第三十話 十年ぶりの再会
白い騎士達が帝国軍の兵士を押しのけ入城すると、バタバタと慌ただしい足音が響いてきた。
ここで姿を現してもいいが、まだもう少し機会を伺うべきだろう。
廊下にも待機していた兵士はいたが、白い騎士を見るなり無言で道を開けている。
白い騎士というのは特別な存在のようにも見えた。
やがて安全確保された状態で皇女様が入城すると、白い騎士達は片膝を突き皇女様に頭を下げた。
「アリス様、皇帝陛下は恐らく上階、謁見の間におられるかと思います」
「ええ、分かりました。ん?爺や、どうされたのですか?」
皇女様が階段に足をかけようとしたところで、止まる。
爺やと呼ばれた従者がジッと一方向を見続けていたからだ。
その方向とは僕が隠れている方向である。
「……何者かはしらんが、そこにいる者。出てくるがいい」
だんまりを決め込み息を殺していると従者が口を開いた。
その言葉を聞き白い騎士達は一斉に警戒態勢を取る。
バレているなら仕方がない、か。
最悪能力を使ってこの場から離脱すればいい。
可能ならこのまま手を組みたいところだが、今の僕に協力したところで皇女様に何のメリットもないだろう。
「……出ていくから攻撃はしてこないでくれよ?」
「それは場合による」
いきなり斬り掛かってこないだろうな?
あの爺やと呼ばれた人にはなかなか凄みを感じられる。
ちょっとでもふざけようものなら即座に殺されてしまいそうだ。
僕は両手を上げながら彼らの前に出た。
これなら武器は持っていない証明になるだろう。
「貴様、何者だ」
「帝国解放軍リーダー、カイだ」
「解放軍だと?なぜこんな所にいる。お前達が攻めてきた事は知っているが敗走したと思っていたぞ」
どうやら外では今頃退却しているらしい。
残念ながら城に忍び込んでからは全然本隊の動きがまるで分かっていないんだ。
「僕はこれでも一応皇帝陛下の首を獲るために城に入り込んだんだ。だから外の様子は分かっていない」
「リーダー自ら城に忍び込むなど……自殺行為に等しいぞ」
「いいや?それが僕には可能なんだよ」
「……能力者か」
爺さんは察しが良い。
僕がたった一人でリーダーという立場にいるにも関わらず敵陣奥深くまで入り込んだ理由が理解できたようだ。
「え?……もしかして貴方は……」
僕と爺さんとのやり取りを黙って聞いていた皇女様がハッとした表情で一歩こちらへと近づく。
「姫様!アヤツは解放軍のリーダーとのこと。近づくのは危険です」
「構いません。貴方の名をもう一度聞かせてもらえませんか?」
僕の顔を見て昔を思い出したのか。
あれからもう十年は経っているのに面影でも残っていたのかもしれない。
「僕の名はカイ。アンタはアリス、だろ?」
「やっぱり……どこか見覚えがあると思いました」
言葉遣いをどうしようか悩んだが、昔と同じ口調の方が分かりやすいかと思って相当無礼な態度で接することにした。
それが正解だったらしく、アリスは完全に思い出したようだった。
「あの時の……カイ、なのですね?」
「ああ、久しぶり、っていうのも変な話だけどな」
「どうしてこんな所におられるのですか?」
「そりゃあ前に言ったろ?僕はこの世界を変えてやるって」
「まて、貴様姫様にその口の聞き方……万死に値するぞ」
僕らのやり取りを黙って聞いていた爺やが口を挟んだ。
その目は殺意が籠もっていて今にも斬り掛かってきそうな雰囲気が漂っている。
一触即発の空気に、アリスが爺やの胸の前に手を差し出した。
「爺や、落ち着きなさい。彼は私の古い友人です」
「……畏まりました」
アリスに言われたからか爺やはスッと殺意を散らせる。
爺やの目は未だ僕から離れなかったが、殺意が消えたことで身体が軽くなった。
歴戦の騎士を思わせる威圧感。
爺やが本気で僕を殺そうとすれば、能力を使わざるを得なくなる。
正直、可能な限り能力の行使は避けたい。
というのも残り使える回数が一度しかないからだ。
止められるのは60秒のみ。
たったそれだけではこの場から逃げ出すことも皇帝の首を獲る事も叶わないだろう。
「話を戻しましょう。カイ、貴方が解放軍のリーダーというのは本当なのですか?」
