第十五章、学園編、三日目、異者は決断する?(2)
魔力を把握する為に、クエストをうける事になった俺達。
冒険者登録が問題で、これから俺はとある賭けに出る。
「じゃあ、皆さん。わからない事があったら、何でも聞いて下さいね」
「なあ、フラム。こいつ等の所の他の生徒はもう来たのか?」
「ええと、今日は六組目ね。大体一教室分位かしら」
記入については問題ない。パパッと書いてしまおう。
今度は実名で、住所は、前と同じでいいか。孤児院ってこんな時便利だな。
「あー、あのセンセやる気ないからなぁ。きっと、次の生徒が来るまでまだ一時間はかかるぞ」
ふむ、大体書けたな。
じゃあ……。
「あの、フラムさん……」
「はいはい。どうしたんです?」
素早く俺の所へ来てくれる、俺を助けてくれるであろう親切な人。
「ええ、これなんですけど……」
記入用紙とは別の紙に、メモを書いて見せる。
(他の仲間には聞かせたくないので、筆談で会話してもらってもいいですか?)
俺を見て、事情はわからないままも返答代わりに文を続けてくれる。
(わかったわ。それで、どうしたの?)
(ありがとう。実は困った事になってしまって)
(お友達と何かあったの?)
会話してて思うけど、この人やっぱりいい人だなぁ。
(いや、そう言う訳じゃないんですが……まあ、これを見て下さい)
俺は記入した冒険者登録用の用紙を見せる。
「これ、貴方の?」
「はい、今、書いたんですけど……」
普通に用紙を渡されたので、意表を突かれたのか声を出してしまったフラムさん。
この位なら別にいいんだけど。むしろ、黙り過ぎも変だろうし。
(わかりませんか?)
(ええと、ちょっとわからないわね、何がおかしいの?)
真面目なのかな? やっぱり。
俺がこのギルドにフェイとして顔を出してから丸一日立ってるから、この人ならきっと見てると思ったんだけどなぁ。
(過去に同じような内容の用紙を見た事ないですか?)
俺の文を見て、僅かに手が止まるフラムさん。
お、これはビンゴか?
(わからないわね。私達は自由に冒険者の情報をみれる立場にはないもの)
文字にすると普通だが、フラムさんの字はとんでもなく震えている。
よし、この人の好奇心旺盛さに助けられたな。
だが、まだ、可能性のレベルだろう。ここでもう一押しするか。
(次はこれを見て下さい)
俺は指にはめた剣をかたどった指輪を見せる。
(これはダークと言う剣をモチーフにしたものです)
最早、フラムさんは文字を書くつもりはないみたいだ。文字と指輪と俺を順番に見続けている。
(俺が言ったら貴女は信じないかもしれない。だから貴女が、俺のもう一つの名をここに記入して下さい)
震える手でそこに書かれた文字は……。
(フェイ)
ただ、それだけが書かれていた。
「つまり、何処が問題かフラムさんもわかるでしょう? 一寸解決出来なそうでったんで相談したかったんですけど……どうすればいいと思いますか?」
「え!? あ、あああああああの、そうね……」
いや、慌てすぎだろ? むしろ、不自然だよ。
(出来れば誰にもバレずに登録したいのですが、二重登録になってしまうのです)
走って俺の前からカウンター奥に消えるフラムさん。
調べてくれてるのかな? 他人に聞いてたらどうしよう? 困るな。
「ジェイル、どうしたの?」
「いや、俺はファミリーネームがないから。どうしたものかと思ってな」
「あの様子だと無いと駄目なんだろうか?」
「でも、無い物は仕方ないよね」
「ま、すぐに調べてくれるだろ?」
フラムさんが過剰反応したけど、あまり疑問には思われてないみたいだ。
良かった良かった。
「はい、お待たせしました!」
「ああ、わざわざすみません。で、どうでしたか?」
急いでまた文字を書いてくれるフラムさん。
(やはり、調べましたが方法は一つしかありません)
(あるんですか?)
(ええ、冒険者登録をしていない人間が代わりに登録するのが一番安全な方法です)
そっかぁ。それが一番なんだ……でも、そんな奴いないだろう?
(私で登録しましょう!)
「へ!? 本気ですか?」
驚きで今度は俺か声を上げてしまった。
「ジェイルさん、どうしたんですか?」
「いや、特には何でもないんだが……フラムさん、本気ですか?」
「ええ、このまま若い才能を無くすのは余りに惜しいですから」
とてもとても意外だったが、それがOKなら正に渡りに船。
「じゃあ、宜しくお願いします」
「ええ、任せといて!」
「ジェイル、名前、どうだったの?」
あーそうだ、それだった……どうしようかな?
