第5章:過去の清算と至高の休日
キンキンに冷えたエールで喉を潤し、一息ついたところで、パスカルが焚き火の爆ぜる音を背景に切り出しました。
「さて、あの盗賊の死体ですが、やはりギルドへ届けましょう。彼らの懐を潤すのは癪ですが、指名手配犯の懸賞金は、私たちの『正当な権利』ですから。活動資金はあって困るものではありません」
「……そうだな。あいつらから奪い取った金なら、俺たちの血肉にしても文句は言われねえだろう」
ダグラスが不敵に笑い、ジョッキを置きました。五人は深夜の森を再び駆け、眠りにつこうとしている街の冒険者ギルドへと向かいました。
深夜のギルドは、酒に酔った数人の冒険者と、疲れ切った受付嬢が一人いるだけでした。そこへ、170cmを超える美男美女の集団が現れたことで、場に緊張が走ります。
「……何かご用でしょうか? こんな時間に」
受付嬢が警戒しながら問いかけると、パスカルは無造作にアイテムボックスの入り口を開きました。
「盗賊の討伐報告です。街道で隊商を襲っていた連中を始末しました」
次の瞬間、ギルドの広々とした床に、百体近い盗賊の死体が整然と、しかし圧倒的な質量で並べられました。中には王都からも指名手配されていた凶悪な頭目の姿もあり、受付嬢は悲鳴を上げそうになるのを必死で堪え、奥から慌てて責任者を呼び出しました。
「こ、これは……『黒い蠍』の残党じゃないか! 王都の騎士団が手を焼いていた連中を、たった五人で……?」
責任者の男は、死体の断面が魔法の刃によって細胞レベルで滑らかに切断されているのを見て、顔を青ざめさせました。
「名前は伏せておいてください。私たちはただの通りすがりです。……懸賞金の手続きを」
パスカルの冷淡な要求に、ギルド側は震える手で金貨の袋を積み上げました。頭目の首に懸けられていた高額な賞金を含め、金貨が詰まった袋がいくつもカウンターに並びます。
「……確かに。それでは」
パスカルは金貨を受け取ると、それ以上の会話を拒むように背を向けました。驚愕に目を見開く冒険者たちや、必死に自分たちを勧誘しようとする責任者の声を無視し、五人は風のようにギルドを去りました。
街を出て、再び静かな森の中へ。アイテムボックスの中には、新たに得た大量の資金が収まっています。
「ギルドの連中、腰を抜かしてたな。……ざまあみろだぜ。俺たちを使い捨てにする組織から、こうやって金を毟り取ってやるのは気分がいい」
ダグラスが愉快そうに笑い、トビーも「これでまた、新しい調理器具や珍しいスパイスが買えますね!」と声を弾ませました。
「ええ。私たちの力は、誰かのために消費されるものではなく、自分たちの生活を豊かにするためにあるのですから」
エリンが月明かりの下で髪をかき上げ、セーラも満足げに頷きました。
拠点に戻った彼らは、得たばかりの金貨をテーブルに無造作に置き、再び冷たいエールを注ぎ合いました。かつての仲間を失った悲しみは、盗賊を討ち、その首を金に変え、自分たちの力で生き抜く「確信」へと完全に昇華されたのです。
「……さて、夜明けまでもう少し時間はあります。この金で次に何を買うか、話し合いながらもう一杯いきましょうか」
ギルドでの換金を終え、再び森の静寂へと戻ってきた一行でしたが、深夜の激しい立ち回りと、あの淀んだ空気のギルドに足を踏み入れたことで、肌にはうっすらと汗がにじみ、不快感が残っていました。
「……ふう。少し汗をかきましたね。あんな連中相手でも、百人もいれば流石に体が重くなります。拠点に戻る前に、一日の汚れを洗い流しましょう」
パスカルは氷の館の奥、星空を仰ぐ広場へと一同を促しました。彼は再び掌を地面にかざして魔力を集中させます。すると、以前よりもさらに一回り大きく、滑らかな曲線美を持つ「氷の浴槽」がせり上がってきました。
「『魔熱循環』」
パスカルが指を弾くと、満たされた水は瞬時に振動し、湯気を立ち昇らせる絶妙な温度の「湯」へと変わりました。余計な芳香など必要ありません。ただ純粋に、清らかな水と、パスカルの魔力が生み出す熱だけがそこにはありました。
