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    ◆


(あああ……どうしてこんなことに~!)

 翌朝。桜麟は自室で頭を抱えていた。

 あの後、さっそく商談が始まり、あっという間に桜麟は輝久に買われていた。徳次郎が提示したのは千両というぼったくりのような値段だったが、輝久は何のためらいもなく二つ返事で承諾した。斬妖刀は安い武器ではないが、千両は大名が持つような刀の値段だ。

(さすが、付喪神奉行は太っ腹……って、そういう問題でもないし!)

 ぶんぶん、と勢いよく頭を横に振る。千両という金額に見合う活躍ができるかなんて、そんな自信はどこにもない。

(妓楼は嫌だけど、よりによって護り手とか……)

 付喪神奉行は妖魔の脅威から町を守るのが主な役目だ。妖魔に返り討ちにされることもある危険なお勤め。護り手とは、そんな彼らを補佐して、自ら妖魔を倒すことも求められる。妖魔を倒せない桜麟には、全く向いていない役割だった。

「桜麟。何をしているんだい。輝久様がお出になるよ!」

 徳次郎の大きな声。廊下を歩く大きな足音がして、ざっと障子が開かれる。頭を抱えている桜麟を見て、徳次郎が呆れたように嘆息する。

「妓楼は嫌だとごねていたくせに、今度は護り手も嫌と言うのかえ? せっかく行き先が決まったというのに、贅沢な付喪神じゃな!」

「うぅ……す、すみません」

 のろのろと立ち上がりながら桜麟は謝った。全く別の意味で売ろうとしていただろうに、と反論したくなるも、ここでぐだぐだするのは確かに自分の方が我が儘だ。

「ま、せいぜい頑張るんだね。くれぐれも妖魔を倒せないなどと知られるんじゃないよ。追い返されでもしてきたら、今度こそ妓楼に売り払ってやる」

「……善処します」

 がっくりと肩を落としながら、徳次郎の後を歩く。いつもならこんな態度を取っていたら、徳次郎から皮肉の嵐がとんでくるのに、今日はやけに機嫌がいい。きっと千両が効いているのだろう。

「来たな。待ちくたびれたぞ」

 門の前で輝久は待っていた。手招きをされて、桜麟は彼の前に立つ。首に巻いていた紐が解かれて狐の模様が描かれた鈴が取られる。抑え込まれていた霊力が自由になったと思ったのも束の間、すぐに輝久が懐から取り出した鈴が桜麟の首に付けられた。翡翠のように美しい色合いで、鳴らすと耳に心地よい音が響いた。

「これで完全に俺の物だな。徳次郎よ、異存はないな」

「もちろんですとも! 桜麟や、私の教えを守ってしっかり励むのだよ」

 今日までのとげとげしい感じはどこへやら。見たこともないような笑顔が桜麟へ向けられた。輝久に対しては手を揉んで、早くも次の商談を考えているに違いない。

「よし、桜麟。行くぞ」

「はい、輝久様」

 何も起きていないうちから悲観していても仕方がない。少なくとも最悪の事態だけは避けられた。

 桜麟は気持ちを切り替えると、新しい主へしっかりと頷いたのだった。


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