第四章、神との戦闘は普通ラストですよね(1)
さて、俺は全てを見通す神の力、千里眼を手に入れた。
効果は全てを見通す、とは行かず、相手のスキルがわかるだけだったけど、俺には効果が強すぎて辺り構わず発動してしまっていた。
故に、一時的に封印された。
手に着けられた腕輪を見る。
「封印したし、振り出しに戻ったのかな?」
「そんな事ないよ。封印しても、自分の体に封じてる訳だから、自身は効果範囲外だから……」
じゃあ、と、目をつぶってOOのようなスキル画面を想像してみる。
………………おお! 出たし!
ええ、と……殆どゲーム内と変わらないし。
ひょっとして、この瞬間俺の体って超絶強化されたんじゃないだろうか?
一寸その辺の岩でも殴ってみるか。
よいしょっと!
「…………アイ、見た? 今の」
「見たよ……これがジェイルの本当の力……」
おお、粉々になったな。って、何で凝視してるの!? 二人とも!
「あ、あの~」
「ジェイル、私と勝負しましょ? いや、むしろするわ! 異論は認めない!」
え、じゃあ、俺に疑問符をもって聞く意味なくない?
「えっと……アイネスさん?」
「私もジェイルの力に興味があるな」
そんな笑顔で言われても……。
「これは多分ゲーム内の力で……実際には……」
「ここで効果があるなら、もうそれはジェイルの力だよ。大丈夫、アルがちゃんと手加減してくれるから」
指を鳴らしながら、満面の笑顔で俺の前に立つアルさん。
「アイネスさん……」
「大丈夫だよ……多分」
自分のこの力も試してみたいし……避けられないイベントみたいだし、仕方ない。持てる力の全てを持ってぶつかるか。
「じゃあ、「小手柔らかに……なんていわないよね?」……マジか!?」
異世界滞在一週間弱で死ななきゃいいけど……。
「さあさあ、まずはどうする? 何でもやっていいよ」
「スキルはあるけど、召喚獣は精霊の腕輪がない。契約が切れてるかもしれないから使えないだろうし……自分の力だけで戦うしかないか。じゃあ、まずは……」
落ちていた石を拾う。小石程度の石は、俺の固有スキル、ランクアップの効果で握り拳大の岩に姿を変える。
「おお!? 何それ? 私、そんなスキル知らないよ!?」
「そうですか、じゃあ、とりあえず意表はつけましたね」
その岩を鍛冶スキルを使って、石の剣に変える。
「……ジェイルの世界じゃ、そんな事が出来るのかい!?」
「さあ、他には見た事はないけど……よし、盾も出来た。体が小さくてよかったな。体積が少なくて済む。スキル、ディフェンス!」
守備をあげ、石で作ったバックラーを装着して戦闘体制を整える。
「流石、異界から来た子ね。神聖魔法に武具創造、そして手にしたアイテムを強化するスキル。アイと同じマルチスキルの所有者なのね……わくわくするわね」
「さて、行きますよっと!」
小岩を投擲スキルと速度アップ、攻撃速度アップのスキルで威力、速度が強化して手投げ攻撃を行う。
「おお!? 早くなった! ふむふむ、威力も上がってるね。これだけでも、並の中堅冒険者以上の威力ね……来たわね」
「でええええい! スキル、パワーアタック!」
投擲はアルさんの手に受け止められ、握りつぶされる。
俺は接近すると、スキル、パワーアタックでより威力を込めた斬り下ろしを行う。
「早いけど……威力はさっきの石の方が高いね。こんな感じが、ジェイルの力?」
「受け止めるとかありか? だが、まだまだ! シールドバッシュ!」
石で作ったから……いや、きっと関係ないな。石の剣の刃を掴まれた為、盾での打撃を行う。
「へえ、中々痛いね……体が動かない?」
「スタン効果か!? あの、アルに?」
動きの止まったアルさん。しかし、手は石の剣を離しそうに無かった為、剣を離して両手、両足でラッシュをかける。
格闘熟練のスキルも高いし、きっと武器なしでもダメージが入るだろう。
「あたたたたたたたたぁ!! そして、これでラスト!」
両手での突き出しで、アルさんを後方へ後退させると気合いを込めて正拳突きを叩き込んだ。
「はあ、はあ、はあ……どうだ? 少しはダメージ入ったか?」
「いやぁ、一寸油断してたよ」
「ーー!?」
倒れているアルさんを、警戒し構えを解かぬまま凝視していた。
すると急に眼前に何だかよく判らない光が俺に向かって迫ってきた。
俺はパリングと持ち前の胴体視力だけで回避する。
「見てからあれを避けれるんだぁ。凄いよ、ジェイル! 楽しくなってきたね」
後方を見る……光の直線上が焦げてるんだけど……当たったら死ぬぞ、あれ。
特にダメージ無く起きあがるのは想定内だったけど、まさか、あんな攻撃をしてくるのは想定外だ。
「じゃあ、今度はこっちの番だね……キチンと避けてね。じゃないと、死ぬよ?」
「いや、まっ!?」
指先を此方に向けて、光を込める。そして……。
「って、レーザーかぁ! 避けれるか、んなもん! 死ぬわ!!!」
「おお、うまいうまい。避けれるじゃない?」
次々に放たれる光線状の光を、回避して、石の盾で逸らし、時には拾った岩で軌道を逸らし、と出来うる限り当たらないように動き回る。
「じゃあ、難易度をあげるよ。両手ね?」
「馬鹿っ!? そんなの無理だから!!」
光線は倍になる。
本気で俺を亡き者にする気か!?
今までの人生でベストに入る回避性能を見せる俺。
所々体が焦げているが、未だ直撃がない事に流石に驚いたようだ。
「これでも一撃も当てられないんだ? じゃあ、とっておき、行くよぉ!」
「アル、それは駄目だ!」
「え? って……あ」
「あ、じゃなーい!!」
今までが線だったなら、今撃たれたのは波動砲。とても、回避行動なんかとれるものじゃない。
俺は急いで拾い集めた物を、ランクアップで巨大化させる。
そして、石の盾も何重にも重ねて、すぐに着弾する波動砲に備える。
「こんな馬鹿な事で俺は死なんぞぉぉぉぉぉぉ」
そんなもの、初めから無かったかのように塵に帰すと、その力の奔流は俺の体を容易く飲み込んだ。
「あーやりすぎちゃった。ジェイル、生きてるよね?」
「私も、ジェイルのあまりの強さに気付くのが遅くなってしまった。急いで回復魔法をかけないと!」
「待って、まだまだこれから見たいよ、ジェイル」
巻き起こる噴煙。
目の前の視界さえ定かじゃない。
そんな中、俺は目の前に立つとても頼りになる大きな背中が崩れていくのを見ていた。
「クレイ、俺を助けてくれたのか?」
彼は何も言わない。OOでも彼は物言わぬ、忠実な戦士でいてくれた。
「この世界でも、俺と共にいてくれるのか?」
ボロボロと他の泥と同化していく中、確かに彼は頷いてくれた。
「なら、もう少し気合い入れるか! スキル、召喚クレイゴーレム!」
俺は砂煙で姿が見えない間に、改めて泥から出来た俺の召喚獣の一柱、クレイゴーレムを呼び出す。
そして、再度石の剣を作り出すと手にした小岩を空に浮かせてスキルを発動した。
「さあ、勝負はまだこれからだぜ! パワースローイング!」
石の剣で打ち出した小岩は、轟音と共に砂煙を切り裂くようにアルさんに向かって飛翔した。