「ああ……最高。戦いの後のこの時間が、何よりの贅沢だわ」
超美貌の持ち主であるエリンが、しなやかな肢体を湯船へと沈めました。湯気に濡れた彼女の肌は、月の光を浴びて神々しい輝きを放ちます。セーラもまた、安堵の溜息を漏らしながら、豊かに波打つ髪をかき上げて肩まで浸かりました。
「本当ですね。盗賊と対峙している時は、かつての記憶で心がささくれ立つようでしたが……このお湯が、すべてを溶かしてくれます」
続いて、筋骨隆々のダグラスとトビーも、逞しい肉体を大きく伸ばして入浴しました。ダグラスは「極楽だ、極楽だぜ……」と何度も呟き、鍛え上げられた分厚い胸板を湯に浸して、一日の緊張を完全に解きほぐしました。
「ギルドで金貨の袋を受け取った時より、今この湯に浸かっている時の方が、よっぽど『勝った』って気がするぜ」
「全快です! 汗と一緒に、嫌な思い出も全部流れていくみたいです!」
トビーが快活に笑い、湯船の隣に用意された氷の台座から、キンキンに冷えたエールのジョッキを手に取りました。パスカルも彼らに加わり、五人は氷と湯が織りなす幻想的な空間で、静かに語り合いました。
「……目立たず、誰にも縛られず。自分たちの身を清め、自分たちのために力を使う。これが私たちの、新しい『銀の牙』の在り方ですね」
パスカルの言葉に、四人はエールのジョッキを掲げて応えました。かつては仲間の死に震え、泥に塗れて逃げ回ることしかできなかった彼ら。しかし今、この森の奥深くで、王族すら羨むような魔法の湯に浸かり、最強の力を持ったまま、ただ純粋に一時の安らぎを享受しています。
夜の森の深部、立ち昇る真っ白な湯気。五人は、過去の亡霊を完全に振り払い、明日という未知の修行の日々へ向けて、心身ともに完璧な休息を得るのでした。
昨夜の盗賊団との激闘、そして深夜のギルドへの換金。精神的にも肉体的にも大きな区切りを迎えた翌朝、森を包む空気はどこまでも穏やかでした。
パスカルは、朝日が氷の館を透き通るような青に染める中、目を覚ました仲間たちに静かに告げました。
「皆さん、おはようございます。今日は修行も狩りも、一切お休みにしましょう。昨夜の清算で一つの『区切り』がつきましたからね。今日は自分たちのために、ただこの森の時間を楽しんでください」
その言葉に、真っ先に反応したのはダグラスでした。彼はいつもなら朝食後すぐに氷の大槌を振り回し始めるのですが、今朝は大きく伸びをして、再びふかふかの氷の寝台へと体を預けました。
「休みか……最高じゃねえか。昨夜の戦いであいつらのけじめもついた。今日くらいは、何も考えずにエールを煽って、この極上の寝床で微睡んでやるぜ」
筋骨隆々の巨躯を丸め、ダグラスは幸せそうに再び目を閉じました。隣ではトビーも「僕も、今日は一日中、パスカルさんに教わった魔力操作を応用して、氷のチェスセットでも作って遊ぼうかな」と、柔らかな表情で笑っています。
エリンとセーラは、170cmのしなやかな長身を優雅に躍動させ、氷の館のテラスへと向かいました。彼女たちは修行用の重い武器をアイテムボックスに仕舞い込み、代わりに昨日手に入れたばかりの清潔なリネンを纏って、朝日を浴びながら髪を整え始めました。
「戦わなくていい一日なんて、冒険者になってから初めてかもしれないわ。セーラ、今日はパスカルが淹れてくれる特別なお茶を飲みながら、この森に咲く珍しい花でも探しに行かない?」
「いいですね、エリンさん。魔法を戦うためじゃなく、花を探したり、景色をより鮮やかに見るために使う。そんな贅沢、今の私たちならいくらでもできますもの」
超美人と化した二人の笑い声が、清浄な空気の中に溶け込んでいきます。
パスカルは、仲間たちがそれぞれに「自由」を享受している姿を眺めながら、自らもキッチンへと向かいました。今日は効率的な魔力回復のメニューではなく、ただ純粋に舌を喜ばせるための朝食を作ります。
