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第十六章、学園編、三日目、異者は駆け回る(2)

 さて、もっと早く終えるつもりだったが、予想以上に時間がかかってしまったな。


 次はギルドか。


 説明求む、みたいな顔してたしな。ていうか、俺も聞きたい事あるし。


 同じ街にある為、そう時間かからずギルドに到着する。


 ドアを開けると、珍しく冒険者がいた。


「オッ、ボウズ、どうしたんだ? ここは冒険者ギルドだぞ?」

「いや、知ってるから。俺も冒険者だし」


 しかも、いきなり話しかけてきた。


 軽装鎧に身を包んだ若そうな兄ちゃんだ。


「あっ、フ……ジェイル君!」

「こんにちわ、フラムさん。姉さんとでも言えばいい?」


 軽口と共に挨拶をするが、まだ忙しいみたいだ。


「忙しそうだな。また、日を改めてこようか?」

「ま、待って、ジェイル君! すぐ終わらせるから、そこで座っててくれる?」


 いいのか? 冒険者の目の前ですぐ終わらせるとか言って。


 まあ、言われるままに座る。


「フラムさん、弟がいたんですか? しかも、冒険者! やはり、子供は姉を見て育つんですねぇ」

「どんなクエストをこなしてきたんだ?」

「ああ? 子供には関係「ええとね、ガブリエルさんのクエストは、ボアの群の討伐よ」……一寸、フラムさ~ん」


 ボアって言うと、猪か。クラスは確か5とかだっけか? 群って事は、クラス12~3ぐらいかな? 


「ガブリエルって言うんだ? 俺はジェイル=リザム。よろしく。中々高いクラスのクエストこなしてるんだね。ランクは?」

「ふふん、聞いて驚け! 俺はランク3だ!」


 えーと、それって凄いのか? 俺、ランク11だし、基準がわからないな。


「ガブリエルさんはこのギルドをひいきにしてくれててね。他にも何人かいるんだけど、学生も含めてランク3は10人位しかいないかな」

「え? そんな増えたんですか?」

「ええ、三年生の進級試験でポイズントードを討伐したパーティーが出たからランクが上がったのよ」


 ポイズントードか。その身に毒を有している大型の蛙。確か、クラス10位だったっけ?



