1話 ガスマスクツインテ - 110ppm -
ライフルスコープを覗く。
(燃える大剣に赤髪・・・あれは天ヶ裂 "凪"か。まあ……)
「目立ちすぎだぜ、そのツインテール」
プァ゛ァ゛ァン゛と地を裂くような銃声が廃墟ビル群を揺らす。
〈パシュッッギイィン!〉
瞬間、"凪"の背から大剣が飛び出していた。
剣先がグリグリと動き、銃弾を空中でたしかに噛み砕いている・・・。
「うーン、これは……まズまズだなァ」ガギギッガッ
〈カラン…コロン…〉
冷たくなった弾丸がコンクリート上で不恰好に転がる。
(聞いてねぇっぞそんなん・・・!)
匍匐後進で射撃ポイントからそ〜っそ〜っと離れる。
凪が振り向いた先、ビル屋上の床に細い煙が残っていた。
「上か。遠いな」
右腿が一部赤く滲み光り、パァ゛ン!!と爆発音。
地面が焼け焦げ爆風とともに姿が消えた。
(こっちまわって——)
背後に赤髪がブワサッと出現。
「なっ・・・それは」
熱圧で跳び上がり、真上から大剣を振り下ろす。
一閃、白昼が焼け黒ずむ深紅の軌跡。
熱風が吹き、上昇気流となり、髪がふわふわと浮く。
凪はボロいコンクリ床上、さびれた手すり柵の前で周囲を見渡す。
ひとけがない、ただの廃墟ビル群だ。
(相手は一人か・・・。よし戻ろう)
屋上の錆びた扉を開いてみるとキィィィィっと軋む音。
(こういう音なかなか慣れない)
階段らしいのだが中央から端まで苔やカビ、細い亀裂も見られる。
天井はたわみ細かい粉が降っている。
〈キィィィィバタン〉
顔を左後ろへ向ける。
「お願い」
「しょうガねえなァ」
右からフワフワと浮いてきて手のひらへ来る赤い大剣《焔喰い》。
両手で逆手に握った。
足元を赤くパァ゛ン!と爆発させる。
〈ビュウウウ〉
風が耳を塞ぐ。
遠くだった向かいのビルに足を向けて パァ゛ンともう一度。
水平に・徐々に高度を落とす角度で元の地点へ向かう。
〈ギギッギッ〉
《焔喰い》を少し擦りドンッドンと着地。
「上手くナったな!オレ必要ナかッたろ」
「や、欲しい」
無傷のそれを背中に戻す。
辺りをチラチラと見る・・・居ない。
「出てきていいよ、テリンカ」
「・・・はい!セーフでした!」
物陰から薄い緑髪の白服が出てきた。
アホ毛を揺らしながら歩いてくる。
彼女は研究者で質より量なタイプ。
失敗しては髪を一部変色させていて今日はピンク。
「この辺何も無い?」
「・・・いえ、この世のものとは思えない丸いゴム(?)がありました!」
手袋越しにつまみ、グニグニと潰してはその弾力を見せつける。
「なんか前にも見た気がするけど・・・じゃあ」
「はい、早速帰って使います!」
活力に溢れた垂れ目を輝かせてきた。
凪たちは周囲に気を配り、警戒しながら"地下へ戻る"ことにした。
地上に蔓延し続ける正体不明の毒ガスは空気よりも軽いらしく、地下の方が安全で人も多いのだ。
地下入口への三重扉をグッ……グッ……グッ……と開けた。
勝手に閉まる仕組みで、だいぶ力を入れないと開かない。
三重扉を開けてすぐに横幅の広い短い階段がある。
階段を下った通路の横には酸素ボンベや防毒マスクなどフル装備所持の人間がたむろしていた。
無装備で平然と降りてきたテリンカには複雑な視線がちらほらと向けられるが興味はすぐ凪へ移る。
肩をゆうに超す長い赤髪、鼻と口周りだけの黒ガスマスク、上下紫基調で短いスカートと右腿の刻印・左脚を覆う黒い片タイツ、蠢く赤い大剣・・・。
「あれが燃える大剣《焔喰い》か・・・燃えてないぞ?」
〈グュウォウォゥウゥ~~……!〉
「な、なんだぁ!?」
周囲がざわつく。
周りを見ていると、テリンカがアホ毛をぴょいんぴょいんと跳ねさせて寄ってきた。
「さ、実験行きましょう!」
〈グュルォウォゥ~~……!〉
さっきより近くで鳴った。
「や、先に食べよう」
「はいぃ」
音を鳴らしたままテリンカ達はズンズン進む。
(ナマズバーガー・・・キノコ定食・・・ドジョウラーメンか・・・)
いくつかの通路を抜けた先、香ばしい匂いが鼻を打った。
混雑の中、匂いをたどると中央脇の屋台前に黄色い毛玉が立ち尽くしていた。
「うわぁ、ええ匂い……」
横顔は{恍惚}で口元が溶けている。
"虎"と言いながら青色ファッションな、金髪ロング毛量モンスター・・・虎子(名字不明)だ。
背など色々デカい。
「見てみ!!」
満面の笑みで指差す屋台の看板には、
[安い!][美味い!][オイリー!]