「さて、昨日の野菜の残りと、たっぷりの卵を使って……。今日は焼きたてのパンに合う、贅沢なオムレツでも焼きましょうか。エールも冷えたものを、いつでも飲めるようにしておきましょう」
鉄板を熱する音さえも、今朝はどこか穏やかに響きます。誰にも命令されず、誰の期待に応える必要もなく、ただ自分たちが心地よいと感じるためだけに時間を使う。Sランク以上の力を持ちながら、何者にも干渉されないこの「完全な休日」こそが、彼らにとって真の強さの証明でした。
森の奥深く、氷の館には、絶え間ない修行の音に代わって、穏やかな語らいと、時折響くエールを注ぐ音、そして満ち足りた笑い声が、夕暮れ時までゆったりと流れ続けるのでした。
夕闇が氷の館を包み込み、森の木々が長い影を落とし始める頃、たっぷりと眠りについた五人がようやくリビングへと集まってきました。一日中、修行も狩りもせずに微睡んでいた彼らの表情は、かつてないほど潤いに満ち、漲る魔力も完全に静まり返って安定しています。
「よく寝たぜ……。体の隅々まで魔力が染み渡った気分だ」
ダグラスが逞しい首を回しながら、心地よさそうに呟きました。その横で、エリンとセーラも艶やかな髪をかき上げながら、スッキリとした顔で席に着きます。
「さて、皆さん。休日の締めくくりは、活力を取り戻すための夕食にしましょう」
パスカルは、街で買い込んでいた大量のにんにくを手に取りました。特注の厚手鉄板が熱せられると、まずはたっぷりの油脂とにんにくの薄切りが投入されます。
ジューッ……!
食欲を直接突き動かすような、強烈で芳醇な香りが館の中に立ち込めました。にんにくが黄金色のチップ状になったところで一度取り出し、そこへ昨日から残っていたフォレストボアの極上ロース肉を、今度は贅沢な「厚切りステーキ」として並べました。
鉄板の上で肉が躍り、溢れ出した脂とにんにくの香りが渾然一体となります。パスカルは魔力で火力を細かく調整し、表面はカリッと、中は肉汁を閉じ込めた完璧なミディアムレアに焼き上げました。
「お待たせしました。今夜は、にんにくたっぷりのボアステーキです」
各自の皿に、大ぶりの肉が盛り付けられました。仕上げに、カリカリのにんにくチップをこれでもかと乗せ、岩塩と黒胡椒を挽きかけます。
「待ってました! この香りを嗅いだだけで、また力が湧いてくるようです!」
トビーが勢いよくナイフを入れ、一口頬張りました。噛み締めた瞬間、ボアの濃厚な旨味とにんにくの刺激が口の中で爆発します。
「……美味い! この厚み、最高だわ。にんにくの風味が肉の力強さに負けていない」
エリンが超美貌を綻ばせ、大きな一口を咀嚼しました。セーラも「パンをこの肉汁に浸して食べると……もう、言葉になりませんね」と、夢中で食事を進めます。
「ガハハ! これだ、これだよ! 冷えたエールで、このにんにくの脂を流し込む。冒険者やってて良かったと思える瞬間だぜ!」
ダグラスはジョッキを煽り、厚切りのステーキを次々と胃に収めていきました。にんにくの効果で、彼らの超人的な肉体はさらに熱を帯び、内側から新たな魔力が生成されていくのが分かります。
「しっかり食べてください。明日からはまた、このエネルギーをすべて修行にぶつけますからね」
パスカルの言葉に、四人は力強く頷きました。たっぷりの睡眠と、にんにくの効いた極上のステーキ。誰にも邪魔されない休日を経て、彼らの絆と力はより強固なものとなりました。
氷の館には、エールを注ぐ音と、美味しい食事を楽しむ満ち足りた笑い声がいつまでも響いていました。
休日の深い眠りと、昨夜のにんにくステーキで完全にエネルギーを充填した翌朝。森の空気はひんやりと澄み渡り、氷の館のキッチンには、パスカルが手際よく調理を進める小気味よい音が響いていました。
「皆さん、おはようございます。修行再開の景気づけに、朝食を用意しましたよ」
パスカルが鉄板の上で振るうのは、昨日解体しておいたフォレストボアの薄切り肉。そこに街で買った瑞々しいキャベツと玉ねぎを合わせ、強火で一気に炒め上げます。肉の脂を吸った野菜が艶やかに輝き、食欲をそそる香ばしい匂いが館の中に広がりました。
