第十二章、学園編、初日、異者の初日体験?(1)
「定時連絡はっと……この後さっき行った校庭でお前達の適性検査を行う。行かなくてもいいが、行かないとここに来た意味の半分は無くなるな。ま、適当にやってくれ。明日は2刻の鐘までにここに集まれ。以上だ」
入学初日。言ってみれば入学式後の初教室。
そんな希望溢れる生徒達の前で教壇に立つ咥えタバコのボサボサの髪の男は、いきなりそう言って帰ろうとしていた。
この世界、タバコあるんだ。吸わないから関係ないけど。
2刻の鐘。この世界……と、言うか、アガスティア魔法学園での時計の役割を持つ鐘。
朝から夕方までの間で五回鳴る鐘の事だ。
起床や食事がそれにあわせてだから、朝……6時を基準に考えればいいと思う。
つまり、2の刻は朝9時位だ。
現代を生きた俺には、時計代わりのそれは非常に便利なんだが、如何せんそんなものを設置しよう物なら小さな村なんかは野党に襲って下さいと言ってるようなものだ。
勿論、鐘を設置する金銭的余裕もない。
城があるような大きな街にはあるんだろうか?
この世界に初めて来た時にはそんな余裕がなくておぼえてない。
「……あの、先生。自己紹介や校舎の案内とかは……」
「そんなの自分達でやれ」
素晴らしいまでの放任主義だな。だるさが雰囲気でわかるよ。
何だろうな、今日は? 廊下じゃ、へんなのに絡まれるし、教師はかけらもやる気ないし。
「じゃあ、俺は先に行ってるから、適当な所で来いよ。開始に間に合わなければ俺が欠席として報告しとくから気にするな」
言うだけ言って教室を後にする教師……おいおい、せめて開始時間とかお前の名前位は言っていけよ。どんだけやる気ないんだよ。
「本当に行きやがった……」
「ど、どうするでござる? 拙者、あんな指導者見た事ないから、どうしていいのか皆目見当もつかないでござる」
「あの……取りあえず校庭に行った方がいいんじゃ……」
まあ、正論だな。ここで話し合っても仕方ないし。
他の名も知れねクラスメート達もちらほら教室から移動している。
流石に帰る奴はいないか。
適性検査……何をするのか知らないが、きっと大切な事なんだろう。
「僕達も行こうよ。遅れていい事無さそうだし」
「そうだな。所で……」
三人が俺を見る。
「適性検査ってなんだ?」
シズマ達だけでなく、全員の足が一度止まった。
適性検査……つまり、自分に合ったジョブを自動で選んでくれるアンケートのような物らしい。
普通にやると金貨何枚と言った大量のお金が必要との事。
それだけの為にこう言った学校を受験する奴もいるほどだと。
つまり……これが、後天的にスキルを覚える唯一の手段って事か。
そう言えば、こいつ等は俺の千里眼のスキルを知ったのに、誰一人自分の才潜在スキルを知ろうとしなかった。
シズマ曰く、「自分の限界を決められてるなんて面白くない」との事。
英雄様は言う事が違うか。
俺の謝罪も受けてくれたから、助かったがな。
「……なんだよ。わかった?」
「ああ。わかったよ。わかったから、全員で囲んで話さないでくれ。うるさくてかなわん」
校庭に向かう道すがら、左右前方に広がった我が級友殿達がしってる限りの情報を流し込んでくる。
最低限でいいっての。
「うむ! 力になれたならよかったでござる!」
「私も、ジェイルさんに説明出来る事があって良かったです」
二人ともいい子や……シズマは理詰めでの説明が複雑すぎたから除く。
「全く……ジェイルの事だから、義父さんに呼ばれたからって理由で特にここの事調べなかったんでしょう?」
「貴様……エスパーか?」
「エスパー? よくわかんないけと……あんまり興味無さそうだし」
興味はあるぞ。この世界の「学校」が一体どんな物なのかとか、俺の力はどの位通用するのかとか……。
「違うよ。アガスティア魔法学園に……だよ」
「ああ……そうだな。多分ライアン爺の誘いがなかったら俺はずっと孤児院にいたしな」
皆には俺が戦災孤児を集めた孤児院にいた事は既に話してある。
流石に異世界なんちゃらや、アイネスさん(アルさん)の事は口止めされてるから言ってないけど。
「まあ、いいじゃないですか。じゃなかったら私達は会えなかったんですから」
「全くでござる! マリアン殿はいつもいい事を言うでござる!」
セバス……最近MOBキャラになってきてないか?
「ん? なんでござるか?」
「いや……頑張れよ」
「応! 任されよ!」
本当にな。きっとこの世界も個性が大切になるからな。
「やってるね。僕達のクラスが一番最初かな?」
「でしょうね。あ、先生いましたよ」
そりゃあ、本来行う予定のレクリエーション飛ばしたんだから早いさ。
流石にここではタバコは吸わないのか。
俺達は担任の教師の所へ移動する。
「先生……あの……」
「かぁっ! 失敗だったなぁ……」
「な、なんでこざるか!?」
教師は顔に手を当てると天を仰ぐ。
「こう何度も何度も聞きにこられたんじゃ、ホームルームを省略した意味がねぇ!」
「いや、お前の自業自得だろ」
首を何度も振る教師。
「面倒臭いが仕方ないな……スキル、クラフト!」
「え? 魔法……?」
教師が、手をかざしスキルを使用すると、そこには大量の紙束が現れた。
「これを見ろ。俺に質問するな。俺は早く帰りたいんだ」
「シズマ、あれは魔法の無駄使いじゃないのか?」
「……ノーコメントで。でも、凄いね。魔法学園に来たって感じするね」
ワクワクするのはいいけど……うーん。
取りあえず紙を受け取る。
そこには……ミベントスの所で用紙に記入。カマミタティ神官の所で神託を受ける。しか書いてなかった。
……おいおい。服装で誰が神官かは想像出来るけど、大雑把すぎだろ。
「あの……先生?」
「…………」
「先生殿! 質問が!」
「…………」
もう言う事なしってか? 悪い意味で徹底してやがる。
とは言え俺も聞いとく事があるんだよな。
「おい、教師」
「お前……俺は教師だぞ?」
「そう言うなら、少しは生徒を導け。そんな事より、お前の名は?」
「あ? ああ。そういや、忘れてたな。俺はクラース。クラース=ミルドレイルだ。覚えたか? ジェイル」
へえ? 俺の名は知ってたのか。ただの不良教師じゃないのか?
千里眼で、クラース教師を確認。
クラース=ミルドレイル
デュアルマジシャン
22歳
男
人間
スキル
精霊魔法(火)熟練レベル3/5
精霊魔法(風)熟練レベル3/4
精霊魔法(光)熟練レベル0/2
詠唱短縮レベル1/1
天才1/1
これは確かに……天才だな。ジョブ名も聞いた事ないし。
「はあ……わかりました、じゃあ行って来ます」
「俺もそうだが、お前も大概やる気ないな。じゃ、いってこい」
さて……俺はどんなジョブを得られるかな?
この世界では、攻撃をうけたら一撃でアウトの特殊型でない事を祈るだけだな。




