3話 強靭強敵 -80ppm-
(まだ居る・・・数が多い)
「人質を取れ!囲め!"連波"だ!」
片手で指揮している逆の手には火炎瓶。
段を成して運転手へ一斉突撃する賊ら。
タケヨは回転し終えたモーニングスターで散らしていく。
一人・二人・三人と当たってもムキムキと上半身で保持しある程度のパワーを保つ・・・が攻撃後バランスを崩して体が低く沈む。
それを見て賊達は走り寄っていく。
先頭にモーニングスターを投げ転がし、低い姿勢から細身の刀《黒宵》を抜き斬って寄せ付けない。
遠距離から狙う賊らに凪が飛んでいく(ナイス・・・!車から離せた)
焔喰いを地に刺し、付近が赤橙に熱され、半球状に染まっていった。
(《焦界崩》・・・!)
〈ブウゥゥォォォン〉
爆風で周囲数十人が吹き飛ぶ。
「がっ、あ・・・ああ・・・」
賊の指揮官の脳にある記憶が浮かぶ――
(まだだ。いや、行った方がいいか)
「とりあえず・・・」
戦力の随時投入をし、大敗した苦い過去——
——そして現在、賊全滅。
「ただの人間だッたし火力は抑えとイたぜ?」
均等な焼け跡が円状に広がっていた。
全力出力ではない巻き込みなしの制御型。
それでも無対策の人間を吹き飛ばすには十分だった。
テリンカの方からは虎子の青白い雷光がチカチカといやでも目に入って来ていたので案の定制圧できていた、運転手を謎の小型ロボットで囲みつつ。
結果的に数の差はあれど戦いというより処理・制圧だった。
***
最後に大柄な賊をロープで縛ろうとする虎子。
負傷し座っているが質量はなかなか。
「ちょっ暴れるなや」
静電気をパチパチっと当てる。
「ぎゃ〜〜。あれ、あんま痛くない。もしかして俺強くなったのか?」
「ちゃうわアホ」バチバチバチ
「うギャーーーー」
人員輸送車に拘束された賊も積み込まれる。
賊達は基本ボロいガスマスクや布マスクを着けているが中々うるさい。
(普通のマスクじゃ息苦しいだけのはずなのに元気過ぎる)
ポケットを開け改造スマホを取り出して見る。
(……この辺の予想毒ガス濃度70ppm・・・下がってる)
下がることを知っていたのか、未発表の技術で減らしたのか、偶然か?
チラリと賊たちの武器・防具を見る。
(……ん?)
「あれ盗品?見たことない」
飾り気はないがやけに整った印象の小銃を指差す。
「自作にしては出来が良過ぎるよな」
タケヨも銃に詳しくないが同意見みたい。
まず線が綺麗。
『撃てりゃいい』みたいな素人作とは一線を画しているように感じられる。
賊達はわめき散らしていて聞く耳が無さそうだ。
腕を組む。
「銃持ってたなんて・・・火炎瓶だけじゃなかったんだね」
「あれお前ガ吹っ飛ばシた奴のもンだろ」
膝の上で蠢いている。
「相変わらず目いいね」
「視力検査すりゃァ4.1はカタいゼ?」
「・・・どこに目ついてんだ?」
「知らない」
この熱の数・・・そろそろ到着。
「こッちには鎧人居ナかっタな!」
***
到着後、三重扉を開けて短い階段を下りた後また階段を下りて指定の場所で待つ。
マスクを外された賊達は非常にうるさかったため口に布を巻かれていた。
(何をそんな喋ることがあるんだ)
時間があったので鎧人について聞いてみる。
左から順に一人一人口元の拘束を緩め(終わったら戻す)、鎧人の情報を聞く。
「鎧人について知らない?・・・あんたらの仲間?」
「はァ!?あんなインチキ野郎と一緒にすんな!まあ俺は釘バットだけで連戦連勝を重ね・・・モゴッ」(終わったら戻す)
「あいつと喋ったことあるぜ『そこをどけ!』ってな……モゴッ」
「一言で言えば"障害物"かな。モゴッ」
どうも商売敵らしく別に仲間ではないらしい。
「場所を知ってる者は?」と聞くとモゴモゴ!っと何人かが反応した。
口の拘束を取る。
「この大空の下じゃ!」
……手の平上に炎を見せる凪。
「すんませんすんません、全く知りません」
おい。
口の拘束を戻す。
期待のない目で次の拘束を外す。
賊の指揮官らしき者。
「補給路に行きゃ大体居んだろ」
おお。
「さッきの道以外か」
背中が揺れる。
「詳しく知りたかったら金を〜」
・・・拘束を戻そうとすると
「分かった分かったちょっとだけ、ちょっとでいいんだ100万モゴッ」
次の口を開ける。
「前は地下好きの変人だったはずだぜ?最近は知らねえけどな!・・・・・・モゴッ」
こうして無駄骨油を売っておると、ブルルルルッと凪のスマホがバイブレーションした。
取り出して見ると今日の鎧人目撃情報が届いていた。
「お、来たんか?」
「うん」と返す頃にはもう覗き込んでいる。
「……送信開始20分前とかやないか?凪のでこれかいな」
数十分前に送信開始された(新鮮ピッチピチではない)文章だが貴重な情報だ。
「今日のそこ一帯は(毒ガス濃度)150ppmって予想が・・・」
訝しげなテリンカ。
「150!?わざわざそんなところに居るのかよ!俺でも頭痛くなるぜ?」
両手で大げさに頭を抱えてる。
右腿の刻印を触る、「頭痛で済むのが異常」
「本当にナマの人間なんかぁ?」
目口をぱかぁと開ける。
「おう!鍛えれっ鍛らえっ鍛えただけだぜ」
「私もまっさらです〜」
・・・そういう集まりか、頼もしい〜!
