第十六章、学園編、三日目、異者は駆け回る(1)
マリアンの魔法習得祝いの食事会。五の刻に学園の入口で待ち合わせだ。
俺はその前に行かなくてはならない所がある。
アガスティア魔法学園街の露天商、アルベルト=ササノメイユの所と、俺を無事冒険者にしてくれた恩人、フラム=リザムさんの所だ。
まずはアルベルト=ササノメイユの方に向かう事にする。
相変わらず活気があるな。人で溢れてる。
これなら商人でここに希望する奴は多いだろうな。当然条件はあるだろうが……。
「問題なくいたな……昨日振りだな、アルベルト=ササノメイユ」
「おっ! 来てくれましたね、魔術士様」
何その言い方。凄く嫌なんだけど?
「止めてくれ、気持ち悪い。俺は魔術士には向かないから、昨日と同じか名前で呼んでくれ」
「貴方がそう望むなら……じゃあ、ジェイルの兄さん。まずは教会の話しを聞くかい?」
「ああ、その方がよっぽどいい……じゃあ、アルベルト、君の話、聞かせてもらおうか? 初手で追い返されない時点で一定のラインは越えてるようだがな」
荷物を片づけ出すアルベルト。
「もう店仕舞いなのか? 五の刻にはまだ時間あるが?」
「正式に商人が依頼をした以上、片手間に応対出来ないよ。私にとっては先生様々って立場なんだから」
そして、案内された先は小さな民家の一つだった。
「家持ちなのか。本当に商人としてここに根付いてるんだな」
「お恥ずかしながら……値の張る物もいくつか所有してます故、この方が安全なんです」
確かに防犯用のトラップや魔法はこのアガスティア魔法学園が最もよさそうだしな。
「お陰で未だ一度も被害に遭ったことはないですね……と、普段は倉庫として使ってるんで、空気が悪いのはすみませんね」
「いや、構わない……それで、鑑定結果は?」
俺の前に置かれたのはあの時俺が怪しいと言った腕輪と指輪の二つだけだった。
「動物の面がないな」
「あれは駄目でした。解呪しても周囲に呪いを振り撒く呪物だったので、浄化してもらいました」
今更ながら、簡単に整理してみよう。
鑑定は専用のスキルと魔法を持つものが、一般的に未鑑定といわれるアイテムの詳細情報を開示させるスキル。
未鑑定品なんて、殆どマジックアイテムだからその時点で当たりなんだがな。
解呪は、今回みたいに呪いのかかったアイテムの呪を無くして、本来の効果を開示させるスキル。
そして、今出てきた浄化は解呪しきれないような強い呪いのアイテムや呪いでなくても災いしかもたらさないようなアイテムをこの世界から消滅させるスキル。
順番は鑑定→解呪=浄化、と言った感じだ。
「その効果は?」
「無貌の面……所持しているだけで、周囲に瘴気を撒き散らすそうです」
「それは駄目だなぁ」
アルベルトは俺の前のイスに座りながら、二枚の紙を取り出す。
「兄さんの言ったように、三品のアイテムは呪物でした。これが森羅聖堂教会で鑑定してもらった鑑定書です……一枚は浄化対象なので紙はありませんが」
俺は差し出されるままに、鑑定書を受け取って目を通す。
腕輪は信仰の腕輪……知力上昇(小)。
指輪はアルケミィの指輪……効果はMP上昇(小)と魔力上昇(小)。
「俺も昨日も言ったが、絶対の自信があった訳じゃなかったからよかった。それにしても、ステータスアップ系と複数付加か……確かに貴重なアイテムになったな。」
この世界はマジックアイテムの価値はとんでもなく高い。
耐久力アップ(微)の木剣が、大剣のクレイモアより高かったりするんだから。
価値が高い理由は、まずこの世界の鍛冶職人にマジックアイテムが作れない事。
入手先がモンスタードロップやダンジョンに限定されてる事が原因としてあげられる。
勿論、魔法で一時的に魔力を付加させることは出来るが、そこでもマジックアイテムの方が魔法に対する効果時間や相性も変わってくる。
セバスのスキルの付加、あれはレアと言われるマジックアイテムを作れる才能だと思う。
育成してみるか?
