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第十七章、学園編、精霊よ、歌え(2)

「契約時にその精霊の持つ魔法を使えたな? じゃあ、今度はその感覚を忘れる前にあの的に向かって魔法を放って見ろ」


 結構自由に下位精霊との契約による魔法発動を楽しんでから、今度はその後ろ盾を無くした後の自身の力だけの魔法発動が行われていた。


「……えい! ウインドジャベリン! ……出来た……」

「おお! 俺だって! 放て! ファイアボルト!」

「ストーン! やったぁ! 私にも魔法が使える!!」

「拙者、拙者にも魔法が使えるでござるよおおおおお!」

 

 校庭では、自力で魔法を使う事が出来るようになって喜ぶ歓喜の声と、それでも魔法が使えなかった無念の声に完全に二分されていた。


 相変わらず手から炎を出し続ける友人については、この際気にしないでおく。


「…………はぁ」

「まあ、そう気を落とすなよ。シズマなら大丈夫さ。確約は出来ないけど」

「適当な励ましありがとう、級友」


 初めから契約すら出来なかった魔法適性マイナスの友人、シズマ=ラインズを言われる通り適当に慰めて時間を過ごす。


「私、どうやって試そう……」

「どうしたの?」

「ああ、確か、マリアンの試したい魔法は回復なんだっけか」


 魔法を試したいけど、試す対象がいなくてうずうずしてるもう1人の友人、マリアン=フェイトナ。

 そうそう都合良く、怪我人はいないだろう。仕方ない、一肌脱いでやるか。


「よいしょ、と……マリアン、回復魔法だよな。治療を頼む」

「ジェ、ジェイルさん!? て、手から血が凄い勢いで……」


 そりゃそうだ。鍛冶スキルで作った短剣で手のひらを貫いたんだから。

 おうおう、結構血が出てるな。


「無茶するねぇ、ジェイルは」

「別に大したことじゃない。さあ、マリアン。早く」

「早く医務室に……って、私の為なんですか?? そんな、ジェイルさん……」


 血がどくどく出てるし、早くしてくれないかな?


「あ、ありがとうございます! 絶対に成功させますね! じゃあ、いきます……ヒール!」


 光に包まれる俺の手……おお、本当に使えるんだな。と、思ったが……。


「止まらないね、血」

「そうだなぁ。何かが発動はしてるんだがな」

「え、あれ? ヒール、ヒールヒール!」


 光は複数発動してるのか、手が見えない位輝く。しかし、相変わらず傷は治らないし血が止まる事なく出続ける。


「ひょっとして……マリアンさんのそれ、回復魔法じゃないんじゃない?」

「そ、そんな……」

「まあ、妥当な判断だな……じゃあ、自分で回復させるか……召喚、ドライアード」


 今までは素性を隠して使い魔として通学させようと思ってたが、こんなに下位精霊を学園で扱ってるなら構うまい。


 何処にしても呼び声に応じる召喚獣達。それは、この世界の俺の部屋にいても例外ではない。


 姿を現したドライアードは俺の手を見るやスキルを発動させた。


「……マスター、怪我。精霊の祝福」


 俺の手に落ちた一滴の雫が手の傷を癒やす。


「ありがとう、ドライ。今日から一緒に学園に通っていいぞ」

「本当? ありがとう、マスター」


 綺麗に治った手で、ドライアードの頭を撫でてあげる。

 正直、癖になる。


「久しぶりだね。こんにちわ、ドライアードちゃん」

「…………」

「はい、シズマ。久しぶり」


 シズマは良好に応対してるが、マリアンは先程のが余程ショックだったのか暗く落ち込んでいる。


「マリアン、もう一回さっきの魔法使ってみようか?」

「え、でも……あ、ドライさん、おひさしぶりです」


 ドライアードなら何だかわかるかもしれないし。


「わかる」

「だってさ、さあ、俺にまた同じ魔法を使ってみて」

「わかりました……じゃあ、ヒール」


 やはり、光る俺の体、何かの魔術はかかってるみたいなんだが……なんだ? プロテクション、ディフェンス、エンチャント?


「どうですか?」

「わかったか? ドライ」

「わかった」


 家の良い子は初見で何だかわかったらしい。


「なんなの?」

「あ、あの、教えてください!」

「回復」


 ん? 回復魔法なのか? 


 回復しない回復魔法……。


「そうか、状態異常回復か」

「そう」

「なる程ね。回復は回復だね」

「じゃあ、あれにかけてみたらどうだ?」


 俺が指さしたのは、未だ手から炎を出し続けるセバス。

 あれはある意味トリガーハッピーみたいなものだろ?

 状態異常と変わらないと思う。


「マリアンさんの魔法って、何の状態異常回復なんだろ?」

「やってみればわかるさ」

「なんて、魔法になるんでしょうか?」

「ファイン」

「ありがとう……ファイン」


 離れた場所でなにやら光るセバス。


「おわっ! 何でござるか!?」

「変わらないね」

「バカは高度の状態異常なんじゃないか?」


 ファインは広く浅くの回復魔法。高レベルの状態異常は治らない。


「そう言うものじゃないんじゃ……」

「全く、一体なんでござるか? お、ドライアード殿。元気そうで何よりでござる」

「うん。バカは大変」


 言うね。


「ジェイルさん。私の為に、すみませんでした。怪我までさせちゃったのに、何も出来なくて……」

「気にする事はない。俺か勝手にやった事だ」


 なんだかんだで、もっとも早く魔法が使えるようになっただけでなくここでも更に魔法を会得するとは……一年トップの成長率じゃないのか?


「それにしても凄いな。また魔法を「おいジェイル。いい加減精霊を下げさせろ。これじゃあ、授業にならん」……あ?」


 声をかけられてそちらを振り向くと、他の教室の生徒達を背にしたクラース教師がいた。


「なんです?」

「中位精霊のドライアードだろ? 彼女。精霊が怖がって近づかん。ドライアードを戻すか、他の精霊を認めさせろ」


 認めるってなんだ?


「ドライ、何か出来るか?」

「私は気にしないで。あなた達、好きにして」


 俺からすれば、ただ一言口にしただけなんだが下位精霊にしたら全然違うらしい。


 たったのそれだけで周囲の精霊達が集まり出す。


「凄い効果だな」

「これが精霊の格差の現実だ。俺としては、人に姿を見せない筈の中位精霊とどう契約したかの方が気になるがな」


 そんなのは話すつもりはない。


 言えない事が多すぎるし。


 それにしても精霊の力関係の新しい発見だった。



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