第十八章、受付は家族の予感(1)
なんで? どうしてこうなった?
俺は新しい家族となるリザム家に挨拶に向かっていた筈だ。
じゃあ、なんで魔法学園外苑の森で槍を手にしてるんだ?
「おい、いたか?」
「いや、特に見つからないな」
物語の始まりは、俺がフラム姉さんと共にリザム家に着いた所から始まる……。
「よく来たな、私の新しい息子よ。私はダンタリアン=リザム。フラムの父でここの冒険者ギルド、魔法学園支部の長をしている」
とんでもない豪邸の玄関で、またまた意外な言葉を聞かせてくれた義父となる男、ダンタリアン=リザムさん。
「成る程……それでフラム姉さんが最も安全な職場か……」
豪邸についてもここにくる前に驚いたが、更に意外な事実にそんなものは吹き飛んでしまった。
「初めまして、俺はジェイルです……いきなりこんな事を聞くのはあれかと思うのですが……俺を何故養子にしようと思ったのです? メリットがあると思えません」
フラム姉さんの話じゃ、特に反対もなく受け入れられた。との事だが、ここまで成長した子供をワザワザ権力者が養子にするなんてデメリットしかないと思うが。
「いくつか理由があるのだが……まずは、フラムがそれを望んだからだ。私はフラムの希望は極力聞く事にしている。二つ目は、君がジェイル君だからだよ。私は面白い者は自分のものにしたいのだよ。まあ、別に位置的には婚約者でも良かったんだが」
三国志の曹操のようなものか? 人材マニア。
それに俺の事を知っている?
「お父様……それはないって、この間も言ったでしょ!」
「そんな事より……俺を知っているようですが、どういう事です?」
フラム姉さんに何か譲れないものがあったみたいだが、正直それどころではない。
「そんな事って……大事な事なのに……」
「ああ、可哀想なフラム。よしよし、父さんがいいこいいこしてあげよう……何だ? いらないのか……と、ジェイル君、そう殺気立って会話するものじゃないよ。まあ、警戒する気持ちはわかるがね。知りたいのは何かね? ギルドカードの事か? 暗闇の事か? この学園に請われて来訪した事か?」
ちょいちょいフラム姉さんにちょっかいを出して邪険にされているダンタリアン氏。
脱力するから、親バカとシリアスどっちかにしてほしい。
それにしても、俺の正体も出身も全て知ってるのか? フラム姉さんが事前に話してたのか?
「お父様、何でそんな事知ってるんですか!? 私、あの……」
「ギルドカードの事か? 愛娘の事だ。当然そんな事は把握してる。フラムの事なら、魔力パターンから髪の長さ、使っている化粧水の種類から生活時間まで何でも把握済みだ」
「なっ!? お父様!?」
この反応。フラム姉さんが話した訳じゃなさそうだな。と、いうより、親バカ行きすぎてるだろ? ストーカーみたいじゃないか。
「俺の事を知っている理由を話してもらおうか? でなければ……」
「ふふ、若いな。曲がりなりにもギルドの長が威圧に屈するも思うかね? まあ、隠す事でもないから別に良いがね。私はライアンとアイネスの友人だ。他に理由がいるかね?」
ライアン爺とアイネスさん? 成る程ね。じゃあ、可笑しくはないな。でも……。
「これも貴男のシナリオですか?」
俺を自身の血筋に組み込む為に仕組まれた事だと?
「待ってよ、ジェイル。私そんなの……」
「全くだ! フラムに疑いの目を向けるなんて正気の沙汰とは思えん! この子は常に正しい事しか言わないし、常に正しい。もし、間違っていたら私が全権力を使って正してみせる! これは偶然だよ。最も、フラムが君を家族にしたいと言ってきた時は小躍りしたい気分だったがね」
偶然? 本当に偶然なのか? 言ってることが、フラム姉さん上位過ぎて、他の事が頭に入らないよ。
「……とりあえずわかりました。フラム姉さんを信じます。一つだけ聞かせて欲しい。俺を一族にして、一体何が目的です?」
「始めに言った通りだ。フラムがそれを望んだからと、私が優秀な人材が欲しい。それでは不満かね?」
「不満ですね。この行動は下手すれば国にいらない火種を巻きかねない。そんな愚を犯すとは思えない」
話しからすれば集めた人材は俺だけじゃないだろう。そんなに一カ所に戦力を、しかも、ギルド長が持てば、国に反乱の意思ありと思われかねない。
そんな事わかってるだろうに、それを押して尚何故そんな事をするのか。
後、どうしても気になっているのはそれだけだった。
「……今は言えない。だが、フラムが悲しむ事ではない。それは確実だ」
「いいでしょう。貴男の息子になろう、ダンタリアン義父さん」
「ええ!? 今ので納得するの!? 客観的に見たら私でも怪しいと思うよ?」
ここまで、フラム姉さんを最優先してる人がそれを賭けてまで言葉にするんだ。多分、これ以上にない言質であると思う。
「まあ、家は家族が多い。ジェイルのように養子になった子達も多くいる。そんなに気負うことなく我が子の一員として、楽しくやっていこうじゃないか」
「……剛毅ですね。ダンタリアン義父さん。これから宜しくお願いします」
「私がおかしいのかな? 直前までもっと殺伐としてた気がするんだけど?」
人生そんなものだよ。気にしたら負けだ。
少しでも疑ってしまったフラム姉さんには過剰に謝罪しておいた。
状況を考えて仕方ないといってくれて助かった。
こうして俺はやっと、とりあえずの納得の上、この家の養子になる事が正式に決まった。
で、屋内に入って次は自己紹介……の筈だったのだが……。
「義父さん! ワイルドボアの肉が全然足りないよ!」
「そうか。では、チュール。頼めるか?」
勢いよく飛び出してきた少年、チュール。
「任せとしてくれ! と、お前が俺の義弟になる奴だな。俺の名はチュール。チュール=リザムだ! お前と同じ養子だ」
「あ、ああ。俺はジェイル。宜しく頼む」
チュールは立てかけてあった長剣を手にすると外に飛び出していこうとする。
俺の差し出した手の行き場はどこに?
「じゃあ、行ってくるぜ! と、ジェイル、お前も行くか?」
俺? 今から家族との初対面なのだが……。
「チュール、ジェイルにいきなりそんな……」
「まあむあ、義父さん。ジェイルが取ってきたワイルドボアの方が、義母さんやミスティ達も喜ぶって! よし、決めた! さあ、ジェイル、行くぞ!」
「わ、おい、一寸待てって、引っ張るな……ダンタリアン義父さん!?」
我が義父を見ると、もう達観したような眼をしてこっちを見ていた。
「こうなるとチュールはもう止まらない。ジェイル、お願いできるか?」
「……わかりました。ついていけばいいんですよね?」
フラム姉さんも苦笑いで手を振っていた。
俺はこの新しい我が家の玄関しか入ることが出来ずに、モンスター退治をする羽目になった。