***
早速、目的地へ向かう。
地上に出てすぐの場所に虎子の装甲つき改造車を停めさせてもらっていた。
周りがギチギチでドアを開けづらいのでまずは虎子だけ乗る。
辺りが2つのライトで照らされた。
スルスルと出てくる。
「わー出すの上手いー!」
「スゥッと出ましたよスゥッと」パチパチ
「そこ褒めるんか」
「ありがとうだぜ!」グッ
ドアを開け、今度はトリンカが隣・・・ん?
『(グヘヘ)』
なんか近いし変なポーズだけどまあいいか。
車内は殆ど虎子のちょっぴり獣混じりな匂いだが、ほんのり香る血の臭いで気が引き締まる。
***
豪快な運転の末、目的地に着く。補給路が2つ通る合流点、クロスの真ん中に大きな人影。
金属光沢の鎧で全身を覆い尽くす大きな人型が居た。
——『あれが鎧人だ』と確信する。
何かが破壊された様子は無い。目撃者は視認後すぐ逃げられたようだ
すぐに車を停めてもらい扉からバッと出る。
相手は微動だにしない。
声は発しないが、姿形は鎧を着た2メートル超えの人間そのもの。
「テリンカ2人分・・・?」
「さすがにそんな小さく・大きくないです!」
自作の小型レンズをそっと弄っている。
簡易分析機{ 高耐性 低機動性 特殊能力}
(内部は・・・見えない・・・)
「小回りは効かないみたいです!」
ガチャン――
声に反応して鎧人の首が少しテリンカの方へ動いた。
音は聞こえるようだ。
タケヨが体をうならせてチェーン型モーニングスターを回転させ始める。
——ブォン!ガチャッガチャッガチャッ・・・
上半身がムキムキと盛り上がり、チェーンの音と空気を鈍く斬る音で威圧するかのように回る。
それを見て虎子が走り出し鎧人の背後へ向かう。
青白い光を迸らせながら稲妻の速さで助走する。
〈ビュオン!〉
タケヨのモーニングスターが唸りを上げて鎧人へ襲いかかる。
〈バチバチバジバジ・・・!〉
雷を蓄えたハンマーも高速で振り抜かれる。
鎧人は一歩も動けず、やや体を傾けるも真正面と真背後から挟み込まれた。
「どーおおおっっりゃあああ!!」
「はああぁぁぁぁぁ!!」
――ガキィィィン!ガギイィィィィン!バジバジバジ
2つの鉄塊が直撃する鈍く激しい金属の衝撃音。
黄色混じりの青白い雷が鎧人背後を激しく照らし、前方は火花散るトゲ付き鉄球。両側からの圧壊圧殺電撃。
鎧は微動だにしない。足元にはピシピシとひびが入っていて、鎧が少しへこんで見える。
外側からではダメージが分かりづらく大きな傷は見られない。
「かたァいなァ!」
タケヨは片手を払い苦笑する。
鎧は背後へ急に振り向いて大剣を上げ近くの虎子へ振り下ろす。
足からバリバリと雷を放出し高速で飛び退くが大きなハンマーを持つ手は遅れた。
ガギイィィィンという音とともにハンマーが床にめり込む。
丈夫なはずだが大剣の残痕がしっかりと残りヒビも見られる。
(……次当てた瞬間に粉々なるんちゃうか?まぁ効き目悪いみたいやし——)
ハンマーはそのまま置いておき「ほな困ったな〜」と右の人差し指と中指のツメ先を背中で隠しながら雷を蓄える。
青白い光と音が徐々に漏れ出る。
構造上弱点になるであろう関節部分・接合部分を鋭く突く作戦に切り替えたのだ。
しかし、継ぎ目もヒビもなく視認できる弱点は見当たらない。
(……さっきつけた鎧のへっこみ直っとらんか・・・!?)
渾身の連携攻撃跡がみるみる消えていく――
■■ひとくち紹介■■
◇テリンカ自作の"精密"分析機
視界に捉える&ピント合わせ&目的の座標軸に合わせるなどの操作が必要かつ重い。
◇タケヨ
特殊な刀《黒宵》を持つが軽くて丈夫な棒程度の感覚。上半身を活かした大振りのフック(パンチ)やその辺で安く買えたチェーン型※のモーニングスターを振り回す方が合うらしい。
普段着てるシャツは一応強化布だがサイズはピッチピチ。
※メイス型より不人気
◇虎子の匂い(車内)
今回は獣みたいな香水みたいな匂い。健康に悪そうではないが、血と火薬の臭いが混ざっている。