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第十四章、学園編、二日目、商人は語り始める?(2)

「……皆、どうやって部屋に持って行ってるんだ?


 空高く積まれた教科書類の本を見ながら、周囲を見回した。


「どうやら、皆、同じような状況のようでござるな」

「台車とかはないのかな?」


 セバスの言う通りだな。台車の貸し出しと想われるカウンターには、生徒が山程連なってるし。


 ここにいるのは三種類の人間か(種族については触れるな。比喩だからな)。


 台車で運ぼうとしてる奴。

 少しずつ小分けにして運んでる奴。

 途方にくれてる奴。


 やれやれ。いくらなんでも多すぎるだろ?


 まあ、学のない世界で一般常識から教えなきゃいけないんだろうが……こんなの必要に応じて学園に持っていけるのか?


「シズマ殿はどうされるか? 拙者は一寸迷ってるんでござるが……」

「流石にあれを待ってはられないなぁ。このレベルならなんとか持ってけるし、頑張るよ」

「そうでござるか、確かに少しずつだと、他の学友殿達の物と混ざってわからなくなる可能性もあるでござるからな」


 二人でしている話を横から神妙な表情で聞いているマリアン。


 ……仕方ないな。全く、二人ともそういう事は聞こえない所でやれ。


「マリアン、お前の部屋は何処だ?」

「え? ジェイルさん?」


 俺は自分の教科書を左手で持ち上げ、マリアンの教科書を右手で持つ。


「わっ!? そんな、重いですよ、いいですよ!?」

「もう、持ってるから関係ない。早く部屋まで案内しろ」

「ジェイル、僕も持つよ」

「ジェイル殿、拙者も……」


 そもそも、お前等が不安にさせたせいだ。むしろ、二人が全部やれ。


「お前等には余裕はないだろ? 俺は出来る、それだけだ。この後街に出ようと思ってるからな、早く終わらせたいんだ。お前等も早くそれを持って帰れ」

「ジェイルさん……有り難うございます。せめて、私、持てる分位は持ちます」

「必要ない。既に持ってるんだから、降ろす方が手間だ」


 と、言いたいが、こんな芸等出来なそうなんだよなぁ。もっと体を鍛えろ、二人とも。


「わかった、じゃあ、よろしくねジェイル、マリアンもまた明日ね」

「ふんぬ! では、ジェイル、殿……マリアン、殿……明日でぇ! こざる……」


 シズマは両手で、セバスは息も絶え絶えで、教科書を抱えながらそれぞれの家に戻っていった。


「じゃあ、こっちも、案内を宜しく。ドアや段差があったら教えてくれよ? 流石にそれは見えんからな」

「はい、任せて下さい! こっちです!」


 俺達もマリアンの部屋目指して進む事にした。





「で、どうしてこうなった?」


 俺の隣にはマリアン。


 俺達は今、アガスティア魔法学園の生活の肝となる街の商店街部分に来ている。


 何故マリアンがいるのかというと……。






「本当に有り難うございました。シズマさんやセバスさんの話を聞いてたら、凄く不安になっちゃってたので助かりました」

「いや、構わない。適材適所さ。俺には君に助力する事が出来た、それだけだ……じゃあ、また……」

「あの、ジェイルさん。今から街に行くんですよね? 良ければ私も連れて行ってくれませんか?」


 マリアンの部屋を後にして、自分の教科書を部屋に置き次第出張ろうと思っていたから

、つい言葉に詰まってしまった。


「……来るのか? それは構わんが……俺もよくわからんぞ?」

「そうなんですか? ジェイルさんならもうここに詳しいのかと思ってました。じゃあ、一緒に迷いましょうよ? 駄目ですか?」


 そんな捨てられた小犬みたいな目で見るな。反則だろ、それは。


「俺もこれを置きに帰るから15分後に学園入口の門の前で集合だ。いいな?」

「はい! 有り難うございます! じゃあ、先に行ってますね!」

「あ、おい! 準備とかあるだろ! って、もういないし……これじゃあ、急がざるをえんな」


 マリアンの去った方向と自分の教科書を見ながら僅かに溜息をつく。


「大変だね? 色男さん」

「君がマリアンのルームメイトか?」

「そ、ファーファ=ブリッツだよ。君、ジェイル君?」

