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第十八章、受付は家族の予感(4)

「改めて紹介しよう。私達の新しい家族になるジェイル=リザムだ」


 びっくりする位大きな広間(食事が並んでるし食堂なのか?)で、俺は自身の紹介をしてくれる義父、ダンタリアン=リザムの言葉を受けて後方待機から前に躍り出る。


「私が君達の義弟になる男、ジェイル=リザムだ。私の持つスキルの数々は、君達一族の悲願達成に必ず助けになると信じている! よろしく頼む」

「そうじゃないでしょ!」


 気合いを入れての自己紹介に、義姉のギルド受付嬢のフラム=リザム姉さんのツッコミが突き刺さる。


「…………痛い」

「私が言ったのはそんな事じゃないから! 印象に残るように、分かり易く元気にとは言ったけど嘘歴史まで作って印象付けようとする必要ないわよ!」


 ふむ、フラム姉さんからインパクトを、と言われたからそれなりの対応をしてみたが駄目だったか。


「お父様、お母様、皆も違うのよ? 彼、そんな事が言いたかった訳じゃなくて、私が説明を間違えただけで……」


 おおおおおお!!


 俺のついた嘘八百に、何故か屋敷にいた全ての人間が歓声を上げた。


「え!? な、何? 何なの!?」

「俺が知るか! 何が起こってる!?」


 党首のダンタリアン義父は勿論、義母となると思われるフラム姉さんによく似た女性、チュールや年下だろう俺の義兄弟になると思われる子供達、メイドやコックにいたるまでの全ての人間が万歳三唱だ。

 俺はただ混乱だけだが、彼等をよく知るフラム姉さんにしたらそんなレベルじゃないだろう。


「ねぇ、皆、どうしたの!? しっかりして!」

「何に喜んでるのか全くわからんが、流石に長いし飽きてきたな。フラム姉さんがよければ少し黙らせるが?」


 俺が話しかけてる途中から、むしろ早くやってと言わんばかりに涙目でこっちを見てくる。


「鍛冶熟練……」


 テーブルにあったスプーンを掴んで鉄の槍を創り出す。


「じゃあ、行くぞ?」

「怪我は……」

「大丈夫、物理的接触はない……筈だから」


 左手で槍を持つと床に向かって叩きつける。


 振動から巻き起こる衝撃に、その場にいた全員が足を払われたように倒れ込む。


「俺の知らない所で騒ぐな。理由を説明しろ」

「そうじゃないでしょ!」

「……痛い」


 何なら、フラム姉さんは俺に打撃を加えるのを楽しんでいる節がある気がする。


「何か違ったか?」

「ちがうわよ! そんな意味でお願いしたんじゃないわ!」


 ふむ、人の期待に応えるのは難しいな。


「で、何をそんなに五月蝿く喚いていたんだ?」

「私が言うのも何だけど、もう気を使うの止めたの?」


 もういい、そんなめんどくさいの。どれをとっても結局俺だ。向こうになれてもらおう。


「ああ、済まないね。つい、はしゃぎすぎてしまった」

「でも、あなた。今から先が楽しみね」

「俺達も協力するから、がんばろうな」


 チュールが肩に手をかけて同意を求めてくる……何を言ってるんだ?


 そして、また騒ぎ出す家人達。


 学習能力ないのか、お前等は?


「だから……」

「皆、いい加減に、しなさーい!!」


 俺が何度か風圧で黙らせていたが効果はなく、最終的には爆発したフラム姉さんにより全員正座でお説教となった。


 何故俺も?





「で、なんで私の話を聞いてくれなかっなの?」

「フラム、私は足が痺れてきたので、そろそろ椅子に座りたい……「なに?」……なんでもないです」

「姉ちゃん! 違うんだよ。だって、ジェイルが俺達リザム家の悲願を叶えてくれるって言うから……」


 わかってはいたが、やはり、俺の言葉が原因か。それにしても……。


「ダンタリアン義父。フラム姉さんは知らなそうだが、この家に伝わる大願と言うのを教えてくれないか?」

「そうか……フラムにはまだ話してなかったな。私達リザム家の開祖はな、エロル=リザムと言ってな、昔はこの大陸で随一と言っても過言ではない位の英雄だったんだ」


 ……まあ、御伽噺の導入部分ならこんなものか? 一寸所ではなく盛ってる感じするけど。


「真偽のほどは?」

「詳しく知らないけど、強かったのは本当みたいよ。歴史書にも名前が出るくらいの剣豪みたいだから」


 フラム姉さん、本当に興味ないんだな。反応が淡白過ぎる。


「そう、史上最高の剣士であったエロル=リザムが、終生で唯一引き分けた相手がいた。その男に勝利するのが私達一族の悲願だ」


 随分長生きだな……って、違う! そんな化石の時代の人間が長生きするか! いや、待てよ。アイネスさんが竜人な位だ。ひょっとしたら! ひょっとするか。確認する必要があるな。


