第十一章、学園編、初日、虎人は更生する?
「おっす! ジェイルさん! この間はすみませんでした!!」
ここはアガスティア魔法学園の一年の教室が並ぶ校舎の廊下。
今は入学式が校舎前の大広場で行われて、初めて学びやとなる教室に案内されてる途中であった。
寮の部屋と教室は既に決まっており、部屋は一人部屋、教室は1ーCである。
因みに学友のシズマ=ラインズは実家であるライアン=フィルグライド学園長の家から学園に通い、セバス=B=サカザキは別の~何だっけな、忘れたけど四人部屋だそうだ。
俺達の中の唯一の女性であるマリアン=フェイトナは、戦士系の女性との二人部屋との事。
二人と四人の部屋割りの差はなんだ?
試験の評価? いや、それならセバスも高評価だろうし……協調性だったら嫌だなぁ。
俺が社会不適合者みたいじゃん。
まあ、俺のヒミツがバレても困るし、この部屋割りは助かったけどさ。(当然、それをわかってて決めたとは思うが)
所で、この学園に来て、生徒になって一日目。いきなりおかしな事に遭遇した。
それは、初日に教室に事前に行く事が禁止されており、俺達の世界で言う体育館代わりの大広場に集合だった事だ。
この世界ではこうなのか? 剣と魔法の世界だから何かあるのか?
ま、それはともかく……俺の目の前にいるこいつは何だ?
「誰だお前は?」
「俺っすよ! ジェイルさんに指導してもらったゲンチュール=フィッツカナカルドです!」
はて? 名前を聞いてもわからんの。
しかも、指導とか言われても全くわからんちんだお。
「ジェイルさん。あれだよ、マリアンの……」
シズマは詳しいな。なんとなく思い出してきた。俺が殴り倒したナンパ馬鹿か。
何、仕返しにきたのか?
いい度胸だ。一生お天道様に出れない凄惨な顔にしてやろう。
よし、ボコボコにしてやんよ。
「ジェイルさん、凄い顔してるよ……」
おっと、いかんいかん。俺の紳士的なキャラが……。
「そんなのやってたっけ?」
いいんだよ。今決めたの!
「で、何しに来たんだ? マリアンが怯えてるから今すぐこの世界から存在を消せ。そして、金輪際発生するな。俺と俺に類する全ての存在に近付くな」
「あ、ちょ、一寸待ってくださいっすよ! 俺、あれからマジで反省したっす! 勘弁してくださいよ! あ、あの……お嬢さん、あの時はホント申し訳なかったっす! 俺、マジ軽率だったっす!」
「ジェイル、余りに暴言過ぎて支離滅裂になってるよ」
別に俺は欠片も用事が無かったから、一言だけ言い捨てて立ち去ろうとしたが、なんだか呼び止められた。
しかも……マリアンにちゃんと謝罪してる……だと!?
……どういう風の吹き回しだ? 出てきてすぐやられるNPCの一人じゃなかったのか!?
「いえ……あの……私はもう、別に……」
「はぁ……結局お前は何の為に俺の前に立ったんだ? マリアンに謝罪したならもう用はないだろ? それ以上一歩でも俺に近づくと遺伝子レベルにまで分解するぞ?」
「えっ!? ち、違うっすよ! イデンシとかはわからないっすけど、一寸落ち着いて下さいって! 確かにこのお嬢さんに謝りにきたのもあるんすけど、ジェイルさんにお願いがあってきたんす!」
なんだ? お願い? 結構厚かましい奴だな。
俺の機転が効いた一言に効果があったのか、ビクリッ! と動きを止めるゲンチュール。
「まあ、反省してるみたいだし、話くらい聞いてあげようよ、ジェイル?」
「まるで別人でござるな」
面倒くさいな。
「よし、じゃあ、今すぐ15文字以内で用件を言え」
「え、え、え……あの……ええと……いちにいさん……あーもうわかんねぇ!! ジェイルさんに感服したっす! 俺を仲間に入れて欲しいっす!」
この位でパンクすんなよ。
殴られて仲間にって……一昔前の不良だな、おい。
「……じゃあ、毎日腕立て腹筋1500回を一週間して、その締めとして俺が唸るようなモンスターを一体仕留めてきたら考えてやらんでもない」
「いや、それ無理だよ」
「ジェイル殿が唸るようなモンスターって……何でござるか? ドラゴン?」
無理なのは俺がわかってる。スキルが一個もない上に、入学式の今な訳だからそれなりの戦い方も出来ないだろうし。
必殺、月に帰る姫が無理難題だす! の術だ。
「それだけでいいんすね! わかりました! じゃあ、行ってきます!!」
「あ、おい! まて……」
走っていった……本気でやる気か?
「ジェイル殿……いいんでござるか?」
「もし、これであの獣人が死んだら、ジェイルは計画殺人で逮捕だね」
馬鹿言うな、勝手にやって、勝手に居なくなった奴の世話までみれるか。
「ま、そうだね。早合点し過ぎだし、もし何かあっても情状酌量の余地はあるよね?」
シズマの中で、エラくゲンチュールの評価があがってるな。
「随分あいつを評価するな」
「初めは……まあ、あれだったけどさ、僕、ひたむきに頑張る人好きだし」
あ、そう。シズマはやっぱり英雄向きだな。結構熱血してるじゃない。
取りあえず俺が取るべき手段は……。
「さ、早く入らないと教師が来るぞ? 何をのんびりしてるんだ?」
「あっ! 無かったことにしましたよ?」
構ってられるか。
「キチンと謝罪もしたし、マリアンもそれを受け入れた。あそこまでしっかり出来るなら、俺としては戻ってこれたなら、別に学友になる位全く構わん」
「そうですね。今みたいな感じだったら……」
「食事に行ったでござるか?」
俺に続いて教室へのドアをくぐりながら一寸考えるようにするマリアン。
「……ゴメンナサイ」
ま、現実なんてそんなもんだよな。




