第十八章、受付は家族の予感(5)
俺は今、義理の家族になる家で食事会に参加している。
ギルドの受付嬢のフラム=リザムに、何の因果かはたまた罠か、義弟になる事になったのだ。
自分で取ってきたグレートボアが綺麗なステーキになって姿を表す。
専属のコックが料理を作ってるんだから、当然味は絶品だ。
フラム家は、正直大豪邸だった。メイドや執事は当然として、父親であるダンタリアン=リザムはギルドマスターだ。
付け入る隙がないな。
絶品の料理を堪能していた時、おもむろにダンタリアン義父が口を開いた。
「では、そろそろお前達からもジェイルに自己紹介をしようか?」
「今更か!?」
そう、今この場には6人の人間が食事をとっているが、俺は半分しか知らないのだ。
義父であるダンタリアン=リザム、先程、ワイルドボア……結果的に他のモンスター退治になったが……を狩りに行ったチュール=リザム、そして、俺をこの場に導いてくれた受付嬢、フラム=リザムた。
「じゃあ、まず俺からな。俺はチュール=リザム。義理とはいえ長男だ。速さには自信があるぜ!」
自信ね……ずっといってるな。じゃあ、一寸見てみるか。
スキルの千里眼を発動させて、チュールのスキルを確認する。
チュール=リザム
トリックスター
18歳
男
人間
所持スキル
移動速度アップ、レベル1/3
行動速度アップ、レベル1/2
鈍器熟練、レベル0/2
ふむ、確かに速度系のスキルが上がってるな。
行動速度ってなんだ? 自分の行動全てって事? だとしたら、それはまたとんでもないな。
「次……私……ミスティ=リザム」
「……え?」
「今日から……お兄ちゃん……握手」
「あ、ああ、握手か……宜しく、ミスティ」
次いで俺に握手を求めてきたのは、可愛らしいゴスロリ系ファッションの女の子だった。
この世界にもゴスロリなんてあるんだ?
「ミスティは魔法が凄いんだ。まだ、魔法学園に入学してないのに、沢山の魔法が使えるんだぜ」
チュール、お前の番は終わっただろう。一寸黙ってような。
ミスティ=リザム
13歳
女
人間
所持スキル
精霊魔法詠唱短縮、レベル0/2
精霊魔法思考詠唱、レベル0/1
精霊魔法熟練(風)レベル0/2
ううーん。これからが楽しみな素敵才能だ。
しかし、お兄ちゃんか……向こうの妹はビル立ち並ぶ大東京で元気にやってるだろうか?
「……お兄ちゃん……どうしたの?」
「何でもないよ」
それにしても、ミスティ=リザムも養子の一人らしい。ダンタリアン義父の実子はフラム姉さんだけなんだろうか?
「最後は僕ですね。僕はウィリアムズ=リザム。お兄さん達と同じで血は繋がってないです。5歳です。チュール兄さん達と違って、僕には特にお兄さんに言えるような特技なんてないんです。ごめんなさい」
「何言ってるんだよ! ウィリアムズには弓の才能がもりもりあるじゃないか! この間もアガスティア杯で準優勝だったじゃないか!」
末弟となるウィリアムズ=リザム派弓の才能ありか……。
「凄いじゃないか。大会で実力を残せる位の腕前なのか?」
「いいえ、そんな大した事ではないんです。子供が僕だけだったから、皆さんが花を持たせてくれただけです」
「だから、賞金が出てるのに冒険者が手を抜くかよ。相変わらず自己評価が低いな、ウィリアムズは」
弓は自身の精神が結果を左右する。立派な才能だよ。
ウィリアムズ=リザム
5歳
所持スキル
強心臓、レベル1/1
鷹の目、レベル1/1
弓熟練、レベル1/4
俺よりよっぽどレアスキルだし……。
「私が貴方のお母さんになるメルビー=リザムよ! お母さんって呼んで頂戴ね」
「ーー!? ちょ、お母様……」
「フラム姉さんはお母様で、俺は母さんって呼び方でいいのですか?」
待ちきれなかったのか、ウィリアムズとの会話中に急に抱きついてきた義母らメルビー=リザムさん。
「勿論よ! だって、お母様なんて、この子が勝手に呼んでるだけだし……チュールちゃん達だってそうよ?」
「だって、それは、ギルドマスターの娘として……」
「そんなの、どうだっていいのよ! フラムちゃんもママって呼んでよ」
「言い方変わってるし……お母さんじゃなかったの!?」
……こういう人か。まあ、俺としては楽だからいいや。
「了解した。宜しく、メルビー母さん。所で……そろそろ離してくれないかな? 俺はまだ食事中なんだが?」
「……仕方ないわねぇ。じゃあ、また、後でね」
「母さんばっかり狡いな。私も後で抱っこしてもいいかい?」
「あっ、俺も俺も!」
「……私も」
「お兄さん、ごめんね。僕もいいですか?」
……ここはこんな家族の集まりなのか?