と、これでもかと煽る文字列。
「揚げだこ・・・か」
「凪さん、こっちは!」
テリンカが指差すのは屋台群のさらに奥の片すみ。
煙とソースの香りの向こうには鉄板が唸るお好み焼き屋があった。
「こっちにしとこ。安心感が違う」
「ハイ炭水化物!ハイうま味!」
「なんの掛け声だよ」
——こうして、たこ焼き(揚げだこ)を華麗にスルーした私たちはビューティーにソースの道を進むのだった。
※揚げだこにもソースは付く
***
屋台の向かい側、壁際の長椅子に座れた。
「んぅ〜!このお好み焼きザラっザラ香ばしいです!」
口いっぱいにほおばって頬がぷっくり膨らむ。
その表情は幸せのかたまり。
「キノコが邪魔にならないうまい一品ね・・・!」
自分でも満足げなのが分かる。
自然ともう一口、もぐもぐと夢中で噛んでいた。
虎子の方も"当たり"だったようで『なんや、あんな味ほんま久々やったわぁ』とか言っていたがいつの間にか見当たらない。
すると、腹をさすりながら帰ってきた。
珍しく腹を壊したらしい。
「焼きだこなら壊さずに済んだのに」と言ってみたが
「ダブチにしとくんやった〜〜!」
※ダブルチーズバーガー
と謎の後悔をしていた。
「ままええわ……腹壊すくらいウチにはちょうどええ刺激や」
顔は少し青い。
「……ダブチしとったら無傷やったんやろな」
「未練タラタラじゃねぇか」
背の大剣が蠢く。
「(……揚げだこもダブチもそう変わらねえよなァ?)」
「(私はナマズバーガーにしときますぅ)・・・ってそうだ!」
テリンカが目を見開く。
「今日は上で変わったゴムを拾ったんですよ」
さっきの小さいゴム(?)を取り出す。
「ほ〜ん。パッと見は普通やけど〜今日は見に行こかな、実験」
腕のストレッチしながら言ってる。
テリンカの実験室は地下の中でも外れの方にある。
貴重な安全域である地下にも不人気な場所が存在する――
「うぇ〜、くっさ〜……"タケヨ"より臭いで」
※遊泳好きの探索者仲間で少しイカ臭い。
「それは……無いかもしれませんね、いやありまぁす!」
「ふふっ」
(リンちゃん明らかにウキウキしてる)
〈ヌチッヌチッ〉
乾いたコツコツという音が消え、かわりに湿った粘性の音がついてまわる。
背中が振動する「おー、ハラ減ってきたなア」
「……パブロフの剣だね」ドヤ顔で言った。
虎子が振り返り、
「パブロフってなんや?」
素直なキョトン顔を見せられた。
(なんやってなんや・・・!)
