第七章、さて、いきますか?
色々あってアガスティア魔法学園に行く事になった。
アガスティア魔法学園とは、どの国家も及ばない魔法使いの養成校と、それに類する一大都市の事。
国家子飼いの魔術養成校だと、かなりレベルが低く先の未来も決められている為毎年とんでもない入試倍率を誇る。
「この年になって試験か……」
「マスター、試験、嫌い?」
「好きでも嫌いでもないかな? やならきやいけないのが試験ってものだろうし」
学生時代が19だったから……足すと32だぜ? 全く、やれやれだな。
入試一斉試験まで後3日。ドライアードと共に徒歩で現地に向かっている。
「俺、荷物少ないなぁ。こんなのしか無かったっけ?」
服は三着。他には歯ブラシやコップ、保存食や飲み物位しかない。
元々この世界の服を着ていたようで、ありがちな異世界の服、等という物はない。
魔法関連の物はないし、装備も自作出来るので用意してない。
もしモンスターに襲われても、拳で充分以上に対処出来るからだ。
攻撃も当たらないから軽装でいいしね。
「まだ、2日位かかるなぁ。遠いなぁ、一寸加速して行ってみる?」
「マスター、アイネス様に駄目、言われた」
わかってるよ、色々注意されたし。
のんびりした旅道中を繰り広げながら、出発前の事を思い出していた。
「兄ちゃん、後は俺に任せてくれ!」
「お前に出来るのか? 俺の後を継ぐにはまだまだ長い時間がかかるぞ?」
「兄ちゃんに教わった農具熟練スキルで頑張るよ!」
俺が出て行くに当たって、一緒に畑仕事を行っていたポロンに後を任せる。
難しいって言われてたスキルを、俺と畑仕事をする事で体得出来た。
もし、スキル持ちの俺が関係したならうれしい限りだ。
「兄ちゃん、立派な魔法使いになって帰ってきてね」
「ああ、サクヤ。世界一の魔法使いになって帰ってくるよ」
「マスター、当然、一番」
「ジェイル兄ちゃん! 今度は何を倒してくんだ?」
「社会に蔓延する悪……かなぁ。魔法都市だし、ひょっとしたらドラゴンの一匹も倒したりするかもなぁ」
「おおー! ジェイル兄ちゃん、すげえや!」
弟妹達と別れを交わした後に、アイネスさんとアルさんと顔を合わせる。
「はい、二人ともお弁当ね。頑張ってくるのよ、私達応援してるからね」
弁当が入ってると思われる袋を渡してくるアイさん。
「……何やってるんです? 作ったのアイネスさんでしょう? 有り難うございます、アイネスさん」
「有り難う、嬉しい」
「いいじゃない。偶にはやってみたかったの!」
「ははは、頑張って行っておいで」
前日に言われた事。
召喚術は使ってはならない。
(ドライアードだけにして、封をして使い魔クラスまでレベルを下げるなら可)
基本スキルを使わない。
(殆ど現役のジョブ持ちがスキルを持ってないんだから、無い物として振るまう)
武器や拳等の物理系の腕を隠す。
(やはり、魔法使いは知識中心で体は弱いんだそうだ)
何より、問題を起こさない。
平和を何より愛する俺にはどれも全く支障ないものだ。
ドライアードには謝ったが。
「……こんなに長い間二人と離れるのは初めてです。とんでもなく複雑な事情持ちの俺を家族にしてくれて有り難う。楽しんできます」
「なによぉ……急にそんな事言って……私達は家族、それはもう今この瞬間にこの世界が終わっても変わる事はないの!」
「そうだぞ。向こうで寮に入るだろうから、機会は減るだろうがいつでも帰ってくるんだぞ」
頭を下げる。声を出すと涙が流れそうだった。
学園を卒業したら俺はきっと世界を回る旅にでる。
ここに戻る事は殆どない。故郷になってしまう。そう思って、感謝の意を伝えたのだが……結局唇を噛みしめながら、有り難うと言うのか精一杯だった。
未だ俺が何をしたいのか、何をやっていきたいのかはわからない。
簡単に言うとそれを探す為の手段を、アイネスさん達が作ってくれたって事だし。
ま、ゆっくりやっていきましょ。
日々これ平和。
「マスター、あれ……」
ドライアードに言われて見ると、街道を少しはずれた場所でこちらを注視している夜盗と思しき姿がある。
「敵が明確に金や金目の物を持ってる分、俺の方が物取りみたいだな」
「ゴキブリは1匹見たら30匹」
大もうけって事か?
気付かないように少しづつ夜盗に近づきながら、今日の宿屋は豪華に出来るな、等と考えていた。