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第四話 勇者への報復 〜俺が考え抜いた最強の地獄〜

「アドラン、お前からのプレゼントのプリン美味いぞ。ちゃんと魔界で心を入れ替えたんだな」


アレクサンドルの自室。人間界に戻ってきたアドランはお土産のプリンを頬張る勇者を眺めていた。


「口に合って良かった、それ高かったんだぞ……。ほら、聖女へのプレゼント用プリンも渡しておくよ」


「おお、悪いな。そろそろファンイベントへ行く時間だ。お前、荷物持って付いてこいよ」


アドランは背を向ける勇者の後ろで、不敵に歪んだ笑みを浮かべる。


(食ったな! 特製、魔界の超強力下剤入りプリンを!)


支度を済ませ、二人は駅に向かった。その道中、最初の『予兆』がアレクを襲う。


──ギュルルルルルッ……。


「……アドラン。あそこのコンビニに寄ろう。ちょっと、小用だ」


アレクの歩幅が不自然に狭くなる。額にはうっすらと脂汗。

彼はコンビニへ駆け込んだ。しかし、トイレのドアには冷酷無比な『審判の宣告』が貼られていた。


──

防犯および故障のため、現在トイレの貸し出しは行っておりません

──


「トイレを貸さないコンビニなんて、この世から消えてしまえ……ッ!」


(ふははは! その張り紙は俺の細工だ。ここは普段、この地域で唯一トイレを貸してくれる仏のようなコンビニだがな!)


アレクの額から流れる汗が目に入る。視界の先、砂漠のオアシスのように公衆トイレが佇んでいた。


「助かった……! あのタイルの輝き、建立した天才に叙勲じょくんを授けたい気分だぞ」


だが、現実は非情である。そこには『清掃中』の黄色いコーンが、通行を拒む結界のように置かれていた。


「清掃中……! 嘘だろ、俺のお腹の中は今、プロボクサーが高速パンチの連打を打ち込んでる真っ最中なんだぞ!」


(当然、そのコーンも俺の私物だ。どうだ、希望から絶望への演出は)


地獄。圧倒的な絶望。しかしその時、さざ波が引くようにアレクの表情が健やかになった。


──なぎ


それは、限界を超えた腸が一時的に感覚を麻痺させる、人体最後の、そして最も危険な防衛本能。


「……ふぅ。嵐は過ぎ去ったようだ。これならあと15分は持つ。アドラン、急ぐぞ。遅刻してしまう」


駅のホーム、お腹の底にある『時限爆弾』に刺激を与えないよう、アレクは抜き足差し足で進む。


「アレクさん、急いで! この電車だ!」


二人は間一髪で電車に飛び込んだ。その瞬間、手を引くアドランの肘が、計算通りアレクの腹部、ちょうど『直腸付近』を鋭く強打した。


「はっ……!? また、来てしまったのか……! これは嵐じゃない、この世を終わらせる破滅的な大惨事(カタストロフ)だ!!」


アレクはお腹を抱え、冷たい汗を滝のように流す。電車の吊り革を、引きちぎらんばかりの力で握りしめた。


(あと、3分で次の駅に着く。耐えろ。心を無にしろ。自分は無機質な石像だと思え。呼吸を浅くしろ……考えるな!)


その時、非情な車内アナウンスが響く。


『次は終点。この電車は急行のため、各駅には止まりません』


「バカな! 急行だと!? 次の停車まで15分……体感では800年だぞ!」


絶望を感知したのか、お腹の中の『奴』が牙を剥く。


──ゴキュルルルルルルルッ!!


電車の微かな振動が、眠っていた腸を優しく、かつ確実に叩き起こす。


「はやく……! はやく止まれ! なぜ向かいの子供は、そんなに美味そうに乳酸菌飲料を飲んでいるんだ! それは今の俺には核爆弾の起爆スイッチにしか見えないぞ!!」


下痢に急行、それはこの世に存在する究極の『生き地獄』。


「便意を感じたら電車乗らないって何度も何度も誓ったのにこんな事になるなんて……クソッ、いや今はクソなんて考えるな」


ついに、電車が終点に滑り込んだ。ドアが開く。


(勝った……。私は己に、いや、己の括約筋ラスト・ゲートに勝ったのだ……。早く、早くトイレへ……!)


前かがみで、競歩選手のような超高速ピッチで進むアレクに、聞き慣れた声が響く。


「アレクサンドル様──」


「……聖女、様? なぜ、ここに……」


「アドランから連絡があったの。高級プリンをプレゼントするから来てって」


聖女の眩い笑顔。それは慈愛の光であると同時に、アレクの『戦士としての緊張の糸』を断ち切る最後のトリガーとなった。


(今だ!)


トドメと言わんばかりに、アドランが右手の拳を固く握り、極限まで圧縮した空気を『指弾』で放った。

見えない空気の弾丸が、臨界点に達したアレクのその『門』を叩く。


「……あ、あああ……はぁぁぁぁ…………」


──ビチャッ!!


鮮やかな金色の勇者の足元に、ぬるりと、そして確実に、金色のシミが広がっていく。


「ひゃあああああ!!」


聖女は悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして後ずさった。周囲には『カシャカシャ』と非情なスマホの撮影音が鳴り響く。


「フッ、どうですかアレクさん。最高の気分だ……その緩んだ括約筋で便と共に人気もフォロワーも全て垂れ流してしまえ」


アドランが勝ち誇った笑みを浮かべた。


──ドォォォォォン!!


その時、時空の扉が開き、ミノタウロスが現れた。


「否! 漏らしてからが本当の修行! 括約筋を極限まで鍛えれば、逆流すら可能なり!!」


全裸のミノタウロスが、改札を破壊しながら爆走してきた。


「ゲッ、ミノさん!? 公衆わいせつ罪ですよ!」


「アドランよ! 貴様の腸内洗浄はまだ甘い! さあ、魔界へ戻って修行を続けるぞ!!」


「……来るな筋肉ダルマ! 今は人間界で達成感に浸らせろ!!」


絶叫しながら逃げ出すアドラン。その背後には、聖女の前で人生が終わった勇者と、愛(乳酸)を持って追いかける全裸のミノタウロス。


こうして、ある勇者への復讐は、金色のシミと共に幕を閉じるのであった。


(おわり)

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