第八章、学園編プロローグ、異者は出会った?(3)
「なんでそんなに当たるの!? 相手も動いてるんだよ?」
「簡単だろ? 動きを予測して撃ってるんだから」
「シズマ殿、これは我々も負けてられないでござる!」
俺の矢はあたる、しかし、ダメージは低いようで、足を 貫かれても動きに大きな差が出ない。
シズマの皮で出来た小手での打撃も、むしろ怒りを煽ってるだけに見える。
ゴブリンは唯一刃物を持ったセバスを注視してるらしく 、刀での攻撃はことごとく手にした短剣で阻まれる。
「やはり、ゴブリンは強いでござる」
「硬い……なら、手数で……」
ダメージを出来るだけ受けないように立ち回っている為 、低い一撃のダメージは更に低くなる。
「邪魔なのはあの短剣か……落とすか」
狙いを絞る。振り回すようにふるわれる短剣。
ただそれだけを見つめる。
そして、撃つ!
外れ。
矢は何もない空間を通り過ぎる。
「ぐあっ! この!」
「サカヅキさん! 二連打! 二連脚!」
セバスの肩にその短剣を突き刺したゴブリンに、シズマが連打を浴びせる。
格闘スキル持ちか……もっと、隠し手がありそうだな。
「ぐぎゃああああああ!!!」
「甘いよ! 天空脚!」
足払いからの前蹴りでゴブリンを空に浮かせて、流れるように自らも飛んで空中でかかと落としを加えた。
なんて慣性を無視した動きだ……やはり、実力を隠して たか。俺と同じだな。
「セバス、まだいけるか?」
「勿論でござる! 拙者、この程度の傷で値を上げたりせんでござる!」
「よし、じゃあ、俺が武器を飛ばす。セバスは、その瞬間に最上の一撃をたたき込め! シズマはその間ゴブリンの相手だ」
「心得た!!」
「わかった。ジェイル」
両手から片手に刀を持ち替えたセバス。
左肩からはとめ どなく出血中。 一撃で決めないとな。
精神を集中する。
クラスの差か、手加減してるのかシズマの与えるダメー ジは低い。
ゴブリンの動きもまだ余裕がある。
俺はただ見る。
ゴブリンの短剣を。
刹那、その動きがとんでもなくスローになった気がした 。
今だ! 俺はそれを逃さず、構えていた矢を放った。
そして、それは狙い通りにゴブリンの短剣を弾き飛ばす 。
「セバス!」
「おおおおおおおおお!! サカヅキ流刀技、一の太刀、 隼!!」
今までとは比べ物にならない素早い突きが無手のゴブリンを襲う。
それはセバスの狙い通りにゴブリンの心臓に……………… とはいかず、全くの空振りをした。
「お?」
「かわした? いやでも、これは……」
外した原因はゴブリンが倒れた事みたいだ。
その後も起き上がらないゴブリン。どゆこと?
「はい、三人共ご苦労様。見事、ゴブリンを倒したね。正直驚いたよ、三人なら立派な冒険者になれるよ」
拍手をしながら、セバスの下に移動する試験管。
つまり、死んだのか、ゴブリン。試験終了?
「そ、相手のゴブリンが死んでしまったから試験は終了だよ」
「ど、どういう事でこざるか? 拙者には全く意味がわからんでござる」
「僕も、攻撃してないのに、なんでゴブリンが倒せたかわからないんですけど?」
呆然としたまま、流れる血すら放置のセバス。
あ、もしかして……。
俺はそこで一つの可能性に辿り着いた。
「ジェイル君はわかったみたいだね。そう、彼の開幕に放ったポイズンだよ」
こんなに効果時間の長いポイズンは初めてだけどね。
回復魔法でセバスの出血を止めながら、こちらに興味を向けた。
…………まずかったか? 普通じゃない結果に教師に注目 された感じがする。
「シズマも強かったな。格闘の有用性を改めて痛感したよ 」
「いいえ、ジェイルの弓の腕前も程じゃないよ」
なんか、互いを褒め合うというより、隠しておきたい実力の為、注目を押しつけ合ってるみたいだ。
しかも、先程のゴブリンの短剣を撃った時のスロー効果 の意味が分かった。
俺の中にある千里眼の効果だ。
見ると腕輪がひびが入ってる。シズマのスキルも丸見えだし。
シズマ=ラインズ
13歳
男
人間
スキル
格闘熟練レベル2/9
直感レベル1/4
天才
全魔法適性レベル-6/-1
全武器熟練レベル0/3
全ステータスアップレベル0/4
召喚魔法熟練レベル0/6
物理攻撃耐性レベル0/4
魔法耐性レベル0/6
速度アップレベル0/5
備考 拘束式束縛封印
なんだろうな、この子は……。
全武器熟練とか有り得ないだろ、しかも、物理、魔法の両方に耐性持ちとか……こ の子は原石だ! 最強になれる。でも、適性マイナスって 、魔法は使えないって事? でも、召喚魔法熟練があるから、最高まであげれば召喚は出来るのかな? 魔法学園に入るのに? 不憫な子……。
それにしても束縛封印ってなんだ? 封印されてるって事? 実は正体は魔族とか、そんなオチか?
まあ、実力を魔法で隠してるって事かな。
「二人とも助かったござる。拙者一人だったらあそこで死んでいたでござるよ」
「僕らはパーティー、でしょう? 当たり前の事をしただけです。それに、サカヅキさんがいたから、僕もジェイルも思い切り戦えたんだよ」
「そうだな。シズマの言う通りだ。敵の狙いを固定してくれたから狙いもつけやすかった。セバスのおかげだな」
一人だけ負傷したセバスがへこんでる。まあ、気になるよな。俺もシズマも全くダメージ受けてないし。
セバス=B=サカヅキ
15歳
男
人間
スキル
刀熟練レベル1/7
受け流しレベル1/5
精霊魔法(炎)熟練レベル0/3
エンチャントレベル0/2
返し刃0/3
瞑想レベル0/4
無双天真レベル0/3
セバスは本当に申告した通りなんだな。
全く想像もつかないスキルもあるけど……見た感じ完全な侍だな。 エンチャントって事は、魔法剣士も可能か。格好いいな 。
さて、封印が解けてしまった訳だが、あれから8年、自分で制御出来るだろうか?
目をつぶって、意思の力でスキルが視認可能になるように念じる。
「どうしたの? ジェイル?」
「……よし……うん? いや、ああ、そうだな」
消えた。制御可能!! 周りに人がいなければ小躍りし たい気分だった。
「終わりましたよ。じゃあ、戻りましょうか」
試験管の言葉を受けて、戻りがてら当然試験管のスキルを拝見する。
クラウドス=ビンゴ
27歳
男
人間
スキル
精霊魔法(水)熟練レベル2/3
危険察知レベル1/1
アイネスさんとアルさん、それにシズマ、セバスしか見 た事ないから、これが魔法学園の教師としてどうなのかわか らない。
戻ってから要確認だな。
そんな事を考えながら、俺達はアガスティア魔法学園に戻った