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第十七章、学園編、精霊よ、歌え(1)

「元々会得してる奴を除いて、未だ、一年で魔法を使えるようになった生徒はマリアン=フェイトナ以外いない。俺も鼻が高いぞ、臨時ボーナスも出たし」

「自己中ここに極まれり、だな。不良教師」

「不良結構。この調子で他の奴らも頑張れ。じゃあ、今日の講義だ。昨日は生死の臨場感を体験してもらった。なので今日は擬似的な精霊契約を行って、実際に魔法を使ってみてもらう」


 教師、クラース=ミルドレイルの言う事は、正直訳がわからなかった。


「どういう事だ? さっぱりわからん」

「僕も詳しくは知らないけど、精霊と契約して魔法が使える状態を作るらしいよ」

「そう。学園で契約してる精霊がいてな。この授業だけの一時的な契約だが、誰でも魔法が使えるようになる。その間で魔法を使う為の回路を造るんだ。契約の言葉は……我、盟約に従い、汝との契約を望む……だ。簡単だろ? 後は向こうでなんとかしてくれる」


 なる程、精霊が補助してくれるのか。確かに一度でも魔法を使えば、その後も魔法が使えるようになる率は跳ね上がるな。


 昨日、実戦を見学したのは心得の為か?


「俺の面倒な説明なんていらんだろ? その分遅くなって、他のクラスがやるのを待ってるなんてお前等もストレスになるだろう。さあ、さっさと校庭に移動しろ」

「物は言いようだな、不良教師」


 クラスの奴らも慣れたもので、早速席を立つと移動を始めた。


 なんだかんだで俺も違和感なく移動する為に立っているのが、嫌だなぁとふと思っていた。





「ふわぁ、沢山いたんですねぇ。私、てっきり1人しかいないと思ってました」

「拙者もでごさる。精霊がこんなにいる光景は圧巻の一言に尽きるでござるな」


 校庭には、一列に並ぶように沢山の小さな精霊がずらっと浮かんでいた。


 下位精霊か。燃えるトカゲのサラマンダーや女性型のウンディーネに三角帽子の小人姿のノーム等、地水火風全ての精霊が揃っていた。


 その数は軽く見ても30は軽く越えているだろう。


「相変わらず早いわね。クラース先生の生徒よね? 全く……やる気ないわね、あの人は。まあ、いいわ。今回は学園のバックアップがあるから、契約は必ず成功するわ。だから、誰の所でもいいから並びなさい」


 その場にはジョブ取得の神託の場にいたミベントス先生がそこにいた。


 この先生、こういった活動の専門なのかな?


 それにしても、学園のバックアップってなんだ? それに、才能は気にしないでいいのか?


「あの、ミベントス先生」

「どうしたの、ジェイル君?」

「おいおい、質問なら俺に聞けよ。担当教師だろ?」

「何時来たんだお前? 全く気が付かなかったんだが。で、ミベントス先生……」


 聞けば鬱陶しがるのに、聞かなきゃ構って欲しそうにする。この教師、ウザイ。


 とりあえず、思った事を聞いてみる。


「聞きたい事は二つ。学園のバックアップとはなんだ? それと、あの下位精霊の色。ある程度属性を表してると思うんだが、自分の使える魔法の属性に合わせなくてもいいのか?」


 スキルの無い属性を扱っても、効果があるんだろうか?


「それは一つで説明できますね。学園側のバックアップが、どんな才能の人でもあの精霊達と契約出来ると言うものです。つまり、生徒の才能とは関係なく魔法を使えるようになる、と言うことですよ」


 契約が条件で魔法……あれ? よく考えたら、これと同じ事をしたら俺も、別の魔法使えるようになるなるんじゃないのか?


 ま、今はいいか。とりあえず並ぼう。さて、色んな色があるけど何処にしようかな?


「ジェイルさん、どうしましょうか? 並ぶ場所決めましたか?」

「うんにゃ、全然? そっちは?」

「こんなに沢山いると、逆に決めにくいでござるな」


 ま、そう言う事なら適当でいいんじゃないか?

