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4話 切れ・目 -140ppm-


 二人の渾身の連携攻撃跡がみるみる消えていく。

 汗が額をつたい、腋にも滲む。


 鎧人は大剣を地面に刺す。

「フハハ!この鎧の弱点は氷だよ」

「えぇ!?急に喋る思たら弱点ばらしおったで」

(当然嘘だ)

 一人暗所でニヤリと口角を上げた。

「マジかよぉ!帰って氷持ってくる方がいいか?」

「無しじゃないけどいったん——」


〈ガチャン〉

 鎧人が向きを変えた。

 鋭くテリンカ方向へ突進。

「ひっ・・・(これは完全に……!)」リュックを握りしめて走る。


「やらせねぇ!」

——タケヨがモーニングスターを放り置き、咄嗟に左だけのメリケンサックで殴りかかる。

 鍛えに鍛えた上肉が隆起し金属の拳が大きく弧を描き飛ぶ。

 大振りだが相手は俊敏ではなく、クリーンヒットならかなりの威力・・・!のはずだった。

 力を逃す時間はあったが、真正面から受ける鎧人。

〈ギイィィン!〉

「……手え痺れたぞオイ」

 大剣がタケヨに振り下ろされる。

 素手の右で細身の刀《黒宵》を抜くタケヨ。

(今回ばかりはこいつでも折——)

 《焔喰い》で一緒に大剣を止める。

〈ギリギリギリ・・・!〉

 ギィン!と弾き返した。


(すげェ衝撃だガどいつも傷一つ無ェ。あれもかナりの業物だな)

 凪は弾いた勢いのまま踏み込み、炎をでっぷり纏った焔喰いを首元へ叩きつける。

ガギンッッ!シュウウゥゥ……

(炎も斬撃もだめか・・・炎の効き目が予想外に悪過ぎる)

 振り薙いでくる反撃は焔喰いを飛び込ませて食い弾き、体を遠くへずらして避けた。


(・・・止めてくれて助かりました)

 この隙に距離を取れたテリンカは両手でゴツ重いゴーグル型"精密分析機"を取り出す。

 片レンズは既に胸ポケットにイン。


(あそこや!)

 虎子は表情を変えないよう努めていた。

(腋んとこ!今大剣振った時大した鎧ちゃうかったはずや)

〈バリバリバリ……!〉

 雷爪が充電され、2本の指に纏う激しい"青白"の中に時折"黄"がほとばしる。

 髪が逆立ち、額の刻印がちらりと見える。


 大鎧はテリンカへの道を塞ぐ《黒宵》握りタケヨに接近していく。

(やっぱりテリンカ最警戒・・・案外知ってる?)

 タケヨも前へ歩み急速に距離が縮まる。

 大鎧の間合いに侵入するかというところで下げていた構えが変わる。

 受け流し・守備的だ。


 大剣が振り上がった。

 瞬時に雷爪が右脇腹を突き、鎧に小さな穴を切り空ける。だがピタリと止まる雷。

(中ん戦闘服には通らへんのか・・・!)

「凪!空いたで!」


〈ボォンッ〉

 爆熱で接近し、炎を纏った右足を小穴へ振る。

 傾けて右肩鎧でかばってきた。

 チンッと軽い当たり。

 本命は次。

 横から焔喰いがうなり飛ぶ。

 左手で多少かばわれてもねじ込める。

「ア゛っ゛っっツっ!」

〈ガチャッガチャァァン〉

 崩れ後退、片膝を地につけさせた。


 左手の先の方が蠢く。

「(外はカリカリ中はプニプニってところカ)」

(?)

 考える暇はない。


〈ジュゥゥ・・・〉

 おさえた左手が戻る頃には穴が塞がりニブい金属光沢を放っていた。

 でも突破口は開けた。


 凪は右の靴をチラ見。

 黒くはない。

「次はもっと強くするけど」

「まだお前らを"強者"と認めたわけではない」

「そう」

 再び焔喰いを握り締める。

 鎧人の腰がゆっくりと上がる。

 左手が熱くなっていく、「(コゲコゲにすッかァ)」


 この間、かなりの距離を取ったテリンカは"精密分析機"を操作していた。

{Z870電気98旧作業服・・・Z868耐熱99[材質不明]鎧}

 焦りが込み上げる。

(中が絶縁構造なのも鎧が耐火性なのもさっきので知ってます・・・!)