「そうだが……俺、そんなに有名なのか?」

「んーん。あの子がよく話してるよ」


 マリアンは俺の力の一片を知ってるからな。これ以上話さないように口止めしとかないとな。


「多分、君が思ってるような事は聞いてないと思うけど……ま、君、女の敵っぽいしね」

「失礼な。俺ほど紳士な男はそうはいないぞ?」

「その受け答えが既にアウトだよ。ほら、早く行かないと、マリアンがふるえちゃうよ?」


 どうにも引っかかるが、確かにマリアンを待たせるのはよくないな。


「すまんが部屋の施錠を頼む。後、これからもマリアンと仲良くしてやってくれ」

「まるでお父さんだね…………そっか、わかったよ。またね」







 なんて事があったのだ。


 それで、合流してからファーファに俺の何を話したのかをやんわりと聞いてみた。

 結果、要領を得なかったので、俺が本来は力を隠してる事と、余り目立ちたくない事を伝え、出来るだけ俺の事を口外しないようには伝えた。


 納得してくれたので一安心だ。


 セバスにも、同様に話しておいた方がいいかな?

 シズマは大丈夫だろうが。


「ジェイルさん、私、初めて来たんですけど、露天販売って凄いですねぇ」

「ここの露天がアガスティア魔法学園街のメインストートらしい。勿論魔法に類した専門的な店は数多くあるが、金額の関係で多くの生徒が露天を利用するとの事だ」


 この魔法学園街は魔法使いじゃない普通の人間も多数暮らしている。

 例えば、魔法学園に勤めている人の家族、一族。街で店舗を持つ人、その家族。この露天の行商人でここを拠点にしてる人は家を持ってる。


 外からは後は冒険者が数多く来る。ここの武器はマジックが付加エンチャントしてるものが多い。それに外部で購入するより遥かに安い。そして、転売を防止策もとられてるようなので基本自分で買いに来ているのだ。


 そして、話は戻るが居住者で一番多いのは魔法に関係した人々だ。アガスティア魔法学園以外では魔法は未だ異端的なものと見られることが珍しくない。

 厳しい目にあった、もしくは才能があるけど環境がない、等と言った人々を積極的に移住させてるのだ。


 要は囲い込みだ。これが何故、他国で問題にならないのかと言うと、このアガスティア魔法学園のライアン学園長が時代の英雄だからに他ならない。


 それに、周囲の国々に優秀な卒業生を輩出させてるから。


 就職先ってことだな。




「ジェイルさん、どうしたんですか? これ、美味しいですよ、一緒に食べましょうよ」

「ああ、すまない、一寸考え事を……って、でか!? 恐竜肉じゃないか……」


 恐竜肉……昔、テレビで見た自分の顔よりデカい骨付き肉の事だ。

 まさか、存在してるなんて……。


「……こんなでかい肉、高くなかったか?」

「うーん。思ったよりは安かったですよ? まあ、モンスターの肉ですしね。はい、ジェイルさんもどうぞ」


 手渡された肉をマリアンを見てから恐る恐る口に運ぶ。

 モンスターって食べれるのか……まあ、ここで売られてるんだからそうだよな。


「……旨い……」

「疑ってたんですか? モンスターの肉って結構一般的ですよ。私の村でも普通に食べてましたし」


 そうか、じゃあ、孤児院では敢えて出さなかったんだな。

 そうだよな。戦災孤児って、どちらかというと、モンスターとの戦闘で孤児になった子の方が多かったしな。


 俺もまだまだ修行が足りないな。


「ジェイルさん! ソーセージ、ソーセージありますよ!」

「あ、おい、マリアン! まだ、この肉が……「あげます!」……おいおい、まだ半分以上残ってるぞ、こんなに食いきれないから……」


 止められなさそうだったので、ちまちまと恐竜肉を口に運びながら飲み物を二人分購入してベンチに腰をかける。


「しかし、俺が一寸考えてる隙にこの恐竜肉を半分近く食べてたんだよな。はしゃいでるのも勿論だが、食べるの早すぎだろ?」


 ショートソード位の長さのソーセージを二本持って、こっちに走ってくるマリアンを見ながら俺は目を見開いた。


 二本有る……まさか、一本は…………。


 クエスト以上の覚悟を決める必要があった。

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