さらにその傍らで、パスカルは新鮮な卵を次々と割り落としました。
「目玉焼きは、黄身がとろりと溢れ出す半熟に仕上げます」
白身の縁がカリッと焼き上がり、中央の黄身がぷるぷると震える完璧な目玉焼き。パスカルは軽くトーストした厚切りのパンに、たっぷりの野菜炒めを敷き詰め、その上に目玉焼きを二つ並べて贅沢にサンドしました。
「さあ、召し上がれ。ボアの野菜炒めと半熟目玉焼きのサンドウィッチです」
リビングに集まった四人の前に、ボリューム満点のサンドウィッチが運ばれました。170cmのしなやかな肢体を躍動させて席についたエリンとセーラが、大きな口を開けて頬張ります。
「……んんっ! 卵の黄身がソースみたいに肉と野菜に絡んで、最高に濃厚だわ!」
エリンが超美貌を輝かせ、指先についた黄身さえも惜しむように味わいます。セーラも「パンのサクサク感と、お肉の旨味が一体になっています。これなら、いくらでも食べられそうです」と、夢中で食べ進めました。
「ガハハ! このボリューム、たまらねえぜ!」
ダグラスは巨大なサンドウィッチを片手で掴み、豪快に噛み千切りました。口の周りに黄身をつけながら、冷えたエールでそれを流し込む姿は、まさに充足した強者の風格です。トビーも「野菜がシャキシャキしていて、朝から元気が溢れてきます!」と、頬を膨らませて笑いました。
五人は、パンから溢れ出す具材に苦戦しながらも、自分たちの手で勝ち取った平和な朝の時間を存分に楽しみました。
「さて、腹ごしらえは済みましたね」
パスカルが静かにジョッキを置き、穏やかながらも鋭い眼光を仲間に向けました。
「たっぷり休み、最高の食事を摂りました。今日からは、昨日までの自分たちを過去にするような、さらに高精度の『即時換装』と『全武器習熟』の訓練に移ります。準備はいいですか?」
「おう、言われるまでもねえ! この体、早く動かしたくてうずうずしてたんだ!」
ダグラスが立ち上がり、拳を打ち鳴らしました。エリンはグレイブを、セーラは槍を、トビーはランスをアイテムボックスから引き出すイメージを脳内で完結させ、その瞳に修行の火を灯しました。
朝日が氷の館に差し込み、宝石のような輝きを放つ中、最強の五人は再び、終わりなき高みを目指して森の奥深くへと踏み出していくのでした。
朝食を終えた一行は、朝日が差し込む氷の館の広場に整列しました。パスカルは五人の前に立ち、各自が習得した七種類のバレットの精度を確認するよう命じました。
「武器の換装と同じく、魔術の切り替えも淀みなく行えるようにしましょう。全員、七属性のバレットを順に起動してください」
パスカルの号令と共に、五人は一斉に指先を標的に向けました。
まずは「ウォーターバレット」。高密度に圧縮された水弾が空気を切り裂き、標的を穿ちます。続いて「アイスバレット」が放たれ、着弾した箇所を瞬時に凍りつかせました。さらに、水分子を激しく振動させた「ボイルバレット」が熱を帯びて空間を歪ませ、その直後に「スチームバレット」が噴射されて周囲を濃密な蒸気で包み込みました。
ここから、神聖な魔力を練り込んだ三属性へと移行します。
「ホーリーバレット」が眩い光と共に標的を浄化し、続けて放たれた「ヒールバレット」が、訓練で生じた小さな傷を癒やすように温かな光を放ちました。最後に、毒や穢れを霧散させる「ピュリフィケーションバレット」が放たれ、場を清浄な空気に戻しました。
「……よし。全員、感覚が馴染んでいるようですね」
ダグラスは筋骨隆々の腕を突き出し、属性が切り替わるたびに変わる魔力の波導を確かめるように拳を握りました。トビーもまた、神速の踏み込みの合間にそれぞれのバレットを淀みなく発動させています。
170cmの長身となったエリンとセーラは、優雅な動作ながらも、放たれる弾丸の一発一発に致命的な威力を宿らせていました。エリンは熱と冷気の落差を、セーラは光と浄化の連鎖を、呼吸をするのと同じ自然さで操っています。
