第十三章、学園編、初日、異者は受付の予感(2)
アガスティア魔法学園を少し離れた場所にある迷いの森。
俺はそこでドライアードとクレイゴーレムを召喚して討伐対象の馬、バイコーンを捜索していた。
前回シズマと戦った時の最後に起こった事。
俺が突撃してシズマを張り飛ばしただけなんだが、その速度が問題だった。
早すぎたのだ。
俺も上手く扱えない位に……あの時は加速する事しか考えてなかったけど、今思うと、一つだけ原因に心当たりがある。
俺のオート系スキルの速度アップ、これが発動したんじゃないだろうか?
オート系とは、取得してれば勝手に発動するものだと思う。実際効果があったと思うし。
だが、その過程が間違っており、実際には自動発動とは別にスキルとして発動出来たとしたら?
しかし、もしそうなら、俺の想像を遙かに越えるチートに気付かなかったって事になる。
「マスター、いた」
「お、本当か。意外に早く見つかったな」
ドライアードの探知能力は侮れない。ぶっちゃけ俺より凄いし。
気配を絶ちながら近付いていくと、そこにはのんびり野草を食べている黒い体躯の角の馬、バイコーンがそこにいた。
よし、まずは一回速度アップを試してみるか。
「ドライは射撃、クレイは俺に続け……行くぞ、スキル、速度アップ」
ストーンランスを構えて一歩踏み出す。
と、ととととおおおおおおおお!!??
予想よりも遥かに早い速度で前進する。なんとか、バランスをとりながらバイコーンの目の前に移動する。
「俺もだが、お前も驚いたよな……おら、吹き飛べ!」
「ギャピィィィィ!?」
ストーンランスで顔を横殴りに殴り飛ばす。
そして、投射スキルを発動させて、手にしたストーンランスを投擲する。
それはバイコーンの後ろ足近くに突き刺さる。
「ただの石の槍がクラス61のモンスターに突き刺さるのか……投射スキルの恩恵が凄いな」
ようやく到着したクレイゴーレムが、バイコーンに殴りかかる。
発動したオート系スキルはすぐには効果が切れないみたいで、俺の移動速度は継続したままである。
「スキル、格闘熟練! お前も災難だな……ま、俺に出会った不幸を呪え」
クレイゴーレムに殴る蹴るの暴行をうけていたバイコーンが起き上がり、クレイゴーレムに頭突きを仕掛ける。
その一撃は絶大で(クラス差のせいが多分にあるが)、クレイゴーレムの上半身は半分が崩れ落ちる。
突如、クレイゴーレムの爆発に巻き込まれるバイコーン。
爆風冷めるままに、俺が突貫して拳を振るう。
「ピピイイアイ!!」
「おっと、逃げるなよ。一気に行くぞ……攻撃速度アップ……」
半分も生かせてないだろうが、更なる速度上昇スキルを使い両手で殴りまくる。
一撃一撃がその体躯に食い込み、骨が折れる感触を拳に感じる。
早さ故にバイコーンの体は浮かび上がる。ある程度までの高さになると、後方からの精密射撃がバイコーンに刺さっていく。
どうも、差が激しすぎる為、スロウは殆ど効いてないな。
このクラスの敵が一方的無双か……スキルって恐ろしい。
「ギャピィィィィヒピ!!」
「これは……雷……ぐ、結構、ダメージがあるな」
たてがみを光らせると、自身の周囲を放電させてくる。
俺は腕をクロスさせて防御するが、そのまま双眸を怒りに染めたバイコーンが突撃してくる。
そのまま木に叩きつけようとしているのか、押されていく。
「こうでないとな。だが……」
「マスター、発動、リーフストーム」
俺毎ドライアードのリーフストームがバイコーンを包む。
召喚獣の攻撃は一切俺を対象にしないのだ。故にこんな無茶な対応も可能。
やはり、こちらも決定打には至らないようでバイコーンを吹き飛ばす事がメインになった。
距離をとった所でドライアードが精霊の癒しで俺を回復させる。
「よくやった。ドライ、後で御馳走だ! 召喚、ロックゴーレム! バイコーンの相手を!」
「御馳走、楽しみ」
「…………」
バイコーンに刺さったストーンランスから作り出されたロックゴーレムは、出現時に爆発してバイコーンを吹き飛ばす。
そして、その堅さをいかして防備に専念する。
俺は背負っていたストーンボウを手にする。
「さて、練弾の射手の力……見せてもらおうか?」
オート系のスキルは全て効果はもう切れている。効果時間は大体一分位か?
だから、これからは純粋に専用スキルだけの威力だ。
スキル練弾を発動。俺の手に魔力から作り出された矢が生まれる。
「さ、まずは一撃……ショット!」
「ピピイイイイイ!」
突き刺さる時に体がのけぞるような仕草を取り苦痛の声をあげる。
それだけで判断すると威力はまあまあ高いみたいだ。
じゃあ、次は……。
「スキル、練弾、チャージ」
チャージで一撃の威力を上げてから、練弾を撃ち出す。
「ピアアアアアアアアアピピィ!!」
「矢が貫通したか……大体、威力は倍って感じか」
じゃあ、後は……俺にあるスキルを全て使ってみるか。
それにしても、凄い耐久力だな。俺達がこれだけ攻撃しても、まだ、動きが鈍らないなんて……体内の骨を砕いたはずだぞ?
全く……。
「スキル、命中、速度、攻撃速度アップ、弓、格闘熟練、投射スキル……練弾、チャージ……」
射撃命中、攻撃速度アップ。
矢の速度アップ。
弓使用の為、弓熟練、投射スキルによる威力アップ。
弓矢を構える為、格闘熟練で威力アップ。
魔力の矢を作り出す練弾。
次の一撃を倍にするチャージ。
その全てが俺が構える矢、一撃に込められる。
魔力の矢を構える。
流石に同時発動の数が多く、俺の中で安定しない。
バイコーンの動きを見ながら、スキルが最も安定する時を待つ。
「……今だ。俺の本気受けきれるか? 一撃!」
俺から離れた矢は先程とは比べ物にならない速さでバイコーンに突き刺さると、貫通した後に襲ってきた衝撃に耐えられず、悲鳴を上げる暇なく体全体を押し潰した。
「うーん、威力が有りすぎるな」
まさか、あれだけのモンスターが何も出来ずに潰れるとは思わなかった。
肉片しか残ってないんだけど……討伐の証明として、体の一部を持って帰らなきゃいけないんだけどな。
バイコーンの居た場所でその場を漁りながら、証明出来そうな物を探す。
うーん、ないなあ。……あ、これは……バイコーンの角……の一部か? 小指ほどしかないけど。
でも、これしかないから、持って行くしかないか。
俺の放った矢の射線上をみる。
矢の半径5メートル範囲が、結構遠くまで木や草も残ってない荒野になってる。
「これみせたら……ギルドから怒られるよなぁ、きっと」
溜息をつきながら、俺は街の近くまでドライアードとロックゴーレムと共に戻った。
やはり、証明に乏しいと言う事で、あの事務のお姉さんと一緒に現地に行って見てもらった。
そして、周囲、バイコーンの粉々具合を見たお姉さんからは呆れられ、ギルドからは予想通り注意を受け、更にこの後から冒険者の間で俺は無眼の恐怖と呼ばれ恐れられるようになった。