「それが、家族の儀式っていうなら受けよう。ただし、基本はお断りだ。覚えておいてくれ」
「ごめんね、お母様達も悪い人じゃないんだけど、家族が大好きだから……」
「フラム姉さんはいいのか?」
フラム姉さんは笑って首を横に振った。疲れたような顔が、日頃の苦労を感じさせた。
悪意がないけどたちが悪い陽気すぎる家族に苦労する子供か……俺もそうだったな。なんか、親近感沸くわ。
「大変だったんだな」
「わかってくれる?」
なんか……一ランク仲良くなったような気がした。
「それで、ジェイル。鍛冶スキルが使えるって、聞いたんだが?」
「急だな。使えるけど、それがどうかしました?」
「いや、鍛冶職人でも数える位しか持ってないスキルだ。良ければ見せてくれ」
なんか、一段落ついてから俺の持つスキルを説明しているとダンタリアン義父がそんな事を言ってきた。
「構わないけど素材を……」
「ほら、これ使えよ! スプーン」
チュールが、自分の使っていた銀のスプーンを投げてくる。
この屋敷の物だろ? これだって、並みの武器以上の価値があるだろう? 凄く抵抗があるんだが?
「こんなもので足りるのか?」
「まあ……これを使ってもいいのか? 元には戻せないぞ。結構するんだろう?」
「大したものじゃない。それでいいなら、使って見せてくれ」
く、ブルジョワめ……明らかに高級品なのに……。
「……ワクワク、ドキドキ……」
「ジェイルちゃん、何をするの?」
「……あそこから、何か作るんだって」
ああ、ミスティ。説明が足りない。メルビー母さんがおかしな勘違いしてるじゃないか。
いやいや、チーズケーキとかアイスなんて言われても出来ないからね。
言われるままに合成して銀の細剣、シルバーフルーレを創り出す。
「これがスキルか……俺初めて見たよ」
「僕もです。凄いですね」
「……お兄ちゃん……格好いい」
チュールに渡すと、物珍しそうにべたべた触りまくる。
「ジェイル……」
「どうしました? ダンタリアン義父」
何なら難しい顔をしながら俺を見ている。
何かミスったか? 実は人に見せちゃ駄目だったとか?
「その刀身は見事だね……だが……」
「ああ、銀以外の部位ですね。なんだかわからないんですけど、明らかに他の素材だな、と思う所も一緒に出来上がるんですよ」
「それだ、ジェイル。それは鍛冶スキルじゃない。神属性の魔術だ」
何? 神聖魔法って事か? 確かに俺にはその適正もあるな。
「いや、違う。なんといえばいいかな。神属性とは本来魔法とは分類されない。本来は高位神官の祈りだけで発動する奇跡の事だ。他に言いようがないのでそう表現するが……理屈はわからんがジェイルにも使えてると言うだけだ」
どういう事か……詳しく聞いてみると、鍛冶スキルで作れるのはあくまで銀の部分。つまり刀身だけ。
羽根飾りや持ち手はやはり別の素材が必要。
しかし、作れてるのは何故か俺がやり方を知ってるから。
一般的な魔法で補ってない証明は、作った部位がすぐに消えない事からも明らからしい。
何で出来るかって……そんなの知るか。俺には様々な理由が混じり合ってるから。
結局スキルがないのに魔法は使えてるのと、同じ理屈らしい。
鍛冶スキルを使った刀身と比べて、付加効果も強度も全くない、との事だ。
「だから、ローブはただのローブだったのか……」
「まあ、使えるジェイルが非常識なんだがね。普通は理屈はわかっても神の属性など使いこなせないさ」
逆に考えれば、質が落ちるが何でも作れると言うことか。
義家族の達に色々作りながら、また一つ戦略の幅が広がったな、と思わずにはいられなかった。
そして俺がこんな物を作れることは、いきなりリザム家のトップシークレットになった。
なんか申し訳ないな。




