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第十五章、学園編、三日目、異者は決断する?(1)

 どの教科書をいつから使うかわからない。


 皆も同じ気持ちだったからか、誰も教科書を持ってきてない。


 しまう場所、パーソナルスペースが学園にはないから俺も持ってきてないが。


「まずは魔力を自覚するまでの所を5日間かけてやってもらう。で、その後の予定はな、とりあえず刷ってきてあるから、お前等、この紙を後ろに後ろに後ろに回せ」


 どんだけ回したいんだよ、全く……回ってきた紙を見る。殆どが知識だな。面倒臭い。


「……5日か」

「誰か、出来るようになった人はいるんでござるか?」

「二人とも、時間割、見ましょうよ」


 シズマもセバスも寮や家で大分練習したんだろうなぁ。で、結果が全く出なかったから焦ってる、と。


 シズマにはやはり魔法適正がマイナスの事を伝えておくべきだろうなぁ。いや、むしろ、その前にライアン爺の方に伝えておくべきか?


「基本的にここでは5日毎に一日休みとなるから、そのつもりで望むように」

「先生、時間割や日程とかは、初日からわかってたんじゃないんですか?」

「あ? まあな。でも、予定が既にわかってるより、わからない方が魔力の認識に集中して取り組めただろ?」


 勇気ある生徒Aの訴えは、おちゃらけによって消されてしまった。

 俺は忘れないぞ、お前の勇姿は!


「じゃあ、今日の授業だ。グループでクラス3以上の討伐クエストをこなしてもらう」

「そんな! どうやってやるんですか!?」

「私、何も出来ないですよ!?」

「酒飲み過ぎじゃないか?」


 避難の嵐である。


 関係ない奴もいるみたいだが。


 そりゃそうだ。魔法も使えない奴らに、クエストをこなせって言うのだから。

 皆が皆、入学試験で討伐をクリアした訳じゃないだろうし。


「うるせぇなあ。話は最後まで聞け。お前達にはガイド役として上級生が付くから心配すんな。お前等は基本見てるだけだ。肌で感じる生死の感覚がお前達の才能を引き出してくれる……後、酒について言った奴は後で俺の所に来い」

「魔法学園なのに、入学から随分普通に戦闘が多いな」

「それだけ、難しいって事なんでしょうかね?」


 俺達はむしろ、楽観していた。入学試験もこの三人でクラス3のゴブリンを倒してるんだから(手加減して)。


「でだ。戦闘中に魔力の感覚を掴んだら、力の限り相手を睨め。そして、なんでもいいから叫べ。それだけでいい……それがお前等の一番得意な属性になる。俺からの説明は以上だ。じゃあ、今からお前等の先輩の所に案内する」


 説明が簡単すぎるだろ。


 いつもながら、手抜きな感じが抜けきれない。


「どんな先輩様だろうな。俺達と一年した違わないんだろう? 一年でクラス3をソロでこなせる位に強くなるって事か?」

「僕達程、特殊じゃなくてもって事だよね、勿論」

「拙者も負けてられんでござる」

「私も頑張ります」


 マリアンは昨日俺があげた首飾りを掴んでいる。

 魔石もあるしひょっとしたら、今回だけでも魔法が使えるようになるかも。


「おう! やっと来たか。俺がお前達の担当になる。名前はナツメ=ビュクターだ。よし、俺に任せとけよ!」


 案内されていった先にいたのは、明らかに女戦士アマゾネスじゃないのか? と、思えるようなガタイのいい女性だった。


 なんか、不安だ…………。









「おし、じゃあ、まずはギルドに冒険者登録に行くぞ!」

「ーーえ!?」

「どうしたの、ジェイルさん?」

「さては、意外だったんでござるな?」

「まあ、クラスのあるクエストを受けるから冒険者登録は必要だよね」

「ああ、そういう事か。何、心配いらないさ! 何かあっても俺が全部終わらせてやるから!」


 皆が何か勘違いした様子で色々言ってくれるが、俺としてはそれ所じゃなかった。

 冒険者登録は魔力パターンで登録される。つまり、魔力が無ければなれない。シズマは才能はありそうだから、登録は出来そうだけど。


 問題は俺だ。


 俺は既に、フェイ、と言う名で冒険者登録を行っている。

 流石にそれが今バレるのは得策とは思えない。


 どうする?


