸じゃあるまいし、さすがに兵器としては役立たないだろうが、使い方次第かも知れない。彼女なりに心配してくれているのだろう。

 むしろ、商人である彼女に対して、こちらの支払い能力――すなわち、貧乏っぷりの方が申し訳なく思えた。

「あぁん、ありがとう。ココロちゃん、あたしがお金持ちになったら結婚しよっか?」

 最大の感謝を伝えるジョークだったが――

「それよりボクは投資してもらった方が嬉しいデス!」

「あっ、はい。そーよね」

「はいデス! てへへっ♪」

 フられてしまった。

 そんな会話でふたりして一通り笑い合い、しめて四八六エスクードの支払いを済ますと、ココロがふいに話題を変えた。

「ところで、その、ゴンベって人はイケてる男デス?」

「は?」

 突然の話にリンはきょとんとした。少しだけ焦りを覚えつつ。

「なんで? どしたの急に」

「リンさんのお話聞いてると、その人、抜けてるフリして実は仕事できそうな気がするんデスよね。ツチグモのこともフェスタさんに利益を誘導してるように思えるデス」

 確かに、ビジネス大好きなランもそんなことを言っていた。だけど、そんな人間が丸腰で荒野を旅するだろうか。リンにはそこがわからない。

「あ、ボクは仕事のできる男をイケてるって思ってるデスからね?」

「なるほど、ココロちゃんらしいわ」

 納得である。思わず苦笑してしまった。

「それで、実際はどんな男なんデス?」

 筒状のRPG-7を両手に抱え、ずずいっと迫るココロ。仕事のなんのと言いつつ、男としての評価――もっと言えば、リンが彼をどう思っているのかを聞き出そうとしているのだろう。

 ちょっとしたコイバナを求められているようだが、そんな小っ恥ずかしい話などリンはまっぴらごめんだった。ツチグモの賞金でツケはしっかり支払うつもりだ。こんな話題でサービスする必要もない。

 などと自分に言い聞かせ――

「単なる……ヘンなヤツよ」

 ただ、そう答えた。


 翌朝、社員と助っ人が予定通り社屋に集まった。

 シャッターを開きタイプ2の前に並ぶと、リンを含めたった五人とはいえ、なかなかのパーティに見える。

 これなら、ツチグモにもきっと勝てる。

 自分で勝手に仕事着と定めた軍隊風のジャケットを着こみ、ネクタイもびしっと締めたリン・フェスタが四人の仲間に向き合った。

「みんな、おはよっ!」

 朝霧漂う倉庫街にリンの挨拶が響き渡った。

「お早う御座います、社長」

「おはよう、リンちゃん」

「おはよー」

「おはようございやす、組長」

 返事は見事にバラバラだった。

 しかし、リンはそれを心地良く感じていた。変な連中だが、自分の会社の、自分の部隊なのだ。実績はなくとも誇らしくはあった。

 妹にして副社長のラン・フェスタはいつも通りのセーラー服姿だが、今日だけはボディアーマーを着せている。最年少十二歳の彼女に万が一はあってはならない。

 ちなみに、ビジネスパーソンでありたいランは以前からスーツを着たがっているのだが、小柄な彼女に合うスーツがなく、学生時代の制服を着ている。

 同じ理屈で、レベルIIIのボディアーマーもランの体には大きすぎ、今やちんちくりんなロボットのような格好になっている。リンは今朝から笑いを堪えるのに大変だ。

 一方、幼馴染みであり助っ人のシア・クリスタラーも不思議な格好をしている。ヴィクトリア様式のいわゆるメイド服である。理由を訊くと――

「あら? じいやのお洋服を借りてくればよかったかしら?」

 と、のたまった。相変わらず答えがズレている。

 意味を勝手に解釈するに、お屋敷で幾人もの執事やメイドに囲まれて暮らすお嬢様にとって、女性用の仕事着といえばこれだったようである。

 そんなシアのエモノは七・九二ミリのMG42機関銃。二度目の世界大戦に使われた年代モノだが、ダレソレの電ノコと恐れられた実用性バッチリのシロモノである。もちろん、女の子ひとりで使うような武器ではないはずなのだが、彼女は軽々と肩に担いでいる。

 それどころか、もう片方の手には大きなランチバスケットまで携えている。予告通り、ティーセットとお弁当が入っているのだろう。

 もしかして、怪力?

 幼馴染みの思わぬ一面に戸惑いと頼もしさを感じつつ、リンは視線を移すと、今度は不安を覚えた。

 カレン・カレル――彼女は普段と変わらず、眠そうであった。

 服装もいつも通り。どこぞのゴンベじゃあるまいし、まさかとは思ったが、銃など持っていないらしい。手には、工具箱から引っ張り出してきたバールをひっさげている。

 リンもさすがにツッコんだ。

「カレン……それ、武器?」

「うんー。バールのようなもの」

「いや、そのものずばりバールだってば」

 相変わらず暖簾に腕押しだったのでリンは早々に諦めた。彼女はタイプ2の運転担当だし、そっちに専念してもらおう。

 それより問題は五人目にして唯一の男手――ゲン・オシノである。

 腹にサラシを巻き、膝小僧丸出しの短パン、足元は雪駄。すなわち、例の留置場で出会って以来の彼の一張羅だ。彼の辞書に防御力という言葉はないのだろう。

 それはまだいい。

「あんた、ヤクザなのに銃の一丁も持ってなかったの?」

「へい」

 またこれである。

 このご時世に無防備にも程があるだろうに。カレンといい、ゲンといい、ゴンベといい、無法の荒野と縁遠いはずのシアを見習って欲しいものである。

「言ってくれればココロちゃんから買っといたのに」

「いえ、組長。あっしはハジキがどうにも苦手でして」

 そういう彼のエモノは一尺九寸の長ドスであった。いったいぜんたい、カタナで戦車をどうしようというつもりなのか。ハラキリでもするのだろうか?

