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2/ピース4

 

 宣言どおり、ディスは毎日ここに来た。

 発掘作業は毎日行われた。

 ディスは相変わらずちいさくて、一日に運べる量は相変わらず少ない。

 しかし、ちりも積もれば島も浮かぶというやつで、小生のカウントによれば、現在ディスの家に運ばれた遺品の総数は百三十八にも上る。

 小生の鉄の脳味噌はその品々をしっかり覚えていた。

 遺hあえ品のディティールや用途、発掘した際にディスと交わしたやりとりだってしっかり記憶している。思い返してみると半分近くが知らない物で、小生は驚いてばかりだった。人類の文明とはすごい、と改めて思う。

 たとえばそれは、ゲーム機という名だったりした。

 これがまたすごい。

 見た目はただの箱なのだが、コードをつないで、ディスクを挿入し、電源を入れると、モニターに髭を生やした赤い服のおじさんが現れるというのだ。さらに、コントローラーを操作することで、そのおじさんを自由に操ることも出来るらしい。

 これに小生は興奮しまくった。

 ぜひやりたかった。

 ディスが言った。

「はい、これコントローラーね。持てる?」

 ぷに。

「持てる?」

 持てるわけがない。

「かわいい」

 殺意を覚えた。

 ああ、もういいや。うん、ゲーム機はどうでもいい。遊べてもろくなことがないに決まっている。クリやカメを踏んでも楽しくない。ほかに素晴らしいものはたくさんある。


 たとえばそれは、サングラスという名だったりした。

 これがまたすごい。

 見た目はただの黒いメガネなのだが、これを掛けるとなんと昼が夜になるのだ。暗いところを明るく見る機能なら小生の目にも搭載されているが、明るいところを暗く見る機能はついていない。しかも、これを掛けるとディスのような子供でもたちまち迫力あるワルに変身出来るのだ。

 これに小生は興奮しまくった。

 ぜひ掛けてみたかった。

 掛けてみた。

 ディスが言った。

「鏡があるから、覗いてごらん」

 怪しげな犬が一匹映った。

 ──やっぱいらない。

 この事実に小生は少なからずプライドを傷つけられた。が、所詮はただの遮光眼鏡だ。そんなもんが似合わなくても困らないし、小生は眩しくないから平気である。大丈夫、拗ねてない。ほかに素晴らしいものはたくさんある。


 たとえばそれは、扇風機という名だったりした。

 これがまたすごい。

 見た目はただの──なんか変なものだが、コンセントを差し込み、電源を入れると、上部についている羽根が高速で回転し、涼しい風を送るというのだ。

 これに小生は興奮しまくった。

 ぜひ回したかった。

 ディスが言った。

「電気がない」

 だよね。

 ──なんて使えない機械だ。電気がなければただの粗大ゴミだ。邪魔になるだけなので直ちに処分するべきだ。大体、小生は涼しい風がなくても体温は自在に調節できるから扇風機なんて要らないのだ。ほかに素晴らしいものはたくさんある。


 たとえばそれは、竹とんぼという名だったりした。

 これがまたすごい。

 見た目はただの竹で出来た棒付きプロペラなのだが、棒の部分を両手で挟んでおもいっきり回すと、回転する羽根が空気に押し上げられて空を飛ぶのだ。

 これに小生は興奮しまくった。

 ぜひ戯れたかった。

 ディスは竹とんぼを手にすると、慣れた手つきで飛ばして見せた。

「それ行けっ」

 小生はディスが飛ばした竹とんぼの影を追って天化の草原を走りまくる。

 とはいえ一回の滞空時間はせいぜい十数秒程度だから、竹とんぼが墜落するたびにディスの元へと戻っては「飛ばせ飛ばせ」とせがんだ。ディスは相変わらず表情に乏しい顔をしていたが、その一瞬だけ、かすかに笑ったように思う。

 せわしいと時間も忘れる。

 あっという間に日が暮れる。

 旅をしていたときよりもずっと一日を短く感じる。

 ディスは「も疲れた」と言って、死んだように草原にぶっ倒れた。小生はぜんぜん疲れていなかったけれど、「そうだな」と言ってディスの隣に腰を下ろした。

 草原の先には、薄いオレンジの海が見えた。

 扇風機を回す電気がなくても、涼しい風は十分吹いていた。

「なあディス」

 死んだままディスはうなる。

「んー?」

「ゲーム機もサングラスも扇風機も竹とんぼもすごいけど、もっともっとすごいものはないのか? ぴかぴか光るやつとか、ぶんぶん動くやつとか」

 ディスは「よいしょ」と蘇生して、

「シュシュがすごいって思うかは別だけど、まだ発掘してなくて、わたしが大好きだったおもちゃが一つあるよ」

「どんなだ?」

 丸い。とディスは言った。

 直径は5センチくらいで、色は黒で、ほんの少し楕円の形をしていて、つるつるで、それ以外の特徴は特にない──ディスの説明を総括すると、こんなところである。

「よしきた。もう時間もないし、すぐ見つけてやるからな」

 地面に飛びついて片っ端から鼻を利かせる。ディスの特徴を頭の中で反芻させるが、その形は何度想像してもただの石ころにしかならなかった。墓の下の品々はだいぶ減ってきたが、それでも一度に把握しきれる数ではない。あれは違うこれも違う、七回も石ころと間違えて、ようやく見つけたときにはもう日没間近の時間帯だった。

 黒真珠みたいにつるつるの表面を持った直径5センチで楕円型のブツが、頭の中にしっかりと形を持っている。

「みっけた」

 ディスがちいさく頷き、魔法を使う。

 もう随分と慣れたものだ。緑の光に一瞬目をつむり、次の瞬間にはディスの手の平の上に“それ”が乗っている。たった今、頭に思い描いていた黒い球体。

「これはね、蛍星っていうの」

 そいつを摘まんでディスは言う。

 なんだこりゃ、と小生は顔を近づけようとする。しかし、ディスはなぜか蛍星を小生から遠ざけて、

「だめ。おあずけ」

「待て待て、見てるだけじゃ楽しくないぞ。どうすごいんだ、それ?」

 ディスは意味深に微笑んで、一言。

「夜になれば分かるよ」

「──でも、ディスは夜になる前に帰っちゃうだろ?」

 ディスは日没にやってくるバスで帰る。

 天化のバスはそれが最終で、次のバスは朝まで待たなければならない。となると、その蛍星とやらがどうすごいのか、結局は分からず仕舞いではないだろうか。

 ディスはあごに手を当ててひとしきり考えたあと、こんなことを言った。

「じゃあ、今日はお泊りだね」

 思わず目を見開いた。

 にやけそうになる顔はなんとか抑えれたはずである。我ながら子供っぽいなとは思いながらも、言い放つ声はどうしても無愛想な声になってしまう。

「ここで寝ると、あれだ、風邪ひくぞ」

「平気だよ。シュシュの身体はあったかいから」

 ──にやけた。



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