 何かいい手はないか? リミットはギルドで登録するまでだ。

 考えろ、考えるんだ!

 

「ジェイルさんって、時々考え込んじゃいますよね」

「全くでござる、意外に世話が焼けるでござるよ」

「二人とも本人の前では止めなよ。そういう事は」

「ふふふ。仲がいいなお前達は」


 召還獣に登録させるか? いや、駄目だ! どんな反応がでるかわかったもんじゃないし、召還獣自体がレアだ。


 名前だけ変えて普通に登録してみるか? いや、リスクが高すぎる。むしろ、どちらかが消される可能性がある。その場合は、冒険者に俺の素性がバレる。そして、学園にもバレる。


 くっ! 万事休すか……。


「ほら、ジェイルさん、着きましたよ……って、凄い汗じゃないですか!? 具合でも悪いんですか?」

「本当だ? 大丈夫かい、ジェイル?」

「今日は止めとくでござるか?」


 いや、止めても解決はしない。しかも、時間をかけてもいい意見が浮かばなそうな所が業が深いな。


「いや、大丈夫じゃないが大丈夫だ。冷や汗が止まらなくて、頭痛と吐き気、締め付けるような胸の痛みがあるが問題ない」

「それは大丈夫じゃないよ?」

「まあ、登録さえ終えたら、俺が全部やってやるから寝て見てればいいさ」


 馬鹿やろう。それが出来ないからこんなんなってるんじゃないか!


「あら、いらっしゃい、ナツメ。貴女が新入生達の指導なんて、時が立つのは早いわね」

「俺に才能が合ったからだな。説明はいらないよな。こいつ等に冒険者登録をしてやってくれ」

「わかってるわ。それが私の仕事だもの。貴女はそこで座って待ってなさい」


 俺達はギルドの事務職員、フラム=リザスの下で冒険者のあれこれを説明されていた。


「冒険者登録すると、魔力パターンをこの水晶が読みとって全ギルドに情報が送られて、冒険

者として登録されます。当然だけど、偽名なんてとても無理だからね」


 ギクッ。フラムさんは俺の事知って言ってるのか?


「で、冒険者には1~15等級まであって、それによって受けられるクラスが変わってきます。各等級の×3までのクラスレベルのクエストが受給出来るようになります。等級のアップについてはいくつか条件があるので今は省きますね。後で渡す冊子を読んでおいて下さい……あの、君、大丈夫? 凄い汗だけど……」

「ええ……」

「彼、調子悪いみたいなんです。だから、とりあえず登録だけでも、と思って」


 もう、1人で考えてても碌な案が出ない。どうやっても、誰かしらにバレる。

 なら、被害を少なくする方向で考えよう。


「そうなの……授業の一環ってこんな時に不便ね。じゃあ、早めに切り上げましょうか。ごめんなさいね。口頭説明でなければいけないものがあるの。もう少し我慢してね」

「大丈夫です」


 じゃあ、セバス、ミリアンは? 駄目だ、根本的な解決になってない。 

 シズマは? ライアン爺に言えばなんとかなるかもしれないけど、今からだともう手遅れだ。


 ここにナツメ先輩と、フラムさんがいる事が本当に条件をきつくしてる。

 ん? フラムさん? この人はどうだ?