 俺は目に付いた、まだ誰も並んでない緑色の精霊、ノームの場所に移動する。


「初めましてだな、宜しく頼む」

(オイラの所に来るなんて、オマエ見る目がある! ケイヤクの言葉、覚えてるなニンゲン)


 言え、と? 話が早くて助かるな。


「わかった。我、盟約に従い、汝との……(わ、待って! 待って待って待って待って!)……なんだ?」


 俺を見ながら、だんだん顔色を悪くしてきていたノームが急に制止のことばをかけてくる。


(オマエ、既に契約ケイヤクしてる。オイラ、ケイヤク出来ない)

「なんだ、そんな縛りがあったのか。じゃあ、駄目だな。済まんな、ノーム」

(いいよ~今度、別の所で一緒にアソんでね~)


 結果、何もしなかった。


「どうでしたか?」

「……何も」


 今あった事を説明する。


「そうなんですか。色々決まりがあるんですね」

「何だ? お前普通に契約してる精霊がいたのか? じゃあ、無理に決まってるだろ?」


 当然、みたいに言われてもこれまた全くわからん。


「どういう事だ?」

「……ジェイル、お前何故知らんのだ? 精霊は基本、同型の自身より上位の存在には絶対服従。そんな精霊が、上位存在との契約を結んでる相手と自主的に契約する訳ないだろう」


 ふむ、心理だな。


「マリアンはどうだったんだ?」

「私? 上手くいきました。ほら、見てください!」


 マリアンの背後、何もなかった空間から声に合わせるように浮かび上がる水の下位精霊、ウンディーネ。


「ウンディーネか。自身の属性を強化するイメージか、なる程な。しかし……まるで憑かれてるみたいだな」

「もうっ! そんな事言って……怒られちゃいますよ! ……気にしないでいいからね~あのお兄さんは自分が駄目だったから拗ねてるだけだからね」


 この女……言ってくれる。俺だって、契約してる精霊の一匹や二匹……。


「拙者も出来たでござるよ! 見事、火蜥蜴殿との契約が出来たでござる!」


 言いながら、辺り構わず手から火炎放射を出す魔法、ファイアストームを放ち続けるセバス。


「あれが、精霊の力か……あんまりやると魔力が……」

「ち、力が抜けるでござる~~」


 いわんこっちゃない。手から出る炎もちょろちょろと短くなり、ライター程度の火になるとやがて消えた。


「あれが魔力切れの状態だな。気を付けないと、すぐにああなる」

「わかりました。私、ヒールが使えようになりましたよ。ほら、ヒール!」


 俺にキラキラと光る水の粒子が降り注ぐ、傷や怪我を癒やす回復魔法、ヒールだ。


「いや、それはウンディーネの持つ魔法だろう? マリアンが使えるかどうかは、ウンディーネが帰ってから自身で確認しないと駄目だろ」

「ん? ああ~そうでした!? ……恥ずかしいです」


 皆、多かれ少なかれ何処か浮かれてるな。


 勿論、全員じゃない。逆に、とんでもなく落ち込んでる奴がいる。


「なんて言われた?」

「……やっぱり知ってたんだ?」


 シズマ=ラインズである。


「俺は千里眼持ちなんでな。むしろ、俺が気づいてる事をいつ気が付いた?」

「何度か僕に話しかけようとして止める事があったから……いい話じゃないな、とは思ってたんだけどさ。で、今、学園でやってるのは魔法の取得。なら、もしかして、なんて考えてた」


 俺、そんなわかりすいのか?


「勘違いするなよ、シズマ。お前は魔法が使えない訳じゃない」

「……本当!?」

「ああ。ただ、魔法に対する適正がマイナスになってるだけだ」

「それって、死に物狂いの努力でなんとかしろ。ってこと?」


 まあ、そうなるだろうなぁ。


 どうすればレベルあがる(下がる)のかがわからないけど。


「でも、希望があるだけよかったよ。シルフには、貴方は欠片も才能がありません。戦士の方がむいてますよ。なんて、言われたから」

「キツい所突いてくるな。とりあえず、頑張っていこうぜ。もし、自身のスキルが知りたければ言ってくれれば何時でも、調べるからな」


 スキルについては大分わかってきたし。元々あるのは、その人がその後何もしない場合に覚えられる確率のあるスキル。

 他のスキルも、その人の生き方によって修得出来る。

 ジョブ取得時や契約時とかな。


「それはまだいいよ。僕は自分の可能性を狭めたくない」

「立派だな。俺には出来ない生き方だ」


 これで、今回下位精霊と契約出来なかったのは、俺とシズマだけだった。

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