表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/42

第九章、学園編プロローグ、異者はまたまた出会う?(1)

 受験期日の全日程の試験が終わるまでは、合格発表はされない。

 なので、それまでは既に試験が終わって結果を待つ受験者達は、何処かで宿を取るか、学園が指定する共同の広場で寝泊まりをする。


 スペースが確保出来ない関係で、男女が同じ場所にいる。

 勿論、夜を明かすので大半の女性や貴族等はこんな所でなく、宿を取っている。


 しかし、どうしてもそれが出来ない、農民やその日の生活にも困るような受験者はここで過ごすしかない。


 合否を待ってるのだから、余計なトラブルが起こる確率は低いと思うが、一応、常に教師が一人広場には詰めている。


 俺や実技試験でパーティーを組んだシズマ=ラインズやセバス=B=サカヅキも、一般の他の受験者と同じように大広場で時間を潰している。



「やはり、我等は無事合格でござろう!」

「そうだよね……だってゴブリンを倒したんだよ」


 隣でシズマとセバスが互いの合格を確信し合っている。


 見てて可哀想だから止めてくれないかな?


「二人共……まるで傷をなめ合ってるようで痛々しいな」


 自信があるなら、俺みたいに堂々としていればいい。


「くううう。流石はジェイル殿でござる。拙者、まだまだ未熟者故、心配で心配で仕方ないでござるよ」

「……ジェイルは自信満々過ぎるよ。この中でいびきかいて寝てるのなんて、ジェイル位だよ? むしろ目立ってるよ」


 何がおかしい? 自信があるんだから慌てる必用など何処にもないじゃないか。

 しかし、俺、いびきなんてかくのか? そっちの方が問題だぞ。 


「……ごほん! そもそも、俺達以外にクラス3のモンスターを倒した奴なんていないだろうし、戦い方間違ってたとは思わない。心配する根拠がないさ」


 気になるなら周りの受験者に試験内容でも聞いてみればいい。

 そう言ってみた。


「おお! それは失念してしたでござる! まさにその通り! では、早速……」

「駄目だよ、サカヅキさん! そんな事出来ないよ! もう、ジェイルもわかってて言わないでよ……この二日でぼくがどれだけ大変だったか……」 


 皮肉気に俺は笑う。それが楽しくてついつい面倒の種を蒔いてしまう。


 合否が心配なのは、皆一緒。その中で、明らかに試験内容の厳しかった俺達が他と比べて回れば、俺達は自信に繋がるだろうが……じゃあ、他の受験者達は?


 結果、彼等も合格してれば、俺達に対する評価はやっかみと配慮のないくずエリート。

 失敗してれば、自分達に合否前から絶望を与えた人の事を考えられない無神経な馬鹿者だ。  


 わかってたが、素直で人を疑わないセバスと、その真意まで読めるがお人好しのせいで毎回その制止に苦心するシズマ。

 楽しい人間観察である。

 

「~と、言う訳で、今そんな事を聞いて回ったら、皆から必要ない恨みを買うかもしれないんだよ」

「なるほど、一理あるでござる。では、止めておくでござるか。ジェイル殿、申し訳無いでござる。折角、いい意見をもらったのだが、他の同士達の事を考え止めておく事にするでござるよ」


 ひらひらと手を振りながら、残念な事を表現する。

 そんなこんなで三人で騒ぎながら、時間は過ぎていった。








「なあ、時間はまだまだあるんだろ? 一寸遊びに行こうぜ?」

「いえ、大丈夫です。あの、止めてください」


 三人で昼食を取って戻ってくると、一昔前のヤンキーの難破が行われていた。


「む、女性に対してなんと言う……」

「女の子の扱いが全然わかってないね」


 二人は既にガツンと言う気満々だ。


 まあ、明らかに女性が困ってるようなので、俺も異論はないのだが……こんな時に限って教師はいない。

 いや、こんな時だから無理矢理ナンパとかしてるのか?


 千里眼で相手の二人を見る。


 女性は……。




マリアン=フェイトナ

14歳

女性

人間

所持スキル

農耕レベル1/3

神聖魔法熟練レベル0/4

精霊魔法(風)熟練レベル0/4

精霊魔法(水)熟練レベル0/5



 農民だったのか? 農民関係のスキルなんて、孤児院で俺がポロンに農具熟練スキルを覚えさせた以外は見た事無いな。


 しかも、異なる属性の魔法使いか、何でも、神聖魔法と精霊魔法は相容れないらしいから、彼女も希少な存在だな。


 で、問題のヤンキーは、っと……。



ゲンチュール=フィッツカナカルド

15歳

男性

半虎人

所持スキル

なし




 読みにくそうな名前だな。


 半獣人か……人間以外は初めて見たな。


 スキルなしか……まあ、一般的だな。


 会場の皆を暇つぶしに千里眼で見てたが、大抵はこいつと同じスキルなしだった。


 いても、スキル1つあるかどうなのでシズマやセバスがレア過ぎるんだろう。マリアンも含めて。


「おい、そこの御仁! 女性か嫌がる事をするのは止めるでござる!」


 あれ、もう始めてるの?


