第十六章、学園編、三日目、異者は駆け回る(3)
「あ、シズマ君、セバスさん。ジェイルさん、来ましたよ」
「ジェイル殿、遅いでござるよ。一番最後でござる」
「……何で街から?」
「す、すまん、一寸、遅れたな……」
俺は肩で息をしながら、時間に後れてしまった事を詫びた。
ギルドで義理の姉となるフラム=リザムとの秘密会談を終えてから、差し迫る時間を感じながら猛ダッシュで待ち合わせ場所に急いだがやはり間に合わなかった。
時間には遅れるし、俺は汗だくだし、これなら遅れるつもりで始めからゆっくりくれば良かった。
「まあまあ、過ぎた事はいいじゃないか。で、どこに行く? 誰かいい場所知ってるか?」
「この男、自分が遅刻しておきながら……ジェイルさん、恐ろしい男」
「拙者、まだこの街の地理には詳しくござらん。マリアン殿は如何か?」
「私も殆ど行った事無いです……シズマ君は?」
一番この街にいるんだから、何か知ってるんじゃないか? みたいな期待を込めて皆がシズマを見る。
「……ごめんね。僕もそんなに詳しくはないんだ。普通の定食屋さんなら言ったことあるけど、お祝いとかに使う食べ物屋さんというと……」
「ふっふっふ……皆、ろくな意見が無いみたいだな」
こんな事も予想していたので、俺には秘策がある。
「ジェイル殿はおすすめのお店があるんでござるか?」
「セバスさん! 駄目だ、その質問は! あの人はしたり顔でこっちを見てるよ」
「まあ、着いてきなさい。君達にこの世の至福を与えてやろう……」
俺は後ろも見ずに今来た街の方面に向かって歩き出した。
「美味しい!」
「これは、侮れんでござる!」
「こんな美味しいお店が近くにあったなんて……」
「ほぉ……」
その店、渚の鮮魚亭での新鮮な魚介料理の数々に、俺達はただただ提供された料理を頬張る事しか出来なかった。
案内人の自信? そんなの知らん。フラム姉さんに薦められただけだし。
そんなの、入店すぐに「貴方がフラムの紹介ね? 話は聞いてるわよ」……なんて言われた時点で木っ端微塵じゃい。
「それにしても、中々難易度の高そうな魔法を覚えたね?」
「え、そ、そうなんでしょうか? 私、一応勉強、少しはしたんですけど、魔法については全く理解できなくて……」
「じゃあ、説明が必要でござるな……シズマ殿!」
「え? 僕? えーと、何を説明すればいいのかな?」
俺もよくわかんないんだよなぁ。正直、スキルを使う=魔法を使う、みたいな認識だから他の皆の魔法に対する意識は一寸気になる。
「……魔法ってなんなんですか?」
「魔法は、わかりやすく言うと他人の力だよ。万物に込められた様々な精霊の力を借りているんだよ。魔力は自身の力だけど、それを使う為に代償として減少するから「魔」力って呼ばれてるんだ」
「ああー言われてみればそうだなぁ」
「ジェイル殿が感心してるでござる!?」
確かに精霊魔法熟練って言うスキルだしね。それが一番納得できる。
「私の水の魔法が難易度が高いって言うのは?」
「魔法には形状や威力によって難易度が異なるんだ。まずは単発魔法。これはファイアボルトの火球やウインドカッターのカマイタチのような撃ち出し型の魔法がこれに当たる。使う魔力も少なく、精霊の制御も難しくない。撃ってしまったら制御出来ないのが特徴だね」
俗に言う低レベル魔法とか言われる奴だな。
「次がマリアンさんの使ったウォーターガンやライトニングのような光線系だね。これは術者の意思で起動を変えられる事と、発動中は継続してダメージを与え続ける事が出来る。ただ、制御が難しくなるのと、恒常的に魔力を消費し続けるのが難点かな」
これを撃って尚、貯蔵魔力に余力があったみたいだから、マリアンの潜在・現魔力共にビギナーの域を軽く越えてるだろうなぁ。
「そういえば、ジェイルさんはどんな魔法が使えるんですか?」
「俺か? 大したものは使えないよ。相手を毒状態にするポイズンだけさ」
俺のスキルって、精霊魔法熟練で属性について明記されてないから、ひょっとしたら他の魔法も使えるのかな?
「じゃあ、毒が一番得意なんですか?」
「……いや、それはなんか嫌だなぁ。俺はある意味特別だから余り当てはめて考えない方がいい。ほら、まあ、飲みな。ジュースだけどな」
「あ、有り難うございます。でも、本当にジェイルさんの首飾りのお陰です。あれがあったから、なんか私自信を持てましたし」
「そうか、状況的に無理矢理押し付けたみたいになったから喜んでくれたならよかった。渡した甲斐があったよ。折角だからそれ、鑑定してみてもいいな」
「でも、私……」
「費用は気にしないで。贈与者として、個人的に気になるだけだから俺が全額負担するから」
「いや、そんな事させる訳には……あのっ! あの時の商人さんはどうなったんですか?」
その程度で俺の興味を引けると思うなよ。今から俺のアルベルト譲りの(譲られてないが)説得術で、マリアンをイエスと言わせるからな。
実際、鑑定結果は気になる。
それに、今は未鑑定の物を持ってる状態だから……鑑定して物を明らかにしないと効果は出ない。
お金はかからなかったが、それじゃあ宝の持ち腐れだ。
「シズマ殿、拙者達、更なる努力が必要でござるよ」
「……そうだね。僕達色々と負けてられないね」
そんな事を話し合っていたら、何か決意を新たにした二人組がいた。
因みに聖剣の首飾りの鑑定については、こなしたクエストから半分を分割で支払う、と言う事に決まった。
俺、余裕あるから別にいいのに。




