第十四章、学園編、二日目、商人は語り始める?(3)
「ああーこれ、綺麗ですねぇ」
とんでもない量の露天の肉を食べた後(マリアン8割)、腹ごなしに散歩と決め込んでいるとある露天の前で、マリアンが腕輪のような物に手を伸ばそうとしていた 。
あれは……腕輪か? 黒いもやがかかってるが……無害ではなさそうだな。
「マリアン、それに触るな」
「え? これですか? そうですよね、売り物に触ったら怒られちゃいますもんね」
「いや、そんなことないが? ぜひ、うちの商品を手にとって自分に合うか確かめて欲しいんだが……」
いや、そういう意味じゃない。
「店主よ、この腕輪とそこの指輪……後、その動物の顔の仮面、それは何処で手に入れたのだ?」
「おっ、何だい? 兄さん。兄さんが欲しかったのか? 人が悪いねぇ。しかも目利きだ。これはな、今は魔物に滅ぼされて廃墟になってる大都市、ダスクテーダ。その近辺のダンジョンで出土したもんだ。昨日入手したばかりの掘り出しもんだよ、そうさなぁ、全部セットなら……「ああ 、値段とかは別にいい」……はい?」
誰がこの店主に売ったかは知らないが、ダンジョンから 手に入れたもので、不吉な感じがするなら……俗に言う呪 いのアイテムって奴か?
「その三つのアイテムだが、程度はわからないが、呪いがかかっている可能性がある。手間だとは思うが、品行方正な商売をしたいなら一度正確な鑑定をして教会等で解呪した方がいいと思う」
「……兄さん、学生かい?」
「ああ、未熟ではあるがね。信じる信じないは店主の自由だ……だが、これじゃ、店主の売り物をケチ付けただけだからな。その剣の飾りの首飾りをもらおうか?」
俺が指さしたのは、魔力を帯びてると思われる首飾り。
これもレベルはわからないが、嫌な感じはしないから多少はプラスの効果が出るだろう。
「いくらだ? 店主の商売の邪魔したようなものだからな。適正であるならある程度言い値で買おう」
「…………兄さん、一つお願いがあるんだが、聞いちゃくれ ませんか? もし、聞いてくれるならそれは差し上げます 」
首飾りを俺に渡しながら、質問をしてくる。
「これはマリアンにあげよう。魔力を帯びてるか ら、魔石よりも魔法を使う為の助けになると思う」
「え? そんなの、もらえないですよ!? 私、無理矢理ついてきたのに、そんな貴重なもの……魔法が込められた物は高いってお父さんからも聞いた事有りますよ!?」
俺はそれをマリアンに渡しながら、店主に先を促す。
いつものように返してこようとするので、マリアンの話は聞き流して首にはめてあげる。
ただ、ロハ、無料ね。面倒な事じゃなければいいけど……ただより高い物はない。
「実はですね、兄さんが言ったこの三つなんですが、初めてあったの冒険者から購入したものなんです。私は普段はそんな事しないんですが、物をみせられたらつい……」
「武器や道具に精通してる商人なら、確かに力を感じるの も無理はないな」
「私はこれでも、このアガスティア魔法学園街で3年近く露天を開いて、それなりに繁盛させてもらってるんで す」
俺に鑑定をしろ。そういいたいのか? この商人は?
