第一章、現実は非情ですか?
「さて、この場所は何処なんだろうな? どうも、肌触りから洞窟内だが」
血が再現されてる事から、考えられる可能性は三つ。
一、OOの販売会社、スリーブレの仕業。いわゆるデスゲームってやつ。
二、可能性は低いが、これが翔の言っていたイベントがこれ。
三、俗に言う異世界転移。
そして、絶望的に三の可能性が高い。
理由は、風や臭いを感じるようになった事だ。
「帰る道は……わからない。当然か。正直、人にでも会えれば、もう少し状況がわかるんだが……」
肉食の大きな鳥は、自分より小さな鳥を喰ったら満足して去っていった。
状況がわからずぼうっと見ていたが、俺危なかったかも。
今になってため息をつく。
「しかし、随分暗所をみれる鳥なんだな」
俺なんて、やっと、目が慣れてきたのに。
体も動きにくいし、なんなんだろうな。
「……こか……ち……ない」
「誰か来たな。今、俺に何も出来ないし、さて……とりあえず、即ゲームオーバーだけは止めてくれよ」
何か灯り状の物を手にした誰かが、来た事で俺の人生は動き出した。
後、とんでもない事がわかった。
「僕、だね? 大丈夫だったかい?」
「僕? 俺の事か? 貴方は?」
「うん? 混乱してるのかい? ほら、鏡」
「なんじゃこりゃーーーーー!!」
そこにいたのは、小さな小さな昔の俺の姿だった。
「やあ、気分はどうだい?」
「あ……えっと、貴方は?」
「私はアイネス。ミッドガイの国王、ミッドガイ三世の命で君達を捕らえた悪い魔王を倒しに来てたんだ」
ここは、何処かの病室。何があっても落ち着いていようと思っていたが、まさか、昔の自分の姿を見る事になると思わず、気を失ってしまったのだ。
ミッドガイの国王だからミッドガイ三世、工夫がなくない?
「魔王?」
「そう、魔物を操っていた悪者の事だよ。私がそれを倒したから、もう大丈夫だよ」
この世界は魔王なんかいるのか、そして、この薄目の人は勇者か何かなのか?
いるんだな、線みたいな薄目の人って。
「有り難う御座います。アイネスさんのお陰で俺は助かったんですね」
「頭のいい子だね、そうだよ。君が怖い思いをする事はもうないよ」
なんか、薄幸の青年って感じだな。幸薄そう。
「それで、君の名前を聞かせてもらえるかな?」
「はい、俺の名前は……ジェイルです」
ジェイルは俺のOOでのキャラクターネーム。
現実の名前がここでは、どれだけの意味を持つかわからないからそれは使わない。
お約束だと、日本の名前は珍しい部類に入るしな。
「それで……君の村は?」
「…………」
アイネスさんは少しだけ緊張したように俺に訪ねる。
村って言われても、何も知らない為答えられない。
「そうか、いいんだ。ごめんね、嫌な事を聞いたね、大丈夫、私に任せておいて」
ん? 何かうまい事勘違いしてれたな。
滅ぼされたとか思ったのか?
「ジェイル、私は今回の戦で出た戦災孤児達の為の孤児院を作ろうと思ってる。君もよければ来てくれないか?」
急だな。しかも、子供にいきなり言うには難しくないか?
しかし、また、勘違いしたのか、分かり易く言い直してきた。
「一寸、ジェイルには難しかったね。ジェイル、君も私の兄弟にならないかい?」
いや、それも何かおかしいだろ?
まず言う事はそれじゃなくない?
「有り難う御座います。アイネスさん、俺でよければ是非貴方の家族にしてください」
ただ、その真摯な姿勢は、今の俺には絶対的に必要だと感じ、考える前に口を開いていた。
ここは異世界。お約束ならきっともう現実の俺は死んでる。
違っても、帰れるならきっとその内機会があるだろう。
なら、今は本気でこの世界で生きていこう。
この不器用そうな勇者兼新しい義父を見ながら、新しい家族達に思いを馳せていた。