〈ガチャン〉

 こちらに気づいた。

 明らかに足捌きが激しくなった鎧人は中々綺麗にゴーグル座標内で収まらない。

〈ガチョンガチョンガチョンガチョン!〉

 窮屈そうだがさっきまでとはジョギングと50m走ぐらい違う速度で迫り来る。


(《灼脚閃》・・・!)

〈ボウッッ!〉

 大炎の焔喰いで大剣を弾き飛ばし、みぞおちへ前蹴り。

 大鎧の重心が後ろにいった程度。

(まだ向かう気だ)

「はぁッ!」

 腹と胸へ炎のドロップキックをおまけ。

〈ガヅゥン〉

 鎧人の足が少し止まる。


(排熱スリットです?)

「あっ……ありました!腰の左!お尻寄り!そこだけロックが甘いです!拳大ピンポイントです!」

 特製のゴツくて重いゴーグル型(精密分析機)を着け真剣で誇らしげな口元。


「あんなゴッツい鎧で拳が弱点なんか?」

 右手に青白い雷拳を作っている。

「スッゲーこりゃ一本取られたぜ!」

 両手にメリケンサックをはめている。

「焔喰い、上手く狙って」

「お前ガ上手く振れ」足腰にも炎力を纏う。


〈ガチャッ〉

 初めて相手自ら後退りした。


〈バチヂヂッ〉

 即後方に回った虎子は一旦待機という様子。


 炎の爆発で鎧人へ飛び込み焔喰いをぶつけにいく。

 《大剣》と大剣が激しく衝突。

 たたみかけるスパート火力で熱風が吹き荒れ、両手と両手がもつれ飛ぶ。


〈ガギンッ!〉

 鉄の拳がタケヨから伸び、腰を捉えていた。

 ガチッとロックが外れスカート型の装甲だけガタァンと地面に落ちた。

 それを跨ぎ、なおも大剣を上段に構える鎧人。

「アツイ奴は嫌いジゃなイゼ?」

 一番熱いやつを握り構え直す。

「フン、ぬるいわ」

 明らかな劣勢、それでも"納得"していない。


「まだやるんかいな」

 ズッと虎子の靴と地面が擦れ、足の間から蹴り上げる・・・要は金玉蹴り。

パチン!