「本当だ。元々別のリーダーがいたんだけどな、城塞都市ガブランを解放した時に命を落とした。代わりのリーダーってやつさ」
「そうでしたか……。他にも仲間がおられるのですね」
「ああ。今もこの城の医務室には仲間が眠ってるよ」
こんな事まで言うつもりはなかったのだが、なんとなくアリス相手なら正直にいたいと思ってしまった。
「仲間が医務室……そして貴方がこの場にいるということは父上、いえ皇帝陛下の首を獲れなかったということでしょうか?」
「まあそうなる。あの男がまさか能力無効化の力を持っているとは思わなかった」
情報不足だ。
これは僕の怠慢といってもいい。
僕の能力があれば誰であろうと殺せる。
そう思い込んでいた。
蓋を開けてみれば仲間の命を危険に晒し、今も本隊と連絡が取れなくなっている。
こんな体たらくではアリスも呆れてしまうかもしれないな。
「殿下、あの者はこの国に混乱を招いた張本人です。この場で処刑するべきかと」
僕らの会話に一区切りがついたタイミングで一人の騎士が一歩踏み出し口を開いた。
不味いな……。
彼らにとって僕らは帝国に仇なす者だ。
いくら今の皇帝と袂を分かつといえども、帝国に敵対する僕を許しはしないはず。
「止めなさい。私は言ったはずです。彼は古い友人、彼に手を出すのは私への無礼と思いなさい」
「……ハッ」
アリスに制止された騎士は納得はできていない表情で、半歩後ろへと下がった。
敬愛すべき皇女様には口答えすることはできないようだ。
「カイ、貴方は今もこの国に対して思うところがあるのでしょう?私も同じです。この国を変えなければならない、変わらなければならない。ここにいる白き翼の騎士団はそういった思想を持った者ばかりを集めた部隊です。貴方は外から、私は中から変えるとあの時話しましたね?今こそ手を取り合うべきではないのでしょうか?やり方は違えど辿り着く先は同じ……貴方達のやり方は褒められたやり方ではありませんでしたが、私達も帝国の膿となる貴族らを処分してきました。そういう意味では同じ仲間、と言えるかもしれません」
僕が望んでいた展開だ。
協力を取り付けること。
今の僕が皇帝に一矢報いるのなら彼女の力が不可欠だ。
いや、どちらかといえば彼女の手足が必要となる。
爺やと呼ばれた男は明らかに強い。
能力を持っているかどうかまでは分からないが、すくなくとも僕ら解放軍の中でも彼と互角に戦えそうな者は少ないと思われる。
他の騎士達もそうだ。
誰もが精強な騎士に違いない。
ちょっと齧った程度の僕の剣術では簡単にいなされてしまうだろう。
「返事はもう分かりきってるだろ。僕が断ると思うか?……恥ずかしい話だが僕らが全力で挑んだ結果がこれだ。外の仲間たちは敗走、敵の首を獲る役目を与えられた僕は何の成果も上げられずこの場にいる。僕に断る選択肢はないだろうさ」
「それでは共に参りましょう。皇帝陛下は上階にいるそうです」
「あ、ああ」
えらくサッパリした態度だな。
あっさりと協力関係を結べたのはいいが、本当に心の底から仲間と思ってくれているのか怪しいところだ。
裏切りの可能性も考慮しなきゃならないが、周りが口出ししないというのも不気味だ。
「ちょっと待ってくれ。確かに僕とアンタは顔見知りだ。だからといってこんな簡単に手を組むなんて信用ならない」
「なるほど……それでは何をすれば信じてもらえますか?」
「そうだな……じゃあ、信号弾を貸して欲しい。さっきも言ったが僕は本隊と連絡を取る手段がない。本来なら皇帝を殺した後テラスから空に向けて撃つつもりだったが、失敗したせいでナイフも信号弾をとられたんだ」
「そういう事ですか。もちろんお貸しいたします。色はどうしますか?」
「あー、赤、だな」
赤色は作戦失敗を意味するサインだ。
これを打ち上げればラピス達も分かるだろう。
アリスが懐をまさぐり取り出した信号弾を手ずから受け取ろうとすると、爺やが僕らの手を防ぐようにして腕を伸ばした。
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