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ある光景「絶望」

「はぁ、はぁ……ここにも、いない」

 草むらから這い出した少女は、力なく立ち上がると荒くなった息を一度呑み込んだ。年の頃は七、八才といったところか。赤いランドセルが、その背中にはまだ大きかった。何かの葉で切ったのか、右手の人差し指からは血が滲んでいた。左の手のひらには、石ころが二つめり込んでいる。それを無造作に服で払い落とすと、土で汚れたスカートや顔に張り付いた草切れもそのままに、小さな身体をまたうずめた。

 その小高い丘には、盆正月に近隣の住民が参拝する位であろう小さい神社(小さいといっても、少女にとっては大きいものだったが)が建っており、所々剥げ落ちてはいるものの、まだその色を鮮明に残している朱色の木鳥居が建っていた。暮れようとしている日の光が、その色をさらに鮮やかに照らし、神々しさを増していた。

「はぁはぁ、はぁ……、どこに、行っちゃったの?」

 境内や木々の間、他にも目につく場所は探したはずだがどこにもいない。神社も覗いてみたが見つからない。いつもは、決まってこの時間に少女を待っていたのだが、急にいなくなってしまったのだ。あれからもう一週間にもなる。

「もう、いないのかな……、もう会えないのかな」

 そう言って俯いた目には、真っ黒になった靴が映った。母親に買ってもらったばかりの靴を、こんなにも汚してしまって叱られるかも知れないと思ったが、今の少女にとってそんな事はどうでもよい事だった。会えない不安の方がはるかに大きかったからだ。それは、自分の意思とは無関係に大きなうねりとなって、頭の中から指先から髪の毛に至るまで、全身のあらゆる場所へと容赦なく流れ込んでいく。

「うっ、もう、ひっ……会え、ないの……?」

 頬を涙が濡らしていた。少女にはもうそれ以上、押し留めておく事は出来なかった。そして、その不安は『自分』という器から一気に溢れ出していく。

「うわあぁぁぁぁぁ!」

 その場に崩れ落ち、泣き叫んだ。埋め尽くされた不安が、もう会えないのだ、一緒に遊ぶ事は出来ないのだという絶望へと姿を変えていく。

 鮮やかに照らされた神々しい朱色は、もうすぐ消えようとしていた。




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