第四章、神との戦闘は普通ラストですよね(2)
「それが、ジェイルの奥の手だね。私のフィンスグレイを受けても尚攻勢にでれるその気概、本当に楽しいね。ねえ、アイもそう思うでしょ?」
「この威力……君のそれに近いレベルじゃないか……全く、規格外だな」
それはお互い様じゃないの?
姿が目視される前に、クレイゴーレムを差し向ける。
俺は次弾装填の為、次の小岩を拾う。
「君は? ……そうか、君がジェイルの契約神なんだね。いいよ、かかっておいでよ! 楽しもう!」
正面から殴り合うクレイゴーレムとアルさん。
アルさんはそのセンスから、殆どの攻撃がガードされる。対してクレイゴーレムは、その鋭い打撃を回避等出来ずガンガンダメージを負う。
「行くよ……クレイ、爆破! パワースローイング! そして、召喚、ロックゴーレム!」
「な、自爆するっての!?」
その身を爆発させて、ダメージを与えるクレイゴーレム。同時に俺の打ち出した、先程と同じ投擲をその腕で受け止めようとする。
「動きが重い……これも、作戦の内? 避けきれない……く、……初めより威力が高い!? 段違いじゃない! ーーこの!!」
受けきるにはダメージが高いと判断したのか、側面に逸らして対処するアルさん。
しかし、逸らされた小岩は、新たな俺の召喚獣、岩で出来た召喚獣、ロックゴーレムとなり後方より襲撃を開始する。
「きゃっ!? 何? 新しい召喚神? いつの間に後ろに?」
クレイゴーレム最大の特徴、触れた対象に無差別に行動の遅延化を与えるスロウ効果のせいで、ロックゴーレムも俺の格闘熟練の効果を最大限に享受しながら戦える。
「この、私がこんなものじゃ……」
「判ってるよ。まだまだ行くよ……パワースローイング!」
「ぐ……やるじゃない」
スロウとロックゴーレムの力で、初めて直撃する俺の奥義。
「好機を逃す事はしない! ロック、パージ! 次いでレイムノント!」
追加効果はないが、ロックゴーレムもその身を砕いて範囲にダメージを与える。
「この子も爆発するの!? でも、その分脆くなったわね……きゃっ!?」
両手を回すように前方に移動させると、合わせてアルさんに向ける。
そして、そこを中心にアルさん全てを包み込むような光を生み出した。
「どうだ! 少しは効果あったろう?」
「はぁ、凄いなぁ、ジェイルは。ここまでアルにダメージを与えられる人間はこの世界にはいないよ」
感心したようにアイネスさんが俺を見ている。
「ーーほんとうにつよいね、ジェイル」
何でもない声の筈なのに、心の底からぞっとして訳もなく距離をとる。
アルさんの近くにいたロックゴーレムは、何かに貫かれそのまま姿を岩に帰する。
「私がこれを手にしたのは三百年振りよ。誇っていいわよ?」
「それは……弓? そうか、月の女神アルテミスは狩猟を司る……じゃあ、それが……」
「そう。よく知ってるね。これが、私を神の座に押し上げた弓、女神の聖弓」
黄金に輝く、弓を手にしたアルさん。あの弓を見てると体の震えが止まらない。
「これが、神の真の姿……召喚、ドライアード」
常に萎えそうになる心を奮いたてて、最後の召喚獣、ドライアードを呼び出す。
「俺と共に行けるか?」
「うん。マスターはお兄ちゃんだけ。頑張るよ」
ドライアードが言葉を話した事は以外だったが、正直それ所じゃない。
「まだ、召喚神がいたんだ……向こうの世界では超一流の戦士だったんじゃないの?」
「そんな事無いよ。俺は一寸は優遇されてたみたいだけど、ただのプレイヤーだったし……ドライ、俺も補助する。全力でリーフストームだ」
「うん。わかった」
俺は一撃だけ召喚獣の攻撃力をあげるスキル、幻獣の咆哮を発動させる。
「まだ、手があったんだ? これが大一番だね」
「そうだ。アルさん。俺の全力、受け止めてくれるね?」
「勿論よ! さあ、来なさい! 月の女神、アルテミスが君の攻撃、全て受け止めてあげるわ!」
ドライアードの全力の為、先にコボルトの幻獣、キャリーストレイシスを呼び出してスキルを発動させる。
「来い、キャリーストレイシス!」
「私は露払いか……まあ、構わんが。行くぞ、獣桜邁進!」
半透明な二刀流のコボルトは、その剣を地に叩きつける。
すると、彼を中心にドーム状に爆発が巻き起こった。
「行くぞ、ドライ」
「うん。リーフストーム!」
ドライアードは葉を作り出すと、段々球形になりそこから無数の鋭利な葉を放ち続けた。
「これで駄目ならもう打つ手がない……って、全然平気そうだな。もう駄目だぁ!」
「マスター、頑張った。いい子、いい子」
俺が子供のせいで、幼女の見た目のドライアードと見た目が逆転した感がある。
頭を撫でられるなんて久しぶりだ。
「マスター、まだ終わってないみたいだぞ?」
「キャリー、まだいたのか? そりゃあ終わらないさ。逆立ちしたって勝てる相手じゃないんだから」
でも、疲労と緊張感もピーク。もう動けない。
体が震える事からも、まだあの弓がある事を感じる。
「こんな隠し玉があったんだね。でも、流石にもう打ち止めかな?」
「もう無理。魔力はまだあるけど、精神的にも肉体的にももう何も出来そうもない」
やはり、これといった傷を負ってるように見えないアルさん。
神とチートであってもただの人との差は歴然だったな。
「そうか、そうか。じゃあ、もう終りね。いやぁ、楽しかったね、ジェイル」
「……へ?」
「確かに、ジェイルは凄かったよ。私はアルの弓は初めて見たよ」
口々に俺をほめたたえる二人。
……そう言えば、一寸組み手とかしよ? みたいなノリだったっけ?
「はぁ、無事で良かったぁ。死ぬかと思った」
「良かった、マスター」
「さっきから我慢してたんだけど……この子可愛い!!!」
アルさんによってさらわれるドライアード。
神は急に誘拐犯になった。
「スキルだけでなく、見事な采配だった。ジェイルはオールラウンダーなんだなぁ。これなら、私が言える事はないなぁ」
「マスターよ。少し、いいだろうか?」
「ん? キャリーか。どうしたんだ?」
半透明なコボルトはその犬の顔で俺を見つめる。
「時間がないから要点だけ聞いてくれ。マスターがいるこの世界は決してOOの不具合やあの世界の誰かが仕組んだ事ではない。これはマスターが世界に選ばれた結果だ」
「急だな。あの世界には俺の大切な妹がいるんたが?」
「すまんが、マスター、が元の世界に戻れる可、能性は限りなく、低い」
なんかキャリーストレイシスの言葉が途切れ途切れになってきた。
「そうか、わかった。ある程度覚悟はしてたんだ。未練はあるが、後悔はない。出来る限り生きていくさ」
「そ、れでこそ私の、マスターだ」
半透明なその体が、段々薄れていく。
「私はあの世界に縛ら、れている、んだ。済ま、ないがここでお別れだ」
「そうか、付き合いは短かったが、お前関連のクエストは楽しかったよ」
「私もだ。もし、また会えたらその時は貴方の専従の召喚神になろう……さらばだ」
消えるキャリーストレイシス。何が何だか判らなかったが、覚悟は決まった。
アイネスさんやアルさん、アルさんから逃げ出してきたドライアードを見ながら、この後の人生が楽しい物になる事を祈りながら俺は意識を手放した。