「その相手は人間なのか?」

「いや、違う。竜の中でも最も神に近いと言われた虹竜、リューグレジェンドだ」


 うーん、なんか……この世界の冒険者の一般的なレベルを考えると、一万年経っても無理だぜ、そんなの。


「複数の色持ちの竜……」

「そんな話し、私初めて聞いた……」


 竜とは、その名に付く色が己の属性を表す。時には弱点になるが、基本的にその弱点を問題にもしないレベルでの力を行使するから生物最強の生き物と言われる。


 そんな竜は、色の数が複雑に、数増える毎に強くなる。その種類は様々で、青だったら水、赤だったら火、黄なら雷、紫なら毒……そして、全てを統べるものが金……中国での黄龍やゴールデンドラゴンがそれに当たる。


 虹竜ってことは、七色の属性を備えてる可能性が高い。なら、単属性のものより高位。と、なると最早単騎であらがう等不可能。多分、国家レベルで討伐に出ても返り討ちがせいぜいだろう。


「ダンタリアン義父もわかってると思うが……クラスで言うなら、軽く100は越えるぞ。そんなのどうにか出来ると思ってるのか?」

「確かに普通にやっても無理だろう。あると言われる竜の里も場所はわからないし、クラスなら200は越えるだろう。そもそも、竜等この歴史で数える位しか目撃されていない」


 存在自体が伝説か……なんで、そこまでの不可能への挑戦なのに俺の一言位ではしゃぎ回れるんだ?


「それなら、何で、そんな御伽噺をジェイルは出来るって思ったの? 強いっていっても、場所も相手も強さもわからない人でしょ?」

「ううむ、言われてみればそうなんだが……気が付いたら必ず出来るって思ってしまった……ジェイルには煽動の才能があるな」


 何それ、嫌な才能つけるな。


「過ぎたことは、もう、いいだろ? それより、ジェイル、聞きたいことがある」

「何だ?」


 正座で器用にいざりながら近づいてくるチュール。いつまでやればいいだろう? 普通に会話しながらも、フラム姉さんは腕組みをして仁王立ちだし……この家、確かに女性が強すぎだろ? 他の女性はいつの間にか解放されてるし……はぁ。


「夕方、あの、強い鳥な……」

「極楽鳥の事か?」

「ああ、それそれ。俺達追いかけてたけど、冷静に考えて途中から帰ってたじゃないか? でも、気が付いたらここにいたんだが、なにが起こったんだ?」


 今更それを聞くのか? もっと早く聞かれるかと思った。こいつ、思ってはいたがバカだな。


「忘れたのか? 俺達は飛び去った極楽鳥を上空で見つけただろ? だが、何かの攻撃を受けて奴は撃退された。俺達は落としたグレートボアだけ回収して退散した……ああ、そう言えばお前は何故か倒れてたな。ワイルドボアにでも襲われたか? 重かったぞ、ここまて運ぶのは」


 記憶にないと頭を振り回すチュール。仕方ないよな、全部嘘だし。 

 実際には、チュールは俺が攻撃して眠ってもらった。

 で、試しに俺かクラフトした弓、トゥルーアイを使ってみたかったのだ。


 結果は……強すぎた。何のスキルも使わず(当てられないので弓熟練は使用したが)、極楽鳥は弾けるように四散した。


 運良く残ったグレートボアの一部だけを持って帰ってきたのだ。

 チュールはクレイゴーレムが背負った。


 あれは、基本使用禁止だな。まあ、悲願らしい虹竜とかにはいいかもしれないけど……。


「よく覚えてないが面倒をかけたな。ありがとう。確かに背中に痛みがある。モンスターにでもやられたか」

「何、気にするな、家族じゃないか」


 それにしても、まだ食事は始まらないのか? 冷めてないか、勿体ない。レンジとかあればいいのに。

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