「はぁ~へこむなぁ。剣で精一杯やっても、魔法使いの、しかも本職じゃない見習いにこうも、容易く追いつかれるなんて……」


 いい感じにへこんでるガブリエルの足をかける。


「てっ、何すんだ、坊主!」

「俺にまず、しっかり自己紹介しろ。でなければ……」


 ガブリエルに近付いて耳元で口ずさむ。


「フラムさんにお前の有ること無いこと吹き込む」

「お、俺、ガブリエル=ウィズンソン! 現在パーティーは組んでない。種族人間の22歳、ランク3の冒険者です!」


 よし、礼儀正しくてよろしい。


「坊主、ええと、ジェイルだったか? お前はどうなんだ?」

「何がだ?」

「学生なんだろ? ランクだよ」


 自信なくなってるなぁ。まだへこみ引きずってるのかよ。


「ジェイル=リザムが、って事か?」

「他に誰がいるんだよ?」


 そうか。


「じゃあ、改めて。俺はジェイル=リザム。アガスティア魔法学園の一年生だ。ランク1 入学三日目だな」

「何だ、お前、ビギナーなのか?」


 安心したように笑うガブリエル。


 よかったな、精神の安定がはかれて。


「お待たせしました。ガブリエルさん。ボア8匹の討伐、確かに確認しました。こちらが報酬の銀貨5枚になります」

「あ、ありがとうございます。あの、フラムさん、この後なんですが……」


 いい若いのがもじもじするな。気持ち悪い。


「残念だが、今日は姉弟で用事があるから、疾く帰るがいい」

「ごめんなさいね、ガブリエルさん。また、暇があったら誘ってもらえますか?」

「……あ、はい! また来ますから! じゃあ、また今度!」


 またへこんだガブリエルは、フラムさんの言葉で即座に元気を取り戻すと疾風のように手を振りながら立ち去っていった。


「……あの反応。食事とか行った事ないでしょ?」

「ガブリエルさんもいい人なのはわかるんだけど、ね」


 無念だな、ガブリエル。フラムさんはいつも忙しいらしいぞ。もっと男を磨け。







「今日はもう止めちゃおっか?」

「いいのか? 受付嬢」

「どうせ、誰もこないし。夕方以降は職員の危険もあるから、いつでも閉めていい事になってるんだ」


 言いながらも閉店? 準備に余念がないフラムさん。


 俺は邪魔になりそうだから、ぼけっと座ったままだ。


「フラムさんはいつも一人な訳?」

「違うよ? 今は、1人が産休中だから、本部から職員派遣待ち」


 それは、1人って言うんじゃないだろうか?


「確かに危ないなぁ、それは。相手は冒険者だろ?」

「まあ、皆気のいい人達だから……ジェイル君が私を守ってくれる?」

「それは、この後の話し合い次第だな」

「流石、暗闇さんだね。一筋縄じゃいかないか」


 軽くなったな、おい。


 まあ、ファミリーネームをもらうって事は家族、養子になると言う判断だし別にいいけど。


「お待たせ、まずはここでいいよね? 何飲む?」

「何でもいいが、紅茶は飲めない」


 すぐに出てくるお茶。手際が良さ過ぎる。


「さ、何から話そうか?」

「じゃあ、まず、俺から。俺に名を渡したのは何故だ?」


 俺の最大の疑問はそれ。話しの流れで、名前の

話になったがそこまでされる程親しい間柄じゃない筈。


「何でだろう? 私もよくわかんないや」

「ーー何?」

「なんか、話してたらつい……嫌?」 

「それはどう言った意味でだ? 名を借りる事がか?」


 ……笑われたよ。俺、何かおかしかったか?


「違うわよ。私の家族になる事が、よ」

「プロポーズか?」

「ジェイル君はひねくれ者ね。わかってて聞いてるでしょう? 私達リザム家の養子になる事の……に決まってるでしょ?」


 やはりそうか。もう、孤児院での暮らしが長すぎて、家族と言う形が孤児院での皆しか浮かばない。


 10年前の現実社会の家族の記憶が薄れつつある。

 俺、いつの日か戻れるらしいんだけど、その時家族と上手くやれるんだろうか?


「どう見える?」

「とんでもなく、戸惑ってる」

「当たりだ。だが、慣れてないだけだ。その心遣いは凄くうれしい」

「じゃあ、今日から私の家族。でいいのね。じゃあ、次は私の番ね。まずは、ジェイル君がフェイである証明を改めて教えて」


 なんか、ほっとした。流石に心の準備がまだ出来てないな。


「難しいな。この指輪と、トレードマークの服以外にフェイを表現する手だては無いだろう? ほら、冒険者証……」


 フェイの物だ。元々正体不明の冒険者だ。これと、実力を示すだけでも十分俺の証明になると思うが。


「正体不明だし、フェイの証明なら、これでもギルドの人達は納得するでしょうけど……わかるわよね?」


 やはり自分が納得する形を……か。


「フラムさん。貴女の知るフェイと言う男は? もし、その言葉に真実俺が表されてるものがあるなら、それを体現しよう」

「凄いわね。そんな事までしてくれるの? じゃあ……フェイの服って持ってきてないの?」


 そう言えば忘れてたな。


「今造るから一寸待っててくれ」

「造る?」


 懐からハギレになって格安で売られていた布と石ころを一つ取り出す。


「布……今から縫うの? でも、それにしては枚数も色も足りない。石は何だろう?」

「まあ、見てな。スキル、鍛冶……」


 いつもこれは裁縫スキルだよなぁ、と思いながら使用する。


 俺の魔力を受けて、いつも俺が着ている顔まで覆えるローブが出来上がる。


 申し訳程度に肩に石の飾りが付けられている。魔力も使ってるから鍛冶でいいよ? って事か? さっぱりわからん。


「ああー! それ! そうやって造ってたんですか!? 確かにそれなら、今までの噂は……」

「どんな噂があるんだ? どうせ、ろくなものじゃないだろ?」

「フェイは体の中に武器を隠してる、森を焼き尽くす魔法が使え、天に咆哮するスキルが使える、冒険者より強い使い魔がいる、でも本人はもっと強い……等々。武器も造ってるって事でしょ?」