「モンスターの討伐依頼の時は、必ずそのモンスターの体の一部を、証拠として持ち帰って下さい。でなければ討伐が認められませんから……出来るだけ分かりやすい、有る程度は大きなものでお願いします。私達が判断するので、臓器や歯、角の欠片等を持ってこられても区別が出来ないですから」

「それって、こないだの、大型モンスターの一件の事かい?」


 いいんじゃないか? もし、上手く行けば正体がバレるのはフラムさん1人で済む。


「大型モンスター? そんなのいるんですか?」

「ナツメ! 誰に聞いたの!? 私、誰にも話してない筈よ?」

「誰って……学園長だよ」

「あの人は……もう!」

「どんな話なんですか?」

「それは……」

「話してやんなよ。どうせ、学園長が皆に言いふらすさ」

「……仕方ないわね。でも、私から聞いたって言うのは内緒よ?」


 よし、フラムさんに相談してみよう。


 ん? 何で、フラムさん、一昨日の話してるの?


「で、その冒険者はクラス75のモンスターバイコーンを1人で、しかも半日もかけずに倒したの。ただ、どうやったかはわからないけど、バイコーンの損傷具合が激しかったらしくて、証拠を持ち帰れるような状態じゃないってぎりぎり角の破片を私の所に持ってきたの」

「それで、どうしたでござるか?」

「勿論見に行ったわよ。そんなクラスのクエスト、もし間違ってたら、私が何を言われるかわからないもの」


 成る程、確かにそうだな。あの時はそんな事考えてたのか……。


「で、真実だった、と」

「ええ、森の一部が更地になってたわ」

「何度聞いても、信じられない話だよな。そもそも、教師陣に依頼するつもりのクエストだったんだろ?」


 ライアン爺、楽になったからって言いたい放題言ってるみたいだな。


「知ってたの……まあ、それは私のミスなんだけど、でも、それ位しかその人に合うクエストが無かったのよ」

「そんな凄い御仁、存在するんでござるか?」

「……そんな高クラスクエストを1人でこなす冒険者なんて1人しか思い浮かばないなぁ」

「……暗闇のフェイだな」


 何それ? そんな二つ名があったの?


「誰ですか? って、ジェイルさん、大丈夫ですか!? 顔面蒼白になってますよ! 無理しない寝てていいんですよ?」


 いつの間にか座らされていた俺は、正直汗で気持ち悪かったので、自分の事を質問をする。


「大分楽になったから平気。それより、暗闇のフェイって?」

「ジェイル殿は知らんでござるか? ジェイル殿の知識は随分偏ってるでござるな」


 知ってはいるんだがな、本人だし。まあ、知識が偏ってるのは認めるが。


「では、不詳拙者が……暗闇のフェイとは基本たった1人でクエストをこなす凄腕の冒険者の事でござる」

「……ふむ」

「…………」

「…………」

「……終わりか!」


 そんなの俺が一番知ってるわ!


「仕方ないなぁ、じゃあ、僕が引き継ぐよ」

「かたじけないでござる」

「フェイはどんなクエストも100%の確率でこなす。その姿は暗闇に包まれて誰も見た事はなく、入れ替わるように彼を紹介した冒険者は姿を消した。どんな戦い方をしているかは不明、年も不明。わかってるのは、男性って事と討伐系のクエストしか受けないって位じゃないのかな?」


 皆、よく調べてるんだなぁ。討伐系しかしないのは、その方が早く終わって金になるからだよ。顔バレのリスクも減るしな。


「後、もう一個。今回のクエストでフェイは無眼の恐怖って呼ばれてるよ」


 フラムさんから聞いてはいたけど……酷い呼ばれようだ事。


「私達は冒険者の皆さんの心と体を守るのも仕事の内です。出来るだけ本人の為にならない話は広めないで下さいね。どんなに強い人でも今を生きる英雄なんですから。じゃあ、皆さんもそろそろ自分達の試験ににうつりましょうか?」


 やっと、始まったか。人伝に自分の話を聞くほど恥ずかしい事はないな。



 さて、どうやって伝えるのがいいかな?

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