パスカルは自らも七つのバレットを完璧な等間隔で放ち、その後に仲間たちへ頷きました。
「合格です。ウォーター、アイス、ボイル、スチーム、そしてホーリー、ヒール、ピュリフィケーション。これら七つのバレットを、あらゆる戦況で瞬時に選択し、即時換装する武器と組み合わせて運用してください」
広場には、色とりどりの魔力の残光が漂い、五人の強さを証明するように輝いていました。彼らの指先は、今やあらゆる属性を自在に奏でる楽器であり、同時に最強の砲台でもありました。
「さて、魔力の通りも確認できました。次は、森の奥へ入り、この七種類のバレットと氷の武器を実戦で組み合わせる本格的な狩りへ出発しましょう」
森の深部、木々の隙間から湿った風が吹き抜けた瞬間、頭上の枝葉が激しく揺れました。現れたのは、禍々しい紫色の斑点を持つ二十体のポイズンスパイダーです。蜘蛛たちは一斉に、粘着質で猛毒を帯びた糸を網のように吐き出し、一行を絡め取ろうと迫ります。
パスカルは静かに数歩下がり、傍観の構えをとりました。
「私は対応しません。皆さんで片付けてください」
「おう、任せな! こんな連中、今の俺たちの敵じゃねえ!」
ダグラスの号令に合わせ、四人は即座に指先を突き出しました。
「『ピュリフィケーションバレット』!」
四人から放たれた清浄の弾丸が空中で毒の糸を射抜きます。着弾の瞬間、糸に含まれる毒素と魔力構成が瞬時に分解され、拘束力を失った糸はただの塵となって霧散しました。蜘蛛たちが驚愕に震える間もなく、エリンとセーラが次の一手を打ちます。
「逃がさないわ。『アイスバインド』!」
足元から這い上がった絶対零度の冷気が、二十体の蜘蛛の脚を地面ごと強固に氷結させました。物理的な移動を完全に封じられ、身動きの取れなくなった蜘蛛たちに対し、トビーとダグラスも追撃の魔力を練り上げます。
「とどめだ! 『ウォーターマスク』!」
四人が同時に放った水の弾丸は、蜘蛛たちの頭部を包み込む球体へと形を変えました。蜘蛛たちは必死に気門を動かしますが、吸い込めるのは空気ではなく重い水だけです。そこへさらに追い打ちが重なります。
「『アイスマスク』。……終わりよ」
球体状の水は瞬時に硬質な氷へと変貌し、蜘蛛たちの顔面を完全に密封しました。肺に流れ込んだ水が氷へと変わり、内側と外側の両方から呼吸を遮断される絶望。もがき苦しんでいた蜘蛛たちの脚は、数秒のうちに力なく折れ曲がり、全二十体がピクリとも動かなくなりました。
「……ふう。完勝だな。指先一つ動かすだけで、このざまだぜ」
ダグラスが満足げに笑い、筋骨隆々の肉体から魔力を解きました。170cmの長身となったエリンとセーラも、呼吸一つ乱さず、衣服の汚れを払います。
パスカルは、一歩も近づかれることなく全滅した蜘蛛の死体を見渡し、静かに頷きました。
「見事です。ピュリフィケーションでの分解、アイスバインドでの固定、そしてマスクによる窒息。完璧な連係でした」
かつては絶望の象徴だった魔物さえ、今の彼らにとっては一連の作業に過ぎません。
「さて、この二十体の死体もアイテムボックスへ回収しましょう。解体の練習台としても、換金素材としても優秀ですから」
「毒持ちの生き物は、実は美味しいんですよ。もちろん、危ないですから『ピュリフィケーション』で完全に無毒化はしますけどね」
パスカルのその一言に、ダグラスたちは一瞬顔を見合わせましたが、これまでの修行で培われた彼への絶対的な信頼が、すぐに好奇心へと変わりました。
「毒蜘蛛を食う、か……。まあ、あんたが言うなら間違いないんだろうが、驚きだぜ」
拠点に戻ると、パスカルはさっそく二十体のポイズンスパイダーの中から、特に身の詰まった大物を選び出しました。まずは氷の館の広場に据えられた巨大な釜に、なみなみと水を満たします。
「まずは基本の『ピュリフィケーションバレット』を広域展開します」