 大体は俺を捉えてるな。少しずつ間違ってるけど。 


「一から答えていくと、武器は御明察。常に鍛冶スキルで創造してるからいつも持ってない。魔法はポイズンとディフェンスしか使えないよ。スキルは山程あるがね。使い魔……か。それは一寸違うな。俺には契約してる召喚獣がいる。会ってみるか? 俺自身は……まあ、並の冒険者には負けるつもりはないね」

「……会えるの? 是非!」


 皆も新しい家族だしな。じゃあ……。


「召喚、ドライアード。ほら、新しい家族だ。挨拶して」

「宜しく、フラム」


 俺の召喚魔法に驚きを隠せず硬直するフラムさん。

 今まで召喚魔法を使う人間はいない筈なので、正に俺の秘密の一つだ。


「……あ……か……」

「宜しく、フラム」


 握手か、礼儀正しいなドライアードは。


 手を伸ばしたドライアードに対して、震えるように動きを止めてしまったフラム。


「かわいいいいいいいい!!」

「ーー!?」


 凄いな、召喚獣を一声で驚かさせる女。そして、抱きつく女。


 フラムもアルさんと同じタイプか。


「私の事、お姉ちゃんって呼んで!」

「む、無理。マスター……」


 おお、助けを求めるドライアード。珍しい物を見たな。


「送還、ドライアード。次はこの子達だ。召喚、クレイゴーレム、ロックゴーレム」


 絡まれてるドライアードを戻し、袋に入れてしまってた土と石を媒体にゴーレム達を呼び出す。


「話をする事は出来ないけど、古くから俺に仕えてくれてる」

「ああ……ドライちゃん……でも、この子達も可愛いね」

「あ、あまりいじると……」


 二体を撫で回してるフラム……あ、スロウ化した。


「俺についてはこんな所か。家族としてフラムを信頼して俺の秘密を話した。わかってるとは思うが……「任せといてよ。どれがよくて、どれが駄目か位、私が一番よくわかってるわ。何年ギルドで受け付けしてると思ってるの」……知らんが」


 まあ、おいおい説明すればいいか。


「何時家に来る? 母さんや父さんにも紹介しないと」

「今日はこの後、マリアンの祝賀会があるから難しいな。他にはフラムは何時が都合がいい?」


 何時でもらしく、なんか明日になった。俺、毎日予定が詰まりすぎじゃないか? 過労で倒れるぞ?






「さて、ロック。聞いてみるが、例えば小さくなったり出来るか?」

「…………」


 体の一部を取り出して他の部分が崩れていく。そして、その一部がロックゴーレムになる。


「出来たな。意外に言って見るものだ」

「可愛い。手乗りロックちゃんね」


 小さくなったロックゴーレムは魔力の続く限りフラムに着き従ってもらう。


「小さくなっても並みの冒険者なんて歯牙にもかけないさ」


 クラス30位のモンスターなら自力で撃破可能だから、ちっさくてもいけるさ。


「本当に護衛を付けてくれるんだ……いいの?」

「当たり前。俺の家族が危険な目にあうのなんて許容できない」

「ありがとう。これから宜しくね、可愛い弟さん!」


 ロックゴーレムをフラムに預け、俺は時間に追われながら新しい家族、フラム=リザムの所を後にした。







ガブリエル=ウィズンソン

22歳

人間

ソードマン

冒険者ランク3

所持スキル

大剣熟練スキル1/3

防御熟練スキル2/4



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