「ウッ」

 大鎧が股間を押さえて倒れ込む。


「わぁ・・・今のうちだね」

 大剣を持つ手を焔喰いで押さえつけ、腕にタケヨが飛びつく。

「えーとここをこうしてー」

 テリンカは片手で手際よく外していく、もう片手でゴツ重ゴーグルをおさえ持っているのに。

 簡単そうな部分は虎子と外した。


――鎧を剥がしてみると中身は中肉中背のやや中性的な男。

 身長は170cm前後だろうか。

「ナカちっさあ!グリーブで何mやこれ?」

「50センチです?」

 重いリュックを置いて片レンズを弄っている。

タケヨはまじまじと見つめる。

「水薙ほどじゃねえがこいつも整った顔してるよなぁ」

「どこ見てんねん」


 暴れる様子は無しか。

「何で襲ったの?閉鎖管理派だっけ?」

「・・・俺が認めた強者についていく、それだけだ」

 スカスカの腕組みをしている。

 鎧ある時の癖だなあれは。

「強者?」


 鎧無し中肉男が虎子の方を向く。

「お前強いな、認めよう」

 かっこよく言っているが両手は股間をおさえている。

「わぁよかったね」

 これは拍手喝采。

「ええ?なんでやタマ蹴っただけやん!」

 鎧人は構わず、「お前についてゆくとしよう」と続け、片手を股間から離して差し出す。


「でもその前に牢屋だよ」

「牢屋より強いよ?俺は」

 曇りない目でこっちを見ている。

「・・・壊さないでね?」

「分かった。なるべくそうするよ」

「(なるべくってなんやねん)」



 ろくにいいいことなさそうな閉鎖管理派が一定の支持を得ているのには理由がある。

 地上へ出たものは数年で狂い、人格が変わるという"噂"だ。

 割合で言えば少数なのだが

 それを目の当たりにしたからか退役軍人が多く、簡単に安易に叩き潰せない程度の武力がある。



***


「おっ虎の姐御どこいくんですかい」

 金髪モヒカン男が来た。

 服は赤色で奇抜だ。

「おん、ちょっとこいつぅ鎧人をな〜?」

 ペチペチと鎧なし男の肩を叩く。

「鎧・・・?それ今超高額のやつじゃないですかい!?」

「超高額?」

 身を乗り出してきたが、超ってほどじゃなかったはず。

「研究所の奴らが依頼出してたんでさぁ。たしか生け捕りで7万おんだとか」

「えぇ!?7万!?」

「げー、なんやそれー!あそこも出しとったんか」

 でも科学最優先派か。

 はっきり言ってだいぶ黒い・・・けど7万おん・・・。

 すると鎧なし人が正面に回ってくる。

「それだけは、あそこだけはご容赦を・・・!お慈悲〜!」

 脚の付け根に両手を置く武人のようなポーズで何度も頭を下げられる、高速で。

(ライブ会場かな?)

「わかったで。元々他で受けとったしなぁ?」

「うん。お金じゃないよね、虎子」

 頷いて予定の報告地へ向かう。


***


 人気のないエリアに来た。

 うつろナースに直接報告したい・・・この辺って言ってたはずなんだけど――

 

 あれ向こうの小太り男が明らかにこっちを見続けてる。

〈スー〉

「ぅ我らがルビーフレイムドラゴンが討って来られたぞ!」

「何それ!?」完全に初耳。

「ゥオオーー」

〈パチパチパチパチ〉

 "統率の取れた拍手"に取り囲まれる。

 見開いているのに生気を感じられない目がズラリと並ぶ。

「アンタそんな呼ばれ方しとんか〜?」絶対ニタニタしてる。

「ぅドラゴンさァん♡」ってテリンカか、声変えんな。

「きゃ〜"我らが"ドラちゃーん」

「ルビドラぁ!"俺らの"ー」

「"私たちの"ゴンちゃーん♡ 」

 自分とこの人間がやったのだと頭に植え付けているみたいだ。

 わーいとテキトーに手を挙げる。

 それはともかく——


「ねえ虎子・・・ドラゴン要素微塵も持ってないんだけど」

 一気にしんっと静まる・・・笑顔も消えた。

 統率取れ過ぎで、不気味で怖い。

 小太り男はうつろにじっと見つめてきて何を考えているか分からない。

「じゃあルビーフレイムガルーダドラゴンで」

小太りな人差し指が立つ。

「「ウオオー!」」


「ドラゴンは譲れねえみたいだな!」

「鳥要素はどこだァ?お前も飛べタのか?」背中でペチペチ揺れる。


――なんか信者稼ぎに使われた。

 まぁ毒ガスを止めたらこの宗教も無くなるだろう。

 

 面倒な中うつろナースから報酬の4万おんを受け取った。

 聖餐肉堂せいさんにくどうで使えるらしい食事券もオマケで貰った。


***


「ほらアルケー!」

〈ガチャン〉

 一方、牢屋にぶち込まれた鎧人は小さい部屋の床に座り、考え込んでいた。


 左腰の排熱スリット(?)があった部分をさすりながら思案する。

(あんなにもハッキリばれるとは……楽にトイレできるのは良いんだがな)

「(電気ごときに鎧が抜かれるのも誤算。次はそっちに強くするかムムム・・・)」

 鎧人の小指と足の親指が無機質な光沢を放っていた――


***


 ドジョウ系カフェ[マッドロミ]で一番安い飲み物[ミントジュースのミント添え]をテーブルに置き、荷物を空き椅子に下ろす。

 くつろぐ三人と一振り。

 うち一人だけがソワソワしていた。




■■ひとくち紹介■■


◇鎧人

 座右の銘は、塵も積もれば鎧になる。


◇タケヨ

 やや錆びにくい安価なメリケンサックを持っている。

 もっと錆びづらい高級品と、そのお手入れキットを自力で得ることが小さな夢。


◇水薙

 タケヨが嫉妬しているイケメン。

 なぜか蒸気が出る。


◇Z

 奥行きとして使用。

 映像系と建築系でZ軸Y軸違うのやめてけれ〜。


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