そして、その中でも特に貴重とされるのは複数付加のついたアイテム。
これは一般に、レアアイテム、ユニークアイテム等と呼ばれる。
そして、自身に作用するステータスアップ系のアイテム等だ。
この世界は基本的にステータスをあげるスキルは存在しない。
だから、皆、修行を積む。
しかし、その中で唯一存在するのがステータスアップのマジックアイテムだ。
弱チートと言えばいいか? 通常のマジックアイテムより当然価値が高い。
価格は下手なレアアイテム等より高かかったりする。
最も……どちらも学生が手にはいるような格の物じゃない。
「じゃあ、改めて、アルベルト=ササノメイユ。依頼主として宜しく頼む」
「……やはり、貴方はどこかおかしい。ですが、私としてはそんな貴方にとても好感を覚えます。こちらこそ、宜しくお願いします」
お約束だが、握手を交わす。
「余り心配してませんでしたが、結果を教えたら兄さんがこれを欲しがるかもしれないと思いました」
「それは契約違反だな。まあ、昨日会っただけの男にその鑑定結果を隠さず提示したんだ。アルベルト、あんたも大物だな」
確かに、この二つなら場所を選ばなければ小さな家が立ってもおかしくない位の価格で取引されるだろうしな。
「この懸念自体が、兄さんを信頼してない証。取引は信頼が命。私からそれを違えることはしませんよ」
「信頼を違えることはない……か」
俺の元の世界の友人も言ってたな……はぁ。
「どうしました?」
「いや、俺は交わした契約を違えることはない。それが俺の証明の一つだからな」
それにその気になれば、この二つ買える位のお金はすぐに貯められるし。
「で? 次はなんだ?」
「……次、とは?」
「三文芝居だな。わざわざ俺を自宅に招いたって事は……あるんだろう? 未鑑定品」
俺の指摘にやや苦笑いのアルベルト。商人の売り物を置いてる自宅。
それは普通、商人の城の中でも最奥に位置するものだろう。
「……隠し事は出来ませんね。ええ、あれから、今一自信が持てず眠らせていたものがあるんですよ。いいですか?」
「勿論。そう言う契約だからな」
そして、奥から持ってきたのは……スペース足りないだろう。と、言う位の数の大小の未鑑定品だった。
まあ、見るだけだからすぐに終わったけど……。
商人侮りがたし。
「本当にそんなものでいいのですか? 何でも構いませんよ?」
「いや、これがいいんだ。問題ない、俺は充分満足してる」
俺の未鑑定品の簡易鑑定の後で、売り物の中から報酬を選んでいたがそこで素敵な物を見つけたのだ。
それは、一つの石だった。
「アルベルト、これは?」
「ああ、それですか? それは南方の国、ロードマインと呼ばれる国に時折出没するジュエルゴーストと呼ばれるモンスターの体の一部ですよ」
モンスターの体? 石が?
「ジュエルゴーストとは、その名の通り体が宝石で出来てるんですよ。だから、石って事は所謂ハズレですね。興味本位で買ってみましたが、買い手にとってはただの石ですからね。正直だぶついてたんですよ」
つまり、岩石類の中でも現実的に生きている石か。
ならば、これを加工して俺の武器にすればどうだろうか?
ランクアップも任意発動出来る事だし。
「これでいい」
「へ? こんなので?」
と、こう言った流れになったわけだ。
「では、私は明日から暫く仕入れの旅に出ますから……戻りましたら……どうやって連絡しますか?」
「昨日、ギルドに冒険者登録をした。名指しで依頼を出してくれればいい。そうすれば、冒険者証を通して反応がある」
名指しのクエスト依頼の時は、冒険者証を通してギルドから連絡が来るのだ。
その為の魔力パターンの解析なんだろうな。
俺に対しての物はフラムさんに行ってしまうが、あの人ならちゃんとフェイに、変換させて連絡してくれるだろう。
「とても、昨日登録した人の言葉じゃないですね」
「残念だが、俺は特別だからな」
モンスターの石を手にして、アルベルトは一財産を手に、互いにバラバラの方向に別れて行った。
流石は魔法学園に根付く商人。6割以上が黒いもやがかかっていた。
確かな鑑定眼だよ。