謎の粘液が滴る区域。
常人なら防護服無しでは気分が悪くなるらしいが彼女は相変わらずピンピンしている。
「着きました〜!」
薬品・キノコ・マシンパーツの臭いが混ざって鼻がカオスを訴える。
粘液や自家製キノコが撒き散らされている中、清潔な台座が目に留まった。
内ポケットから取り出したヘアゴムでポニーテールに結び、台座前に立つ白衣の髪変色女はちょっと様になって見えた。
「早速始めましょう」ガチャガチャ、カチャンッ
ガラス越しに見つめる二人と一振り。
……まるで手当たり次第に薬品をかけているようだ。
分量は合っているのか計算間違ってないか対照実験ではないのかなんて思っちゃう光景だっだが、不意に作業台上の小さなゴム片が、ぴくぴくと動いた。
……生き物のように。
妙に引っかかる光景をじっと見つめ(筋肉の痙攣にしては・・・)なんて思っていると——
「これ凄いです!こんな小さいのにエネルギーが云々密度がカンヌン・・・・・・」
興奮覚めやらぬまま両手でさまざまなジェスチャーをしている。
ただまぁ要するに使い終わって焔喰いの餌だ。
剣先がパックリと割れ、一呑み。
幸い高カロリー率(?)だったようでご満悦。
「おおッ!来たカ来たカ!この焦げた膜──これがたまらんなあ!」
「……どうした?俺が喰ってる間に、世界が滅んだか?」
「んなわけ無いやろ〜!」
一応笑い飛ばすものの、なんだか薄気味悪いしそのまま実験室を後にした。
「とりあえずタケヨと情報交換でもしよう」
「あー、ぼちぼち帰って来る頃やんな?」
テキトーに歩く。
天井の蛍光管は四分の一ぐらい点滅していて、ところどころ一本で賄っている。
退屈でキョロキョロする首を固め指をさす。
「え、砂糖売ってるって」
「ホンマ?……さすがにあの値段は強気すぎやろ」
一舐めでウン十万。
「甘味に人生傾けてる富豪限定です〜」
なんて話していると――
焼けた肌とムキムキの大胸筋をもつ銀髪サングラス男がぬっと目に入ってきた。
タケヨだ。
「おう!風呂入ってきたぜ!」
こいつの言う入浴はたいてい海でただ泳いできただけ・・・って——
何か青い人型を脇に抱えている。
「ヒレ・・・?」なんだあの異形。
腕から水色のヒレがのび、喉のあたりにはエラらしき穴。
後退して手でパタパタと空気を払う。
「(……生臭い)」
さっき食べる時にガスマスク外してそのままだった・・・。
きつめに着け直す。
(無駄に任務モードって感じ)
タケヨは目線を落とし、うつむく"それ"の顔を覗き込む。
「いつの間にこんな顔色悪くなってんだ?」
「顔どころか全身青いやんけ!」
虎子は半身後ろによけている。
「よく止められなかったね」
「みんな道を空けてくれたぜ?」
「そらそやろ、触れたないわこんなん」
タケヨは相変わらず無頓着に抱えている。
「泳いでたら流れてきたんだよ。風呂友達だな」
「"風呂"入ってこの臭い?」下水風呂かな?
虎子は鼻をつまんで目を細めている。
「磯臭いどころやない、これ漁港のゴミ捨て場や」
テリンカは胸ポケットから片レンズを取り出す{ 変形 肺 不全 }
(不穏ですね・・・)
こういうのはたいてい過激な科学者のせいにされているが、実際ほぼそうだろう。
「というか穴空いてません?」
目を凝らしてみると腕や背中に黒い粒々模様が無造作に並ぶ。
(ブツブツしてるの穴だったんだ)
「細ぇ針で刺されたみてぇになってるな。……ウニにでも攻撃されたか?」
「ウニぃ?したら鈍臭すぎやろ」
「針の跡・・・そう古くなさそうです」
注意深く凝視するテリンカ。
「……ギョ、ギョワギョワ」
弱々しく低音を響かせた青いの。
くぐもっているが人の声帯・喉に近いと分かる。
(海に帰すべきなのかな。でも弱ってるみたいだし——)
「どうしますか?食べます?」
「ちょ、ウチは遠慮しとくで」
自然と視線が背の大剣に集まる。
「アぁ?俺カ?」
カチカチと刃先を鳴らしている。
「ええ、魚部分だけ食べたら元に戻るかもしれませんよ」
人差し指を立ててフフンって顔。
「そんなわけ〜あるか〜?」
微妙に否定し切れない虎子。
こんなんの生態知らないし仕方ないね。
邪魔にならないよう通路脇の柱裏あたりへ移動しタケヨがそれを膝枕する。
鱗は無いがやはり全身青く、目はほとんど閉じている。
赤い大剣《焔喰い》はフワフワと浮いて様々な角度から物色する。
「まァ・・・どれ一口」
お試し程度にヒレの先を少し噛むと薄い赤色の体液を噴出、出血だ。
「一体化してるみたいですね・・・」
「コスプレじゃねえのかよぉ!」
稀にコスプレ衣装の流用服を見かけるが、こんなでかい装飾はまず見ない。
人影が一つ向かってきた。
少し薬品臭がするメガネ女だ。