パスカルが指先から放った清浄の光が、釜の水と蜘蛛の死体を包み込みました。不気味な紫色をしていた蜘蛛の甲殻から、毒素がシュワシュワと黒い煙になって抜け出し、後には美しい白銀色の殻が残されました。猛毒の腺も、今やただの濃厚な旨味の塊へと変質しています。
「よし、次は塩ゆでです」
パスカルは釜の水を「魔熱循環」で一気に沸騰させ、山盛りの岩塩を投入しました。そこへ無毒化された蜘蛛を次々と放り込みます。
「……いい匂いがしてきたわね。なんだか、海辺で食べる大きな蟹みたい」
170cmの長身を屈めて釜を覗き込んだエリンが、超美貌に驚きを浮かべました。セーラも「毒が抜けると、こんなに清々しい香りがするなんて」と目を輝かせます。
数分後。茹であがった蜘蛛の脚をパスカルが氷のナイフで器用に割ると、中から溢れんばかりの真っ白な身が姿を現しました。
「さあ、温かいうちにどうぞ。何もつけなくても、塩気と蜘蛛自体の旨味で十分ですよ」
ダグラスが恐る恐るその身を一口頬張ると、目が見開かれました。
「なっ……なんだこれ! 蟹よりずっと身が締まってて、甘みが強え! 脂も程よく乗ってて、最高じゃねえか!」
トビーも「美味しい! このプルプルした部分は、まるでお餅みたいに弾力がありますね!」と、夢中で殻から身を掻き出しています。エリンとセーラも、上品ながらも休むことなく手を動かし、冷えたエールを片手にその未知の味を堪能しました。
「毒を持つ生き物は、外敵から身を守るために強い魔力を蓄えます。その魔力が、無毒化されることで純粋な旨味へと変換されるのです」
パスカルは自らも一口味わい、満足げに頷きました。
「エールにも合いますし、残ったゆで汁は明日、パンを浸して食べるスープにしましょう」
五人は、かつて恐れていた魔物を「食材」として楽しみながら、夜が更けるまで笑い合いました。最強の力を手に入れた彼らにとって、森のすべてはもはや脅威ではなく、豊かな恵みへと変わっていたのです。
朝の光が氷の館を青白く透かし、清々しい空気の中で新しい一日が始まりました。昨夜のポイズンスパイダーの宴の余韻が残る中、パスカルはキッチンで予告通り「最高の朝食」の準備に取り掛かります。
「皆さん、おはようございます。昨夜のゆで汁、いい具合に味が落ち着いていますよ」
パスカルが氷の釜を確認すると、蜘蛛の身から溶け出した濃厚な旨味が凝縮されたスープは、黄金色の輝きを放っていました。彼はそこに、アイテムボックスから取り出した瑞々しいキャベツ、人参、そして甘みの強いカブを丁寧に切り刻んで投入しました。
野菜が煮え、スープにさらなる甘みが溶け込んでいく。仕上げに少量の岩塩で味を整えるだけで、森の豊かさをそのまま凝縮したような芳醇な香りが館全体に広がりました。
「さあ、お待たせしました。ポイズンスパイダーの旨味スープと、軽く炙ったパンです」
テーブルに並べられた五人分のスープは、湯気と共に食欲を激しく刺激します。ダグラス、トビー、エリン、セーラの四人は、期待に目を輝かせながら席に着きました。
「……まずは、このパンを浸して食べてみて」
エリンが170cmのしなやかな肢体を躍動させ、厚切りにしたパンの端をスープに浸しました。黄金色の液体をたっぷりと吸い込んだパンを一口頬張ると、彼女の超美貌が驚きで輝きます。
「……信じられない。昨夜の身も美味しかったけど、このスープ……旨味の深さが桁違いだわ。パンが口の中でとろけて、力が体に直接流れ込んでくるみたい!」
セーラもまた、パンをスープに浸し、大切そうに咀嚼しました。
「カブの甘みが蜘蛛の出汁を引き立てていますね。温かいスープが全身に染み渡って、昨日の疲れが完全に消えていくようです」
筋骨隆々のダグラスは、巨大なパンを丸ごとスープに突っ込み、豪快に口へ運びました。
「ガハハ! これだ! 毒蜘蛛からこんなに優しい、それでいてパンチのある味が出るとはな。このゆで汁を捨てようなんて考えた俺が馬鹿だったぜ。エールもいいが、朝のこのスープは格別だ!」