 腕っ節を買ったつもりだったのだが、いざとなったら囮にしようと、リンはこれまた諦めた。

「はいはい、じゃあみんな車に乗って」

 いろいろな諦観の末、腹をくくったリン・フェスタはぱんぱんと手を叩いて、パーティメンバーに乗車を促した。

 四人が乗り込み、最後にリンがドアに手をかけたとき――

「ま、間に合った!」

 ひとりの青年が朝霧を払って駆けてきた。

「ゴンベさん?」

「あんた、何しに来たの?」

 あの日、荒野で出会った旅の青年――ゴンベであった。

 よほど急いで来たのだろう。肩で息をし、例の笑顔に汗を浮かべている。

「今から、出発なんだよね?」

「そーよ」

 あえてそっけなく答えるリン。

 気にせず笑顔のゴンベ。

「ははは、間に合ってよかった! みんなの応援にって思って、実はプレゼント持ってきたんだ!」

 いったい何を、そんなリンのツッコミを待たず、ゴンベはばっと布を広げた。

 横長の長方形のその布には黒地に白い印章が描かれている。すなわち、海賊旗だった。だが、骨のクロスを背負っているのは、見慣れたしゃれこうべではなく、ウサギさん。

 それは、どこかファンシーなウサギの海賊旗であった。

挿絵(By みてみん)

「あっ、ウサギさんだ!」

「あら、かわいい!」

 ランとシアが食いついた。

「なに、これ?」

 ちょっとかわいいかも、なんて思いつつ、リンはそんな思いを隠すように冷たく訊いた。

「フェスタ・カンパニーのマークにいいかなって、作ってみたんだ!」

 食べ物なり飲み物なり武器弾薬なりの差し入れならともかく、ゴンベはよりによって旗なんていう無用の長物をプレゼントしにやってきたのだ。

「あ、ん、た、ねぇ……!」

「じゃあ、これを我が社の社章にします! ゴンベさん、ありがと!」

 ボディアーマーお化けのランが嬉しそうに勝手に決定した。わなわなと震えるリンをよそに、他のメンバーは盛り上がっている。

「ははは、どういたしまして! クロサワ映画で、戦場にはひらひらしたものがないと云々って言ってたの思い出したんだよね! 七人の侍だったかな?」

「こいつぁかっちけねぇ。あっしらはお侍みてぇに旗ぁ掲げるなんてこたねぇが、代紋はでぇじだ。代紋がねぇんじゃシマリがねぇ。どちらさんか存知やせんが、ありがてぇ」

 女の子だけじゃなくてゲン・オシノまでこれである。リンには何の話をしてるかいまいちわからなかったが。

 一度は車に乗ったメンバーがぞろぞろと降りてきて、タイプ2のフロントにウサギの海賊旗を括り付けている。

 ちょうど、車体前面に大きく刻印されたフォルクスワーゲン社の社章をフェスタ社の社章が覆う形になり、権利的にもバッチリだ!(もちろん、フォルクスワーゲン社は百年前に文明と共に崩壊している)

 そんなタイプ2の姿を見たカレン・カレルがぼそっと――

「ウサぴょん号」

 などと呟いた。酷いネーミングセンスである。

「カレンさん! それ採用! 今からこの車は――」

 酷いネーミングにもかかわらず、副社長はこれまた決定を下そうとするので社長は慌てて遮った。緊急取締役会である。

「こら、勝手に決めないの」

「ひにゃう!」

 でこぴん一発で副社長を黙らせる。

「せめて、そーね……せめて、ウサギ号にして」

 我ながら、これまた酷いネーミングだが、これならまだ恥ずかしくない。

「ウサぴょん」

 採用面接のときですら自己主張なんてしなかったカレンのくせになおも食い下がる。しかし、彼女は取締役ではない。発言権も議決権もない!

「うーさーぎーごーおっ! はい、決定!」

「ははは! じゃ、ウサギ号! しゅっぱーつ!」

 メンバー全員、タイプ2――改め、ウサギ号の前でわいわいやっていたら、いつの間にかひとり乗り込んでいる男がいる。

「えっ、あんたも行くの?」

「ははは、もちろんだよ!」

 ゴンベである。相も変わらず、荒野へ出ようというのに丸腰のまま。

「あんたはぜったい役に立たないのに……もぉ」

 こうして、なんやかんやありつつ、士気の高まったフェスタ・カンパニーは賞金首ツチグモ討伐へ出発した。

 降伏か死を選べと迫る、問答無用の旗――海賊旗を掲げて。

※誤字を修正しました。

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