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AI VS 社長の宿題

 ある日、小さな広告代理店入社一年と少しの呉須来(ごす らい)は、手が空いたらある業務を任せたいと言われた。


「こういうのも勉強だから」


 その業務とは、「社長が所属する意識高い系サークル『未来共創経営者フォーラム』」への作文提出代行だった。

 このサークルは、数年前に呉須の会社のの社長が「人脈作り」と称して入った、年商100億以上の社長・役員限定のクローズドコミュニティ。

 年4回、テーマに沿った「経営哲学エッセイ」を提出し、互いにコメントし合うのが恒例行事らしい。

 提出しないと「コミットメントが低い」と陰で言われ、次のセミナーに呼ばれなくなるらしい。

 呉須に与えられた最初のテーマはこれだった。


「VUCAの時代におけるパーパスドリブン経営の真髄と、私たちが目指すべきレゾンデートル」


 呉須は絶望した。


「VUCAって何……?」

「パーパスドリブン…?ドリアンと関係ある…?」

「レゾンデートル…確か存在意義?とかいうことだよね…?存在意義を目指すって何…?」


 それでも提出期限は3日後。

 断ったら、きっと「君なら出来るよ」とスルーされる。


 ……いや。


 振られた以上、それをやるしかないのだ。


 仕方なく、呉須はネットで「意識高い系 テンプレ」を検索しまくり、AIに泣きついた。


 そして、ひたすら「もっと抽象的に」「もっと大仰に」「もっと英語混ぜて」と修正を繰り返し、出来上がったのがこれである。


※以下の文章は実際にChatGPTに書いてもらってます※

『VUCAの嵐の中で輝く、真のパーパスドリブン経営へ現代はまさにVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の極みにあります。予測不可能な変動が日常となり、従来のKPI至上主義や短期志向のマネジメントは、もはや時代遅れの遺物と言わざるを得ません。私たち経営者は、今こそ「Why」から始まる組織の存在意義=パーパスを再定義し、全てのステークホルダーと共鳴する真のレゾンデートルを追求しなければなりません。それは単なるスローガンではなく、DNAレベルで浸透した「生きる理由」そのものであり、社員一人ひとりが内発的動機付けによって自律的に動き出す原動力でなければなりません。当社においては、創業以来変わらぬ「人々の日常に小さな驚きと喜びを届ける」という不変のコアパーパスを軸に、DXとサステナビリティを両輪としたパラダイムシフトを加速させてまいりました。たとえば、2025年度にローンチした「エモーショナル・バリュー・チェーン」構想は、まさに顧客の潜在的ニーズを先読みし、感動体験を共創するエコシステムの構築を目指すものであり、これこそがVUCA下における真の競争優位性=ムーアの法則を超える「感情の法則」だと確信しております。しかし、真のパーパスドリブンとは、宣言するだけで終わるものではありません。それは日々の意思決定の羅針盤であり、時に痛みを伴うトレードオフを厭わず選択する覚悟でなければなりません。私たちは今後も「利益を超えた意義」を追求し、ステークホルダー・キャピタリズムの先にある「共感資本主義」の旗手として、社会に新しい価値の地平を切り開いてまいります。共に、未来を共創しましょう。

With Passion & Purpose.』



 呉須はこの文章を何度も読み返して吐き気を催した。

 誰も周りに居ないのをいいことに、ぶつぶつと呟く。


「共感資本主義って何だよ……」

「エモーショナル・バリュー・チェーンって自分で言ってて恥ずかしくないのか……」


 それでも社長は大喜びだった。


「呉須君! 素晴らしい! これぞまさに我が社の魂だ! 次も頼むよ!」


 以降、呉須のデスクトップフォルダの一つは「社長の影のゴーストライター室」と化していった。

 次のテーマは「AI×Human SynergyがもたらすNext Normalにおけるリーダーシップの進化」。

呉須はため息をつきながら、またしても「もっと意識高く」「もっとキラーワード入れて」と呟きながらキーボードを叩き始めた。


 この会社で、呉須は生き延びるため、「クソみたいな意識高い系作文を、誰よりも速く・誰よりも気持ち悪く書くこと」を習得していく。


 呉須のゴーストライター業務を知った他の先輩にも作文を押し付けられることを、今の呉須はまだ知らない…。

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