トビーも「具の野菜がスープを吸って、まるでお肉を食べているような満足感です!」と、パンをおかわりしながら無我夢中で食べ進めています。
パスカルは仲間たちの満足げな様子を眺めながら、自らもスープを楽しみました。
「毒を浄化し、その恩恵だけを享受する。これこそが、この森で生きるということです」
朝食を終える頃には、五人の体は内側から熱を帯び、魔力回路は昨夜以上に活性化していました。最高の食事は、最高の修行へと繋がります。
「さて、栄養は完璧に行き渡りましたね。今日からは、先日確認した七種類のバレットをさらに磨き上げましょう。昨日のスパイダー戦で見えた課題を潰していきます」
ダグラスが力強く立ち上がり、自らの筋肉の調子を確かめるように拳を打ち鳴らしました。
「おう、昨日の連係をもっと速く、もっと正確にだな! 腹も膨れたし、すぐにでも始めようぜ!」
エリンとセーラも頷き、トビーは既に次の動きをイメージするように精神を集中させています。五人は再び、朝日が降り注ぐ広場へと足を踏み出しました。
「さて、七種類のバレットの精度は確認できました。次はエリンさんとセーラさん、お二人の近接戦闘を私自ら確認します。模擬戦を行いましょう」
パスカルの提案に、広場の空気が一瞬で張り詰めました。170cmのしなやかな長身を誇る二人は、互いに視線を交わすと、静かに、しかし迷いのない足取りで前に出ます。
まずはエリンが、アイテムボックスから氷の『グレイブ』を引き出しました。
「お願いします、パスカル。今の私がどこまで通用するか……試させて」
エリンは超美貌を険しく引き締め、氷の地面を滑るような独特の歩法で肉薄しました。間合いに入った瞬間、グレイブの長い柄を活かした鋭い一閃がパスカルの首筋を襲います。パスカルは最小限の動きでそれを回避しますが、エリンは止まりません。
「『アイスバインド』!」
自身の足元を凍らせて加速し、遠心力を乗せた二撃目、三撃目と連撃を叩き込みます。魔道士とは思えぬ重厚な斬撃。パスカルは氷の小剣を出し入れしながらそれを受け流し、彼女の重心のブレを冷静に見極めていきます。
「良い動きです、エリンさん。ですが、武器の重さに振り回されている瞬間がある。もっと魔力で自身の肉体を『補強』してください」
数合の打ち合いの後、エリンが肩で息をつきながら下がると、入れ替わるようにセーラが歩み寄りました。彼女の手には、光を放つ魔氷の『槍』が握られています。
「次は私です。……行きます!」
セーラの突きは、エリンの重厚さとは対照的に、目にも止まらぬ速さと精密さを備えていました。最短距離を貫く刺突が、パスカルの胸元を正確に狙います。パスカルが紙一重でかわすと、セーラは槍の石突を地面に突き立て、それを軸に跳躍。空中から槍を振り下ろす苛烈な追撃を見せました。
「『ヒールバレット』を自身の筋肉に撃ち込み、強制的に疲労を書き換える……。面白い発想ですが、肉体への負担が大きすぎます。もっと自然な魔力循環を意識して」
パスカルはセーラの槍を手の甲で弾き、彼女の体勢を崩しました。二人の模擬戦を終え、パスカルは満足げに、しかし厳しく総評を口にします。
「お二人とも、魔道士としての枠を完全に超えています。ですが、真の『万能』に至るには、武器の重さを『質量』ではなく『魔力の延長』として捉え直す必要があります。近接戦闘は、魔法を必中させるための布石に過ぎないということを忘れないでください」
見守っていたダグラスとトビーも、二人のあまりに激しい立ち回りに、冷や汗を拭いながら感嘆の声を漏らしていました。
「……凄まじいな。あんな綺麗な顔して、あんな物騒な武器を振り回すとは。俺も、もっと気合を入れ直さねえと追い抜かれちまうぜ」
「はい。エリンさんの加速も、セーラさんの精密な突きも、以前とは比べものになりません」
五人は、互いの成長を肌で感じ、高揚した気分を鎮めるように冷えたエールで喉を潤しました。模擬戦で火がついた彼女たちの瞳には、さらなる高みへの渇望が宿っていました。