茶色コートで中は白く、背は低いが良い肩幅をしている
「ちょっといいでしょうか?」
表情筋があまりなく思考が読めない。
「わたくしケプロヴェイアス・ドロンアロンと申します」
偽名くさっ。
「な、なんや素敵な名前やね〜・・・」
虎子も明らかに言及したそう。
「そうですか?」
別に気に入ってなかった。
「あっ!凪様のファンです、以後ごみしりおきを」
両手を振られたので振り返した。
この近くで手振るの好きなタイプか。
「(ちょ近過ぎや顔に当たるで)」
「(手押し相撲みたいですね)」
テリンカは興味なさげ。
「わたくしそちらの青い方に興味があるんです」
タケヨの膝上の青いのに視線が集まる。
「あ、どうぞ」
「悪くはしません、お願いします!」
「どうぞどうぞ」
タケヨが左脇に抱いて立ち上がる。
体が持ち上がってぺっちょりとした質感を見せられた。
そして近づいてくる。
くせえ。
タケヨはメガネ女と向かい合う。
「おお貰い手か。末長く幸せにしてやれよ!」
相手の左肩を叩き、青いのを渡す。
「はい。大切に使います」
同じく左肩を叩く。
黒いチョーカーを弄り、口周りだけ微笑していた。
コートに隠れていたウエストポーチを開け、光のない紐を取り出した。
その細いが強靭そうな黒ロープをするするっと巻きつける。
「ギョ、ギョカイ・・・!ギョー・・・」
こもった嘆きの音があたりを震わしたが、そのまま両手で抱えられていった。
「(やるな。いい筋肉してるぜ・・・)」
「終わったな」「まあどっちみちだろ」と珍妙な高い声で聞こえてくる。
娯楽に飢えているためか鼻をつまんだ観衆がそこそこの数居た。
虎子はフゥーーっと呼吸が解放された様子。
「……イカくさタケヨを超える生臭さて・・・一体何もんやったんや」
「バケモンでしょ」
「そら見りゃ分かるわ」
「魚食べ過ぎたんですかねぇ――」
(グッ・・・ムキッ・・・ムキッ)
暇そうなタケヨがポージングをしている。
わざわざ前開きジャケットを脱ぎ始めた。
……しょうがないので近づいてみる。
「タケヨさんまた大きくなってません?」
片レンズで観察するテリンカ。
「ごっつい肩やなぁ、岩入っとるみたいや」
コツンと軽く殴る虎子。
「この筋肉か? 乳由来プロテイン──つまりミルクパワーだ」
陽に焼けた肩をぐいと見せつけながら、タケヨは満面のしたり顔を浮かべた。
「地下でも手に入る奴は少ねぇ。けど、俺は貰ったんだよ……特別製の保存ミルクプロテインをな!」
「どこでそんなもの……」
素直に疑問。
「企業地下シェルターにいた頃のコネさ。"流通に乗らない熟成済み"の粉をまとめて回収してきた」
「捨てられとったんやね」
「黙ってろー!」
何の話だったか——
「……そうだ!タケヨ、今回は何か見つけた?」
「ああ、いつも通り海が俺を呼んでたんでな、今日も泳ぎ回ってたんだが、
——なんとな、イカと仲良くなれたんだぜ!」
「「オー」」
微妙な歓声。
「つイに幻覚見るようになッたか?タケヨ」
早速煽る背中のやつ。
「本当だって、マジなんだよ」
「タケヨさん中々イカ臭いですもんね、ありえます!」
「う、うほほい?」
虎子【イカA】「……うおっ、なにこの匂い、懐かしい……!」
凪【イカB】「前世で一緒に海泳いでたわコイツー……」
無駄に低い声。
「おっおいっあんまり小馬鹿にするなよな」
「つまり収穫なかったの?」
「お、オ〜イエース」
「はいって言え」
「はいっ。」
「・・・なんやねんそれ!」
……微妙に喋りたいことがない間が流れた。
「……凪さん貧なのに生意気ですっ、せい」揉
「ちょ!やめっあんたらがで……」〈ゴタバタ〉
「こんなとこだけ開けちゃって・・・!」
脇腹〜腋近くのスリットに指突っ込んでくる。
「そりゃ暑いから」
防火・防刃素材らしく、長袖なのだが暑いので裂いた。
けっこう綺麗に切れて汗も減ったが寄ってくる変態は増えた。
(ちゅーかイカと友達って普通にありそうやな〜)
虎子は焔喰いと視線が合った・・・気がした。
(目ないやんコイツ)
軽くバタバタしてる凪の刻印は薄紅色に点滅している。
「ついでにうちも触っとくわ」プニプニ
「……ム゛〜!!」
近くのベンチに転がる。
〈バタバタバタ〉
「ん・・・。」
うつ伏せでやや疲れていそうな凪を見つめるテリンカ。
(い、勢いで弄り過ぎた・・・ちょっとだけ気まずい・・・。まあいっか) ペチペチ
「ちょ、そこ叩——」
〈ピチベチバチバチバチベチバチピチ〉
「いいリズムだナァ」
「ふふっ、筋肉の音〜♪」
「……じゃあ、次は私の番な」
「えっ──」
肩をがっちり掴んでベンチへころがす。
ペペン…ペン…ペペン……ベベン…ベン…ベベン……!