「俺に鑑定をしろ、と?」
「流石、兄さん話が早い。正直、私共のような商売をしてると、呪いのアイテムなんてこのアガスティア魔法学園 で販売してるのが噂になったら、それこそ商売上がったりです。かといって、全てのアイテムを鑑定するようなコストもかけられません」
俺もあれだけ言ったけど、実際、黒いもやが呪いで魔力付きが本当にそうかもはっきりしてないんだが……。
「今回のように一見の冒険者やダンジョン等からの出土品が手に入った時だけで構いません。勿論ただで、とは言いません。鑑定してもらった時は、売り物の中から何でも一つ好きな物を差し上げますから。どうでしょうか?」
「随分、気前がいいんだな。その分買い取りの量を増やす って事か?」
「いや、まあ、それは多少は……でも、兄さん、ご存じないので? 教会での鑑定と解呪はめんたま飛び出る程高いんですよ。今回の三つの鑑定と解呪を頼むだけでも、ここの商品なんて全て飛んでしまう位ですから」
店主の話は終わったようで、俺は少し考える。
正直、おいしい話だ。俺は怪しいと思う奴を指定するだけでいい。 しかも、結果、売り物をもらえる。
信用第一の不安定な取引になるけど、俺は不正をする気はないし問題はないように思える。
「すまん、俺は新入生でな。この辺の常識に疎いので、変なことを聞いてたらそう言ってくれ。店主は呪いのかかったアイテムを処分したり、他者、例えば学園や教会の手に委ねようとは思わないのか?」
「成る程。それで、私達にこんな親切だったんですか。 と、それは思いませんね。呪いがかかっているって事は、それが本物の証ですから。まあ、解呪しても害悪しかもたらさないアイテムだった場合はその限りではないですが……商人としたらチャンスなんですよ。いっちまうとね。呪いがかかった出土品とかは高確率で解呪費用なんて 楽にカバー出来るような金額で売れるって聞きます。 私は扱ったことはまだないですが」
向こうも大分、ぶっちゃけたな。まあ、双方に利益があるなら俺も異論はないな。
「それなら、よかった。俺だけ得してるみたいで気が進まなかったが、安心した。俺が指定したアイテムが実際に呪いのアイテムだったら、店主の申し出を受けさせてもらう 」
「なんか、つい色々裏側まで話しちまいましたが、本当にいいんですか? あ、いや、断られても困っちまうんですが……」
どれだけ儲かるかを力説した後だからか、なんとなく、及び腰な様子の店主。
「別に構わない。この話し合いだけでも店主が、ちゃんと売り手の事を考えて真面目に商売してる事がわかる。俺は店主が信頼出来ると感じた、ただそれだけの話だ」
「……魔法学園の生徒さんにそんな事言われたのは初めてですよ。皆、商人と来たら、少しでも価格を下げようと色々言う子ばかりでしたから……ああ、兄さん達のお仲間を悪く言うつもりはないよ? それは、買い手としちゃあ、 当然の権利だからね」
ああ、それで、俺が学生かを確認したのか。
「じゃあ、何故俺を信用するつもりになったんだ? 俺も言ってる事はその学生(交渉人)と同じだったろう?」
「ああ、それは、彼女さんに買ってあげた聖剣の首飾りですよ」
「え、ええ!? か、彼女ですか!?」
急に振られたからか、彼女扱いされたからかとんでもなくびっくりしてるマリアン。 出来れば前者の方が俺の精神安定上よろしいなぁ。
「魔力が込められていたのがこれと、あの、小手位だったからな。仮面は女性には辛いだろう?」
「やはり、そっちもわかりましたか? そうなんです。今日の私の仕入れでは、魔法がこもった物はその聖剣の首飾りと風祭の小手の二つだけだったですよ。最低でもマジックアイテムに関しては、兄さんはしっかりした鑑定眼をお持ちだ。しかも、私の店で購入してくれた。その為、アドバイスとして受け入れる事が出来ました」
「そうか、俺も十分打算的な目的で店主に声をかけただけだからな。メリットがあるだけ俺としても問題ない」
呪いのアイテムかどうかの確認のな。
「でしょうね? 彼女さんが自分のいない時にもし、私の店の物を買って何かあったら大変ですものね。確かに今回のような事がなかったら、自信を持ってこのアイテム達を売っていたでしょうし」
「だから! 私はあの!」
ああーそう言う理由もあるのか。その方が説明しやすいな。
「ああ。店主の品は正直魅力的だからな。なんせ、初露店の彼女がぴたりと足を止めた位だからな」
「有り難うございます。では、契約は成立、と言う事でよろしいですか?」
「あの!? ジェイルさん!?」
「マリアン、一寸待ってて。後で話を聞くから。ああ、宜しく頼む。ただ過信はしないでくれよ。先も言ったが俺はまだ見習いもいいところだ」
今、訂正されると話がややこしくなる為、前みたいにマリアンの手を握って黙らせる。
「それを含めても、私には十分過ぎる位のメリットがありますよ。私はアルベルト=ササノメイユ」
「そうか、俺はジェイル。とりあえず俺はいつまた顔を出したらいい?」
「この後明日にでも教会に行ってみようと思います。私は基本三日周期で仕入れに出ますので、とりあえず明後日までにここに来てくれれば……」
「わかった。じゃあ、明日にでもまた顔を出すよ」
こうして、明日また約束を取り付けて、俺達は分かれた。
マリアン? 理由を説明して食事をおごったらなんかご機嫌になっていたぞ?
一寸いい店にした甲斐があった。
そんなこんなで、授業一日目が終わった。
アルベルト=ササノメイユ
27歳
男
ホビット
商人
所持スキル
鑑定眼レベル1/3
交渉術レベル1/4