「実際は無くてもいいんだけど、やっぱりこの先の事を考えるとファミリーネームがあった方がいい、と思ってね。私の名を使ってもらう事になったのよ。それで彼、驚いちゃってね」
何それ???? むしろ、初耳なんだけど?
それを顔にださないようにする事に最上の努力が必要だった。
「そうなんだ、良かったねジェイル」
「あ、ああ。俺も孤児院を忘れるつもりはないけど、俺みたいな孤児院で暮らす子供を案じてくれる人がいるなら頼ってみようと思ってな」
「………………おめでとう、ジェイルさん」
「では、ジェイル殿は今日から……フラム殿、名前は何でござったか?」
笑って俺達を見回すフラムさん。
「ジェイル=リザム君の誕生よ」
こうして、フラムさんと俺は共犯となり、なんか、いつの間にか改名されていた。
「でも、何で黙って暗号みたいな話し方してたの?」
「決まってる。そんな話、恥ずかしくてとてもじゃないけど聞かせられるか!」
無理矢理な感じしたけど、何故か皆が納得していた。
「こうやって、こうだ!」
手にしたグレートソードで、気合い一閃、人型の犬のモンスター、コボルトを両断する。
「ナツメさん。そこまで圧勝じゃあ、参考にならないよ?」
「この女、脳筋か?」
「んー」
「見てるだけがこんなに辛いとは……拙者も修行が足りんでござる」
駄目だこの女……見つけては一閃、見つけては一閃。一切魔法使わないだけでなく、加減する気もありゃしねぇ。
「クエストの空気って、こんなので感じれるのか?」
「違うと思うけど……」
「ナツメ先輩!」
呼び止めて希望を伝える。
「どうしたんだ? もう魔法覚えたのか?」
「いや、今のじゃ無理だろう? 敵を即殺し過ぎです。少しは打ち合って下さい」
「え!? わ、わかった、やって見る」
そして、次の敵に対してはグレートソードでズガーン!
そして、その次の敵をグレートソードでズガーン!
そして、その次の敵もグレートソードで……って、全然やってみてねぇ!?
「ナツメ先輩?」
「い、いや、違うんだよ? 本当に受けて交わしての好勝負を繰り広げようと思ってるんだよ? でも、隙だらけな構えを見るとつい……」
この人、生粋の戦闘民族だ。もう駄目だ、このクエストは……人選間違えてるだろ?
「……そろそろ戻りましょうか?」
「ま、待ってくれ! 次、次こそはちゃんとやるから!」
シズマも諦めてるみたいだけど、泣きの一回と言う事で再戦する事になった。
「よし、じゃあ、あいつに……覚悟!」
「えい、行けぇ!!」
やる気満々なナツメ先輩。そのやる気を吹き飛ばすような声と共に、水流が目の前にいたコボルトに降り注いだ。
「これは……魔法? マリアンか?」
「ハァ、ハァ、ハァ……で、出来た……」
水……俺の千里眼で見た通りの才能の開花だな。
ウォータービーム、とでも言えばいいだろうか? コボルトを一撃で仕留めるなんて、初めて使った魔法なのに大した威力だ。
でも、魔力を急激に使ったのか座り込んでいる。
「す、す、凄いでござるよ!! 拙者達の中で一番はマリアン殿でござったか! 脱帽でござるよ!」
「負けちゃったね。僕も負けないように頑張るよ」
皆、口々にマリアンの努力と才能褒め称える。
あ、あっちの方でナツメ先輩がへこんでる。
とりあえず、戻る為にマリアンに手を貸す。
「立てるかい? それともお姫様抱っこがお望み?」
「た、立ちます立ちます!」
バネのようにピョンと起きあがる。この様子だと、別に魔力の枯渇じゃないみたいだ。
安心安心。
「あの、ジェイルさん……」
「おめでとう、マリアン。出来るって思ってたよ」
「ありがとうございます! 昨日もらった首飾りのお陰です!」
なんにせよ、助けになったならよかった。
よし、じゃあ、戻るか。
「何やってるんですか? 戻りますよ、ナツメ先輩」
「ああ、俺の馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
「夜は皆でご飯食べにいかないかな? マリアンさんのお祝いに」
「おお! それはいい意見でござる! 拙者、この身が朽ちても参加させてもらうでござるよ!」
「それは参加しない訳にはいかないね。ナツメ先輩はどうしますか?」
「俺はいいよ。これから長いつきあいになる仲間だけで行っておいで……おめでとう、マリアン」
へこみながらも後輩を気遣って対応出来るなんて、優しい先輩だな。面目丸潰れなのに。
「悪い事考えてる顔してるよ、ジェイル」
「優しい先輩に心を撃たれただけさ」
実際に結果を出した友人が出た事で、行きと比べて帰りは俺達の足取りも軽く、俺達の教室で初の魔法使いの誕生に教室は大騒ぎでマリアンは一躍時の人になった。