ペペペペン…ペッペッペーパァン!
「うち、いま見ちゃいかんもん見てん?」
虎子は尻も顔も赤くしたマントヒヒ2匹からそそっと距離を取った。
(絶対ケツ真っ赤やろあれ)
立ち尽くすタケヨは目を逸らす。
いつのまにか左肩に黄色い粉が付いていた。
「やっぱ女ってワケわかんね〜〜!」
冗談混じりに偏見をこぼした。
瞬間、フワリと薬品の刺激臭が鼻を刺し、母親との毒訓練がフラッシュバックする――
「今日も薬臭いぜ・・・」
『臭イノハオ前ダヨ!オ、酸素ガ薄クナッテキタナ?イイゾ』
一部機械の母親に延々とランニングマシンをさせられている。
「まだ走るのかよぉ」
『胸ヲヒラケ!誰ガモウ呼吸シテイイッテイッ——』
〈ガタッ〉
思わず両靴を鳴らし、少し身をすくめる。
(・・・っでも多分それで俺は自由に泳ぎ回れるんだよな、半分ぐらいはか感謝しなきゃな)
タケヨはサングラスをかけ直し、銀髪をかき上げた。
「・・・昼飯食いに"上"行ってくるぜ!」
「おーん!依頼んとこ居とくで!」
〈ペチィン!〉
「また楽しみにシとくゼ〜」
大剣はゆらゆらと浮遊している。
タケヨはゆるゆると手を振った。
(やらされた成果を存分に使って腹いっぱいになってやるぜっ)
グッ…グッ…グッ…
地上に出たタケヨは軒下に立っているのに、サングラスが雨に濡れて滴り服はぽつぽつと湿っていく。
「今日はシャワーつきか」
正面におどろおどろしく発色のいい珊瑚のような赤キノコが見えた。
(うまそっ)
歩き出そうとした瞬間——
(眩し)
〈ゴロロロロォン……ビシャッァッッ!〉
右後ろ・・・かなり近くに落ちたと分かる。
「オイオイ雷かよぉ!」
(……あれ、何で雷雨でも月が見えるんだ?昼だぜ?)
雨雲の隙間から半月がタケヨと見つめ合う。
「俺は月にも好かれちまったみてえだな・・・ごめんなさいっ」
ちょうど月が雲に隠れていく。
「……よくわかんねーけど今はやめといた方がよさそうだな」
〈ピシャァアン〉
「危ねっ!全く、ドキドキするぜ」
それは心臓から手が出そうな感覚だった――
(帰って缶詰にすっか)
帰る途中、地上入り口付近で拡声器を持った男に呼びかけられる。
「おいそこの大胸筋男!近寄るなー!地上はもうあってはならないのだ!地上へ――」
無視して進むタケヨは怪訝な目をしていた。
(あれって気持ちいいことなのかな? な)
一方、凪たちは"旧政府"からの募集を見ていた。
■■登場キャラ■■
◇半月
ちなみに上限の月(満ちる途中)だった。
詳細な年齢不詳。
◇ソース
実はわりと少量だった、揚げだこの方もお好み焼きの方も。
◇焔喰い(大剣)
かなり雑食。エネルギーが溜まると剣幅が広がる。普段は燃えず蠢いている。
声は基本低音。
年齢不詳。
◇虎子
動きやすい服装を好むが、よく青の上着(黄ライン)を着ている。腹出しが様になる。
戦闘も胃腸も強いがたこ焼きに負けた。
◇テリンカ
背だけ凪より小さい。
自家製キノコを持つ。
片レンズ(簡易分析機)を携帯している。
薄緑髪は地毛らしい。
年齢不詳。
◇タケヨ
ちょっと水色ががった銀髪。
深緑系の防刃ジャケット(基本前開き)とそれに似た色の防刃シャツをよく着る。
サングラスをかけるとおもしろ優しそうだが外すとやや鋭い目。
◇天ヶ裂 "凪"
仲間には中々無防備。
縦の黒ベルトを二つ着けている。手袋も黒色。スカートに白い模様とレースつき。
浅めの揚げだこアンチ。