 なんか、スキルを見てる間にもう話しかけてた。

 まあ、俺達なら苦もなく一蹴出来るけどさ。


「衆人環視の中、拒絶されて後には引けない気もわからなくはないけどさ……マナー違反だよね、やっぱり」

「なんだ、お前等。俺は今忙しいんだ、あっち行ってろ! さ、行くぞ!」

「あ、あの……止めてください」


 マリアンの手を取って、何処かに連れて行こうとするゲンチュール。


 これは誘拐か?


「うが!? て、てめぇ……」

「はい、そこまで。君を誘拐犯、及び婦女暴行未遂でボコボコにするから……大丈夫かい?」

「はい……あの……こ、この姿勢……」


 ん? 


 何かおかしかったかな?


「ジェイル……凄い事しますね」

「ジェイル殿こそ、男の中の男でごさる!」


 何言ってんだ? ゲンチュールの手を離して、彼を足払いしたから体勢を崩したマリアンを抱き上げただけじゃないか?


「はい、転ばなくてよかったね?」

「…………あ、ありがとうございます」


 マリアンを下ろして、自分達のスペース(勝手に確保してるだけだけど)に戻ろうとしたら、何なら呼び止められた。


「待てや、てめぇ。こんな事してただで済むと思ってんのか?」

「ええと、セバス、俺、何かしたか?」

「そうでござるなぁ……特に何も思い当たらんでござる」


 そう言うであろうと思ってセバスに話しかけたが……セバスに取っては、今の問答は何でもないらしい。


「ざけんな! この野郎!」


 おお、まさか、殴りかかってくるとは。そんなに苛ついたか?


 それとも、やはり後に引けなくなったか?


「シズマ、この状態で俺に全く非がなく、後腐れ無い状態で、尚且つ周囲にあまり注目されずに済む、最良の策を提示してくれ」

「ええ~ジェイル……それは余りに無理難題じゃないですか?」


 ゲンチュールの拳をひらりひらりと回避しながら、シズマに良い手を考えてもらう。


「てめぇ、ちょこまかと……これでも、食らいやがれ!」


 元々、半獣人だからか、ゲンチュールの爪は長い。

 それを引っかくように振り回してくる。


 ま、当然そんなの当たらない訳だが。


「子供の喧嘩ならともかく……こんなノロい速度じゃお話しにならないだろう?」

「あんだとぉ! 当たれ! てめぇ!」


 こんなクエストで討伐したオーガの群にいた比較的子供のオーガの半分の速度もない攻撃なんか、鼻くそほじりながらでも回避出来る。


「せめて、こっち向きながら避けやがれこの野郎!」

「やだよ。そんなのこっちの勝手だろ? 決まったか? シズマ」

「とりあえず、既に目立ってるから早急に事態を収束させた方がいいと思うよ」


 まあ、そうだよな。皆、俺とゲンチュールの事見てるし。

 じゃあ……。


 筋肉質の体から振るわれた左ストレートを回避するついでに、周りから見えないように軽めに右拳をゲンチュールの腹部に叩き込んだ。


「ーーーーぐえっ!」

「あれ…………やりすぎたか?」


 その場で苦悶の表情を浮かべながら、倒れ込むゲンチュール。

 意識はないようだ。


 そんな強くやってないんだけど……あ…………格闘熟練スキル、そのままだった。


 いくら軽くやっても、この世界に存在しないレベル40オーバーのスキルを持つ俺がやったら、そりゃこうなるよな。


 むしろ、その体に穴が開かなかっただけ良かった。


「俺はこれを医務室に放り込んでくる。シズマとセバスは、マリアンを頼んだ」

「頼まれたでござる!」

「うん、わかったよ」


 背負う程の事ではないので、腕を持って引きずっていく。

 途中の段差や階段で、背後よりうなり声が聞こえるが、どうも、耳が悪くなったようだ。

 まさか、幻聴が聞こえるなんて……。


 保健室(学園では医務室ではないらしい。懐かしい響きだ)では、担当の教師から外傷なし、と聞の事だったのでそのまま保健室に捨ててきた。


 取りあえず、ゲンチュール=フィッツカナカルドという男は、随分硬いと言う事がわかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