表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の森で、夜を選ぶ  作者: July
外伝 里を出た理由は、恋ではなかった
13/24

1.選ばれ続ける場所

 ハイエルフの里は、美しい。


 季節は整い、建物は古く、森は人の手に従順だった。

 争いはなく、飢えもなく、すべてが長い時間の中で最適化されている。


 ——選ばれた場所だ。


 私は、そこで生まれ、育った。


 336年……。

 長い時間のはずなのに、振り返ると、どこか薄い。


 朝は、学びの時間。

 昼は、役割の時間。

 夜は、沈黙の時間。


 感情は、制御すべきもの。

 衝動は、幼さの証。

 恋は、未熟者が通る道。


 そう教えられてきた。


 私も、それに従ってきた。

 疑ったことは、なかった。


 ——疑う理由が、なかったからだ。


 ある日、年長者の一人が言った。


「お前は、よく整っている」


 それは、褒め言葉だった。


「感情の起伏が少なく、判断も安定している」


 私は、頷いた。


「それは、良い長命者の資質だ」


 胸の奥で、何かが小さく鳴った。

 でも、その正体は分からなかった。


 “良い”とは、何だろう。


 “整っている”とは、誰にとってだろう。


 私は、その問いを口にしなかった。

 問いは、波を立てるから。


 波は、嫌われる。


 里では、すべてが決まっている。

 学ぶことも、関わる相手も、未来の位置も。


 自由は、与えられているようで、

 実際には、選択肢の形をしていない。


 ある夜、私は里の外縁に立っていた。


 結界の向こうは、暗い。

 危険で、未整理で、予測できない世界。


「見てはいけない」


 そう言われてきた。


 けれど。


(……なぜ?)


 その問いが、初めて浮かんだ。


 里は、私を守っている。

 それは、事実だ。


 でも同時に——

 私に、選ばせていない。


 その夜、私は気づいてしまった。


 私は、何も選んだことがない。


 それは、安心で、

 それは、恐ろしいことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