表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第三話 魔王城のコンプライアンス事変

魔界の頂点、魔王城。

謁見の間の玉座に座る魔王の前に、ミノタウロスとアドランが、その後ろには約20名の魔王軍入社希望者が跪いている。


「魔王様、此奴が私が鍛えた新たな禅僧です。魔王陛下の忠実な下僕となるでしょう。では私はスパチャが目標額に達し、ちょうど定時ですので失礼いたします。ハッシュタグは #涅槃寂静バルクアップ で」


ミノタウロスは一方的に告げると、風のように退室した。謁見の間には、バルクアップした肉体に虚無の瞳を宿したアドラン達が取り残される。


魔王は恐ろしい威圧感を放ちながらも、その眉間には深い縦ジワが刻まれていた。手元の水晶板タブレットを叩きつけ、怒声を上げる。


「勇者に第三結界を突破されておるだと!? 堂々と報告してきおって、あいつら【反省】しておるのか! 【当事者意識】が足りんのだ!」


アドランは、もはや怒声など『ただの音』として聞き流しながら、淡々と返した。


「魔王様、反省に堂々もクソもありません。反省とは自責の念に溺れることではなく、起きた事象の原因を特定し、再発防止策を策定することです。感情論はノイズですよ」


「能書きはいい! これはいったい、誰がどう【責任】を取るのだ! 誰の【ボトルネック】でこうなった!? 」


「責任問題は期末の評価面談でやりましょう。今はまず、火消しの話を。現場の兵士を増員する承認をすればいいのでは? 物理的に手が足ていない、リソース不足による決壊です」


「増員など認めん。コスト意識を持て。突破されたのは個人のスキル不足であり、個々の【マインドセット】の問題だ。むしろこれは、休日出勤という名の【汚名返上のチャンス】を彼らに与える絶好の機会ではないか。成長の機会を奪うのは上司の怠慢だぞ?」


「魔王様、休憩なしの三連勤で魔物たちのMPマジックパワーは枯渇しています。36協定(サブロクきょうてい)の遵守状況はどうなってるんですか。労基署が来たら一発で営業停止ですよ」


「我が軍は原則として『裁量労働制』だ。成果こそが全てであり、プロセスに時間をかけるのは無能の証拠。そもそも彼らとは人月契約ではなく、忠誠という名の【フルコミッション】で契約している。時間換算で対価を求めるなど、魔族としてのプライド……【プロフェッショナリズム】はないのかね?」


「……それ、今の時代なら即アウトですよ。パワハラどころか、魔界倫理委員会の監査が入れば軍の解体命令が下ります。コンプライアンスという言葉、ご存知ですか?」


「ふん、現場の甘えを『コンプラ』という言葉で隠蔽するな。これは『カルチャーの浸透』の問題だ。いいか、兵士には『勇者を倒す喜び』という【やりがい】を報酬として与えればいいのだ。まったく軟弱魔族に対して【ウチはなんてホワイト企業なんだ】」


魔王は露骨にため息をつき、遠い目をした。


「そもそも、俺が四天王だった頃は、不眠不休で人間を三日で滅ぼしたものだ。今の若い魔族はすぐ『ワークライフバランス』などと……。昔はもっとハングリーだった。なぜ今の連中は【自分ごと化】できないんだ?」


「なんの【武勇伝】ですか。過去の成功体験という名の生存者バイアスは、現代の戦術において無意味な発言ですよ」


「勇者の侵攻など、君たちが【オーナーシップ】を持ってアジャイルに対応すれば済む話だ。なぜ私にいちいち判断を仰ぐ? もっと【経営者目線】で、【視座】を高く持ちたまえ」


「アジャイルってのは、現場に裁量とリソースを与えて初めて成立するんですよ。スケジュールの引き方はウォーターフォールで指示の出し方だけアジャイルって、一番やっちゃいけないやり方ですよ。

それで納期が漏れたら現場の【コミット不足】だと切り捨てる。そんな心理的危険性しかない環境で、誰が自律的に動くんですか?」


魔王はふいと目を逸らし、手元の水晶板を眺めながら言った。


「……お前、さっきからやけに反抗的だな。もっと【フォロワーシップ】を発揮したらどうだ」


「ただの提言じゃないですか。事実を申し上げているだけです」


「ええい、やかましい! それが提言なのか意見なのか文句なのか愚痴なのか、それは俺が決める事だ! そこまで言うなら、お前がその『コンプライアンス』とやらで、人間界の勇者どもを片っ端から浄化してこい! シュッと【いい感じに】解決しろ!」


魔王は左手を前方にかざすと次元の扉が現れた。右でアドランを掴むと仕事と共に、物理的にもアドランを次元の隙間へと全投げした。


「ぎゃあぁぁぁぁ――!!休日出勤になったら代休申請してやるからなぁぁぁぁ」


「代休は認められん、【振休ふりきゅう】を使え」


魔王はアドランを投げ飛ばすと、膝を付き震える魔王軍入社希望者達に向き直る。


「さて、貴様は何個当てはまった? 5個以上なら今日から即戦力として働いてもらおう。案ずるな、我が軍は『アットホームな職場』だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